落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

文字の大きさ
71 / 125

第73話 神殿の浄化、試練の先へ

しおりを挟む
一体目のワイトが塵と化し、残るは二体。
忘れられた神殿の中央ホールに漂う冷気は依然としてアルトの肌を刺すが、彼の心には、もはや恐怖よりも闘志が強く燃えていた。

一体倒せたのだ。
ならば、残りも必ず打ち破れるはずだ。
疲労で重くなった腕を叱咤し、アルトは黒曜の剣とバックラーを構え直した。

残った二体のワイトは、仲間が消滅したことに動揺する素振りも見せず、ただ冷徹に、より連携を密にしてアルトへと襲いかかってきた。

一体が正面から冷気を纏った剣で鋭い突きを繰り出し、もう一体がその死角となる側面から、薙ぎ払うような斬撃を放つ。
その動きは機械のように正確で、無駄がない。

しかし、アルトもまた、この死闘の中で成長していた。
一体目を倒した経験から、ワイトの攻撃パターンと、それに対する自身の有効な戦術を完全に把握している。
背後の気配を察知する感覚も、極限状態の中で研ぎ澄まされていた。

正面からの突きを、ショートソード「黒曜」の側面で受け流す。
同時に、体を捻りながらバックラーを繰り出し、側面からの斬撃を弾き返す。
カキン!と硬質な音が響き、ワイトの剣がわずかに軌道を逸れる。

その一瞬の隙を見逃さず、アルトは踏み込み、カウンター気味に反射を発動!
バックラーで受け止めた斬撃の衝撃を利用し、相手の胴体(らしき場所)に叩きつける!

「キィィ…」
ワイトは短い呻き声のような音を発し、よろめきながら後退した。
冷気攻撃は依然として厄介だった。
ワイトが吐き出す凍てつく息や、剣から放たれる冷気に触れるたびに、アルトの体の動きは鈍り、体温が奪われていく。

それでも、アルトは衝撃波(仮)を放って冷気を吹き飛ばし、あるいはあえて鎧で受け止め、それを反射ダメージへと繋げるなど、状況に応じて冷静に対処法を切り替えていった。

(あの力…麻痺させる力は、やっぱり使えないのか…?)

戦闘の最中、アルトは再び、ギフトの覚醒を試みていた。
ホブゴブリン戦での経験を思い出し、「守る」という意志――この穢された神殿を、アンデッドの魔の手から守り、聖域としての安らぎを取り戻すのだ、という強い想い――を込めて、ワイトの強力な一撃をバックラーで受け止め、反射を放つ。

しかし、期待した蒼白い閃光が現れることはなかった。
反射ダメージは通常通り発生し、ワイトをよろめかせるが、麻痺効果は見られない。
ギフトの覚醒は、やはりそう簡単にコントロールできるものではないらしい。

あるいは、エリアーヌが示唆したように、ワイトのような精神を持たない(あるいは希薄な)アンデッドには、そもそも精神的な干渉を伴う効果は通用しないのかもしれない。
ギフトの謎は、依然としてアルトの前に大きな問いとして横たわっていた。

それでも、アルトは諦めなかった。
麻痺効果が使えないなら、他の全てで補うまでだ。
彼は、地道だが着実な戦いを続けた。
カウンター反射でダメージを与え、動きが鈍ったワイトに対し、黒曜の剣で弱点である頭部(魂の核があるとされる場所)を狙う。

ボルガンが黒曜の柄に刻んでくれた、ドワーフの浄化のルーン。
それが、剣がワイトの体組織に触れるたびに、ほんのかすかに、しかし確実に淡い光を放っているように見えた。
気のせいかもしれない。
だが、それがアンデッドに対してわずかでも追加のダメージを与えているのだと、アルトは信じて戦った。

激しい攻防が続く。
アルトは、二体目のワイトの攻撃パターンを読み切り、その剣撃をバックラーで受け止めた瞬間、渾身のカウンター反射を頭部に叩き込んだ。
バキャッ!という鈍い音と共に、ワイトの頭蓋骨に大きな亀裂が走り、眼窩に宿っていた不気味な燐光が急速に力を失っていく。
二体目のワイトもまた、音もなく崩れ落ち、塵へと還っていった。

残るは一体。
アルトは荒い息をつきながら、最後の敵と対峙する。
このワイトは、これまでの二体よりも動きが鋭く、剣技も明らかに洗練されているように感じられた。
おそらく、この三体の中でもリーダー格だったのだろう。
冷気を一段と強く纏った剣が、アルトの防御網をこじ開けようと、鋭い軌道を描いて迫る。

