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デートの誘い
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大地から連絡が来たのは、あの朝から三日後だった。
《今日、仕事終わりに時間ある?》
短い一文なのに、胸がぎゅっと締めつけられる。
《あるよ》
慌てて返事を打ち、送信してからはっとする。
(こんな、愛想のない返信……気を悪くしないかな)
けれど、
“早く返事をしなければ、彼は別の人を誘ってしまうかもしれない”
そんな恐怖のほうが、理性より先に立ってしまった。
僕は慌ててスタンプを探し、追加で送信する。
「どうかした?」というセリフ付きの猫のスタンプは、どうしようもなく間の抜けた顔をしていた。
誘われたのは、駅近くの小さなイタリアンだった。
賑やかすぎず、かといって静かすぎない、ちょうどいい店。
「ここ、前に来たことあってさ」
そう言って、大地は先に扉を開けてくれる。
「律、こういうとこ好きそうだなって思って」
「……うん。落ち着くね」
十席ほどの、隠れ家みたいな店。
大地のテリトリーに入れてもらえた気がして、胸の奥がじんわり温かくなる。
「何食べる?」
「あんまり詳しくないから、お任せしていい?」
「いいよ。じゃあ、店のおすすめ頼むな」
運ばれてきた料理の中でも、魚介がたっぷり入ったスープは、驚くほど口に合った。
「……すごい。おいしい」
「だろ? 前にバーでシュリンプカクテル頼んでたの、覚えててさ。エビ好きなのかなって」
……見てたんだ。
まだ言葉も交わしていなかった頃から。
「嬉しい。ありがとう」
店を選んでくれたことも、
僕のことを思い浮かべてくれたことも。
食事をしながら、いろんな話をした。
仕事のこと、好きな小説のこと。
笑うタイミングも、いいと思うポイントも、不思議なくらい合う。
(これを、運命って言うのかもしれない)
ワインのせいだけじゃない。
僕はもう、とっくに大地に酔いしれていた。
食事の途中、大地のスマホが何度か震えた。
彼はちらりと画面を見て、気にした様子もなくスマホをテーブルに戻す。
「……仕事?」
「ん? いや、友達」
「友達……」
バーで、たくさんの人に囲まれていた大地の姿が、ふと浮かぶ。
「大地はすごいね。友達、たくさんいて」
「そうかな。仕事関係も多いし、友達っていうより知り合いかな」
「そっか……」
「僕なんて、友達って呼べる人、一人しかいないよ」
自虐まじりの冗談。
けれど、大地は笑いもせず、驚いたように目を見開いた。
しまった。
重いって思われたかも。
そう身構えたけれど、自然に話題は切り替わり、そのことについて深く追求されることはなかった。
店を出て、駅へ向かう道。
夜風が心地よくて、歩く速度も自然と揃う。
「あのさ」
何気ない口調で、大地が言う。
「知り合いがこの近くで誕生日会やってるらしいんだけど」
一拍置いて、こちらを見る。
「律も、行く?」
一瞬、言葉が詰まった。
知らない人ばかりの場所。
賑やかな空気。
輪に入れず、所在なく立っている自分が、簡単に想像できてしまう。
「……ごめん。今日はやめとく」
少しだけ、間が空いた。
「そっか。無理しなくていいよ」
「うん、誘ってくれてありがとう」
気を遣ってくれたのは、分かっていた。
それでも今はまだ勇気がない。
(彼に似合う自分になりたい)
初めてそんなことを思った。
駅の改札で、僕は手を振る。
「また連絡するね」
「うん、待ってる」
今は、それで十分だと思った。
その夜。
《今度、カフェに付き合って》
大地から届いたメッセージを見て、思わず声が出そうになる。
(友達といるのに、僕のこと考えてくれてる!)
《もちろん》
そう返してから、少し迷って――
《嬉しい》
と、もう一言付け加えた。
《今日、仕事終わりに時間ある?》
短い一文なのに、胸がぎゅっと締めつけられる。
《あるよ》
慌てて返事を打ち、送信してからはっとする。
(こんな、愛想のない返信……気を悪くしないかな)
けれど、
“早く返事をしなければ、彼は別の人を誘ってしまうかもしれない”
そんな恐怖のほうが、理性より先に立ってしまった。
僕は慌ててスタンプを探し、追加で送信する。
「どうかした?」というセリフ付きの猫のスタンプは、どうしようもなく間の抜けた顔をしていた。
誘われたのは、駅近くの小さなイタリアンだった。
賑やかすぎず、かといって静かすぎない、ちょうどいい店。
「ここ、前に来たことあってさ」
そう言って、大地は先に扉を開けてくれる。
「律、こういうとこ好きそうだなって思って」
「……うん。落ち着くね」
十席ほどの、隠れ家みたいな店。
大地のテリトリーに入れてもらえた気がして、胸の奥がじんわり温かくなる。
「何食べる?」
「あんまり詳しくないから、お任せしていい?」
「いいよ。じゃあ、店のおすすめ頼むな」
運ばれてきた料理の中でも、魚介がたっぷり入ったスープは、驚くほど口に合った。
「……すごい。おいしい」
「だろ? 前にバーでシュリンプカクテル頼んでたの、覚えててさ。エビ好きなのかなって」
……見てたんだ。
まだ言葉も交わしていなかった頃から。
「嬉しい。ありがとう」
店を選んでくれたことも、
僕のことを思い浮かべてくれたことも。
食事をしながら、いろんな話をした。
仕事のこと、好きな小説のこと。
笑うタイミングも、いいと思うポイントも、不思議なくらい合う。
(これを、運命って言うのかもしれない)
ワインのせいだけじゃない。
僕はもう、とっくに大地に酔いしれていた。
食事の途中、大地のスマホが何度か震えた。
彼はちらりと画面を見て、気にした様子もなくスマホをテーブルに戻す。
「……仕事?」
「ん? いや、友達」
「友達……」
バーで、たくさんの人に囲まれていた大地の姿が、ふと浮かぶ。
「大地はすごいね。友達、たくさんいて」
「そうかな。仕事関係も多いし、友達っていうより知り合いかな」
「そっか……」
「僕なんて、友達って呼べる人、一人しかいないよ」
自虐まじりの冗談。
けれど、大地は笑いもせず、驚いたように目を見開いた。
しまった。
重いって思われたかも。
そう身構えたけれど、自然に話題は切り替わり、そのことについて深く追求されることはなかった。
店を出て、駅へ向かう道。
夜風が心地よくて、歩く速度も自然と揃う。
「あのさ」
何気ない口調で、大地が言う。
「知り合いがこの近くで誕生日会やってるらしいんだけど」
一拍置いて、こちらを見る。
「律も、行く?」
一瞬、言葉が詰まった。
知らない人ばかりの場所。
賑やかな空気。
輪に入れず、所在なく立っている自分が、簡単に想像できてしまう。
「……ごめん。今日はやめとく」
少しだけ、間が空いた。
「そっか。無理しなくていいよ」
「うん、誘ってくれてありがとう」
気を遣ってくれたのは、分かっていた。
それでも今はまだ勇気がない。
(彼に似合う自分になりたい)
初めてそんなことを思った。
駅の改札で、僕は手を振る。
「また連絡するね」
「うん、待ってる」
今は、それで十分だと思った。
その夜。
《今度、カフェに付き合って》
大地から届いたメッセージを見て、思わず声が出そうになる。
(友達といるのに、僕のこと考えてくれてる!)
《もちろん》
そう返してから、少し迷って――
《嬉しい》
と、もう一言付け加えた。
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