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第十二話:王都の胎動、瑠璃色の萌芽
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王都での新しい生活が始まって数日、アリアドネは休む間もなく活動を開始した。
まずは、彼女の新たな城となる店舗兼住居の改装だ。
辺境伯から紹介された代理人は実に手際が良く、すぐに腕利きの職人たちを集めてくれた。
アリアドネの明確な指示と、薬草師としての専門的な知識が盛り込まれた改装計画は、職人たちにとっても新鮮だったらしく、彼らは熱意をもって作業に取り組んでくれた。
一階の店舗スペースは、明るい陽光がたっぷりと差し込むように大きな窓が設えられ、壁には薬草を美しく陳列するための棚が作り付けられていく。
奥には、客が落ち着いて相談できる小さな個室も用意された。
二階は、アリアドネにとって最も重要な空間となる研究室が中心だ。
最新式の調合台、薬草を乾燥させるための通気性の良い棚、精密な天秤やガラス器具が運び込まれ、彼女の知的好奇心を刺激する、機能的かつ美しい空間へと生まれ変わっていった。
残りのスペースは、質素ではあるがアリアドネが心から安らげる住居となる。
「素晴らしいわ……ここから全てが始まるのね。」
日毎に姿を変えていく我が城を眺めながら、アリアドネは何度となく胸を高鳴らせた。
改装作業と並行して、アリアドネは王都の薬草市場へと足繁く通った。
そこは、彼女が以前暮らしていた地方都市の市場とは比べ物にならないほど巨大で、活気に満ち溢れていた。
見たこともないような珍しい薬草、遠い異国から運ばれてきた香辛料、そして熱心に薬草を品定めする薬師や商人たち。
その全てが、アリアドネの知識欲を刺激し、新たな発見を与えてくれた。
ある日、市場の隅にある小さな露店で、埃をかぶった木箱の中に無造作に入れられた乾燥した根を見つけた。
店主自身もその価値が分からず、ただ場所を取るだけの厄介物として扱っていたようだった。
しかし、アリアドネは一目見て、それが極めて希少で、特定の難病に効果のある薬草の根であることを見抜いた。
彼女は冷静を装い、店主と巧みに交渉し、驚くほど安価でその貴重な薬草を手に入れることに成功した。
(この薬草があれば、いつか誰かの命を救えるかもしれない……)
アリアドネは、その乾いた根を大切に懐にしまい、市場を後にした。
辺境伯アルフレッドから預かった紹介状も、王都でのアリアドネの活動を力強く後押しした。
彼女は、いくつかの有力な貴族家や、影響力のある大商人の屋敷を訪れ、丁重な挨拶と共に、自身の薬草師としての知識と経験を披露した。
その中で、長年原因不明の咳に悩まされているという老侯爵夫人の屋敷を訪れた際のこと。
アリアドネは、夫人の顔色や声の調子、そして部屋の空気などから、咳の原因が単なる風邪や気管支の炎症ではなく、精神的なストレスと乾燥した空気が複合的に影響していることを見抜いた。
そして、持参していた、鎮静効果と保湿効果のある特別なハーブをブレンドしたハーブティーを勧め、その場で淹れて差し上げた。
老侯爵夫人は、半信半疑ながらもそのハーブティーを口にしたが、数日後、アリアドネの元へ「あれほど頑固だった咳が、嘘のように軽くなった」という驚きと感謝の言葉が綴られた手紙が届けられた。
この出来事は、瞬く間に一部の貴族たちの間で話題となり、「バルトフェルド辺境伯が推薦する、若く美しいが、恐ろしく腕の立つ薬草師がいる」という噂が囁かれ始めた。
アリアドネの名は、まだ開店もしていないうちから、少しずつ王都の社交界に浸透し始めていたのだ。
もちろん、アリアドネは情報収集も怠ってはいなかった。
挨拶回りの席での何気ない会話や、代理人を通じて集めた噂話の中から、アシュフォード公爵家とリディアに関する情報が、断片的ながらも彼女の耳に入ってくる。
リディアが近々、王都の孤児院への寄付を名目とした大規模なチャリティー夜会を主催するらしいこと。
しかし、その実態は、公爵夫人としての自分の存在感を誇示し、他の貴婦人たちを圧倒するための、贅を凝らした見世物のようなものだと陰で囁かれていること。
そして、夫であるエリオットは、相変わらず強引な手法で鉱山開発を進め、その過程で水源を汚染し、近隣の村では原因不明の病に苦しむ子供たちが出始めているという、胸が悪くなるような噂。
しかし、その被害の声は、アシュフォード公爵家の権力によって巧みに揉み消され、表沙汰になることはないという。
(……許せない。人の命を、健康を何だと思っているの!)
