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第10話 平穏な夕食
しおりを挟む孤児院へと戻ったルーテ達は、そのまま食堂へと向かう。
そして各々夕食の準備を始めた。
今日の配膳を担当するのはゾラとイリアだ。
二人は大きな鍋に入ったシチューを、並べられた皿によそっていく。
その隣では、シスターが芋のサラダを人数分取り分けていた。
ルーテとマルスは、木製のトレーを手に持ってそこへ並ぶ。
「はらへった……」
(その呟き……まさに主人公って感じです! どうして原作でマルスをちゃんと喋らせてあげなかったんでしょうか!)
隣でお腹を空かせているマルスに対し、そんなことを思うルーテ。
――ちなみに、原作のゲームで彼を主人公として選ぶと「はい」か「いいえ」以外喋らなくなる。
そのため、ルーテが前世の記憶を元にイメージするマルスの将来の姿は「旅をしながら遭遇した魔物を無言で殺し続ける狂気の殺戮マシーン」だ。
「うぅ……このまますくすく育ってくださいねマルス……!」
「な、なんだよいきなり……」
「僕の心からの願いです」
「そうか……」
マルスは突然おかしなことを言い始めたルーテに困惑しつつも、深くは追及せず自分の食欲を優先することにした。
「――なあゾラ。俺の分は少し多めにしてくれ」
「ああ、いいよ!」
気前よくそう返事をするゾラ。
「だめよゾラ。みんな平等にしないと」
しかし、イリアがそれを制止した。
「え? そ、そうなの……? ボクも結構多めにしてもらってるけど……」
「次からは気を付けなさい。シチューは有限なの」
「は、はい……ごめんなさい……」
「分かれば良いのよ」
そう言って、ゾラの肩をぽんぽん叩くイリア。
「なんだよイリア。俺とゾラはいつもおかわりしてんだから、最初から多めによそったっていいだろ?」
「最初は平等に配りきることが重要なのよ。自分勝手なことをするのはやめて欲しいわね」
「イリアが頑固なだけだろ?」
「私にケンカを売っているのかしら?」
互いににらみ合い、火花を散らす二人。
配膳が滞り始めていた。
(これは……いつものやつが始まってしまいそうですね……)
マルスとイリアは、赤ん坊の時二人一緒にこの孤児院の前に捨てられていた双子の姉弟だ。
そうであるのにも関わらず、暇さえあればいつも喧嘩ばかりしている。
二人の喧嘩は、孤児院の子供達にとって日常茶飯事だった。
シスターは子供たちの自立を促すため基本的に放任主義なので、子供の手に負えない大喧嘩に発展するまではあまり介入してこない。
つまり、ルーテがこの状況をどうにかするしかないのだ。
「落ち着いてください二人とも……僕の分を後でマルスに分けてあげますから」
「え? いいのかルーテ?」
「はい。僕はそれほどお腹が空いていないので」
「ありがとう! やっぱり持つべきものはルーテだな!」
「意味が分かりません」
「俺も分かってないから大丈夫だぜルーテ!」
「……まあ、元気なのは良いことです」
ルーテは苦笑しながら言った。
「だめよそんなこと。ルーテがかわいそうでしょう?」
しかし、イリアがそれを許さない。
「そうだぞマルス。ルーテの分を取っちゃったら、ルーテがおっきくなれないだろ?」
おまけに今度はゾラまで反対した。
「た、確かに……! 俺より小さいルーテは、いっぱい食べて大きく成長するべきだな……!」
「食べる量で身長が変わる仕様はこのゲームに存在していなかったと思いますが……」
「相変わらずお前の言ってることはよく分かんないけど……俺が間違ってたよ! ルーテ、お前は沢山食べて立派になってくれ!」
ルーテは肩をガシッと掴まれ、仕方なく頷く。
(とにかく、問題は解決したようなので良しとしましょう)
そして、そう思うことにした。
「結局、イリアの言う通りだったね。ボクも反省するよ」
「るーちゃんが……おっきくなる……? せいちょうする……? かわいいるーちゃんが……?」
「イリア……?」
何やら不穏な空気を感じ取ったゾラは、恐る恐るイリアの顔を覗き込む。
「――ルーテの分を減らしましょう」
次の瞬間、イリアはとんでもないことを言い始めた。
「え……なんで……?」
「何でもよ。良かったわねマルス。あなたの分を多くしてあげるわ。沢山食べて成長しなさい」
「お、おう……?」
突然の豹変に首を傾げるマルス。
「あの、イリア? どうしたんですか……?」
異常を感じたルーテが問いかけたその時。
「だってるーちゃんは今のままがいいのっ! 成長しちゃだめっ! いつまでもぎゅってさせてぇっ!」
イリアはそう叫んだ。
「抱きつくのは今すぐにでもやめて欲しいのですが……」
「イリア……どうしちゃったの? なんか怖いよ……」
ゾラは駄々をこねるイリアを見て身を引く。
「……はい、そこまで。――平等に配膳しないと、こうしたトラブルの元になるので気をつけましょうね」
「で、でも先生ぇ……!」
「安心しなさい。ルーテはいくつになっても可愛らしいですよ」
「うぅ……確かに……そうかもしれないわ……ごめんなさい……」
「――ルーテだけではありません、ここに居る子たちは皆、いくつになっても可愛らしい私の子供です」
イリアの暴走によっていい加減埒が開かなくなってきたところで、ようやくシスターが介入してきて場が収まる。
(事態を収拾しつつ皆からの好感度も稼ぐ……やはり先生の【人心掌握術】は素晴らしいですね! 僕には習得できそうにありません!)
そして、その様子を見ていたルーテは彼女に対する尊敬の念を深めるのだった。
*
紆余曲折を経て配膳が終わり、ようやく皆が席につく。
パンとシチュ―ともう一品のおかず。これが、孤児院での基本的な食事である。
(僕は好きですが……能力値の上昇を考えるともう少し豪華にしたいですよね……夜中にこっそり抜け出して狩りでもするべきでしょうか……?)
孤児院の環境を改善すれば、その分だけ暮らしている皆も強くなる。
そうすれば、魔物の襲撃で死ぬはずだった皆も生き延びることができるかもしれない。
(アレスノヴァを使って遠くへ行けるようになったら……アイテムを集めてここの設備をもっと豪華にしちゃいましょう! 最強の孤児院を作ります!)
こうして、孤児院大改造計画が密かに始動しつつあった。
「それでは皆さん、神に感謝していただきましょう」
「いただきます!」
シスターの号令を聞いてスプーンを手に取るルーテ。
その懐の中で、アレスノヴァが怪しく光り輝いていた。
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