28 / 89
第二章 静かに暮らしたいだけだったのに
27・先物取引と生産者の皆さん
しおりを挟む
ブラウンは男爵邸を出ると、とんぼ返りで職人村へ戻った。
宿屋で掃除をしていたライネルに、貴族の伝手ができたことを伝えると、彼は目を輝かせた。
「本当にありがとうございます、ブラウンさん! 危うく計画が頓挫してしまうところでした。助かりました!」
「いやいや、いいんだよ。古くからの知り合いでね、いろんな人を支援している篤志家なんだ」
「そんな立派な方がいるんですね。ぜひお礼を言いたいです!」
ライネルの言葉に、ブラウンは慌てて手を振った。
「いや、それはいい。表に出るのを嫌う人だから、気にしなくていい。君の感謝の気持ちは、ちゃんと伝えておく」
「そうなんですか。では、よろしくお伝えください」
「ああ。サロンとパーティーの詳細が決まったら連絡が来るから、その時に次の段取りを考えよう」
「はい!」
せっかくの大きなチャンスだ。それを生かさないのはもったいない。ライネルはお披露目会でどうすれば貴族たちの興味を引けるか、一生懸命考え始めた。
そうしているうちに陽が沈み、夕食の支度の時間になった。
ライネルがオイショを手伝ってじゃがいもの皮をむいていると、外からガヤガヤと人の声がした。
「誰か来たんですかね、ショーさん」
「そうだな。ちょっと様子を見てくる」
ショーがドアを開けた瞬間、数人の男たちが宿屋に雪崩れ込んできた。
「あんたがライネルか!?」
先頭の年配の男が、ブラウンに向かって叫ぶ。
「えっ? いや……」
ライネルを危険に巻き込みたくなかったブラウンは、返答をためらう。
しかし男は突然、床にひざまずいて頭を下げた。
「頼む! 俺たちも助けてくれ!」
「一体どうしたんだ?」
オイショが厨房から顔を出し、驚いたように声を上げた。
「なんだ、ソンギリじゃねぇか!」
「オイショ! お前からも頼んでくれ。あの“株式化”ってやつ、工房だけじゃなく俺たち農民も仲間に入れてくれ!」
「えっ?」
その場の全員――ブラウン、ショー、オイショ――が同時にライネルを見た。
つられてソンギリも視線を向ける。
「まさか……その子供が“株式化”とやらを考えたのか?」
「ああ、そうだ。ライネルは天才だからな!」
まるで自分のことを褒められたかのように、ショーが胸を張る。
ブラウンは聞こえないように小さく舌打ちをした。
「悪かった、まさか子供とは思わなかった。だが頼む、俺たちも仲間に入れてくれ。このままだと来年は種を買う金もなくなる!」
「わかりました。まずはお話を聞かせてください」
ライネルがそう言うと、ソンギリは外にいる仲間たちを呼び寄せた。
ぞろぞろと入ってくる男たち――皆、村の農家や漁師らしい。
食堂に集まってライネルたちは彼らの話を聞いた。
「皆さんはそれぞれ農業や漁業を営んでいるんですね」
「ああ。村の中だけじゃ売り上げが限られるから、主に外で売ってるんだが……天候次第で不安定な仕事だろ?不作の年は食う物にも困るし、豊作の年は値崩れして儲けがない。網もボロボロ、畑はあっても種を買う金がねぇ……。安定した暮らしがしたいんだ」
「なるほど……」
ライネルは腕を組んで考え込む。
(それなら“先物取引”はどうだろう?)
