【完結】発明家アレンの異世界工房～元・商品開発部員の知識で村おこし始めました～

シマセイ

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エルミナ魔法王国編

第八十九話：魔法都市の彩光とアカデミーへの道

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黒森での盗賊団との遭遇という試練を乗り越え、アレンたちアルトリア王国使節団一行がたどり着いたのは、エルミナ魔法王国東部の主要都市の一つ、「ルミナスフォール」であった。

その街は、噂に違わず、アルトリア王国のどの都市とも異なる、幻想的で不可思議な光景に満ち溢れていた。

街の建物は、優美な曲線を描く白亜の石材や、まるで宝石のように輝く特殊なガラスで構築され、夜になると、それらの素材自体が淡い光を放ち、街全体が柔らかな魔法の灯りに包まれる。

道行く人々の服装も、アルトリア王国とは異なり、より色彩豊かで、装飾的なものが多く、中には明らかに魔力を帯びた杖や装身具を身につけている者も少なくない。

そして何よりもアレンの目を引いたのは、街の至る所で見られる、実用的な魔法技術の数々であった。

例えば、街路を照らすのは、アレンがミストラル村で開発した高輝度ランプとは異なる原理で輝く浮遊式の魔法灯。

荷物を運ぶのは、馬を使わず、魔力で自律的に動く荷車。

そして、街の中央広場には、美しい水の彫刻を絶えず変化させる、魔法仕掛けの噴水が涼やかな音を立てている。

「すごい……これが、魔法技術……！」

アレンは、馬車の窓から見える光景の一つ一つに、子供のように目を輝かせた。

ミストラル村で彼が生み出してきた発明品の数々は、この世界の一般的な技術水準から見れば革新的であったかもしれない。

しかし、このエルミナ魔法王国では、科学とは異なる体系で発展した「魔法」という力が、人々の生活に深く浸透し、独自の文明を築き上げている。

それは、アレンにとって、嫉妬や劣等感ではなく、むしろ新たな知識への尽きせぬ渇望と、自身の発明と魔法技術を融合させることへの、強烈なインスピレーションを呼び起こすものであった。

「アレン殿、あまり目を丸くしていると、田舎者だと思われますぞ」

エリオットが、苦笑しながらアレンに注意を促す。
しかし、彼自身もまた、この魔法都市の壮麗さと活気に、少なからず圧倒されている様子であった。

一行は、ルミナスフォールの領主の元を訪れ、アルトリア王国からの使節団である旨を正式に伝えた。

市長は、アレンたちの突然の来訪に驚きつつも、アルトリア王国との友好関係を考慮し、彼らに数日間の滞在と、王都への中継ぎに必要な便宜を図ることを約束してくれた。

ルミナスフォールでの滞在中、アレンは許される範囲で街を散策し、その独自の文化や技術に触れた。

特に彼が興味を持ったのは、街の職人たちが使う道具や、彼らが作り出す魔法付与（エンチャント）された品々。

例えば、火力を自在に調整できる魔法のカマドや、切れ味が長持ちする魔法の刃物、あるいは天候を予測するという不思議な魔道具など。

それらの多くは、アレンの科学的な知識とは相容れない、不可思議な原理で動いているように見えたが、その効果は確かであり、人々の生活を豊かにしている。

「この街には、僕の知らない『法則』がたくさんあるみたいだ。
それを理解できれば、僕の発明も、もっと進化できるかもしれない」

アレンは、工房にいるティムやトム、そしてリナやカイトたちに、この街で見た驚くべき技術について、詳細な手紙を書き送った。

彼らもまた、アレンの報告に刺激を受け、ミストラル村での研究開発に新たな情熱を燃やすことだろう。

そんな中、フィンが街の酒場で面白い情報を仕入れてきた。

「なあ、アレン！この街に、エルミナ魔法王国でも指折りの『魔道具工房』があるらしいぜ！そこの親方は、ちょっと変わり者だけど、腕は超一流だって評判だ。

もしかしたら、アレンの興味を引くような、面白いモンが見られるかもしれねえぞ！」

その情報に、アレンの目が輝かないはずがなかった。
彼は早速、レグルスに許可を取り、フィンと共にその魔道具工房を訪ねてみることにする。

それは、新たな出会いと、そしてアレンの発明家としての魂を揺さぶるような、刺激的な体験の始まりとなるかもしれなかった。

一方、黒森での盗賊団との遭遇は、使節団一行に、エルミナ魔法王国の治安に対する警戒感を改めて抱かせていた。

バルドとハンスを中心とする護衛兵たちは、ルミナスフォール滞在中も、常にアレンたちの周囲の警備を怠らず、不審な者の接近には細心の注意を払っている。

彼らの報告によれば、ミストラル村で捕らえられた「黒曜の爪」の残党が自害した際に残した「厄災は近い」という言葉、そして「始まりの山脈」で銀仮面の指揮官が口にした「星の器は満たされようとしている」という不気味な予言。

それらの断片的な情報が、エルミナ魔法王国のどこかで、何らかの形で繋がってくる可能性も否定できない。

アレンは、ルミナスフォールの美しい街並みや、活気ある人々の姿を楽しみながらも、心のどこかでは、常にその影を意識していた。
「黒曜の爪」の真の目的は何なのか。

そして、「厄災」とは、具体的に何を指すのか。
王都の王立中央学院で学ぶことは、その謎を解き明かすための重要な手がかりとなるだろう。

しかし、その前に、このエルミナ魔法王国で彼を待ち受けているものは何か。

数日間の滞在を終え、アレンたち使節団は、ルミナスフォールの市長や市民たちに見送られ、再び王都へと続く街道へと出発した。

彼らの次の目的地は、エルミナ魔法王国の王都であり、そして大陸でも有数の魔法学術都市として知られる「エアリア」。

そこには、アレンが目指す「星晶エネルギーに関する国際会議」の開催を働きかけるべき、王国の有力者たちがいるはずだ。

馬車が、ルミナスフォールの壮麗な魔法の門をくぐる。
アレンは、振り返り、光り輝く街並みに別れを告げた。

短い滞在ではあったが、この街で得た経験と知識は、確実に彼の中で新たな種となり、やがて大きな実を結ぶことになるだろう。

旅は続く。

そして、その先には、常に新しい発見と、そして乗り越えるべき試練が待ち受けている。

その瞳は、まっすぐに、エルミナ魔法王国の心臓部、王都エアリアへと向けられていた。

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