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王都アルフォンス編
第八十話:深淵への誘いと鳴動する古の地
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「始まりの山脈」へ再び足を踏み入れたアレンたち追跡隊を待ち受けていたのは、前回にも増して険しく、そして不気味な静寂に包まれた世界であった。
空を覆う暗紫色の渦は、まるで巨大な瞳のように彼らを見下ろし、山肌を吹き抜ける風は、亡霊の呻きにも似た不吉な音を奏でている。
植物は毒々しい色彩を帯び、動物たちは姿を消すか、あるいは正気を失ったかのように凶暴化していた。
「この瘴気……明らかに以前よりも濃くなっている。
皆、各自で用意した布で口と鼻を覆え! 長時間吸い込むな! 特に魔力の弱い者は注意しろ!」
グレイグ隊長が、厳しい声で指示を飛ばす。
アレンが開発した携帯用浄水器も、この山脈の水を浄化するには限界があり、飲み水の確保すら困難を極めた。
フィンは、持ち前の明るさを努めて保とうとしていたが、その顔にも疲労と緊張の色は隠せない。
エリオットもまた、慣れない山岳行と不気味な雰囲気に、顔色を悪くしている。
「黒曜の爪」の残党たちは、まるでこの山脈そのものを味方につけたかのように、巧妙かつ悪質な罠を至る所に仕掛けていた。
一見、安全そうに見える山道は、踏み込むと足元が崩れ落ちる落とし穴へと変貌し、美しい花々は、触れると幻覚作用を引き起こす毒の胞子を撒き散らす。
さらには、特定の音に反応して無数の毒蛇が襲いかかってくるという、陰湿極まりない仕掛けまであった。
「くそっ! 奴ら、本気で俺たちをここで始末するつもりだな!」
辺境伯の兵士の一人であるバルドが、仕掛け杖の衝撃波で前方の怪しい岩陰を吹き飛ばしながら悪態をつく。
アレンは、その度に冷静に状況を分析し、浩介の記憶にあるサバイバル知識や、即席の発明で危機を回避していく。
例えば、毒の胞子を撒き散らす植物に対しては、風向きを計算し、発煙筒で煙の壁を作って進路を確保。
毒蛇の罠に対しては、特定の周波数の音波を発する装置(これも彼の即席の発明だ)で蛇を遠ざけるといった具合であった。
その機転と知識の深さに、グレイグ隊長も、そして同行する騎士団の者たちも、改めて舌を巻く。
追跡を続ける中で、一行は時折、遠くの空で、あるいは山脈の奥深くで、不可解な光の明滅や、空間が歪むかのような異常な現象を目撃した。
それは、まるで巨大なレンズが太陽光を集束させるかのような、あるいは強大な磁場が周囲の環境を捻じ曲げているかのような、異様な光景。
「あれは……『星詠みの宝珠』の力なのか……?」
アレンは、その現象を注意深く観察しながら推測する。
「黒曜の爪」は、盗み出した宝珠の力を使い、この「始まりの山脈」の奥深くで、何か途方もない儀式を行おうとしている。
それは、間違いなく「厄災の目覚め」と深く関わっているはずだ。
「彼らは、宝珠を使って、この山脈に眠る古代のエネルギーを無理やり引き出し、制御しようとしているのかもしれない。
そして、そのエネルギーを『厄災の主』を完全に呼び覚ますための触媒に……」
アレンの仮説は、背筋が凍るような恐ろしい可能性を示唆していた。
もしそれが事実ならば、一刻も早く彼らを止めなければ、世界は取り返しのつかない事態に陥ってしまう。
数日間の過酷な追跡行の末、ついに一行は、「黒曜の爪」が目指していると思われる山脈の最深部へとたどり着いた。
そこは、巨大なカルデラのような盆地になっており、中央には、天を突くかのようにそびえ立つ、黒曜石でできた巨大な尖塔(せんとう)が異様な存在感を放っている。
尖塔の周囲には、幾何学的な模様を描くように、無数の小さな祠(ほこら)や石碑が配置され、全体が巨大な祭祀場のような様相を呈していた。
