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第14話 新しい日課
しおりを挟む翌朝、ルーテは鳥のさえずりによって目覚める。
そして誰よりも早くベッドから起き上がり、本を持って堂々と歩きながらも一切足音を立てずに孤児院を抜け出した。
外は生憎の曇り空で、隙間から少しだけ日の光が覗いている。
その様子を眺めて、ルーテは言った。
「今日もいいグラフィックです!」
――こうして、いつもの一日が始まる。
*
早朝の日課を終え、起きてきた孤児院の皆と一緒に朝食を食べた後は、遊びの時間だ。
「ルーテ、あっちにとても甘い木の実が生《な》っているの。先生ならきっと美味しいジャムにしてくれるわ。みんなで一緒に摘みに行きましょ?」
孤児院の外に出て早々、イリアはルーテの右手を掴んでそう言った。
「いや、ルーテは今日もボクと追いかけっこするんだよね? ねっ?」
今度は、ゾラが後ろから飛び掛かって来て言う。
「待て、ルーテは俺と剣の修行をするんだ。そうだよな?」
そう問いかけてくるのは、いつの間にか外に出ていたマルスだ。孤児院の外壁に寄りかかるマルスの隣には、真っすぐに加工された太い木の枝が二本立てかけてある。
「どっちも危なすぎるわ。前みたいにルーテが大けがをしたらどうするの? 私が泣いてしまうわよ? いいの?」
「な、なんだよその脅し方……。ルーテのことはボクがちゃんと見てるから大丈夫だよ! ……木の棒で打ち合うのは危ないと思うけど……」
「木の棒じゃない! これは剣だ! 心の眼で見たら剣になるんだよ!」
三人の間でルーテの取り合いが発生するのもいつものことだ。
孤児院の年少組は、イリア、ゾラ、マルスの三人の派閥に分かれていた。
「みんなもルーテと一緒に木の実を採りたいわよね? そうしたら、先生が甘くて美味しいジャムパンを作ってくれるはずよ」
「るーておにーちゃんといっしょがいいー!」「おにいちゃんだいすきー!」「ぼくはじゃむぱんがたべたい」「わたしもー!」
しかし、浮動票である年下の子供達を手懐けているイリアが若干優勢である。
「食べ物で釣るのはずるいだろ! 大人げないぞイリア!」
「まあ……ボク達子供だけどね……」
「まさかお前……イリアの味方をするつもりか?!」
「ジャムパン食べたい」
「おい!」
おまけに、ゾラも偶《たま》に手懐けられる。
「……仕方ないわね。いつも通りルーテに決めてもらいましょう」
だが、最終的に何をして遊ぶかの判断はルーテに委ねられていた。
彼が決めないと話がまとまらないのである。
「昨日は追いかけっこでしたし、その前の日は木の棒で打ち合いました」
「けっ、剣の修行だし…………」
「失礼。――剣の修行をしました。なので、今日は木の実を採りに行きましょう!」
――かくして、その日のお昼にすることは決まったのだった。
(するべき事が多くて、僕一人の体では足りなくなってきましたね……。そろそろ、孤児院の皆も『強化』する頃合いでしょうか)
イリアに連れられて木の実を採りに向かう皆の後ろ姿を見ながら、ルーテは何やら不穏なことを考える。
*
そうこうしているうちに日は暮れ、夕食を済ませてあっという間に寝る時間になった。
「それでは皆さん、おやすみなさい」
シスターの言葉と共に寝室の明かりが消されるが、ルーテの一日は終わらない。
(いよいよ稽古の時間です!)
ベッドから起き上がり、寝室を抜け出すルーテ。
誰にも見られていないことを確認した後、懐からアレスノヴァを取り出して起動する。
そして、『鳴子ノ国』の遺跡へとワープし、外へ出て、昨日と同じように竹林を突っ切った。
「来ましたよ師匠!」
「わぁっ?!」
だが、昨日とは違い縁側に座る老人の姿はない。
代わりに、ルーテとよく似た顔立ちをしたおかっぱ頭の少年が腰を抜かしていた。
「な、何者だ……!」
少年はルーテを睨みつけながら問いかける。
(あれ、もしかして僕のキャラデザって……使い回されてるんですか……?)
その姿を見たルーテは、自身のキャラデザが唯一無二のものではないことに気づき、少しだけショックを受けた。
(でも、髪の色は黒いですし、よく見ると僕より少しだけ目つきが鋭い感じです。それに髪型も若干違いますし…………完全に一緒という訳では無さそうですね!)
目の前の少年と自分とのキャラデザの違いをじっくり観察したことで安心し、元気を取り戻すルーテ。
――しっかり見ないと違いが分からない時点で、どちらも同じようなものだ。
「……何とか言ったらどうだ? そんなにじろじろと眺め回されても良い気はせんぞ」
ルーテに至近距離で見られ続けた少年は、眉をひそめて言う。
「ああ、すみません。自己紹介がまだでしたね。――僕の名前はルーテといいます。あなたは……明丸さんですか?」
「…………っ! そなた、どこで私の名を……!」
「師匠が言っていました!」
「…………な、なるほど。そなたが先生の話していた消える曲芸少年か」
今度は明丸がルーテのことを眺め回す。
「男のくせに……女子《おなご》のような姿だな」
「つかぬ事をお聞きしますが……明丸さんは鏡を見たことがありますか……?」
ルーテがそう言うと、明丸は顔を真っ赤にして睨み返して来た。
「どどっ、どういう意味だ……っ!」
(その反応……見たことはあるみたいですね)
心の中でそんなことを考えるルーテ。
「…………まあいい! ――そなたも先生に剣術を習うつもりなのか!」
「はい! 戦技を習得すれば魔法耐性を持つ相手もイチコロなので!」
「どれどれ……」
明丸は突然近づいて来て、ルーテの腕に触れた。
「あの……何でしょうか……?」
「か細い腕だ。そなたに刀が振るえるとは思えんが?」
「いえ、明丸さんが振れているなら大丈夫だと思います!」
「それは……どういう意味だ?」
「僕と同じくらい華奢な明丸さんが刀を振れているのなら、何も問題はないという意味です!」
「ほお」
明丸は、鋭い目でルーテのことを睨みつける。
「ふざけたことを言う。――私の腕が本当に貴様と同じくらいか……試してみるか?」
そして、近くに置いてあった木刀を手に取った。
「――私に勝てたら貴様を認めてやろう」
「なるほど…………イベント戦というやつですね! 受けて立ちます!」
「ならば早く武器を取れ」
「必要ありません! 今の僕には使えないので」
「…………! その言葉…………後悔することになるぞっ!」
――数秒後、そこにはルーテに魔法で捻じ伏せられて経験値となった可哀想な明丸の姿があった。
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