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エルミナ魔法王国編
第九十九話:導師の置き土産と王都の深き闇
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王都地下水路での激闘は、「古き星の探求者」の主要メンバーの多くを捕縛できた。
とはいえ、首魁である「導師」と名乗る謎の人物は、黒曜石のような輝きを放つ小さな箱と共に、闇の中へと逃げおおせてしまった。
そして、彼が残した「お主の運命は、我らと共にあるのだからな」という不気味な言葉が、アレンの心に重くのしかかっていた。
アルトリア王国大使館の一室は、さながら臨時の作戦司令部の様相を呈していた。
レグルスとグレイグ隊長が、捕らえた「古き星の探求者」のメンバーに対する尋問結果をアレンとフィンに報告している。
しかし、彼らの口は驚くほど堅く、組織の全容や「導師」の正体、そして持ち去られた箱の目的については、ほとんど有力な情報を引き出せずにいた。
「奴ら、まるで何かの術で口を封じられているかのようだ。
拷問に近い尋問にも、顔色一つ変えん」
グレイグ隊長が、苦々しげに吐き捨てる。
彼らは、ただのならず者集団ではなく、強固な思想と規律によって結束された、危険な秘密結社であることは間違いなさそうであった。
「ただ一つだけ……」
レグルスが、重い口を開いた。
「捕虜の一人が、意識が朦朧とする中で、うわ言のように『星の揺り籠……目覚めの刻……導師様だけが、その扉を開ける』と呟いていたそうです。
それが何を意味するのか……」
「星の揺り籠……?」
アレンは、その言葉を反芻する。
「黒曜の書」の断片や、アストール教授から託された古の星図にも、そのような言葉は見当たらなかった。
しかし、それが「導師」が持ち去った黒曜石の箱と、そして「厄災」の目覚めと深く関わっているであろうことは、直感的に理解できた。
「アレン、あの箱、なんだかヤバそうな感じだったよな。
導師の奴、あれをものすごく大事そうに抱えてたぜ」
フィンも、地下水路での光景を思い出しながら言う。
彼は、戦闘の興奮が冷めやらぬ一方で、アレンが再び危険な謎の中心に立たされていることに、深い憂慮を覚えていた。
アレンは、工房から持ち込んだ羊皮紙の上に、これまでに得られた情報を整理し始めた。
「黒曜の爪」と「古き星の探求者」。
二つの異なる組織が、なぜ同じように「厄災」の復活を望み、そしてアレンの持つ「星晶エネルギー」の知識や、彼自身を狙うのか。
そして、「星詠みの宝珠」と「星の揺り籠」と呼ばれる謎の箱は、その計画の中でどのような役割を果たすのか。
パズルのピースは増えていくものの、その全体像は依然として霧の中であった。
「おそらく、『星の揺り籠』とは、『星詠みの宝珠』の力を最大限に引き出し、あるいは特定の場所にその力を指向させるための、一種の『増幅装置』あるいは『制御装置』のようなものではないでしょうか。
そして、『始まりの山脈』の奥深くにある、あの黒曜石の尖塔こそが、そのエネルギーを注ぎ込み、『厄災』を呼び覚ますための『祭壇』……」
アレンの推論に、レグルスもグレイグ隊長も息を呑む。
もしそれが事実ならば、「導師」は今もなお、「始まりの山脈」のどこかで、その恐るべき計画を進行させている可能性がある。
「すぐにでも、再び『始まりの山脈』へ捜索隊を派遣すべきです! 奴らを野放しにしておけば、今度こそ取り返しのつかないことになる!」
フィンが声を荒らげるが、グレイグ隊長は静かに首を横に振った。
「気持ちは分かる。
だが、今の我々には、そのための十分な情報も、戦力もない。
『始まりの山脈』は広大で、しかも奴らは地の利を得ている。
