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第15話 カルマシステム
しおりを挟む(明丸を倒しても、経験値的にそこまで美味しくありませんね……)
ルーテは心の中でそう思いながら、倒れている明丸に近づいていく。
「大丈夫ですか? 起きてください」
「くっ……殺せ……っ……これ以上恥を晒すつもりはない……!」
「……そんなことしませんよ。このゲームでは、人を殺すと問答無用でカルマ値が下がってしまいますからね!」
「…………………ん?」
ルーテの言動が余りにも意味不明だったので、明丸は目を点にした。
――『レジェンド・オブ・アレス』には、「カルマ値」と呼ばれるゲームシステムが存在している。
人型のキャラクター全員が持っている参照不可の隠しパラメータで、初期値は50、上限値は999、下限値は-999だ。
基本的に人助けや教会での懺悔等の善い行いをすれば数値が上がっていき、盗みや殺人等の悪い行いをすると数値が下がっていくという仕組みである。
この値はゲーム中の様々な場面で影響し、カルマ値が低ければ低いほど、様々なペナルティが課されるようになっているのだ。
例えば国から賞金をかけられたり、神に祈ることで発動するタイプの魔法を使えなくなったり、敵からの被ダメージが増加したり……といった具合である。
そして、一番カルマ値が大きく下がるのが人型の存在を殺した時だ。一人殺せば、それだけで-20されてしまう。その為、人型のモンスターなどと戦う時は気絶状態に留めておくのが基本だ。
獲得経験値量は下がってしまうが、それ以上にカルマ低下によるデメリットの方が大きいのである。
もし仮にキャラのカルマ値が-500を下回ると、その時点で後戻りはできなくなってしまう。主人公がそうなった場合は、皆殺しバッドエンド確定だ。
ここがゲームの世界だと理解しながらもルーテが最後の一線を踏み越えずにいるのは、シスターの教えとこのシステムの存在が大きい。
「……人を沢山殺せば、魔物に堕ちてしまいます。――その先に待っているのはバッドエンドだけです。……少なくとも、一周目で意図的に回収するようなエンディングではないと思いますね」
ルーテはそう言いながら手を差し伸べる。
(もっとも、ゲームシステムの倫理観がガバガバなのでカルマ値を下げずに人を殺す方法なんていくらでも存在していますし、僕個人としては-300くらいまでなら下がってしまっても大丈夫だと思っていますが。リカバリーが効くので!)
……彼は、人としてかなりギリギリのところで踏みとどまっていた。
「…………すまない、何を言っているのか全く分からん」
それに対し、明丸は正直な感想を述べる。
「――要するに、僕は明丸さんといがみ合うつもりはないという事です! 立ってください!」
「……………………」
一瞬だけ手を取ろうとした後、そっぽを向いて自分で立ち上がる明丸。
(手ごわい相手ですね……攻略のしがいがあります!)
脳内でそんなことを考えるルーテ。
(一度殴って僕の力を知らしめた方が良いのでしょうか……?)
――ちなみに、中立のNPCに暴力を振るった場合はカルマ値が1しか減らないので、大したペナルティにならない。
ルーテは拳を硬く握りしめるが、そこで思いとどまる。
「……あ、そうだ! すっかり言い忘れていましたが、明丸さんの作ったおにぎり、とても美味しかったですよ!」
「…………!」
「ごちそうさまでした!」
その言葉で、明丸の表情が明らかに変化した。
「そ、そうか……。それは……良かった……」
明丸は言いながら俯いた後、小さな声で続ける。
「美味しいと言ってくれたのは……そなたと師匠だけだ……」
先ほどまでの怒気はすっかり消え失せていた。
「そうなんですか? でもすごく美味しかったですよ?」
「も、もういい! 分かった……」
明丸は顔を赤らめながらルーテを制止する。どうやら照れているらしい。
「その……私が悪かった。師匠が新しい弟子を取ったと聞いて……気が気で無かったんだ」
「なるほど。それで僕に勝負を挑んで来たんですね!」
「いや……勝負を挑んだのは、そなたの言動に腹が立ったからだが……」
「え?」
「……その反応を見るに、私が勝手に悪意を見出していただけだったようだな。……すまない、ルーテ」
「い、いえ。僕の方こそごめんなさい。配慮に欠けていたみたいです……」
謝るルーテだったが、具体的に自分のどこがいけなかったのかは理解していない。
「いや、もう良いんだ。私はそなたのことを認める。――これからよろしくな、ルーテ」
明丸は、そう言って自分の右手を差し出した。
「はい! よろしくお願いしますね明丸!」
ルーテは、その手を硬く握り返す。
(よく分かりませんが、何故か上手くいったみたいです!)
そして、心の中でほっとした。
――前世が引きこもりゲーマーである彼の対人コミュニケーションは、全て暴力《パワー》と直感《フィーリング》で行われている。
本来の『ルーテ』というキャラクターが持っていた優しさと、あどけない笑顔のおかげで何となく許されているだけだ。
「とりあえず……師匠が戻って来るまで、私が木刀の振り方でも教えてやろう。――まずは構え方からだ」
「分かりました!」
ひとまず和解した二人は、いよいよ剣の稽古を始める。
「ふぉっふぉっふぉっ。明丸とるーては良い友達になれそうじゃな。…………二人居れば、儂の剣術を『完成』させられるやもしれん」
そんな一部始終を陰から見守っていた老人は、そう呟くのだった。
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