そして、尖塔の頂上からは、例の暗紫色の渦が直接繋がり、まるで天と地を結ぶ邪悪な柱のようになっている。
「ここが……奴らの本拠地……そして、最終儀式の場所か……!」
グレイグ隊長が、息を呑んでその光景を見つめる。
尖塔の麓には、多くの黒装束の者たちが慌ただしく動き回り、何かを運び込んだり、祭壇のようなものを準備したりしているのが見て取れた。
そして、その中心には、銀色の仮面をつけた、あの指揮官の姿も確認できる。
「どうやら、歓迎の準備は整っているようだな」
辺境伯の兵士ハンスが、槍を握り締め、静かに呟いた。
彼の言葉通り、アレンたちが盆地へ足を踏み入れようとしたその時、周囲の岩陰や茂みから、無数の「黒曜の爪」の兵士たちが、まるで地から湧き出るかのように姿を現した。
その数は、前回遭遇した時を遥かに上回り、そして彼らの目には、もはや正気とは思えない、狂信的な光が宿っている。
「来たか、アルトリアの犬ども。
そして、招かれざる『特異点』よ」
銀仮面の指揮官の声が、拡声器でも使ったかのように、盆地全体に響き渡った。
その声には、もはや以前のような焦りや怒りはなく、ある種の超越的な確信と、アレンたちに対する絶対的な侮蔑が込められている。
「『星詠みの宝珠』は、今まさに、この聖地にてその真の力を解放せんとしている。
お前たちのささやかな抵抗も、もはや無意味。
間もなく、『偉大なる厄災の主』が降臨し、この腐敗した世界は浄化され、新たなる時代が始まるのだ!」
彼の言葉と共に、尖塔の頂上から放たれる暗紫色の光はさらに勢いを増し、大地が激しく震え始める。
天と地が鳴動し、世界が終わるかのような壮絶な光景。
「アレン! どうする!?」
フィンが、顔面蒼白になりながら叫ぶ。
絶望的な戦力差。
そして、刻一刻と迫る「厄災の目覚め」。
アレンは、しかし、その極限状況の中にあっても、決して諦めてはいなかった。
彼の瞳には、まだ最後の希望の光が灯っている。
「みんな、聞いてくれ! 僕に考えがある!」
アレンは、仲間たちに最後の作戦を告げる。
それは、あまりにも大胆で、そして成功の確率も極めて低い、まさに起死回生の一手。
しかし、今の彼らには、それしか残されていない。
空を覆う暗紫色の渦は、まるで巨大な瞳のように彼らを見下ろし、山肌を吹き抜ける風は、亡霊の呻きにも似た不吉な音を奏でている。
植物は毒々しい色彩を帯び、動物たちは姿を消すか、あるいは正気を失ったかのように凶暴化していた。
「この瘴気……明らかに以前よりも濃くなっている。
皆、各自で用意した布で口と鼻を覆え! 長時間吸い込むな! 特に魔力の弱い者は注意しろ!」
グレイグ隊長が、厳しい声で指示を飛ばす。
アレンが開発した携帯用浄水器も、この山脈の水を浄化するには限界があり、飲み水の確保すら困難を極めた。
フィンは、持ち前の明るさを努めて保とうとしていたが、その顔にも疲労と緊張の色は隠せない。
エリオットもまた、慣れない山岳行と不気味な雰囲気に、顔色を悪くしている。
「黒曜の爪」の残党たちは、まるでこの山脈そのものを味方につけたかのように、巧妙かつ悪質な罠を至る所に仕掛けていた。
一見、安全そうに見える山道は、踏み込むと足元が崩れ落ちる落とし穴へと変貌し、美しい花々は、触れると幻覚作用を引き起こす毒の胞子を撒き散らす。
さらには、特定の音に反応して無数の毒蛇が襲いかかってくるという、陰湿極まりない仕掛けまであった。
「くそっ! 奴ら、本気で俺たちをここで始末するつもりだな!」
辺境伯の兵士の一人であるバルドが、仕掛け杖の衝撃波で前方の怪しい岩陰を吹き飛ばしながら悪態をつく。
アレンは、その度に冷静に状況を分析し、浩介の記憶にあるサバイバル知識や、即席の発明で危機を回避していく。
例えば、毒の胞子を撒き散らす植物に対しては、風向きを計算し、発煙筒で煙の壁を作って進路を確保。
毒蛇の罠に対しては、特定の周波数の音波を発する装置(これも彼の即席の発明だ)で蛇を遠ざけるといった具合であった。
