転生ゲーマーは死亡確定のサブキャラから成り上がる~最序盤で魔物に食い殺されるキャラに転生したので、レベルの暴力で全てを解決します~

おさない

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第23話 ラスボス戦

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「は、離せっ! 離すですっ!」

 ルーテに捕まってしまったミネルヴァは、必死にもがいていた。

「だいたい、ラスボスってなんなのですかぁっ!」
「冥界の冷気よ、あまねく生者を不帰の眠りへと誘え――」
「ヤバそうな魔法を唱えるなですっ!」

 咄嗟にルーテの頬をぺちんと叩き、強引に詠唱を中断させるミネルヴァ。

「…………驚きました……記憶喪失なのに魔法のことは理解しているのですね――自身の経験したことに関する記憶だけがすっぽりと抜け落ちてしまっているのでしょうか?」
「今はそんなことどうでもいいのですっ! 冷静に分析するなですっ!」

 ミネルヴァは目を吊り上げて怒りながら、ルーテの腕に噛みついた。

「かぷっ!」
「………………っ!」

 突然のことに、思わず腕を引っ込めるルーテ。

(ラスボスなのに……さっきから攻撃が地味すぎます! 子供のケンカですか!)

 対して、ミネルヴァは拘束が解けた隙に逃げ出すのだった。

「――待って下さい! ラスボスが逃げるなんて前代未聞ですよ?」
「こいつアタマがおかしいのですっ! 誰か助けるですッ! 助けてぇっ!」

 誰も居ないというのにも関わらず、大きな声で助けを求めながら走り去るミネルヴァ。

「風よ舞え、アウラ」

 ルーテは魔法を唱えて自らの素早さを底上げした上で、その後を追った。

「はぁ、はぁ……っ!」

 一生懸命走るミネルヴァの背後に、無表情のルーテが迫る。

「どっ、どうしてっ、ミネルヴァがこんな目に遭わないといけないのですか……っ!」
「ラスボスだからです」
「ぎゃあああああああああああああっ!」 

 そして、行き止まりでとうとう彼に追いつかれてしまった。

 勢い余って転んだミネルヴァは、恐怖で震える体をやっとの思いで起こし、近くの壁にもたれかかる。

「くっ、来るなです! この化け物ぉっ!」
「まさか、ラスボスに化け物呼ばわりされるとは思いませんでした……」
「ひいぃぃぃぃっ!」

 もはや、戦意どころか逃げる気力すら失っていた。

「み、ミネルヴァは……ここで終わるですね……っ。ぐすっ……!」
「…………あの、どうして戦おうとしないんですか?」

 その様子を見ていて、流石に疑問に思ったルーテが問いかける。

「ミネルヴァはお前みたいな暴力好きの変態とは違うですっ! なんで戦う必要があるですかっ!」
「難しい質問ですね……。ラスボスが戦う理由ですか……。――僕という目障りな虫ケラが動き回っているから、戯れに叩き潰すという感じでどうでしょうか?」
「お前の言うことはいちいち意味が分からないのですっ!」

 涙目で叫ぶミネルヴァ。

(ラスボスが戦うのに、理由なんて必要ですか?)

 一方、ルーテはそんなことを考えていた。

「分かりました。……つまり……あなたは……ラスボスなのに戦う意志がないということですね? 残念です……」

 理由がないから戦ってくれないラスボスなど、興醒《きょうざ》めである。

「だからラスボスって何なのですかぁっ! うええええええんっ!」

 異常者のルーテと問答を続けたミネルヴァは、耐え切れずにとうとう泣き出してしまった。

「困りました……それなら討伐はできませんね……。弱そうなうちに排除しておこうと思ったのですが……」
「ぐすっ、えっぐ、ええええええええんっ! あくまっ! あくまがいるですうぅっ!」
「ええと……いきなり戦闘を仕掛けて申し訳ありませんでした。ミネルヴァさん」

 ルーテは、腑に落ちない気持ちを抱えながらも、頭を下げてミネルヴァに謝罪する。

(ラスボスに戦いを挑んだだけなのですが……なぜ僕が謝っているのでしょうか……?)

