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第58話 平和(?)な日常
しおりを挟む食堂に入って来たルーテの存在に一番初めに気づいたのは、エプロン姿の明丸だった。
「……ちょうど良い所に来たなルーテ。配膳を頼む」
明丸は、ルーテに指示を出す。
「おかわりもあるわよ」
「好きなだけ食え!」
そう言ったのは、同じくエプロン姿のイリアとマルスだ。
いくつかある大きな皿には、おにぎりと卵焼きとソーセージが盛られていた。
これに味噌汁と漬け物を合わせたものが今日の朝食である。
(すごい……いかにもな感じです……!)
朝食の献立を考えたのは明丸だ。
彼が中心となって料理を作り、イリアとマルスがその手伝いをしていたのである。
最近はシスターが病気がちで調子が悪いため、子供達が協力して朝食の準備をしているのだ。
――ただし、とある事情からルーテは台所へは近づくことを許されず、配膳だけをやらされている。
(料理スキル……そろそろ習得を考えておくべきでしょうか? このままでは、僕の名誉が汚されたままです……!)
彼は絶望的に生活能力が低かった。
戦闘に特化し、生活関連のスキル習得を怠ったためである。
本来、この世界に生きる普通の人間であれば、スキルを習得していなくともそれなりの結果を出すことが可能だ。
しかし、なぜかルーテはスキルを習得していなければ、絶望的な結果しか残すことが出来なかった。
(これもプレイヤースキルの低さが原因なのでしょうか……?!)
【隠密】スキルを習得するまで、孤児院からこっそり抜け出したつもりでも必ずバレていたのは、それが原因である。
「どうしたのルーテ、何か悩みごと?」
するとその時、イリアがぼーっとしているルーテを見て問いかけてきた。
「い、いえ! ――さて、僕は早速料理を運ぶとしましょう!」
「いちいち行動を宣言するでない」
明丸に冷たく突き放されたルーテだったが、特に気にせず朝食が盛られた大皿を食卓に運んでいく。
(たぶん、今の明丸の性別はあっちです!)
そして、彼の態度や仕草から、心の中で雑に決めつけるルーテ。
以前は本人に聞いて正解を確認していたが、怒られて酷い目に遭ったのでやめたのだ。
明丸が気分で女の子になったり男の子になったりして遊んでいることは、決して口にしてはいけない事実なのである。
(明丸は、いつでも頑なに自分のことを男だと主張しますからね。色々と葛藤があるのでしょう!)
ルーテはそう考えて納得していた。
それから、先に来ていたミネルヴァ達と協力して、一通り朝食を運び終えたその時、
「朝ご飯の時間だ!」
突然食堂の扉が開き、寝癖をつけたゾラが元気よく中へ入って来た。
服も着替えておらず、寝間着のままである。
「ボクお腹すいた!」
「せめて着替えてから来いよ……」
呆れた様子で呟くマルス。
「ゾラ、今日はあなたも当番のはずなのだけど?」
イリアは、そんなだらしないゾラに向かって言った。
「え……? だ、だって、イリアが起こしてくれなかったじゃん!」
「……何度も起こしたわよ?」
イリアはおもむろに水で手を濡らし、ゆっくりとゾラに近づいていく。
「え……な、なに……?」
そして、顔を近づけ頭の寝癖を直し始める。
「あ、どうも……」
「それでも何か言い訳したいことがあるのなら聞いてあげるわ。……でも覚悟してちょうだいね」
イリアはゾラの耳元でそう囁いた。
「ご、ごめんなさい! ボクがいけませんでした! 次からは気を付けます!」
「分かってくれれば良いのよ。可愛いゾラ……」
「はいっ!」
ゾラとイリアは、同じ部屋で暮らすルームメイトである。
そして、イリアによる教育の結果、ゾラは彼女の言う事においそれと逆らえなくなっていた。
(一体何が起きているのでしょうか……?)
異様な光景を見せられ、言葉を失うルーテ達。
「見ちゃだめなのですよ」
ミネルヴァは、ノアとレアの視界を両手でそっとふさぐ。
「………………?」
よく分からない二人は、不思議そうに首を傾げた。
「な、何でもいいから、ゾラも手伝ってくれ!」
そうお願いするマルス。
(入れ替わったり、気まぐれで女の子になったり、おかしなものを見せられたり……ここは毎日事件が起きて楽しいですね! まともなのは僕だけです!)
ルーテは、そんな様子を眺めて楽しむ。
――その後も、他の子供達が次々と食堂へやって来た。
全員揃ったところでみな席につき、仲良く朝食を食べ始めたのだった。
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