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第二十四話:二つの流れと領主の裁定
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セドナ村の使者たちがミストラル村に滞在する数日間、アレンは彼らから村の地理的状況、降雨のパターン、そしてこれまでの水確保の試みについて、詳細な聞き取りを行った。
リナも同席し、薬草の知識から、乾燥地帯でも育つ可能性のある植物や、水の浄化に役立つかもしれないハーブについて助言を与える。
工房の若者たちやサザンクロス村からの留学生ティムも、その議論に興味深そうに耳を傾けていた。
それは、ミストラル村の小さな工房が、知恵と工夫で困難な問題に立ち向かう、まさに「シンクタンク」のような様相を呈している瞬間であった。
数日間の検討を経て、アレンはセドナ村の使者たちに、いくつかの具体的なアイデアを提示するに至った。
「まず、セドナ村の家々の屋根の構造を少し工夫して、雨水を効率よく集める『集水システム』を導入するのはどうでしょうか。
集めた雨は、村の共有地に大きな『貯水槽』を設けて貯留します。
貯水槽は、汚染を防ぐために蓋をし、内部は水漏れしにくいように粘土や石で固める必要がありますが、比較的少ない労力で実現可能かもしれません」
アレンは、羊皮紙に簡単な図を描きながら説明する。
それは、雨という天の恵みを最大限に活用しようという、シンプルだが効果的な発想であった。
「次に、もし村の近くに小さな湧き水や、雨季にだけ水が流れるような涸れ沢(かれさわ)があるのでしたら、そこに小規模な堰(せき)を作り、『ため池』を造成することも考えられます。
すぐに大きなものは無理でも、少しずつ拡張していけば、貴重な水源になる可能性があります」
さらにアレンは、風の力を利用した揚水ポンプの基礎的な概念についても触れた。
風車で得た回転力を使って、浅い井戸やため池から水を汲み上げる仕組み。
今のミストラル村の技術ではすぐに実用化は難しいかもしれないが、セドナ村のような風の強い高地であれば、将来的な可能性の一つとして魅力的な提案に違いない。
セドナ村の使者たちは、アレンの次々と繰り出される具体的なアイデアに、最初は驚きを隠せない様子であったが、その説明が論理的で、かつ自分たちの村の状況を深く理解した上でのものであることに気づくと、次第にその表情は希望の光で満たされていった。
「アレン殿……これほどまでに我々のことを考えてくださるとは……。
感謝の言葉もございません」
使者の長である老人は、深々と頭を下げた。
彼らは、アレンが描いた設計図の写しと、詳細な説明を記した羊皮紙を大切に抱き、必ずや村で検討し、実行に移したいと固く約束して、ミストラル村を後にしたのである。
セドナ村の使者たちを見送った数日後、アレンはバルガス村長、そして護衛のギデオンと共に、再び領主アルトリア辺境伯の館へと向かった。
今回は、シルバ川治水計画の詳細な提案書と、新型水車の設計図及び実験結果報告書という、二つの大きな成果物を携えての旅である。
アルトリア辺境伯は、ミストラル村からの使者を、前回よりもさらに丁重に迎え入れた。
謁見の間には、辺境伯の側近である宰相や、領地の土木・農業を司る役人たちも同席しており、アレンの報告に対する期待の大きさが窺える。
アレンは、まずシルバ川の治水計画について、模型実験の結果を交えながら詳細に説明した。
新しい堤防の構造、川底浚渫の必要区間、そして大規模遊水地の設置案。
その計画の緻密さと、効果の具体的な予測に、辺境伯も役人たちも真剣な表情で聞き入る。
次に、新型水車の設計と実験結果について報告。
従来の数倍の動力を生み出す可能性を秘めたその水車が、領内の産業にどれほどの変革をもたらしうるか、アレンは熱意を込めて語った。
報告を終えると、辺境伯は満足げに頷いた。
「見事だ、アレン。
短期間でこれほどの計画を練り上げ、さらに水車という新たな動力源まで示してみせるとはな。
その才能、やはり余の見込んだ通りであった」
そして、辺境伯は、アレンが道中でバルガスに相談し、報告書に付け加えたセドナ村の水不足問題についても目を通した。
「セドナ村の件も、承知しておる。
あの村は長年水に苦しんできた。
お主が提示したという雨水利用の案、そしてため池の造成は、確かに有効な手立てとなろう」
辺境伯は、しばらく思案した後、一つの決断を下した。
「シルバ川の治水計画、これを領の最重要事業として承認する。
必要な人員、資材は、余が責任を持って手配しよう。
アレン、お主には、この計画の技術総監督として、全体の指揮を執ってもらいたい」
それは、アレンにとってあまりにも大きな責任であった。
しかし、彼の心には、不安よりもむしろ、この大事業を成功させたいという強い意志が燃え上がっていた。
「謹んでお受けいたします。
全力を尽くします」
アレンは、力強く答えた。
「うむ。
そして、新型水車だが、これも領内の主要な河川沿いに設置を進める。
まずは試作機をいくつか製作し、その効果を実証するところから始めよう。
これも、お主の工房が中心となって進めてくれ。
セドナ村の水問題についても、お主の提案を元に、領として支援を行う。
ミストラル村から、技術指導のための者を派遣するか、あるいはセドナ村から研修生を受け入れるか、そのあたりはバルガス村長ともよく相談して進めるが良い」
領主アルトリアの裁定は、アレンの想像を遥かに超える規模で、彼の活動を後押しするものであった。
シルバ川の治水、新型水車の普及、そしてセドナ村への技術支援。
三つの大きなプロジェクトが、アレンを中心として同時に動き出すことになる。
謁見を終え、領主の館を後にするアレンたちの足取りは、重い責任を感じつつも、どこか軽やかであった。
リナも同席し、薬草の知識から、乾燥地帯でも育つ可能性のある植物や、水の浄化に役立つかもしれないハーブについて助言を与える。
工房の若者たちやサザンクロス村からの留学生ティムも、その議論に興味深そうに耳を傾けていた。
それは、ミストラル村の小さな工房が、知恵と工夫で困難な問題に立ち向かう、まさに「シンクタンク」のような様相を呈している瞬間であった。
数日間の検討を経て、アレンはセドナ村の使者たちに、いくつかの具体的なアイデアを提示するに至った。
「まず、セドナ村の家々の屋根の構造を少し工夫して、雨水を効率よく集める『集水システム』を導入するのはどうでしょうか。
集めた雨は、村の共有地に大きな『貯水槽』を設けて貯留します。
貯水槽は、汚染を防ぐために蓋をし、内部は水漏れしにくいように粘土や石で固める必要がありますが、比較的少ない労力で実現可能かもしれません」
アレンは、羊皮紙に簡単な図を描きながら説明する。
それは、雨という天の恵みを最大限に活用しようという、シンプルだが効果的な発想であった。
「次に、もし村の近くに小さな湧き水や、雨季にだけ水が流れるような涸れ沢(かれさわ)があるのでしたら、そこに小規模な堰(せき)を作り、『ため池』を造成することも考えられます。
すぐに大きなものは無理でも、少しずつ拡張していけば、貴重な水源になる可能性があります」
さらにアレンは、風の力を利用した揚水ポンプの基礎的な概念についても触れた。
風車で得た回転力を使って、浅い井戸やため池から水を汲み上げる仕組み。
今のミストラル村の技術ではすぐに実用化は難しいかもしれないが、セドナ村のような風の強い高地であれば、将来的な可能性の一つとして魅力的な提案に違いない。
セドナ村の使者たちは、アレンの次々と繰り出される具体的なアイデアに、最初は驚きを隠せない様子であったが、その説明が論理的で、かつ自分たちの村の状況を深く理解した上でのものであることに気づくと、次第にその表情は希望の光で満たされていった。
「アレン殿……これほどまでに我々のことを考えてくださるとは……。
感謝の言葉もございません」
使者の長である老人は、深々と頭を下げた。
彼らは、アレンが描いた設計図の写しと、詳細な説明を記した羊皮紙を大切に抱き、必ずや村で検討し、実行に移したいと固く約束して、ミストラル村を後にしたのである。
セドナ村の使者たちを見送った数日後、アレンはバルガス村長、そして護衛のギデオンと共に、再び領主アルトリア辺境伯の館へと向かった。
今回は、シルバ川治水計画の詳細な提案書と、新型水車の設計図及び実験結果報告書という、二つの大きな成果物を携えての旅である。
アルトリア辺境伯は、ミストラル村からの使者を、前回よりもさらに丁重に迎え入れた。
謁見の間には、辺境伯の側近である宰相や、領地の土木・農業を司る役人たちも同席しており、アレンの報告に対する期待の大きさが窺える。
アレンは、まずシルバ川の治水計画について、模型実験の結果を交えながら詳細に説明した。
新しい堤防の構造、川底浚渫の必要区間、そして大規模遊水地の設置案。
その計画の緻密さと、効果の具体的な予測に、辺境伯も役人たちも真剣な表情で聞き入る。
次に、新型水車の設計と実験結果について報告。
従来の数倍の動力を生み出す可能性を秘めたその水車が、領内の産業にどれほどの変革をもたらしうるか、アレンは熱意を込めて語った。
報告を終えると、辺境伯は満足げに頷いた。
「見事だ、アレン。
短期間でこれほどの計画を練り上げ、さらに水車という新たな動力源まで示してみせるとはな。
その才能、やはり余の見込んだ通りであった」
そして、辺境伯は、アレンが道中でバルガスに相談し、報告書に付け加えたセドナ村の水不足問題についても目を通した。
「セドナ村の件も、承知しておる。
あの村は長年水に苦しんできた。
お主が提示したという雨水利用の案、そしてため池の造成は、確かに有効な手立てとなろう」
辺境伯は、しばらく思案した後、一つの決断を下した。
「シルバ川の治水計画、これを領の最重要事業として承認する。
必要な人員、資材は、余が責任を持って手配しよう。
アレン、お主には、この計画の技術総監督として、全体の指揮を執ってもらいたい」
それは、アレンにとってあまりにも大きな責任であった。
しかし、彼の心には、不安よりもむしろ、この大事業を成功させたいという強い意志が燃え上がっていた。
「謹んでお受けいたします。
全力を尽くします」
アレンは、力強く答えた。
「うむ。
そして、新型水車だが、これも領内の主要な河川沿いに設置を進める。
まずは試作機をいくつか製作し、その効果を実証するところから始めよう。
これも、お主の工房が中心となって進めてくれ。
セドナ村の水問題についても、お主の提案を元に、領として支援を行う。
ミストラル村から、技術指導のための者を派遣するか、あるいはセドナ村から研修生を受け入れるか、そのあたりはバルガス村長ともよく相談して進めるが良い」
領主アルトリアの裁定は、アレンの想像を遥かに超える規模で、彼の活動を後押しするものであった。
シルバ川の治水、新型水車の普及、そしてセドナ村への技術支援。
三つの大きなプロジェクトが、アレンを中心として同時に動き出すことになる。
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