アルトも、もはや限界に近かった。
体力も、精神力も、ほとんど尽きかけている。
左腕は冷気で痺れ、バックラーを構えるのもやっとだ。
だが、ここで負けるわけにはいかない。
Cランク昇格がかかっている。
そして何より、冒険者としての意地がある。

アルトは、残された最後の力を振り絞り、ワイトとの最後の一騎打ちに臨んだ。
剣と剣が、盾と剣が、激しく火花を散らす。
反射、衝撃波、そして磨き上げた剣術と盾術。
持てる技術の全てをぶつけ合う、壮絶な斬り合い。

そして、勝負を決めたのは、やはりアルトのギフトだった。
ワイトが渾身の力で放った、凍てつく冷気を纏った突き。
それを、アルトは黒曜の剣の腹で受け止めた。
凄まじい冷気が剣を通して腕に伝わる。
しかし、アルトはそれに耐え、これまでで最も強力な、魂を込めたカウンター反射を叩き込んだ!

メキメキメキッ!
ワイトの体を構成する骨、あるいはそれを繋ぎ止める魔力の結晶体が、内部から破壊されていくような音が響く。
ワイトの全身に、蜘蛛の巣のような亀裂が走り、その眼窩の燐光が完全に消え失せた。
そして、最後の一体もまた、音もなく崩れ落ち、砂のようにさらさらと塵へと還っていった。

しん……。
三体のワイトを全て倒し、ホールには完全な静寂が戻った。
アルトは、その場に膝から崩れ落ち、荒く、深く息を繰り返した。
勝った。
厳しい戦いだったが、勝ったのだ。
激しい疲労感と共に、大きな達成感が、彼の全身を満たしていった。

しばらくその場で動けずにいたアルトだったが、やがて気力を振り絞って立ち上がった。
依頼はまだ終わっていない。
アンデッド発生の原因を突き止め、浄化しなければならない。
アルトは、ホールの中央にある、崩れかけた石造りの祭壇へと向かった。
エリアーヌの話では、ここにかつての豊穣神が祀られていたという。

祭壇の周辺を注意深く調べていく。
すると、祭壇の裏側、普段は目に触れないような場所に、アルトはそれを見つけた。
石に刻まれた、不自然に新しい傷跡。
そして、その傷跡の中心には、黒インクか何かで描かれたような、禍々しい気配を放つ奇妙な紋様があった。

「これか……!」

アルトは直感した。
これが、死者を呼び覚まし、この神殿を穢している元凶だろう。
おそらく、ネクロマンサーか、あるいは邪悪なカルトの信者が、ここで禁断の儀式を行った跡なのだ。

この紋様を破壊しなければならない。
聖水があれば、あるいは清めの魔法が使えれば効果的なのだろうが、アルトにはそのどちらもない。
だが、彼には黒曜の剣がある。
そして、その柄には、ボルガンが刻んでくれた浄化のルーンがある。

(効いてくれるか分からないけど、やるしかない!)

アルトは黒曜の剣を抜き放ち、そのルーンが刻まれた柄の部分を、邪悪な紋様めがけて力強く何度も打ち付けた!
ガツン!ガツン!
硬い石と金属がぶつかる音が響く。
すると、紋様が刻まれた部分の石が徐々に砕け始め、そこから黒い煙のような、あるいは瘴気のようなものが、霧散していくのが見えた。
そして、紋様が完全に破壊された瞬間、神殿内に漂っていた、重くよどんだ死の気配が、ふっと軽くなったような気がした。
清浄な、とは言えないまでも、明らかに空気の流れが変わったのを感じた。

アンデッドを全て掃討し、発生源と思われる紋様も破壊(浄化)した。
これで、依頼は完全に達成されたはずだ。
アルトは、ワイトの残骸から、討伐の証拠として冷気を帯びた剣の破片をいくつか回収すると、疲労困憊の体を引きずりながら、忘れられた神殿を後にした。

Cランク昇格を賭けた試練。
それは、強力なアンデッドとの死闘であり、未知の状況に対応する冒険者としての総合力が問われる、過酷極まる任務だった。
アルトは、これまでの経験と成長の全てをぶつけ、見事にそれを乗り越えた。

この達成感と、戦闘で得た新たな知見、アンデッドへの有効な対処法、精神力の重要性、そしてギフトのさらなる可能性を胸に、アルトはギルドへの帰路についた。
ギルドマスターにこの成果を報告すれば、Cランクへの昇格は間違いないだろう。

今はただ、無事に帰還し、この激闘の疲れを癒すことだけを考えながら、アルトは夕暮れの道を歩いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

処理中です...