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第60話 成長したノックス
しおりを挟む「さっきぶりです!」
そう言って、ルーテは勢いよく魔物サンドバッグ道場の扉を開ける。
「死ねええええええええええええええええええッ!」
すると、その横で待ち伏せしていたトワイライトが全力でルーテに殴りかかって来た。
「同じ手は二度通用しません!」
ルーテは軽やかにその攻撃をかわし、回し蹴りを放って返り討ちにする。
「う……ぐ……がはぁっ!」
「今回は戦いに来たわけではありませんから、無理をしなくても良いですよ」
倒れてうめき声を漏らすトワイライトに、優しくそう語り掛けるルーテ。
「死ねェ……!」
「ひどい…………」
しかし、辛辣な言葉を返されてしまったのでしょんぼりする。
「もしかして……ご褒美に君の体の一部を僕達にくれるのかなぁ!?」
その時、ホワイトがルーテにのそのそと近づいてきて言った。
「違います」
ルーテは即答で彼の言葉を否定した後、持っていた袋から三つの腕輪を取り出す。
「……ですが、プレゼントを持ってきたので半分当たりですね」
「ほんとぉ?!」
ちなみに、彼はこの二年間のうちに【収納】スキルを習得した為、冒険者専用の収納袋に入れたアイテムをいくらでも持ち運べるようになっている。
(持ち運べる数に制限が掛かった状態は不便すぎますからね! 【収納】の指南書を手に入れられて良かったです!)
と、ルーテは思っていた。
「――皆さんには、これを装備してもらいます!」
「何だいその腕輪は? 君が持ってきたんだから、とぉーっても素敵なモノなんだろう?」
変質者のような気持ち悪い笑みを浮かべながら問いかけるホワイト。
「これは『友情の腕輪』です! 装備していると、ダンジョン内で離ればなれになってしまっても一瞬で集まることができる優れものなんですよ!」
「へぇー!」
ルーテから腕輪を受け取ったホワイトは、一切躊躇することなくそれを手首にはめた。
「あ、でもその三つは呪われているので、一度装備するとそう簡単には外せなくなってしまいます! 気を付けてください!」
「つまり、僕と君はこれで永遠に一緒ってことだねぇ」
「違います」
ホワイトはすでにルーテの言葉を聞いておらず、愛おしそうな目で腕輪のことを眺めていた。
「ええと、ノックスさんとトワイライトさんも装備してください!」
「……だれが……そんな気色わりぃもん付けんだよ……殺すぞクソガキ……!」
「もう、相変わらずトワイライトさんは口が悪いですね! そんな風だから、外に出してあげられないんです!」
「黙れカスが……はなっからアタシらを解放するつもりなんてねぇくせによォ……ッ! ――ノックス! てめぇも、ずっと呆けてねぇで何か言ってやれッ!」
トワイライトは、放心状態で座り込んでいるノックスに呼びかける。
すると、ノックスはおもむろに立ち上がって言った。
「……オレ、いいこ。そと、でたい」
「あ?」
「オレ、もう、わるいことしない。しょうきに、もどった。ひと、たすける」
「おいおい……嘘だろ……?」
そのあまりの豹変ぶりにうろたえるトワイライト。
精神が完全に崩壊したノックスは、もはや別人になり果ててしまったのである。
「おお、すごいですノックスさん! まともになったのですね! 流石です! 偉いです!」
ルーテは喜びながらノックスに駆け寄り、つま先立ちをして彼のスキンヘッドを撫でる。
「うれしい。オレ、いいこ」
「素晴らしい成長です! よーしよしよし」
「や、やめろノックス! 気持ち悪ぃモンみせんなッ!」
絶叫するトワイライトだったが、彼女の言葉はもはや届かない。
「オレ、うでわ、つける」
「はいどうぞ!」
「ありがとう」
ノックスは、ルーテから受け取った腕輪を強引に引き延ばし、頭から被って首に付けた。
「うぎぎ……ぴったり、フィット」
「えぇ…………?」
突然の奇行に思わず後ずさるルーテ。
「ダメ?」
「く、苦しくないのであれば……どこに付けても問題ありません!」
「うれしい。あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「喜んでくれて僕も嬉しいです!」
こうして、ホワイトとノックスの心はルーテによって掌握され、残ったのはトワイライト一人だけとなった。
「クソッ! どいつもこいつも狂ってやがる! ……もうたくさんだッ! ここに居たらアタシまで狂っちまう! 出せよ……ここから出せええッ!」
頭をかきむしって大声で叫んだ後、鬼のような形相でルーテに迫るトワイライト。
「じゃあ……これを付けてくれれば出してあげますよ?」
ルーテは、そんな彼女に腕輪を見せびらかす。
「てめぇの言うことなんて信じられるかッ! クソがあああああああああッ!」
「……では仕方ありません。ノックスさん、ホワイトさん。この人に腕輪を装備させてあげてください。――僕は他に準備することがあるので」
彼女を説得するのには時間がかかりそうだと思ったルーテは、二人に全て任せることにした。
「オレ、やる」
「ふぅーん、なかなか面白そうな遊びだねぇ」
「はいどうぞ。仲良く協力してくださいね」
残りの腕輪をホワイトに手渡すルーテ。
「それじゃあ、僕はこれで」
「ばいばい」
「またねぇ!」
ルーテは、狂人二人に見送られながら部屋を後にする。
「て、てめぇら……正気か……?! やめろ……うわああああああああああああああああああああああああああああッ!」
そして、その後すぐに、トワイライトの悲鳴が聞こえてくるのだった。
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