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第59話 ルーテの決断
しおりを挟む「先生」
「おや、ルーテですか。……どうかしましたか?」
「いえ……。その……様子を見に来ただけです」
朝食を食べ終えたルーテは、シスターの部屋へお見舞いに来ていた。
大勢で押しかけてしまうとシスターの負担になってしまうので、皆で相談した結果、様子を見に行くのは一人だけという決まりになっている。
今日は、ルーテにその番が回って来たのだ。
「具合はどうですか? 何か僕にできることはありますか?」
「大丈夫ですよ。…………まさか、私が貴方に心配されてしまうような立場になるだなんて……考えてもみませんでした」
ベッドに寝ていたシスターは、そう言ってルーテの方を見ながら微笑んだ。
それから、皺くちゃの手を伸ばしてルーテの頭を優しく撫でる。
「知らない間に、随分と成長したのですね。――少なくとも、私の目の届く範囲では」
「はい。だから僕のことは心配しないでください!」
「……そうですか」
「他に心配事があったら、何でも僕に相談してくれて構いません!」
彼の言葉を聞いたシスターは、少しだけ考えた後言った。
「……それでは……私の悩みを聞いてもらえますか?」
「先生に悩み……? はい、聞かせてください!」
ルーテが元気よく返事をすると、やがてシスターはこう切り出す。
「私が居なくなった後……ここを任せられる人がいません」
「なるほど。……それなら、いなくならないでください!」
「……そういう訳にもいかないのですよ。生きとし生けるものは皆、いつか天に帰ります」
「じゃあ、あと百年くらい生きてください!」
ルーテは立ち上がって言った。
「無理です。……分かって言っていますよね……?」
「先生なら頑張ればいけると思います!」
「あなたの私に対する絶大な信頼は、一体何に由来するものなのでしょうか……?」
困惑しつつも、シスターは続ける。
「とにかく、私であっても無理なものは無理なのです」
「でも、僕は先生に長生きして欲しいです。みんなも絶対にそう思っているはずです!」
「どう思われていようが、関係ありません。分かってくださいルーテ」
「………………はい」
シスターに断言され、珍しく引き下がるルーテ。
「後任者探しは……私の方でどうにかします。――ですからその間、ルーテには……子供達のことをお願いしたいのです」
「ええと、つまり……?」
「出来るだけ皆のことを気にかけてほしい、ということですよ」
「確かに、みんな少し変わっている所はありますが……しっかりやれていると思いますよ……?」
ルーテは首を傾げながら問いかける。
「あなたの言う通りです。でも……例えば、イリアはとても面倒見が良いですが他者に依存しすぎる傾向がありますし、マルスは明るく振る舞って皆を元気づけてくれますが自分の悩みは抱え込んでしまいがちです。それに、ゾラもまだ――」
「わ、分かりました! 要するに、僕にしか出来ないお願いということですね!」
話が長くなりそうだったので、慌てて打ち切るルーテ。
「はい。あなたは良くも悪くも中立で、他者の心に深く踏み込もうとはしません。でも、だからこそ、平等に皆のことを引っ張ってあげられると思うのです。だから――よろしくお願いしますね」
「よく分かりませんが、僕に任せてください!」
「ふふふ、それで良いのですよ」
シスターはそう言って、再びルーテの頭を撫でるのだった。
*
「結局……僕は何をすればいいのでしょうか?」
シスターの部屋を後にした、自室に戻ったルーテは、椅子に座って呟く。
(……なんだか、上手いことはぐらかされただけのような気がします!)
そんなことを思いながら、アレスノヴァを取り出すルーテ。
(とにかく、先生にはもっと生きていて欲しいです。それに、僕も成長限界を突破しなければいけません)
やがて彼は椅子から立ち上がり、こう決断した。
(早速入手しに行きましょう……『生命の雫』を……!)
生命の雫は、アルカディアの王都付近に存在するダンジョン、『聖なる森』の最深部で入手できる成長限界突破アイテムだ。
しかし、そのアイテムを入手する為には、森の番人である魔物『リヴァイアサン』と『ベヒーモス』を撃破する必要がある。
どちらも、レベル50が一人居ただけでは突破できない強敵だ。
「まずは……準備が必要ですね!」
ルーテはそんな独り言を呟き、勢いよく部屋を出て行くのだった。
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