【完結】追放王女は辺境へ

シマセイ

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第十六話:明かされた真実、そして共に進むと誓った道

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レオンハルト辺境伯の穏やかで力強い言葉は、フィリアの心の奥深くにまで染み渡り、長年彼女を縛り付けていた見えない鎖を解き放つかのようだった。

彼が自分の過去を、そして今の突拍子もない願いを、ただ黙って受け止めてくれた。

その事実だけで、フィリアの心は救われたような気がした。

レオンハルトは、フィリアの震える肩をそっと抱き寄せ、その髪を優しく撫でた。

「フィリア、君がこれまでどれほどの苦しみを一人で耐えてきたか……想像もつかない。エルドラード王国の第一王女であった君が、婚約者と実の妹に裏切られ、両親にまで見捨てられて国を追われたなどと……。彼らの非道は、断じて許されるものではない。」

その声には、フィリアの境遇への深い同情と、彼女を裏切った者たちへの静かな、しかし確かな怒りが込められていた。

「そして、そんな君が、今、自分を追放した故国の民を救いたいと願っている……。その気高い精神に、私は改めて心を打たれた。」

彼は、フィリアから少し体を離すと、彼女の青い瞳を真っ直ぐに見つめた。

「君がエルドラードの王女であろうと、ミモザ村の一人の女性フィリアであろうと、私の君に対する想いは何一つ変わらない。君の願いが故国の民を救うことであるならば、このレオンハルト・フォン・グリューネヴァルト、我が身の全てを賭けて、必ずやその手助けをしよう。君を一人で、その困難な道へ行かせるわけにはいかない。」

その言葉は、一片の曇りもない、誠実な誓いだった。

フィリアの目からは、再び涙が溢れ出したが、それはもはや絶望や悲しみの涙ではなかった。

自分を理解し、受け入れ、そして共に歩もうとしてくれる人がいる。

その確かな温もりが、彼女の心を希望の光で満たしていた。

「レオンハルト様……ありがとうございます……本当に……。」

言葉にならない感謝の想いが、フィリアの胸に込み上げる。

その夜、レオンハルトは直ちに騎士団長のゲルハルト、そして最も信頼の置ける数名の側近たちを執務室に招集した。

フィリアもまた、その場に同席することを許された。

レオンハルトは、フィリアの身分についてはまだ伏せたまま(それは彼女自身の口から、適切な時期に語られるべきだと判断したからだ)、エルドラード王国が現在魔物の脅威によって滅亡の危機に瀕していること、そしてミモザ村を襲った魔物の大量発生が、エルドラード国内の何者かによる禁術を用いたものである可能性が高いことを、冷静に、しかし厳しい口調で説明した。

「エルドラード王国の混乱は、もはや一国だけの問題ではない。あの国が崩壊すれば、その混乱は必ずや我がグリューネヴァルト辺境伯領、ひいてはアストリア王国全土にまで波及する恐れがある。我々は、この事態を座視するわけにはいかん。」

側近たちは、主君の言葉に息を呑み、その表情には緊張の色が浮かんだ。

隣国への介入は、下手をすれば国家間の戦争にまで発展しかねない、極めて危険な賭けだからだ。

しかし、レオンハルトの決意は固かった。

「フィリア殿は、エルドラード王国の内情に詳しく、また、今回の魔物騒動についても、我々が知り得ない情報を持っている可能性がある。彼女の協力を得て、まずはエルドラード王国の正確な状況把握と、魔物を操る黒幕の正体を突き止めることを最優先とする。」

フィリアは、その言葉に力強く頷いた。

「私にできることがあれば、何なりとお申し付けください。エルドラード王宮の構造、貴族たちの力関係、そして……禁術を扱う可能性のある魔術師集団についても、僅かながら心当たりがございます。」

彼女の言葉は、これまでの読書や王宮での見聞、そして追放前に感じていた王国内の不穏な空気などから導き出された、貴重な情報を含んでいた。

作戦会議は深夜まで及んだ。

エルドラード王国への密偵の追加派遣、国境警備のさらなる強化、そして万が一の事態に備えた軍の出動準備。

フィリアの提供する情報も加味され、具体的な対策が次々と練られていく。

その間、フィリアは、レオンハルトの領主としての冷静な判断力、的確な指示、そして何よりも、民と領地を守ろうとする強い責任感に、改めて深い感銘を受けていた。

(この方なら……この方となら、どんな困難も乗り越えていけるかもしれない……)

彼女の心の中で、レオンハルトへの信頼と愛情は、もはや揺るぎないものとなっていた。

会議が終わり、フィリアが自室へ戻ろうとした時、レオンハルトが彼女を呼び止めた。

「フィリア。今夜は、本当にありがとう。君の勇気ある告白と、その知識が、我々にとって大きな力となるだろう。」

「いいえ、私の方こそ、レオンハルト様の深いご理解と、お力添えに感謝しております。」

「一つだけ、約束してほしいことがある。」

レオンハルトは、真剣な眼差しでフィリアを見つめた。

「決して、一人で無茶はしないでくれ。君の身に何かあれば、私は……私は耐えられない。」

その言葉には、領主としての立場を超えた、一人の男性としての、フィリアへの切実な想いが込められていた。

フィリアは、その言葉に胸を熱くしながら、力強く頷いた。

「……はい、お約束いたします。」

その時、執務室の扉が慌ただしく叩かれ、伝令の兵士が血相を変えて飛び込んできた。

「申し上げます!エルドラード王国へ派遣しておりました早馬からの緊急報告!エルドラード王都アヴァロンが、魔物の大群によって完全に包囲され、陥落寸前との報せにございます!そして……その混乱の中、セレスティア第二王女が、病床の国王陛下に代わり、アストリア王国との同盟を破棄し、謎の魔術師ギルド『黒き月の結社』との同盟を宣言した、と……!」

「なんだと……!?セレスティア王女が……『黒き月の結社』だと……!?」

フィリアは、その名を聞いて愕然とした。

『黒き月の結社』それは、エルドラード王国内でも、その存在が禁忌とされ、古の邪悪な魔術を操ると噂される、謎に包まれた闇の組織だった。

まさか、妹のセレスティアが、そんな者たちと手を組むなど……。

そして、その背後には、やはりあの元婚約者、アルフレッド王子の影もちらついているのかもしれない。

事態は、フィリアたちの予想を遥かに超える速さで、最悪の方向へと進み始めていた。

レオンハルトは、その凶報に顔色一つ変えず、しかしその金色の瞳には、決戦の時が迫っていることを告げる、鋭い光が宿った。

「……ゲルハルト!直ちに全軍に出撃準備を命じよ!目標、エルドラード王都アヴァロン!我々は、これよりエルドラード王国を救い、そして、この地に蠢く全ての悪意を根絶する!」

辺境伯の決然たる声が、グリューンフェルス城に響き渡った。

フィリアは、息を呑み、そして、自らもその戦いに身を投じる覚悟を固めるのだった。
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