アリアドネの胸に、再び激しい怒りの炎が燃え上がった。
しかし、彼女は決して感情に流されることはない。
怒りは、冷静な計画と行動のための燃料に変える。
今はまだ、その時ではない。
まずは、この王都で「瑠璃色の薬草師」としての確固たる地位を築き上げ、誰にも無視できない影響力を持つこと。
それが、あの非道な二人に対する、最も効果的な反撃の第一歩となるはずだ。
店の改装は最終段階に入り、アリアドネが考案した新しいハーブ製品のパッケージデザインも完成した。
瑠璃色の地に、銀糸で繊細な薬草の文様が刺繍された美しい小袋や、透明なガラス瓶に入れられた色鮮やかなハーブティーは、それ自体が芸術品のような輝きを放っていた。
開店の日も、もう間近に迫っている。
王都という巨大な舞台で、自分の力がどこまで通用するのか。
期待と不安が入り混じる中、アリアドネは静かに、その日を待っていた。
まずは、彼女の新たな城となる店舗兼住居の改装だ。
辺境伯から紹介された代理人は実に手際が良く、すぐに腕利きの職人たちを集めてくれた。
アリアドネの明確な指示と、薬草師としての専門的な知識が盛り込まれた改装計画は、職人たちにとっても新鮮だったらしく、彼らは熱意をもって作業に取り組んでくれた。
一階の店舗スペースは、明るい陽光がたっぷりと差し込むように大きな窓が設えられ、壁には薬草を美しく陳列するための棚が作り付けられていく。
奥には、客が落ち着いて相談できる小さな個室も用意された。
二階は、アリアドネにとって最も重要な空間となる研究室が中心だ。
最新式の調合台、薬草を乾燥させるための通気性の良い棚、精密な天秤やガラス器具が運び込まれ、彼女の知的好奇心を刺激する、機能的かつ美しい空間へと生まれ変わっていった。
残りのスペースは、質素ではあるがアリアドネが心から安らげる住居となる。
「素晴らしいわ……ここから全てが始まるのね。」
日毎に姿を変えていく我が城を眺めながら、アリアドネは何度となく胸を高鳴らせた。
改装作業と並行して、アリアドネは王都の薬草市場へと足繁く通った。
そこは、彼女が以前暮らしていた地方都市の市場とは比べ物にならないほど巨大で、活気に満ち溢れていた。
見たこともないような珍しい薬草、遠い異国から運ばれてきた香辛料、そして熱心に薬草を品定めする薬師や商人たち。
その全てが、アリアドネの知識欲を刺激し、新たな発見を与えてくれた。
ある日、市場の隅にある小さな露店で、埃をかぶった木箱の中に無造作に入れられた乾燥した根を見つけた。
店主自身もその価値が分からず、ただ場所を取るだけの厄介物として扱っていたようだった。
しかし、アリアドネは一目見て、それが極めて希少で、特定の難病に効果のある薬草の根であることを見抜いた。
彼女は冷静を装い、店主と巧みに交渉し、驚くほど安価でその貴重な薬草を手に入れることに成功した。
(この薬草があれば、いつか誰かの命を救えるかもしれない……)
アリアドネは、その乾いた根を大切に懐にしまい、市場を後にした。
辺境伯アルフレッドから預かった紹介状も、王都でのアリアドネの活動を力強く後押しした。
彼女は、いくつかの有力な貴族家や、影響力のある大商人の屋敷を訪れ、丁重な挨拶と共に、自身の薬草師としての知識と経験を披露した。
その中で、長年原因不明の咳に悩まされているという老侯爵夫人の屋敷を訪れた際のこと。
アリアドネは、夫人の顔色や声の調子、そして部屋の空気などから、咳の原因が単なる風邪や気管支の炎症ではなく、精神的なストレスと乾燥した空気が複合的に影響していることを見抜いた。
そして、持参していた、鎮静効果と保湿効果のある特別なハーブをブレンドしたハーブティーを勧め、その場で淹れて差し上げた。
老侯爵夫人は、半信半疑ながらもそのハーブティーを口にしたが、数日後、アリアドネの元へ「あれほど頑固だった咳が、嘘のように軽くなった」という驚きと感謝の言葉が綴られた手紙が届けられた。
この出来事は、瞬く間に一部の貴族たちの間で話題となり、「バルトフェルド辺境伯が推薦する、若く美しいが、恐ろしく腕の立つ薬草師がいる」という噂が囁かれ始めた。
アリアドネの名は、まだ開店もしていないうちから、少しずつ王都の社交界に浸透し始めていたのだ。
もちろん、アリアドネは情報収集も怠ってはいなかった。
挨拶回りの席での何気ない会話や、代理人を通じて集めた噂話の中から、アシュフォード公爵家とリディアに関する情報が、断片的ながらも彼女の耳に入ってくる。
リディアが近々、王都の孤児院への寄付を名目とした大規模なチャリティー夜会を主催するらしいこと。
しかし、その実態は、公爵夫人としての自分の存在感を誇示し、他の貴婦人たちを圧倒するための、贅を凝らした見世物のようなものだと陰で囁かれていること。
そして、夫であるエリオットは、相変わらず強引な手法で鉱山開発を進め、その過程で水源を汚染し、近隣の村では原因不明の病に苦しむ子供たちが出始めているという、胸が悪くなるような噂。
しかし、その被害の声は、アシュフォード公爵家の権力によって巧みに揉み消され、表沙汰になることはないという。
(……許せない。人の命を、健康を何だと思っているの!)
アリアドネの胸に、再び激しい怒りの炎が燃え上がった。
しかし、彼女は決して感情に流されることはない。
怒りは、冷静な計画と行動のための燃料に変える。
今はまだ、その時ではない。
まずは、この王都で「瑠璃色の薬草師」としての確固たる地位を築き上げ、誰にも無視できない影響力を持つこと。
それが、あの非道な二人に対する、最も効果的な反撃の第一歩となるはずだ。
店の改装は最終段階に入り、アリアドネが考案した新しいハーブ製品のパッケージデザインも完成した。
瑠璃色の地に、銀糸で繊細な薬草の文様が刺繍された美しい小袋や、透明なガラス瓶に入れられた色鮮やかなハーブティーは、それ自体が芸術品のような輝きを放っていた。
開店の日も、もう間近に迫っている。
王都という巨大な舞台で、自分の力がどこまで通用するのか。
期待と不安が入り混じる中、アリアドネは静かに、その日を待っていた。
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