その機転と知識の深さに、グレイグ隊長も、そして同行する騎士団の者たちも、改めて舌を巻く。
追跡を続ける中で、一行は時折、遠くの空で、あるいは山脈の奥深くで、不可解な光の明滅や、空間が歪むかのような異常な現象を目撃した。
それは、まるで巨大なレンズが太陽光を集束させるかのような、あるいは強大な磁場が周囲の環境を捻じ曲げているかのような、異様な光景。
「あれは……『星詠みの宝珠』の力なのか……?」
アレンは、その現象を注意深く観察しながら推測する。
「黒曜の爪」は、盗み出した宝珠の力を使い、この「始まりの山脈」の奥深くで、何か途方もない儀式を行おうとしている。
それは、間違いなく「厄災の目覚め」と深く関わっているはずだ。
「彼らは、宝珠を使って、この山脈に眠る古代のエネルギーを無理やり引き出し、制御しようとしているのかもしれない。
そして、そのエネルギーを『厄災の主』を完全に呼び覚ますための触媒に……」
アレンの仮説は、背筋が凍るような恐ろしい可能性を示唆していた。
もしそれが事実ならば、一刻も早く彼らを止めなければ、世界は取り返しのつかない事態に陥ってしまう。
数日間の過酷な追跡行の末、ついに一行は、「黒曜の爪」が目指していると思われる山脈の最深部へとたどり着いた。
そこは、巨大なカルデラのような盆地になっており、中央には、天を突くかのようにそびえ立つ、黒曜石でできた巨大な尖塔(せんとう)が異様な存在感を放っている。
尖塔の周囲には、幾何学的な模様を描くように、無数の小さな祠(ほこら)や石碑が配置され、全体が巨大な祭祀場のような様相を呈していた。
そして、尖塔の頂上からは、例の暗紫色の渦が直接繋がり、まるで天と地を結ぶ邪悪な柱のようになっている。
「ここが……奴らの本拠地……そして、最終儀式の場所か……!」
グレイグ隊長が、息を呑んでその光景を見つめる。
尖塔の麓には、多くの黒装束の者たちが慌ただしく動き回り、何かを運び込んだり、祭壇のようなものを準備したりしているのが見て取れた。
そして、その中心には、銀色の仮面をつけた、あの指揮官の姿も確認できる。
「どうやら、歓迎の準備は整っているようだな」
辺境伯の兵士ハンスが、槍を握り締め、静かに呟いた。
彼の言葉通り、アレンたちが盆地へ足を踏み入れようとしたその時、周囲の岩陰や茂みから、無数の「黒曜の爪」の兵士たちが、まるで地から湧き出るかのように姿を現した。
その数は、前回遭遇した時を遥かに上回り、そして彼らの目には、もはや正気とは思えない、狂信的な光が宿っている。
「来たか、アルトリアの犬ども。
そして、招かれざる『特異点』よ」
銀仮面の指揮官の声が、拡声器でも使ったかのように、盆地全体に響き渡った。
その声には、もはや以前のような焦りや怒りはなく、ある種の超越的な確信と、アレンたちに対する絶対的な侮蔑が込められている。
「『星詠みの宝珠』は、今まさに、この聖地にてその真の力を解放せんとしている。
お前たちのささやかな抵抗も、もはや無意味。
間もなく、『偉大なる厄災の主』が降臨し、この腐敗した世界は浄化され、新たなる時代が始まるのだ!」
彼の言葉と共に、尖塔の頂上から放たれる暗紫色の光はさらに勢いを増し、大地が激しく震え始める。
天と地が鳴動し、世界が終わるかのような壮絶な光景。
「アレン! どうする!?」
フィンが、顔面蒼白になりながら叫ぶ。
絶望的な戦力差。
そして、刻一刻と迫る「厄災の目覚め」。
アレンは、しかし、その極限状況の中にあっても、決して諦めてはいなかった。
彼の瞳には、まだ最後の希望の光が灯っている。
「みんな、聞いてくれ! 僕に考えがある!」
アレンは、仲間たちに最後の作戦を告げる。
それは、あまりにも大胆で、そして成功の確率も極めて低い、まさに起死回生の一手。
しかし、今の彼らには、それしか残されていない。
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