転生ゲーマーは死亡確定のサブキャラから成り上がる~最序盤で魔物に食い殺されるキャラに転生したので、レベルの暴力で全てを解決します~

おさない

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第39話 せめぎ合う乙女心

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「気をつけて行ってくるのじゃぞー」
「はい!」

 ルーテは明丸を連れて家を飛び出し、街へと繰り出す。

 商店が立ち並ぶ市場の通りは、沢山の人々で賑わっていた。

 天使のような美少年と華やかな美少女がそこを歩けば、当然人々の視線は集中する。

「おいあんた。……あの子、明丸ちゃんに似てないかい?」
「寝惚けたこと言っちゃあいけねぇよ。明丸の坊主は男だろうがい!」
「そりゃあそうだけども……」
「あんなひょろっひょろで箸も持てなさそうな嬢ちゃんが坊主なはずねぇだろ! 目ん玉かっぽじってよく見ろってんだ!」
「そんなことしたら何も見えなくなっちまうだろ……あんた本当に馬鹿だねぇ……」

 通り沿いにある八百屋の夫婦は、明丸の方を見ながらそんな話をしていた。

「あの子……噂のるーてちゃんじゃない? 生意気に女の子なんか連れちゃって……ませてるわ!」
「明丸ちゃんと一緒に剣術を習ってる外国の子? 女の子みたいで可愛いわねぇ」
「私、家へ連れて帰って弟にしたいわ!」
「……捕まりたくなかったらやめておきな」

 背後では、並んで歩く四人組の娘がルーテについてひそひそと囁き合っている。

「とりあえず……書物屋に行きましょう!」

 しかし、ルーテは周囲の会話を一切気にすることなくそう提案した。

「うぐぐ…………っ!」

 一方明丸は、顔を赤くして悔しそうに歯軋りする。

 彼――もとい彼女は今、人生最大の屈辱を感じていた。

「誰がひょろひょろだ……ッ! 箸も持てないだと……ッ?」
「……あの、大丈夫ですか明丸?」
「やめろっ! 今の私をその名で呼ぶなっ!」
「ど、どうして?」
「私の正体がばれてしまうだろッ!」

 必死な様子で言う明丸。

「では、どうすれば良いのですか?」
「それはだな……ええと、今の私は…………花子だ! 花子と呼べ!」
「でも……明丸は明丸なので……」
「花子だッ!」

 明丸は鬼のような形相でルーテに詰め寄る。

 だが、花柄づくしのせいでまったく怖くなかった。

(この迫力の無さは問題ですね……。相手を威圧する≪火群《ほむら》の構え≫との相性が悪すぎます)

 ルーテはここに来て、弱体化した明丸に危機感を覚え始める。

「……分かりました。それなら、間をとって花丸ということにしましょう」
「……もうそれでいい! ――私は花丸だっ!」
「よろしくお願いしますね花丸さん!」

 こうして、少女形態の明丸の呼び名が決まった。

 ルーテが花子という名前を受け入れなかったのには理由がある。

(明丸の要素を残しておかないと、完全にそっちへ行ってしまいそうです……! 強い明丸でいてくれないと稽古相手として困ります!)

 彼女の精神状態と、自身の成長を危惧してのことだった。

「花丸か……なんとふざけた名だ……!」
「僕は良い名前だと思いますが」

 ――それから、二人は書物屋を訪れて浄化の巻物がないか探したが、案の定売りに出されていなかった。

「うぅ……!」
「レアアイテムですからね、仕方ありませんよ花丸」
「ふざけた名前だ……!」
「いい加減慣れてください」

 ルーテは落ち込む明丸のことを励ます。

「私は……一生このままなのだろうか……」

 しかし、明丸の方は限界寸前だった。らしくない弱音を吐き始める。

(お米とかの買い出しは師匠がしてくれるそうですし……ひとまず、明丸を元気付けるために甘味処へ行きましょう!)

 その様子を見たルーテは、次の策へ移ることにした。

「元気を出してください、あけ――花丸!」

 言いながら、明丸の手を掴むルーテ。

「な、なんだいきなりっ!」
「いえ、迷子になったら困るので手を繋いでおこうかと」
「わ、私が迷子になるはずないだろうっ! 馬鹿っ!」
「僕がです」
「…………そうか。すまない」

 明丸は、急にしょんぼりして大人しくなった。

(町やダンジョンが原作より広いせいで、よく迷子になってしまうんですよね)

「こ、これではまるで…………でーとではないか……っ!」
「何か言いましたか?」
「黙れッ!」
「…………理不尽です」

 それからルーテは、完全にのぼせ上がった明丸の案内のもとで、甘味処へ向かう。

「……あそこだ」
「おお! それっぽい暖簾がかかっています!」

 二人はそれらしい場所まで辿り着き、並んで中へと入るのだった。

「……へい、らっしゃい」

 明丸とルーテを出迎えたのは、筋骨隆々の大男である。

「ここ、本当に甘味処ですか……? 間違えて相撲場に入ったりしてませんよね……?」
「当たり前だ。――この人はここの店主の金之助《きんのすけ》殿。……その……お菓子作りなどを時々教えてもらっている」
「嬢ちゃんに……俺がお菓子作りを……?」

 身に覚えのない話をされ、首を傾げる大男。

 だが、明丸の姿をまじまじと眺めて気付く。

「あんたまさか……あけ――」
「わーっ! わーっ! 人違いですっ! 違いますっ!」
「だが…………」
「明丸とは一体どこのどちらさまでしょうか? 私には分かりませぬな! 女子《おなご》でありますゆえ!」
「関係ないだろ……」

 慌てた明丸は、非常にわざとらしい誤魔化し方をした。

「そっとしておいてあげてください。色々と事情があるんです!」
「そうなのか……」
「今は明丸ではなく花丸ちゃんです!」
「了解した……」

 ルーテは全力でつま先立ちをして、大男にそっと耳打ちする。

「とにかく、金之助さんに何か注文しましょう! 僕も早く甘い物が食べたいです! お腹が空きました!」
「…………好きなところに座ってくれ」

 二人は席に着き、注文を済ませるのだった。

 *

 ――少しして。

「お待ち遠さん」

 明丸の目の前に、注文したみたらし団子が出てくる。

「………………!」

 明丸はそれをすまし顔で頬張り、その後口元を綻ばせて笑顔になった。

(表情だけは素直なんですね……)

 その様子を目撃したルーテは、心の中で思う。

「あんたが注文したのはこっちだな。お待ち遠さん」
「ありがとうございます!」

 それから、ルーテも運ばれてきた羊羹を頬張った。

「…………っ!」
「どうだルーテ! 美味しいだろう?」

 身を乗り出して問いかける明丸。

「……はい! 魔力が回復していく感じがします!」
「そ、そうなのか……?」

 このゲームにおいて、デザートや果物には魔力の上昇及び回復の食事効果がある。

 その為、魔法を使う場合は意識的にそれらの食事をとった方が強くなれるのだ。

「…………そうです! 思いつきました!」

 その時、ルーテが椅子から立ち上がる。

「ど、どうしたのだルーテ……?」
「もしかすると、巻物に頼らずに呪いの装備を外すことが出来るかもしれません!」

 そして、自信満々に宣言するのだった。
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