【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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土地神

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なあ、俺、今、マジでヤバい状況かもしれないんだ。

これ書いてる今も、手が震えてる。

昨日の夜、土曜の深夜な。

渋谷で友達と飲んでて、終電逃しちまったんだよ。

まあ、よくある話だろ?

で、金もったいないから、始発までどっかで時間潰そうって、一人でブラブラしてた。

普段行かないような、渋谷の、ほんとに細い、暗い路地裏とかを、あてもなく。

そしたら、見つけちまったんだ。

周りはもう、古い雑居ビルとか、小さな飲み屋のシャッターとかばっかりなのに、
そこだけ、ぽっかりと、小さな空き地みたいになってて。

奥に、古びた、本当に小さな祠(ほこら)が、一つだけあった。

赤い鳥居も朽ちかけてて、祠自体も、苔むしてて、ボロボロ。

誰にも、もう何年も、手入れされてない感じ。

でも、祠の前にだけ、なぜか、新しい花が数本と、ワンカップの酒が供えられてた。

こんな都会のど真ん中に、忘れられたみたいに、こんな場所があるんだな…って。

俺、その時、ちょっと酔ってたのもあって、ふざけ半分だったのかもしれない。

祠に向かって、手を合わせて、小銭を賽銭箱(なんてもんはなかったけど、祠の前に転がってた石の上に)置いて、

「どうか、今日の飲み代くらい、儲かりますように」

なんて、適当なこと、願っちまったんだよ。

本当に、軽い気持ちだったんだ。

そしたら、その瞬間。

——— フッ…

って、祠の奥から、急に、冷たい風が吹き付けてきた。

生臭いような、土と、何か、獣みたいな匂いが混じった、嫌な風。

周りは、風なんて全然吹いてなかったのに。

うわ、気味悪ぃ…って思って、俺、すぐにその場を離れた。

その日は、それで終わり。

特に何も変わったことはなかった。

問題は、今日だよ。

昼過ぎに起きて、ぼーっとテレビ見てたら、スマホが鳴った。

知らない番号。

出てみたら、間違い電話だったんだけど、切る間際に、相手が、

「……あ、あの、〇〇さん(←俺の本名)では、ありませんでしたか? 声が、あまりにも似ていたもので…」

って、やけに丁寧に謝ってきた。

まあ、そんなこともあるか、くらいにしか思わなかった。

でも、夕方。

コンビニで買い物してたら、レジの店員が、お釣りを渡す時に、俺の顔をじっと見て、

「…お客さん、もしかして、昨日の夜、△△(←あの祠があった路地の名前)のあたり、歩いてませんでしたか…?」

って、小声で聞いてきたんだ。

俺、ギョッとしたよ。

なんで、そんなこと知ってんだって。

「いや、まあ…」って誤魔化したら、店員、顔を青くして、

「あそこは…行かない方が、いいですよ…。『見てる』って、言いますから…」

って、震える声で。

もう、怖くなって、すぐに店を出た。

そして、さっき。

部屋で一人でいたら、インターホンが鳴ったんだ。

こんな時間に誰だよ、と思って、モニター見たら、誰も映ってない。

でも、確かに、ピンポーンって鳴った。

気味が悪いから、無視してたら、今度は、玄関のドアを、

——— ドン…ドン…ドン…。

って、誰かが、強く、ゆっくりと、叩く音がした。

覗き穴から見ても、やっぱり、誰もいない。

でも、ドアの向こうに、「何か」がいる気配が、ものすごく濃いんだ。

そして、ドアの、郵便受けの、細い隙間から、

——— あの、祠で嗅いだのと同じ、生臭くて、土と獣みたいな匂いが、部屋の中に、流れ込んできてる。

俺は、もう、ドアから離れて、部屋の隅で、これを書いてる。

あの時、祠で願ったこと。

「飲み代くらい儲かりますように」って。

俺、今日、パチンコで、生まれて初めて、5万も勝ったんだよ。

偶然だと思ってた。

でも、もしかして、あれは…。

あの祠の「何か」は、俺の願いを、聞いてくれたのか?

そして、その「見返り」を、今、取りに来てるのか?

だとしたら、俺が支払う「代償」って、一体、何なんだろう?

ドアを叩く音は、まだ続いてる。

ドン………ドン………ドン…………。

まるで、俺が、ドアを開けるのを、じっと、待ってるみたいに。

なあ、これ、どうしたらいい?

もし、あの「土地神」が、俺を「気に入って」しまったんだとしたら———。
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