下手に動けば、再び罠にはまるだけだ」
その言葉は、厳しい現実を突きつけていた。
アレンもまた、唇を噛み締める。
焦る気持ちを抑え、冷静に次の一手を考えなければならない。
「レグルス様、この件は直ちにアルトリア辺境伯様にご報告を。
そして、王国の賢者の方々や、アストール教授にも協力を仰ぎ、あの『星の揺り籠』の正体と、『導師』の目的について、さらに情報を集める必要があります」
「うむ、それが賢明だろう。
アレン殿、君には引き続き、王立中央学院の研究棟で、捕虜たちが使っていた道具や、彼らが残した僅かな手がかりの分析をお願いしたい。
何か、奴らのアジトや、次の行動を示唆するようなものが見つかるかもしれん」
アレンは頷いた。
直接的な追跡が困難である以上、今は地道な情報収集と分析に全力を注ぐしかない。
彼は、フィンと共に学院の研究棟へ戻り、押収された「古き星の探求者」の遺留品の分析を開始した。
そこには、奇妙な記号が刻まれた金属片や、特殊な薬草を調合したと思われる粉末、そして何かの装置の設計図の一部らしき羊皮紙の切れ端などが含まれていた。
「この金属片の材質……ヴェネリアから取り寄せた特殊合金に似ているけど、少し成分が違うな。
それに、この記号……どこかで……」
アレンは、ミストラル村の工房で、ゴードンと共に様々な金属の研究をしていた時の記憶を呼び覚ます。
そして、リナから送られてきた薬草の資料の中に、この粉末と似たような調合例がなかったか、記憶の糸を辿っていく。
一方、王都のアルトリア辺境伯の屋敷では、レグルスからの報告を受けた辺境伯が、厳しい表情で次なる対応を協議していた。
「古き星の探求者」という新たな脅威。
そして、持ち去られた「星の揺り籠」。
それは、アルトリア領だけでなく、王国全体の、いや、大陸全体の平和を揺るがしかねない、重大な危機であった。
辺境伯は、王宮とも連携し、極秘裏に「導師」の行方と、「星の揺り籠」の捜索を開始することを決定する。
同時に、アレンの研究を全面的にバックアップし、彼が必要とする情報や資材を、可能な限り提供することも約束された。
とはいえ、首魁である「導師」と名乗る謎の人物は、黒曜石のような輝きを放つ小さな箱と共に、闇の中へと逃げおおせてしまった。
そして、彼が残した「お主の運命は、我らと共にあるのだからな」という不気味な言葉が、アレンの心に重くのしかかっていた。
アルトリア王国大使館の一室は、さながら臨時の作戦司令部の様相を呈していた。
レグルスとグレイグ隊長が、捕らえた「古き星の探求者」のメンバーに対する尋問結果をアレンとフィンに報告している。
しかし、彼らの口は驚くほど堅く、組織の全容や「導師」の正体、そして持ち去られた箱の目的については、ほとんど有力な情報を引き出せずにいた。
「奴ら、まるで何かの術で口を封じられているかのようだ。
拷問に近い尋問にも、顔色一つ変えん」
グレイグ隊長が、苦々しげに吐き捨てる。
彼らは、ただのならず者集団ではなく、強固な思想と規律によって結束された、危険な秘密結社であることは間違いなさそうであった。
「ただ一つだけ……」
レグルスが、重い口を開いた。
「捕虜の一人が、意識が朦朧とする中で、うわ言のように『星の揺り籠……目覚めの刻……導師様だけが、その扉を開ける』と呟いていたそうです。
それが何を意味するのか……」
「星の揺り籠……?」
アレンは、その言葉を反芻する。
「黒曜の書」の断片や、アストール教授から託された古の星図にも、そのような言葉は見当たらなかった。
しかし、それが「導師」が持ち去った黒曜石の箱と、そして「厄災」の目覚めと深く関わっているであろうことは、直感的に理解できた。
「アレン、あの箱、なんだかヤバそうな感じだったよな。
導師の奴、あれをものすごく大事そうに抱えてたぜ」
