【完結】恋人になりたかった

ivy

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彼に似合う自分に

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「えっ?!大地をお持ち帰りした?!」

 小学校からの親友である浩二が、驚いた顔で僕を見た。
 仕事帰りにカフェに誘ったのは僕の方だ。
 大地とのこれからについて、話を聞いてもらいたかったから。

「それにしても、相手が大地とはね」

 大地のことは浩二も知っている。
 何しろ僕をミックスバーに誘ってくれたのは浩二なのだから。
 その後も僕に付き合ってバーに通ううちに、先に大地と仲良くなったのは浩二の方だった。

「お持ち帰りなんて、変な言い方やめろよ」

 僕はそっと周囲の様子を窺う。

「だってびっくりしてさ。あいつ、初めて見た時からオーラあったじゃん?派手でも厚かましくもないけど、不思議と人の目を惹きつけるっていうか……けどさ」

 分かってる。
 僕如きが、付き合ってもらえるような相手じゃない。

 下げた視線の先には、地味なパンツに古臭い履きつぶした靴。
 全体的に見ても、華やかさなんてひとかけらもない容姿だ。

「不釣り合いなのは分かってる。でも、好きになっちゃったんだ」

「……そうか。それなら応援する」

 浩二は、手にした飲み物を勢いよくストローで吸った。

「……それ、なに?」

「あ?これ?ブラックティーのカスタム。ホワイトモカ追加してる」

「……そう」

 なんの呪文だろう。
 僕は、いつものブラックコーヒーを一口飲んだ。

「どした?今まで、そんなの聞いたことなかっただろ?……さては、大地に似合う自分になりたいとか?」

「うるさいよ」

 ……図星だ。腹立つくらいに。

 揶揄うような声を無視して、店内のメニュー表を見る。
 名前だけでは想像もつかない、舌を噛んでしまいそうな飲み物が並んでいた。

(大地は、平然と頼みそうだもんな)

 だって、次はカフェでデートなのだ。
 もちろん楽しみだけど、それ以上に緊張の方が大きかった。

「それにしても、ようやく律にも春が来たか」

「……そんなんじゃない」

「いやー、ほんと心配してたんだよ。いい人に会えてよかったな」

「……ありがとう。それより、親みたいな顔で見るのやめてくれる?」

「そうだな。でも嬉しいんだよ。このままじゃ、お前は一生一人なんじゃないかって思ってたから」

「……うん」

 浩二は、僕が男しか好きになれないことを知っている。
 中学生になった頃、自分のセクシュアリティに戸惑い、
 泣きながら浩二に相談したのがきっかけだった。

 僕自身でさえ受け入れ難かった現実を、浩二は難なく受け止めてくれた。
 彼がいなければ、僕は自分で自分を認めることさえ難しかっただろう。

「なんだよ、そんな暗い顔すんなよ。大地は、律のいいところを見つけてくれたんだろ?」

「……そうかな」

 僕に、いいところなんてあるのかな。
 仕事は地味な事務職だし、見た目も同じく地味で平凡。

 アプリで出会いを探したこともある。
 けれど、待ち合わせ場所に着くたびに、
 相手の落胆した顔を見るのが嫌になって、いつの間にかやめてしまった。

「好きな相手と、一生を誓えるような恋がしたいんだろ?大地なら安心だろ。自信持てよ」

「……そうだね」

 彼と、ずっと一緒にいられたら、どんなに幸せだろう。
 そのためには、僕は何をしたらいいのかな。

「あ」

 テーブルの上のスマホが、メッセージの着信を知らせる。

 画面に表示されたのは、
 今、まさに考えていた人の名前だった。
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