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第37話 問い詰められるルーテ
しおりを挟む「……ところで先生。この後はどのような稽古をするのですか?」
明丸は、涙目のルーテを特に気にかけることもなく老人に問いかける。
「そうじゃな……聞くところによると、ルーテはついこの間頭に怪我をしたばかりのようじゃし……もう休んでええぞ。本日の稽古は終了じゃ」
「いいえ……僕は平気です!」
ルーテは目元を拭って言った。
「いいから休め」
「でも……まだ疲れていません!」
「まったく頑固な奴じゃのう……。それなら、明丸が今からお使いに出るから、ついてってやるとええ」
老人はそう提案する。
「……そういえば、鳴子の町をちゃんと見て回ったことはありませんでしたね。――分かりました。明丸にお供します!」
もしかしたら便利なアイテムが町に売り出されているかもしれないと考えたルーテは、大人しく引き下がった。
「先生……。私はその話を今聞いたのですが……」
一方、明丸は不満げな様子である。
「ルーテを休ませることには同意しますが、私の方はまだまだ元気です。剣の稽古もし足りません!」
「まあまあ、良いではないか。多めに銭《ぜに》をやるから、ルーテと一緒に甘味処にでも寄ってくるとええ」
「ぐっ…………!」
「あんみつでも、きな粉餅でも、みたらし団子でも、お主が大好きな甘いものを好きなだけ食べて来るのじゃ」
具体的な名前を挙げて明丸のことを誘惑する老人。
「ひ、卑怯な手を……!」
「やっぱり嫌かのう? それなら代わりに儂が――」
「行きます! 是非とも行かせてください!」
結局、明丸もあっさりと言いくるめられてしまうのだった。
(明丸は甘いものに目がないんですね。良い事を知りました)
好感度の上昇に使えそうな弱点だと思ったルーテは、心の中でそう思う。
「……おいルーテ!」
「は、はい?」
「私は買い出しの準備をしてくるから、逃げずにそこで待っていろ!」
「別に逃げたりしませんが……」
「それと! 私は甘い物に釣られたわけではないからなっ! 勘違いするなよ!」
明丸はそう言い残し、大股歩きで家の中へと入っていった。
「素直で助かるわい」
老人は、笑みを浮かべながら再び縁側に座る。
そして、ゆっくりとお茶を啜るのだった。
「――さてルーテ。二人になった所で、お主に聞いておきたいことがある」
「……はい、何でしょうか?」
「儂の隣に座りなさい」
「分かりました」
突然、老人が神妙な面持ちになったので不思議に思いながらも、ルーテは言われた通り縁側に腰かける。
「それで、聞きたいこととは?」
「――人を斬って来たな」
その瞬間、周囲の空気が張り詰めた。
「……すごいです! どうして分かったんですか? 何か特別なスキルの効果でしょうか?」
しかし、ルーテは特に気にせず問いかける。
「ただの勘じゃよ。急に剣さばきが鋭くなったような気がしただけじゃ。僅かにあった躊躇いも完全に消えておる」
「それだけで分かるなんて……驚きです!」
「…………お主が儂の教えた剣術を魔物相手に使っておることはそれとなく察しておったが……人相手に使ったのはこれが初めてじゃな?」
「そうかもしれません!」
「では聞こう。一体誰を斬った?」
――返答次第ではここで斬らねばならないかもしれない。老人の鋭い目はそう語っていた。
しかし、ゲームシステム的に殺気という概念が存在しないので、ルーテは危機を感じずのほほんとしてお茶を飲んでいる。
「……ええと、盗賊みたいな人達です!」
「賊か…………」
「女の子が捕まってました!」
「……なるほど。……では、人を守る為に斬ったというわけか」
「結果的にはそうなりますね!」
「殺してもいないようじゃのう」
「はい!」
「――やはり、最後の一線は超えておらんようじゃな。安心したわい」
「?」
何の話をしているのか分からず、首をかしげるルーテ。
老人はほっとため息をつき、張り詰めていた空気が元に戻った。
「……じゃが、儂の教えた剣術を安易に人へ向けて使うのは良くないぞい」
「悪い人でも斬ってはいけないのですか?」
「場合による。――そもそも悪人とはなんじゃ? お主は善悪をどう判断する?」
「モンスター図鑑に載っているかいないかです!」
「……はあ、若者の言葉は分からんのう」
老人はがくりと肩を落とす。
「じゃあ悪いことをしている人が悪い人です!」
「……なるほどな。単純明快だがその通りかもしれん」
それから顔を上げ、ルーテのことを見て言った。
「――そう考えるのであれば、自分がそちら側へ行かんよう用心するのじゃ。儂は悪事を働く者を斬り殺し続けて、自分まで魔に堕ちた人間を一人知っておる」
「カルマ値が-500を下回ってしまったのですね……一体どなたですか?」
「儂の一番弟子だった男――明丸の父親じゃ」
「わお」
衝撃的な事実が判明し、ルーテは思わず驚きの声を上げる。
「明丸は……まだ幼かった頃、父の手で殺された母の仇を討つために……儂から剣術を習っておるのじゃ」
「お、重すぎます……! 明丸にそんな悲しい過去があっただなんて……!」
目を潤ませ、拳を握りしめるルーテ。それを見て、老人は頭をかいた。
「……うーん。真剣な話をしとる時のお主の反応は、やけに薄っぺらく感じるんじゃよな……人間味が無いというか何というか……」
「ひ、酷いです……! こんなに真剣に聞いているのに……!」
「そうかのぉ…………」
調子を狂わされた老人は、軽く咳払いをした後こう続ける。
「……とにかく、儂はそんな思いで明丸に刀を振るって欲しくないのじゃ。確かに剣術は人を殺す為のものじゃが、その真髄は人を生かすところにある……と、儂は思う」
「よく分かりません。相手を仕留めることに特化した剣術を教えておいて、そんなこと言わないでください!」
老人の言葉に対し、ルーテは素直な感想を述べる。
「むう、そ、それはそうなのじゃが……剣術には人殺し以外の活用方法がきっとあるはずなのじゃよ。それを、若いお主らに考えて欲しいのじゃ」
「そういうのは難しいので師匠が考えてください!」
「儂はもう駄目じゃ。――結局斬ることしかできん死に損ないじゃからな」
「なるほど……では善処します!」
「不安じゃのう……」
老人は疲れ果てた様子でそう呟いた後、こう続けた。
「……まあ良い。――ともかく、明丸が良くない道に進みそうじゃったらお主が正してやってくれ。儂の願いはただそれだけじゃ。……老人の話は長くていかんのう」
「師匠、剣術以外のことを教えるのは下手なんですね!」
「うぐっ!」
予想以上にはっきりと言われ、心に深いダメージを負う老人。
「でも、明丸は大丈夫だと思います!」
「………………!」
(味方になったキャラが裏切るタイプのゲームではないので!)
「……ふぉっふぉっふぉ……お主の言う通りじゃ! 師である儂があやつを信じてやらんでどうする! ……やはり、ルーテは一番大切なところを良くわかっておるな。だからこそ、いくら危うくても大事な一線は踏み越えないのじゃろう。――しすたーとやらの教育の賜物かのう? まったく、頭が上がらんわい!」
老人はそう言って愉快そうに笑った。
(明丸、遅いですね。何をしているのでしょうか?)
一方、話に飽き始めていたルーテはそんなことを考える。
「――二人で一体何の話をしているのですか、先生。随分と楽しそうですね」
その時、背後から明丸の声がした。
後ろを振り返ったルーテは、驚愕のあまり言葉を失う。
「あ、あけまる……?」
「そんな顔をしてどうしたルーテ。そなたらしくないぞ」
そこに立っていたのは、花柄をした女物の浴衣に身を包んだ少女だったからだ。
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