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コンビニ
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日曜の夜。明日からの仕事のことを考えると、少しだけ気が重い。俺は、気分転換に買った雑誌と、缶ビールをぶら下げて、帰り道にあるコンビニに寄った。夜食でも買っていこうと思ったのだ。
「イラッシャイマセー」
自動ドアが開くと、カウンターの中に立つ二人の店員、若い男と女が、寸分違わぬタイミングと、全く同じ抑揚のない声で、そう言った。二人とも、口角をきゅっと上げた、完璧な笑顔を貼り付けている。
マニュアル通りの、しかしどこか生気のない笑顔だ。
少し違和感を覚えたが、まあ、日曜の夜は疲れるだろう、と、特に気にも留めず、店内奥のスナック菓子コーナーへ向かった。
棚を眺めていると、背後に視線を感じる。
振り返ると、カウンターの中の男女の店員が、二人とも、ゆっくりと、全く同じ角度で、こちらに首を向けていた。
目が合うと、また、あの貼り付けたような笑顔を向けてくる。
気味が悪い。早々に買い物を済ませて出よう。
ポテトチップスの袋を手に取った瞬間、カチリ、と、カウンターの方から、小さな、乾いた音が聞こえた気がした。
気のせいか?
レジへ向かう。
男と女の店員は、また完璧なシンクロで「アリガトウゴザイマス」と言いながら、レジ作業を始めた。
商品をスキャンする動き、袋に入れる仕草、釣り銭をトレーに置く指先まで、まるで鏡合わせのように、寸分の狂いもなく、同じなのだ。
動きが、どこかぎこちなく、人間味が感じられない。
カクカクとした、プログラムされた動き。
二人の笑顔は、その間も、全く崩れない。
ふと、レジの奥にある防犯モニターに目が留まった。そこに映る店内風景。俺の姿。そして、カウンターの中の店員二人。
モニターの中の店員たちは、さらに動きがぎこちなく、まるで出来の悪いCGのように見えた。
そして、その顔は、笑顔のはずなのに、なぜか、酷く歪んで見えた。
早く出たい。この、明るくて清潔なはずの空間が、息苦しく感じられる。BGMの、気の抜けたようなインストゥルメンタルが、やけに耳障りだ。
会計を済ませ、商品を受け取る。 その時、俺の手が、袋を渡してきた男店員の指先に、僅かに触れた。
———冷たい!
それは、人間の肌の感触ではなかった。硬く、滑らかで、まるで、陶器か、冷えたプラスチックに触れたかのような、無機質な冷たさ。
ヒッと息を呑んだ俺と、目が合った。カウンターの中の、男女二人。
その瞬間、二人の、あの貼り付けたような笑顔が、
———ぐにゃり、と、さらに大きく、耳元まで吊り上がったのだ。
それはもう、笑顔ではなかった。人間には不可能なほどに歪んだ、異様な、悪意に満ちた「裂け目」だった。そして、がらんどうのように見えた瞳の奥に、初めて、明確な「何か」が宿った。冷たく、嘲るような光。
「アリガトウゴザイマシタ。マタオコシクダサイマセ」
二つの声が、完全に一つに重なり、抑揚なく、そう告げた。それは、感謝の言葉ではなく、呪詛か、あるいは、逃れられない宣告のように、俺の耳に響いた。
俺は、返事もせず、コンビニを飛び出した。
外の、生ぬるい夜風が、火照った顔に心地よかった。振り返る。
ガラス張りの店内、煌々と光る蛍光灯の下。カウンターの中には、あの二人の店員が、さっきと全く同じ姿勢で、完璧な笑顔(あるいは裂け目)を貼り付けて、まっすぐに、こちらを、見ていた。
あれは、何だったのだろう? 人間? それとも…?
あのコンビニには、もう二度と近づかない。いや、もしかしたら、他のコンビニも…。
あの「マタオコシクダサイマセ」という言葉が、頭の中で、何度も何度も、エコーしている。
「イラッシャイマセー」
自動ドアが開くと、カウンターの中に立つ二人の店員、若い男と女が、寸分違わぬタイミングと、全く同じ抑揚のない声で、そう言った。二人とも、口角をきゅっと上げた、完璧な笑顔を貼り付けている。
マニュアル通りの、しかしどこか生気のない笑顔だ。
少し違和感を覚えたが、まあ、日曜の夜は疲れるだろう、と、特に気にも留めず、店内奥のスナック菓子コーナーへ向かった。
棚を眺めていると、背後に視線を感じる。
振り返ると、カウンターの中の男女の店員が、二人とも、ゆっくりと、全く同じ角度で、こちらに首を向けていた。
目が合うと、また、あの貼り付けたような笑顔を向けてくる。
気味が悪い。早々に買い物を済ませて出よう。
ポテトチップスの袋を手に取った瞬間、カチリ、と、カウンターの方から、小さな、乾いた音が聞こえた気がした。
気のせいか?
レジへ向かう。
男と女の店員は、また完璧なシンクロで「アリガトウゴザイマス」と言いながら、レジ作業を始めた。
商品をスキャンする動き、袋に入れる仕草、釣り銭をトレーに置く指先まで、まるで鏡合わせのように、寸分の狂いもなく、同じなのだ。
動きが、どこかぎこちなく、人間味が感じられない。
カクカクとした、プログラムされた動き。
二人の笑顔は、その間も、全く崩れない。
ふと、レジの奥にある防犯モニターに目が留まった。そこに映る店内風景。俺の姿。そして、カウンターの中の店員二人。
モニターの中の店員たちは、さらに動きがぎこちなく、まるで出来の悪いCGのように見えた。
そして、その顔は、笑顔のはずなのに、なぜか、酷く歪んで見えた。
早く出たい。この、明るくて清潔なはずの空間が、息苦しく感じられる。BGMの、気の抜けたようなインストゥルメンタルが、やけに耳障りだ。
会計を済ませ、商品を受け取る。 その時、俺の手が、袋を渡してきた男店員の指先に、僅かに触れた。
———冷たい!
それは、人間の肌の感触ではなかった。硬く、滑らかで、まるで、陶器か、冷えたプラスチックに触れたかのような、無機質な冷たさ。
ヒッと息を呑んだ俺と、目が合った。カウンターの中の、男女二人。
その瞬間、二人の、あの貼り付けたような笑顔が、
———ぐにゃり、と、さらに大きく、耳元まで吊り上がったのだ。
それはもう、笑顔ではなかった。人間には不可能なほどに歪んだ、異様な、悪意に満ちた「裂け目」だった。そして、がらんどうのように見えた瞳の奥に、初めて、明確な「何か」が宿った。冷たく、嘲るような光。
「アリガトウゴザイマシタ。マタオコシクダサイマセ」
二つの声が、完全に一つに重なり、抑揚なく、そう告げた。それは、感謝の言葉ではなく、呪詛か、あるいは、逃れられない宣告のように、俺の耳に響いた。
俺は、返事もせず、コンビニを飛び出した。
外の、生ぬるい夜風が、火照った顔に心地よかった。振り返る。
ガラス張りの店内、煌々と光る蛍光灯の下。カウンターの中には、あの二人の店員が、さっきと全く同じ姿勢で、完璧な笑顔(あるいは裂け目)を貼り付けて、まっすぐに、こちらを、見ていた。
あれは、何だったのだろう? 人間? それとも…?
あのコンビニには、もう二度と近づかない。いや、もしかしたら、他のコンビニも…。
あの「マタオコシクダサイマセ」という言葉が、頭の中で、何度も何度も、エコーしている。
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