63 / 117
番外編 絶句するイリア
しおりを挟むルーテがレアとノアを連れ帰った後、シスターは朝食の時間に二人のことを紹介した。
「……皆さん、今日からはこの子達が新しい家族です。仲良くしてあげてくださいね」
「ノアです……ええと、よろしくお願いします」
「レアです。えっと、……いじめないでください」
二人の挨拶で、食堂が笑いと拍手に包まれる。
「うふふ、大丈夫よ。ここのみんなはとっても優しいわ」
近くの席に座っていたイリアが、微笑みながら言った。
「でも……そこの、ルーテって人にいじめられました」
「どういうことかしらルーテ?」
レアの告発を聞いたイリアは、笑顔のままルーテに向き直る。
「弁解の余地はありません。ごめんなさい」
「もう……。あなたの事だから、きっと何か考えがあったのでしょう? ――あの子達には、私が誤解しないように言っておいてあげる」
「誤解ではありません」
「自分だけが悪者になって済ませようとしてはダメよ」
しかし、イリアからの好感度はこの上なく高かったので事なきを得た。
「ママは色々と誤解されやすいのです! ミネルヴァも最初は怖かったのです!」
「そうね、あなたもルーテに助けてもらったのよね」
「はいなのです! だけど、ママはいざという時には強くてとっても優しいのです!」
イリアの隣に座っていたミネルヴァが、そう言いながら朝食のジャムパンを頬張る。
こうして、レアとノアは新しく孤児院の一員となったのだった。
――しかし同時に、イリアにとっては苦悩の日々の幕開けとなる。
*
その日のお昼のこと。
「二人とも、ここに居たのね。こっちへいらっしゃい!」
まだ皆と打ち解けられず、物置きで固まっておどおどしていたノアとレアを手招きするイリア。
「どうしたの……イリアお姉さん?」
「わたしたちに何かよう?」
「――ついて来て!」
イリアは、二人の手を引っ張って食堂へと連れて行く。
「やっと戻って来たです! 待ちくたびれたのです!」
「はいはい、食いしん坊なのによく我慢したわね」
食堂には、ミネルヴァと数人の子供たちが集まっていた。
マルスとゾラとルーテは、『メラス地下坑道跡』でジュエルゴーレムをしばき倒しているため、この場に居ない。
「あの、イリアお姉さん」
「わたしたち……食べられちゃうの?」
「ふふふ、そんなことはしないわ。――これから、あなた達の歓迎会をするの。みんなでケーキを食べましょう」
近頃は、ルーテ達がこっそりお金を稼いで孤児院に寄付しているため、暮らしが豊かになっていた。
以前はとても手が出せなかったケーキが、おやつとして気軽に食べられるようになったのである。
「ほんとに……食べていいの?」
レアはケーキを前にして、目を輝かせながら問いかける。
「ええ。――ケーキが食べられるようになったのもルーテのおかげだから、あまりあの子を悪く思わないであげてちょうだいね……」
「分かった! ルーテお兄ちゃんはいじめてくるけど良い人なんだね!」
「気まぐれってこと……? ぼく、ルーテお兄さんには逆らわないようにする」
「まだまだ誤解はとけそうにないわね……」
がくりと肩を落とすイリア。
しかし、どちらかといえば、二人のルーテに対する評価の方が正確である。
「そんなことよりお腹が空いたのですよイリア!」
「――そ、そうね。早速みんなでいただきましょう。紅茶もあるから、遠慮しないで飲んでね」
かくして、ノアとレアの歓迎会が始まったのだった。
生贄として綺麗な身体を保つため、必要最小限の食事しか許されていなかった二人にとって、ケーキのようなご馳走を食べるのは初めてのことである。
ノアとレアは、夢中でケーキを頬張った。
「二人とも、ほっぺにクリームが付いているわよ? 少し落ち着いて」
イリアはその様子をニコニコしながら見守り、優しくそう伝える。
その言葉を聞いたノアとレアは、互いに顔を見合わせた。
「……本当だ。こっち向いて、レア」
ノアはそう言うと、レアな頬に付いたクリームを舌で舐めとる。
「ありがと! ノアもじっとしてて!」
すると、今度はレアがお返しに同じことをした。
「えっ」
持っていたフォークを机に落とすイリア。
しかし、それでも二人は止まらない。
「ありがとう。……でも、ぼくの方がちょっと多かったかも」
「じゃあ、半分こにしようよ!」
今度は舌を絡ませ、舐めたクリームを口移しで分け合った。
「甘くて美味しいね」
「うん、すっごく甘い!」
「?!?!?!」
あまりにも衝撃的な光景を目の当たりにし、絶句するイリア。
「どうかしたの? イリアお姉ちゃん?」
「ぼくたちの顔、まだ何か付いてる?」
「あ、あ…………!」
彼女の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
「ハレンチよっ! そそ、そんなことをしたらいけないわっ!」
イリアは椅子から立ち上がって言った。
「いけないのですか? 仲良しなのは良いことだとミネルヴァは思うのです!」
「よ、良くないわっ! だって、双子なのでしょう?! 血がつながっているのに……人前で堂々とききき、キスだなんて……」
「……確かに、イリアとマルスがやってたらドン引きするのです!」
「やめなさいッ!」
耳を塞いで叫ぶイリア。
「『きす』はだめなの?」
「と、当然よっ! 双子同士であまりべたべたしすぎるのはいけないわっ!」
「うーん…………? ――じゃあ、いっしょにお風呂入って洗いっこするのは? それもべたべた?」
「不健全すぎるわっ! いやあああああっ!」
*
「ぶえっくしゅん!」
三人でゴーレム狩りに興じていたマルスは、大きなくしゃみをする。
「どうしたんだよマルス。風邪でも引いたのか?」
隣に居たゾラが動きを止めて言った。
「わ、分からない……けど、イリアのことを思い出して……すごい寒気が……!」
「怒らせちゃったんじゃない? お前ら双子だし、そういうの伝わるのかも」
「ま、まじかよ……今回ばかりは身に覚えがないぞ……!」
今度は別の意味で身震いするマルス。
「――ねえルーテ、どう思う?」
「イリアは恐ろしい相手です! 覚悟しましょう! ――大氷よ覆い尽くせ、グラキエス!」
ルーテは、ゴーレムと交戦しながら答える。
「……だってさ。お前終わったな」
「どうしてだよ?! うわああああああっ!」
マルスとイリアは、仲良く悲鳴を上げていた。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる