【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ

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エルミナ魔法王国編

第九十七話:尋問の暗雲と星詠みの警告

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エアリアの裏路地での襲撃事件は、アレンとフィンに大きな衝撃を与えたものの、バルドとハンスたち護衛兵の迅速な対応により、最悪の事態は回避された。

捕らえられた数名の襲撃者たちは、すぐにアルトリア王国大使館へと移送され、レグルスと、王宮から派遣された尋問の専門家たちによる厳しい取り調べが開始された。

アレンも、彼らが使っていた武器や道具の分析、そして犯行の手口から、その背後関係を探るための協力を求められる。

「こいつらの装備……『黒曜の爪』の連中とは明らかに系統が違う。
もっと組織的で、金もかかっているようだ」

カイトから剣術の手ほどきを受け、武器にも多少詳しくなっていたフィンが、押収された短剣を眺めながら呟く。

アレンもまた、襲撃者たちが身に着けていた衣服の生地や、靴底に残っていた微細な土壌の分析から、彼らが特定の地域、あるいは特定の組織に属している可能性を探っていた。

しかし、捕らえられた男たちは、驚くほど口が堅かった。
拷問に近い尋問にも耐え、組織に関する情報は一切漏らそうとしない。

ただ、彼らの目には、アレンの持つ「古の叡智」に対する、狂信的とも言える執着の色が浮かんでいた。
それは、「黒曜の爪」とはまた異なる、しかし同様に危険な思想に染まった者たちの姿であった。

数日後、ようやく一人の襲撃者が、アレンが開発した特殊な薬草(微量の真実を語りやすくする効果があるとされる、リナがミストラル村で研究していたものだ)を用いた尋問によって、重い口を開いた。

彼らは、「古き星の探求者」と名乗る秘密結社の一員であり、その目的は、世界に散らばる「星の遺物」を集め、古代の星の力を復活させ、世界を新たな秩序へと導くことであるという。

そして、アレンが持つ「黒曜の書」の断片や、彼が生み出す「星晶エネルギー」の技術は、彼らにとって喉から手が出るほど欲しい「星の遺物」そのものであったのだ。

「『古き星の探求者』……また新しい厄介な連中が現れたものだな」

レグルスは、尋問結果の報告書を読み上げながら、深くため息をついた。
「黒曜の爪」の脅威が去ったわけではない。
それに加えて、新たな秘密結社までもがアレンを狙っている。

アレンの持つ知識と才能は、もはや彼一人のものではなく、世界の勢力図を揺るがしかねないほどの大きな価値を持ち始めていた。

アレンは、この新たな情報を携え、再び星見の塔のアストール教授を訪ねた。
教授は、アレンの無事を喜びながらも、「古き星の探求者」の名を聞くと、その表情を厳しく曇らせる。

「『古き星の探求者』……。
その名、わらわも古文書の中で一度だけ目にしたことがある。
彼らは、『黒曜の爪』とは異なる形で、星の力を追い求める者たち。

だが、その目的のためには手段を選ばぬ、危険な思想を持つ集団じゃ。
『黒曜の爪』が『破壊と混沌』を望むとすれば、彼らは星の力による『歪んだ秩序と支配』を望んでおるのかもしれぬ」

アストール教授は、アレンに、星見の塔に古くから伝わる一つの予言を語って聞かせた。
それは、「天に二つの偽りの星が輝く時、地は欲望の炎に焼かれ、真の星の子は試練の道を歩む」という、不吉な内容であった。

「二つの偽りの星……それは、『黒曜の爪』と、この『古き星の探求者』のことを指しているのかもしれないわね。
そして、真の星の子とは……」

アレンの隣で話を聞いていたフィンが、思わずアレンの顔を見つめる。
アストール教授は、静かに頷いた。

「アレンよ。
お主の背負う運命は、お主が思う以上に大きく、そして過酷なものなのかもしれぬ。
じゃが、星々はお主を見守っておる。
そして、お主の周りには、信頼できる仲間たちがいることを忘れてはならぬ」

教授の言葉は、アレンの心に重く、しかし温かく響いた。

今回の襲撃事件と、新たな敵の出現は、アルトリア辺境伯が進めようとしていた「星晶エネルギーに関する国際会議」の開催にも、暗い影を落とすことになった。

アレンの身の安全が確保されない限り、彼を公の場に出すことは危険すぎる。
会議の開催は、一時的に延期せざるを得ない状況となったのだ。

「申し訳ありません、辺境伯様。
私のせいで……」

アレンは、王都の屋敷でアルトリア辺境伯に頭を下げた。
しかし、辺境伯はアレンの肩を優しく叩いた。

「謝る必要はない、アレン君。
これは、君一人の責任ではない。
むしろ、君の存在が、この世界の闇に潜む者たちを炙り出したと考えるべきだろう。
我々は、この危機を乗り越え、必ずや君の知恵を世界の平和と繁栄のために役立てる道を切り開く。
そのためにも、今は焦らず、力を蓄える時だ」

辺境伯の言葉は、アレンに新たな勇気を与えた。
彼は、王立中央学院の研究棟に戻り、アルバス教授やエリアーナたちと共に、これまで以上に「星晶エネルギー」の安全な制御方法と、そして「黒曜の書」の謎の解明に没頭する。

フィンもまた、アレンの護衛を自ら買って出て、彼の研究室の周囲を常に警戒し、不審な者の接近に目を光らせていた。

ミストラル村の仲間たちにも、この新たな脅威の情報は伝えられた。
リナやカイト、ティムたちは、遠く離れた故郷から、アレンの身を案じ、そして彼を支えるための準備を、それぞれが進めていた。

リナは、解毒薬や精神安定作用のある薬草の研究をさらに深め、カイトは、村の自警団の訓練をより一層厳しくし、ティムは、アレンが考案した防衛装置の改良と増産に励む。
彼らの心は、距離を越えて、固く結ばれていた。
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