――“先物取引”とは、あらかじめ決めた期日に、商品とお金を交換する約束のことだ。
約束した金額はどんなに商品の価格が上下しても変わらない。
生産者にとっては安心して作物を作れる仕組みで、商人にとっても仕入れの不安が減る。
「それなら、相手は貴族ではなく“商家”になりますね。お店に直接話を持ちかけるか、物流を担う商会を探してみましょう」
「なるほど……そんな手があるのか!」
ソンギリは感心して何度もうなずく。
「不作で値が上がっても、翌年豊作なら暴落で苦しくなる。けどその仕組みなら安心だ」
「はい。では、王都に行ったときに商会を訪ねてみます」
「頼む! 本当に助かる!」
ソンギリをはじめ、男たちは安堵の笑みを浮かべた。
(まだ株式化も始まったばかりなのに、今度は先物取引まで……でもどうせ王都に行くなら一石二鳥だ。市井なら父に会うこともないだろうし)
ライネルは、再び新しい計画の紙を取り出し、静かにペンを走らせた。
宿屋で掃除をしていたライネルに、貴族の伝手ができたことを伝えると、彼は目を輝かせた。
「本当にありがとうございます、ブラウンさん! 危うく計画が頓挫してしまうところでした。助かりました!」
「いやいや、いいんだよ。古くからの知り合いでね、いろんな人を支援している篤志家なんだ」
「そんな立派な方がいるんですね。ぜひお礼を言いたいです!」
ライネルの言葉に、ブラウンは慌てて手を振った。
「いや、それはいい。表に出るのを嫌う人だから、気にしなくていい。君の感謝の気持ちは、ちゃんと伝えておく」
「そうなんですか。では、よろしくお伝えください」
「ああ。サロンとパーティーの詳細が決まったら連絡が来るから、その時に次の段取りを考えよう」
「はい!」
せっかくの大きなチャンスだ。それを生かさないのはもったいない。ライネルはお披露目会でどうすれば貴族たちの興味を引けるか、一生懸命考え始めた。
そうしているうちに陽が沈み、夕食の支度の時間になった。
ライネルがオイショを手伝ってじゃがいもの皮をむいていると、外からガヤガヤと人の声がした。
「誰か来たんですかね、ショーさん」
「そうだな。ちょっと様子を見てくる」
ショーがドアを開けた瞬間、数人の男たちが宿屋に雪崩れ込んできた。
「あんたがライネルか!?」
先頭の年配の男が、ブラウンに向かって叫ぶ。
「えっ? いや……」
ライネルを危険に巻き込みたくなかったブラウンは、返答をためらう。
しかし男は突然、床にひざまずいて頭を下げた。
「頼む! 俺たちも助けてくれ!」
「一体どうしたんだ?」
オイショが厨房から顔を出し、驚いたように声を上げた。
「なんだ、ソンギリじゃねぇか!」
「オイショ! お前からも頼んでくれ。あの“株式化”ってやつ、工房だけじゃなく俺たち農民も仲間に入れてくれ!」
「えっ?」
その場の全員――ブラウン、ショー、オイショ――が同時にライネルを見た。
つられてソンギリも視線を向ける。
「まさか……その子供が“株式化”とやらを考えたのか?」
「ああ、そうだ。ライネルは天才だからな!」
まるで自分のことを褒められたかのように、ショーが胸を張る。
ブラウンは聞こえないように小さく舌打ちをした。
「悪かった、まさか子供とは思わなかった。だが頼む、俺たちも仲間に入れてくれ。このままだと来年は種を買う金もなくなる!」
「わかりました。まずはお話を聞かせてください」
ライネルがそう言うと、ソンギリは外にいる仲間たちを呼び寄せた。
ぞろぞろと入ってくる男たち――皆、村の農家や漁師らしい。
食堂に集まってライネルたちは彼らの話を聞いた。
「皆さんはそれぞれ農業や漁業を営んでいるんですね」
「ああ。村の中だけじゃ売り上げが限られるから、主に外で売ってるんだが……天候次第で不安定な仕事だろ?不作の年は食う物にも困るし、豊作の年は値崩れして儲けがない。網もボロボロ、畑はあっても種を買う金がねぇ……。安定した暮らしがしたいんだ」
「なるほど……」
ライネルは腕を組んで考え込む。
(それなら“先物取引”はどうだろう?)
――“先物取引”とは、あらかじめ決めた期日に、商品とお金を交換する約束のことだ。
約束した金額はどんなに商品の価格が上下しても変わらない。
生産者にとっては安心して作物を作れる仕組みで、商人にとっても仕入れの不安が減る。
「それなら、相手は貴族ではなく“商家”になりますね。お店に直接話を持ちかけるか、物流を担う商会を探してみましょう」
「なるほど……そんな手があるのか!」
ソンギリは感心して何度もうなずく。
「不作で値が上がっても、翌年豊作なら暴落で苦しくなる。けどその仕組みなら安心だ」
「はい。では、王都に行ったときに商会を訪ねてみます」
「頼む! 本当に助かる!」
ソンギリをはじめ、男たちは安堵の笑みを浮かべた。
(まだ株式化も始まったばかりなのに、今度は先物取引まで……でもどうせ王都に行くなら一石二鳥だ。市井なら父に会うこともないだろうし)
ライネルは、再び新しい計画の紙を取り出し、静かにペンを走らせた。
1,163
あなたにおすすめの小説
冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~
水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」
無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。
彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。
死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……?
前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム!
手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。
一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。
冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕!
【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】
姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました
彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。
姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
【エルド学園】俺はこの『親友』が、ただの学生だと思っていた
西園 いつき
BL
エルド王国第一王子、レオンは、唯一の親友ノアと日々研鑽を重ねていた。
文武共に自分より優れている、対等な学生。
ノアのことをそう信じて疑わなかったレオンだが、突如学園生活は戦火に巻き込まれ、信じていたものが崩れ始める。
王国と帝国、そして王統をめぐる陰謀と二人の関係が交錯する、王子×親友のファンタジーBL。
【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜
キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。
モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。
このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。
「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」
恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。
甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。
全8話。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる