【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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亀甲墓 (かめこうばか)

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沖縄に来て、まだ半年。私(アカリ)は、那覇市内の、少し高台にあるアパートに住んでいる。月曜日の朝、散歩に出かけると、強い日差しがアスファルトに照りつけていた。ハイビスカスの赤が目に眩しい。
そんな、本土とは違う、鮮やかな日常風景の中、ふと、道の脇にある小高い丘の上に、それを見つけた。

亀甲墓。沖縄独特の、亀の甲羅のような形をした、古い墓だ。
いくつか点在しているのは知っていたが、その墓は、他とは違う、異様な存在感を放っていた。かなり古く、漆喰は剥がれ、周囲には雑草が生い茂っている。そして何より、墓の入り口、暗く開いた「口」の部分から、誰かに、じっと見られているような、強い視線を感じたのだ。もちろん、そこには誰もいないはずなのに。

気になりつつも、その日は通り過ぎた。
だが、次の日も、その次の日も、私は、まるで何かに引き寄せられるように、その亀甲墓の近くを通ってしまった。そのたびに、視線の感覚は強くなり、墓の周りだけ、空気がひやりと冷たく、重く感じられるようになった。

そして、奇妙な「音」が聞こえるようになった。
風もないのに、墓の奥から、うう、と低い呻き声のようなものが漏れてきたり。カタ…カタカタ…と、中で乾いた骨か何かが触れ合うような音がしたり。あるいは、今はもうほとんど使われない、古い沖縄の言葉(ウチナーグチ)のような、意味の分からない囁き声が、墓の入り口から響いてきたり。

墓の前庭(マー)にあたる部分には、時折、見慣れないものが供えられていた。萎びたアダンの実、奇妙な模様の貝殻、盛り塩。誰かが手入れをしているのだろうか? いや、それにしては、墓自体はひどく荒れている。

夢にも見るようになった。自分が、あの墓の、暗く、ひんやりとした内部に閉じ込められている夢。あるいは、夜中に、墓の口から、黒い影のようなものが、いくつも這い出してくる夢。

ある朝、いつものように墓の前を通りかかると、墓のすぐ脇に、古びた琉装に身を包んだ、腰の曲がった老婆が、一人、じっと立っていた。そして、皺だらけの顔で、私を、射抜くような、厳しい目で見つめていた。
私が驚いて一瞬目を逸らし、再び視線を戻すと、老婆の姿は、もうどこにもなかった。

もう、限界だった。恐怖と好奇心がないまぜになり、私は、その日の午後、意を決して、亀甲墓の、まさにその入り口の前まで、歩み寄ってみた。
強い日差しの中でも、墓の入り口の闇は、異様に深く、冷気を放っている。視線が、突き刺さるように痛い。
私が、その暗闇の奥を覗き込もうとした、まさにその瞬間。

——— ヒュウッ!

墓の奥から、突風のような、しかし、ありえないほど冷たく、湿った空気が、勢いよく吹き付けてきた!
それは、古い線香と、土と、そして、何かが腐敗したような、強烈な匂いを伴っていた。
そして、その風と共に、私の耳元で、はっきりと、鋭い囁き声が響いた。古風な、しかし標準語で。

「来るな。ここは、汝(なんじ)の居場所ではない」

それは、老婆の声のようでもあり、もっと多くの、重なり合った声のようでもあった。有無を言わせぬ、強い拒絶の響き。

「ひっ……!」

私は、腰が抜けるかと思うほどの恐怖に襲われ、後ずさり、そのまま転がるようにしてその場から逃げ出した。
もう二度と、あの亀甲墓には近づかない。

あれは、この土地に眠る、遠い祖先たちの声だったのだろうか。新参者の私を、拒絶する声。
沖縄の、強い日差しと、青い空の下。そのすぐ隣には、私のような「よそ者」には窺い知れない、深く、古く、そして、少し怖い世界が、今も息づいているのかもしれない。
そう思うと、この美しい島が、急に、足元の覚束ない、異質な場所に感じられてしまうのだ。
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