フィンも、地下水路での光景を思い出しながら言う。
彼は、戦闘の興奮が冷めやらぬ一方で、アレンが再び危険な謎の中心に立たされていることに、深い憂慮を覚えていた。
アレンは、工房から持ち込んだ羊皮紙の上に、これまでに得られた情報を整理し始めた。
「黒曜の爪」と「古き星の探求者」。
二つの異なる組織が、なぜ同じように「厄災」の復活を望み、そしてアレンの持つ「星晶エネルギー」の知識や、彼自身を狙うのか。
そして、「星詠みの宝珠」と「星の揺り籠」と呼ばれる謎の箱は、その計画の中でどのような役割を果たすのか。
パズルのピースは増えていくものの、その全体像は依然として霧の中であった。
「おそらく、『星の揺り籠』とは、『星詠みの宝珠』の力を最大限に引き出し、あるいは特定の場所にその力を指向させるための、一種の『増幅装置』あるいは『制御装置』のようなものではないでしょうか。
そして、『始まりの山脈』の奥深くにある、あの黒曜石の尖塔こそが、そのエネルギーを注ぎ込み、『厄災』を呼び覚ますための『祭壇』……」
アレンの推論に、レグルスもグレイグ隊長も息を呑む。
もしそれが事実ならば、「導師」は今もなお、「始まりの山脈」のどこかで、その恐るべき計画を進行させている可能性がある。
「すぐにでも、再び『始まりの山脈』へ捜索隊を派遣すべきです! 奴らを野放しにしておけば、今度こそ取り返しのつかないことになる!」
フィンが声を荒らげるが、グレイグ隊長は静かに首を横に振った。
「気持ちは分かる。
だが、今の我々には、そのための十分な情報も、戦力もない。
『始まりの山脈』は広大で、しかも奴らは地の利を得ている。
下手に動けば、再び罠にはまるだけだ」
その言葉は、厳しい現実を突きつけていた。
アレンもまた、唇を噛み締める。
焦る気持ちを抑え、冷静に次の一手を考えなければならない。
「レグルス様、この件は直ちにアルトリア辺境伯様にご報告を。
そして、王国の賢者の方々や、アストール教授にも協力を仰ぎ、あの『星の揺り籠』の正体と、『導師』の目的について、さらに情報を集める必要があります」
「うむ、それが賢明だろう。
アレン殿、君には引き続き、王立中央学院の研究棟で、捕虜たちが使っていた道具や、彼らが残した僅かな手がかりの分析をお願いしたい。
何か、奴らのアジトや、次の行動を示唆するようなものが見つかるかもしれん」
アレンは頷いた。
直接的な追跡が困難である以上、今は地道な情報収集と分析に全力を注ぐしかない。
彼は、フィンと共に学院の研究棟へ戻り、押収された「古き星の探求者」の遺留品の分析を開始した。
そこには、奇妙な記号が刻まれた金属片や、特殊な薬草を調合したと思われる粉末、そして何かの装置の設計図の一部らしき羊皮紙の切れ端などが含まれていた。
「この金属片の材質……ヴェネリアから取り寄せた特殊合金に似ているけど、少し成分が違うな。
それに、この記号……どこかで……」
アレンは、ミストラル村の工房で、ゴードンと共に様々な金属の研究をしていた時の記憶を呼び覚ます。
そして、リナから送られてきた薬草の資料の中に、この粉末と似たような調合例がなかったか、記憶の糸を辿っていく。
一方、王都のアルトリア辺境伯の屋敷では、レグルスからの報告を受けた辺境伯が、厳しい表情で次なる対応を協議していた。
「古き星の探求者」という新たな脅威。
そして、持ち去られた「星の揺り籠」。
それは、アルトリア領だけでなく、王国全体の、いや、大陸全体の平和を揺るがしかねない、重大な危機であった。
辺境伯は、王宮とも連携し、極秘裏に「導師」の行方と、「星の揺り籠」の捜索を開始することを決定する。
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