【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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金縛り

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これは俺がまだ実家暮らしで、自分の部屋で寝てた頃の話だ。

昔から時々金縛りにはあってたんだけど、まあ、疲れてる時とかになる、ただの生理現象だろ、くらいにしか思ってなかった。

でも、ある時期から、その金縛りがちょっと尋常じゃなくなってきたんだ。

毎晩のように、寝ようとすると必ず金縛りにあう。

体が鉛みたいに重くて、指一本動かせない。

声も出せないし、目を開けるのさえ億劫になる。

そして、金縛りにあうと、必ず「それ」はやってきた。

最初は、部屋の隅の方で、黒いモヤみたいなのが揺らいでるのが見えるだけだった。

でも、日が経つにつれて、そのモヤはだんだんハッキリとした人型になっていったんだ。

細長い手足に、小さな頭。

男か女かも分からない、ただの真っ黒な影。

それが、俺が金縛りにあうと、部屋の隅からゆっくりと俺の寝てる布団の周りまでやってきて、俺の顔をじっと覗き込んでくる。

息遣いとかは感じないんだけど、強烈な視線だけは感じる。

値踏みされてるような、観察されてるような、そんな嫌な視線。

怖くてたまらなかったけど、どうすることもできない。

ただ、早く金縛りが解けるのを祈るだけ。

金縛りが解けると、その黒い影もスッと消えてる。

でも、部屋には、なんとも言えない重苦しい空気が残ってた。

そんなことが毎晩続くもんだから、俺はすっかり寝不足で、精神的にも参ってきてた。

親に相談しても、

「疲れてるんじゃないの?」

「気のせいでしょ」

って、全然取り合ってくれない。

ある晩、またいつものように金縛りにあった。

そして、あの黒い影が、ゆっくりと近づいてくる。

もう見慣れた光景のはずなのに、その日は何かが違った。

影が、いつもより少し大きく見える。

そして、いつもはただ俺を覗き込んでるだけなのに、その日は、影が俺の布団の上に、そっと手を伸ばしてきたんだ。

真っ黒で、異常に細長い指。

その指が、俺の胸のあたりを、ゆっくりと撫でるような仕草をした。

触られてる感覚はない。

でも、指が動くたびに、胸のあたりがズン、ズンって重くなるような、息が詰まるような感覚があった。

ヤバい、これ、マジでヤバいやつだ。

心の中で必死に助けを求めたけど、体は動かない。

影はしばらく俺の胸を撫でてたけど、やがて、その細長い指を、俺の首の方へゆっくりと動かし始めた。

そして、俺の首を、ギュッと掴もうとした、その瞬間。

「うわあああああっ!」

俺は奇跡的に金縛りが解けて、ベッドから転げ落ちるようにして飛び起きた。

心臓はバクバクいってるし、全身汗びっしょり。

部屋を見回したけど、もうあの黒い影の姿はなかった。

でも、首筋には、ハッキリと、冷たい何かに触られたような感触が残ってた。

次の日、俺は藁にもすがる思いで、近所の小さな神社にお祓いに行った。

神主さんに事情を話したら、神主さんは黙って頷いて、丁寧にお祓いをしてくれた。

そして、一枚のお札をくれて、

「これを枕元に置いて寝なさい」

って言った。

その夜から、不思議と金縛りはピタリと止んだ。

あの黒い影も、もう現れない。

やっと安心して眠れるようになった、ってホッとしてた。

でも、数日後。

朝起きたら、枕元に置いてあったはずのお札が、真っ二つに破れて、床に落ちてたんだ。

まるで、何か鋭いもので切り裂かれたみたいに。

そして、その破れたお札の横には、一本の長い、黒い髪の毛が落ちていた。

俺の髪じゃない。

もっと細くて、艶のない、まるで人形の髪の毛みたいな、そんな髪の毛だった。

それ以来、金縛りにはあってない。

でも、俺は今でも、夜寝るのが少し怖い。

あの黒い影が、いつまた現れるんじゃないかって。

そして、あのお札を破ったのは、一体誰だったんだろうって。
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