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★本編★
舞踏会前夜
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「さあ頑張って!早く運ばないともう1ヶ月しか無いのよ」
ベスが使用人達を鼓舞する。
父の一声で突然決まった僕のお披露目。財政難もあり自身の領地で開催する舞踏会は久しぶりで屋敷中大騒ぎだ。
「ほんと馬鹿みたい。どうしてアリスの誕生日なんて祝わなくちゃならないのよ」
エレノアの聞えよがしの嫌味に僕も心の中で同意する。誰が自分の品評会に出たいものか。
あの後八雲は酷く公爵に怒りながら滞在先へ帰って行った。確かに耳を疑うような計画だったがあそこで騒ぎを起こして八雲が辞めさせられる方が痛手だ。
今は一日でも長くここで自分の腕を磨く事だけを考えなければ。
「商人からドレスが届きました」
「えっ?!ほんと?!やったー!」
使用人の言葉にエレノアが飛び跳ねて階段を駆け降りる。謹慎が解けた途端いつものエレノアだ。あの罰に効果はあったのか?そんなことをぼんやり考えていると父が現れた。
「エレノアお前のドレスでは無い。アリスの衣装だ」
「えっ!じゃあ私は何を着たらいいの」
「着る物は山ほど持っているだろう」
「同じドレスを着ろっていうの?!そんな恥ずかしい事出来ないわ!」
そう言いながらエレノアはわっと顔を伏せて泣きじゃくった。それを見た父はため息をついてエレノアの頭を撫でながら仕方ないなと呟く。
「まあいいだろう。もう少ししたら金は入って来る。お前も好きなドレスを買えばいい」
「ほんと?!」
「ああ本当だ。仕立て屋を呼んで作っていいぞ」
「ありがとうお父様!パートナーも自分で選んでいい?」
「勿論だ」
「やったー!お父様大好き!」
ため息をつく父はそれでも一人娘の喜ぶ姿を見るのは満更でもないようで口角を僅かに上げている。……気持ち悪い。
ましてやこの微笑ましい?親子劇は僕の犠牲の上に成り立つと堂々と宣言されているのだからため息をつきたいのはこっちだ。
「アリス様お衣装を合わせましょう」
ここを去る口実をくれたベスの呼びかけがこんなに嬉しかったことは無い。
はいと返事をして僕は急ぎその場を後にした。
いよいよ舞踏会前夜。
礼儀作法に加え会話術ダンス歩き方までこの一ヶ月みっちり仕込まれた。お陰で訓練の時間が大幅に削られたのには苛々したが。
リカルドは更に腰を据えて剣を学び出したし、時折ノエルが素手の戦い方なんかを教えに来てくれた。八雲はやっぱり凄い魔術師で僕の魔力もどんどん上がって行く。
「あー今日も頑張ったあ!!アリス俺を褒めろ」
「あっはい。リカルド兄さんは凄いです」
「よし!」
褒められると子供のように笑う。こんな人だったんだ。前回はほとんど接触が無かったし皇室に入ってからは結局一度も会わず仕舞いだったっけ。
僕も釣られて笑っていると屋敷の入り口にノエルとエレノアが見えた。なんだか様子がおかしい。そのまま別の道を通ろうとしたところでリカルドが空気を読まず大声でノエルを呼んだ。
その声に応えるようにノエルはエレノアにお辞儀をしてゆっくりとこっちに歩いて来る。
あーあ。邪魔しちゃったんじゃ無いの?
エレノアが泣きそうな顔で見送ってるけど?
「アリス様」
「?はい?えっ?」
突然僕の前に跪いたノエルは僕の手を取り甲に口付ける。
「ノエル?!」
どうしたんだ突然。
軽くパニックになる僕を八雲とリカルドがニヤニヤと見ている。
「明日の舞踏会のパートナーに私を選んで下さい」
綺麗な唇から紡がれる音楽のような声がふわりと僕を包む。
「えっ、あ、はい!」
思わずそう返事してからはたと気付いてエレノアに目を遣るとギリギリと歯軋りが聞こえてきそうな顔でこちらを睨みつけていた。
面倒なことになるなあ。
でも目の前の護衛騎士がとびきりの笑顔で喜んでいるのに今更ダメとは言えない。
前回の僕はただ毎日を生き延びるために息を殺して誰の目にも止まらないように生きてきた。自分のしたいことや楽しい事なんて考えたことも無かったのだ。
けれどそれで本当に生きていたと言えるのだろうか?
こうして人生をやり直せるなら本当の意味で生きてみたい。
「ノエル。当日はよろしくね」
僕の言葉にノエルは嬉しそうに頷いた。
ベスが使用人達を鼓舞する。
父の一声で突然決まった僕のお披露目。財政難もあり自身の領地で開催する舞踏会は久しぶりで屋敷中大騒ぎだ。
「ほんと馬鹿みたい。どうしてアリスの誕生日なんて祝わなくちゃならないのよ」
エレノアの聞えよがしの嫌味に僕も心の中で同意する。誰が自分の品評会に出たいものか。
あの後八雲は酷く公爵に怒りながら滞在先へ帰って行った。確かに耳を疑うような計画だったがあそこで騒ぎを起こして八雲が辞めさせられる方が痛手だ。
今は一日でも長くここで自分の腕を磨く事だけを考えなければ。
「商人からドレスが届きました」
「えっ?!ほんと?!やったー!」
使用人の言葉にエレノアが飛び跳ねて階段を駆け降りる。謹慎が解けた途端いつものエレノアだ。あの罰に効果はあったのか?そんなことをぼんやり考えていると父が現れた。
「エレノアお前のドレスでは無い。アリスの衣装だ」
「えっ!じゃあ私は何を着たらいいの」
「着る物は山ほど持っているだろう」
「同じドレスを着ろっていうの?!そんな恥ずかしい事出来ないわ!」
そう言いながらエレノアはわっと顔を伏せて泣きじゃくった。それを見た父はため息をついてエレノアの頭を撫でながら仕方ないなと呟く。
「まあいいだろう。もう少ししたら金は入って来る。お前も好きなドレスを買えばいい」
「ほんと?!」
「ああ本当だ。仕立て屋を呼んで作っていいぞ」
「ありがとうお父様!パートナーも自分で選んでいい?」
「勿論だ」
「やったー!お父様大好き!」
ため息をつく父はそれでも一人娘の喜ぶ姿を見るのは満更でもないようで口角を僅かに上げている。……気持ち悪い。
ましてやこの微笑ましい?親子劇は僕の犠牲の上に成り立つと堂々と宣言されているのだからため息をつきたいのはこっちだ。
「アリス様お衣装を合わせましょう」
ここを去る口実をくれたベスの呼びかけがこんなに嬉しかったことは無い。
はいと返事をして僕は急ぎその場を後にした。
いよいよ舞踏会前夜。
礼儀作法に加え会話術ダンス歩き方までこの一ヶ月みっちり仕込まれた。お陰で訓練の時間が大幅に削られたのには苛々したが。
リカルドは更に腰を据えて剣を学び出したし、時折ノエルが素手の戦い方なんかを教えに来てくれた。八雲はやっぱり凄い魔術師で僕の魔力もどんどん上がって行く。
「あー今日も頑張ったあ!!アリス俺を褒めろ」
「あっはい。リカルド兄さんは凄いです」
「よし!」
褒められると子供のように笑う。こんな人だったんだ。前回はほとんど接触が無かったし皇室に入ってからは結局一度も会わず仕舞いだったっけ。
僕も釣られて笑っていると屋敷の入り口にノエルとエレノアが見えた。なんだか様子がおかしい。そのまま別の道を通ろうとしたところでリカルドが空気を読まず大声でノエルを呼んだ。
その声に応えるようにノエルはエレノアにお辞儀をしてゆっくりとこっちに歩いて来る。
あーあ。邪魔しちゃったんじゃ無いの?
エレノアが泣きそうな顔で見送ってるけど?
「アリス様」
「?はい?えっ?」
突然僕の前に跪いたノエルは僕の手を取り甲に口付ける。
「ノエル?!」
どうしたんだ突然。
軽くパニックになる僕を八雲とリカルドがニヤニヤと見ている。
「明日の舞踏会のパートナーに私を選んで下さい」
綺麗な唇から紡がれる音楽のような声がふわりと僕を包む。
「えっ、あ、はい!」
思わずそう返事してからはたと気付いてエレノアに目を遣るとギリギリと歯軋りが聞こえてきそうな顔でこちらを睨みつけていた。
面倒なことになるなあ。
でも目の前の護衛騎士がとびきりの笑顔で喜んでいるのに今更ダメとは言えない。
前回の僕はただ毎日を生き延びるために息を殺して誰の目にも止まらないように生きてきた。自分のしたいことや楽しい事なんて考えたことも無かったのだ。
けれどそれで本当に生きていたと言えるのだろうか?
こうして人生をやり直せるなら本当の意味で生きてみたい。
「ノエル。当日はよろしくね」
僕の言葉にノエルは嬉しそうに頷いた。
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