 ちなみに、原作の彼女は最終盤でいきなり存在を語られるぽっと出のラスボスなので、普通にプレイしていると生い立ち等は一切分からない。

 だがしかし、彼はゲーマーとしての経験から、ある仮説に辿り着いた。

(……なるほど! やっと分かりました。実はこのゲームは、真エンドでラスボスが仲間になるタイプのゲームだったのですね!)

 おそらく、全てを裏で操っていた本当の黒幕――裏ボスが別に居て、自分は知らぬ間にその裏ボスを討伐する隠しルートに入ったのだ。

 彼は一連の出来事をそう解釈したのだった。

 ――そしてこの時点で、ミネルヴァは討伐対象から攻略対象へと変化する。

「……涙を拭いてくださいミネルヴァさん。実は、僕も道に迷っていたんです。一緒にここを抜け出しましょう」
「も、もう……ミネルヴァのこと襲ったりしないですか……?」
「もちろんです! どうやら僕は大きな勘違いをしていたようなので!」

 ルーテはそう言って、座り込んでいるミネルヴァに手を差し伸べた。

 しかしその手は振り払われる。

「……今さらそんなこと言われても……信じられないのです……っ!」

 ルーテのことを睨みつけ、必死に強がってみせるミネルヴァ。

「それに…………外へ出たところで……記憶の無いミネルヴァに行くあてなんてないのです……」
「ミネルヴァさん……」
「だからもういいのです。ミネルヴァはここに残るから、お前は早く消えるです。お前も……こんな所にミネルヴァを一人にした誰かも……みんなみんなだいっきらいです!」

 膝を抱えてうずくまるミネルヴァを見て、ルーテは思った。

(闇落ち寸前ですね。このままだとラスボスルートに逆戻りです。……半分くらい僕のせいですが)

 ――その時。

「ぐおおおおおおおおおおッ!」

 ミネルヴァがもたれかかっていた壁越しに、キマイラクローンの鳴き声が響いて来た。

「危ないッ!」
「ふぇ…………?」

 ルーテは咄嗟にミネルヴァを抱き抱え、壁から引き離す。

「ふええぇぇぇっ?!」

 何が起こったのか分からず、顔を真っ赤にして叫ぶミネルヴァ。

 同時に、キマイラクローンが壁を突き破って二人の前へ姿を現した。

「大火よ焼き尽くせ、イグニス!」

 ルーテは呪文を唱え、一瞬でそれを経験値にする。

「……………………怪我はありませんかミネルヴァ?」
「だ……だいじょうぶ……です……」

 追いかけ回されて討伐されそうになったかと思えば、今度は熱く抱擁され、更には魔物からも守ってもらえたミネルヴァ。

「ミネルヴァには……もう何も分からないのですぅ……!」

 彼女の感情は、ルーテによって激しく掻き乱されていた。

「…………はい?」
「お前……めちゃくちゃすぎるのです……。ミネルヴァの心をこんなにぐちゃぐちゃにして…………せ、責任……取るのですぅっ!」

 ミネルヴァは恥ずかしそうにルーテから顔を逸らし、小さな声で呟く。

「…………で、でも……一つだけ思い出したことがあるです。ミネルヴァに痛いことするのも……酷いことするのも……全部愛情の結果だって……誰かが言ってたです」

 記憶の片隅に微かに残っている母のことを思い出しながらそう話すミネルヴァ。

「だから――お前がミネルヴァに向けていた感情は、最初から『愛』だったのですね……!」

 ルーテはゲームであるこの世界全体を愛しているので、当たらずといえども遠からずといったところである。

「……………………? はい。だから一緒に孤児院へ行きましょう!」
「――やっと……やっと分かったです。お前が……ミネルヴァの『お母さま』だったのですねっ……!」

 色々と盛大に勘違いしたミネルヴァは、自分に「愛情」を向けてくれるルーテに母の面影を見出していた。

「おかあさまぁ……!」
「僕はママじゃありません!」

 こうして、彼は知らぬ間に魔物の女王「ミネルヴァ」の攻略に成功したのである。





 ――ちなみに、彼女の本当のお母さまの亡骸は、魔物に喰われて消失した。

 ミネルヴァが記憶を完全に取り戻す可能性は万に一つも無くなり、世界に真の平和が訪れたのである。

(…………でも、これで終わりではありませんよね?)
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