【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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浜辺の人形

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なあ、俺、先週の土曜日、ちょっと日帰りで、神奈川の方の、小さな海辺の町に行った時の話なんだけどさ。

マジで、今思い出しても、気味が悪くて…。

昼過ぎくらいに着いて、天気も良くて、のんびりした雰囲気だったんだ。

観光客もまばらな、寂れた感じの砂浜を、一人で散歩してた。

そしたら、波打ち際に、何か、流れ着いてるのが見えたんだ。

最初は、ただの流木かゴミかと思ったんだけど。

近づいてみたら、それは、古びた、木彫りの人形だった。

大きさは、30センチくらいかな。

全体的に黒ずんでて、潮と砂で、表面もザラザラしてる。

でも、顔の造作だけは、妙にはっきり残ってた。

目は、ただの窪みなんだけど、なぜか、こっちをじっと見てるような気がする。

口は、一文字に固く結ばれてて、何かを、必死に堪えてるような…。

手足は、不自然な方向に折れ曲がってて、痛々しい感じ。

誰かが捨てたのか、それとも、もっと遠くから、長い時間かけて流れ着いたのか…。

なんだか、妙に気になって、俺、その人形を拾い上げて、砂浜の、少し高いところに置いてやったんだ。

海にまた流されたら、可哀想だろ? って、その時は、そんな軽い気持ちだった。

で、また、浜辺を散歩し始めた。

しばらくして、ふと、さっき人形を置いた場所を振り返ったら、

——— 人形が、こっちを向いてた。

え? と思った。

俺は、人形を、海の方に向けて置いたはずなんだ。

風で倒れたり、向きが変わったりするような、軽いもんじゃない。

木の塊だから、それなりに重さもある。

見間違いかな…?

でも、確かに、あの、窪んだ目が、こっちを見てる。

気味が悪くなって、俺は、もう一度、人形のところへ戻って、

今度は、しっかりと、海の方へ、顔を向けて置き直した。

そして、念のために、周りに落ちてた石で、人形が動かないように、軽く固定してみた。

これで大丈夫だろう。

そう思って、また、その場を離れた。

でも、やっぱり気になる。

10分くらい歩いてから、また、振り返ってみた。

——— 人形は、また、こっちを向いてた。

石で固定したはずなのに。

さっきよりも、もっと、はっきりと、俺の方を。

そして、気のせいかもしれないけど、

人形の、あの、固く結ばれた口元が、ほんの少しだけ、

——— にやり、と、歪んでるように見えたんだ。

もう、ダメだ。

これ、絶対におかしい。

俺は、もう、人形の方を見ないようにして、足早に、砂浜から逃げ出した。

駅へ向かう途中も、何度も、後ろから、あの、窪んだ目で見られてるような気がして、

怖くて、たまらなかった。

家に帰ってからも、あの人形のことが頭から離れない。

あの、不自然に折れ曲がった手足。

あの、じっとこちらを見る、空虚な目の窪み。

そして、最後に見た、あの、歪んだ口元…。

あれは、ただの人形だったんだろうか?

それとも、何か、良くないものが、あの人形に「入って」て、

俺が、それを、見つけてしまったから…?

もしかしたら、あの人形、今も、あの浜辺で、

次に来る「誰か」を、じっと、待ってるのかもしれない。

そして、その口元を、さらに、歪ませながら…。

なあ、俺、あの時、人形を拾い上げない方が、良かったのかな…?
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