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第74話 孤児院は今日も平和である
しおりを挟むノアとレアを無事に救出し、オトヒメの野望を打ち砕いたルーテは、盲目状態のミネルヴァを連れて孤児院へと帰還した。
「ただいま帰りました! ……お夕飯どころかまだお昼ですね。いっそ、もう一回家出しちゃいましょうか?」
「ぼく達はもういいよ。……外は危ないって分かったから」
「これからは、ずっとここに居る!」
悩みは吹っ切れたが、今日のことが若干トラウマになったノアとレアは、引きこもりへと進化した。
「ちゃんと外に出て体を動かさないと、能力値が上がりませんよ?」
「やれやれ、ルーテの言っていることは相変わらず意味が分からないのです。ノアとレアが困っているのですよ!」
ミネルヴァは、肩をすくめながら言う。
どうにか盲目状態は解除されたが、墨は顔を洗っても落ちなかったので、彼女の顔は真っ黒いままだ。
ちなみに、本人はそのことに気づいていない。
数日間は墨だらけの顔で過ごすことになるだろう。
「じゃあ、とりあえず食堂に――「待て」
お昼ご飯を食べる為に食堂へ向かおうとしたその時、ルーテは何者かに呼び止められた。
「あ! 明丸。どうかしましたか?」
「『家出をするので、探さないで下さい。お夕飯までには帰ります』だと? なんだこの手紙は」
「えっと……そこに書いてある通りですけど……」
「貴様の行動はいつも理解できんが……今回ばかりは見過ごせないな。皆が……特にイリアがどれだけ心配していたと思っているんだ? ――ついて来い。灸を据えてやる」
「え! ぼ、僕は一体、何をされてしまうのですか?!」
「説教だ!」
「そ、そんな?!」
かくして、何故かルーテだけ明丸に引きずられていく。
彼はこれから、手紙だけ置いて家出したことをこっぴどく叱られる羽目になるのだろう。
「ご、ごめんなさい……ルーテお兄さん」
「さっきの明丸お兄ちゃん……怖かった」
「……なるほど。明丸はママのママだったのですね。つまり……ミネルヴァのおばあちゃん?!」
孤児院は今日も平和だ。
(完)
*
「ま、まだです……まだ終わりませんよ……!」
「やめろ……! もう止めるのじゃ……!」
オトヒメは、ルーテへ涙ながらに懇願する。
「攻撃が……止まっていますよ。ジェリーさん、スクイードさん。……サメちゃんを見習って下さい」
「俺に、幼子を虐げる……漆黒の嗜好はない」
「?……ぉぬルそトカんのケデんァん」
ヘスペリアから帰還した翌日、ルーテは、『友情の鈴』を使い、魔物サンドバッグ道場へシースルーとオトヒメとサメを呼び出していた。
この鈴さえ有れば、友情シリーズの装備を身につけた存在を、ダンジョン内で自由に呼び出せるのである。
ちなみに、首輪は今後使う予定があるので回収され、四人には代わりに、呪われた『友情の腕輪』が配布された。
「ふぅ……美味かったぜ」
「サメちゃん……もう良いのですか……? 僕はまだまだやれますよ……?」
「い、いや、でも腹一杯だし……」
そう言って、ルーテから一歩退くサメ。
ルーテは、つい先ほどまで彼に捕食されていたのである。
オトヒメ達が青ざめた顔をしているのは、先ほどまで体を食いちぎられて絶叫するルーテの悲鳴を聞かされ続けていたからだ。
しかし、現在はルーテの体の傷は全て治っている。
結界の中であれば、例え捕食されたとしても問題ないのだ。
「サメちゃん。僕は美味しかったですか……?」
「あ、ああ……。だけど、次からは別のもんを食わせてくれ。カップル以外の悲鳴を聞きながら食事するのは……流石に気分が悪いぜ」
「そんな……!」
極悪非道な食人サメにも、その程度の良心は残っていた。
「大丈夫です……! もっと痛みに対する耐性がつけば……悲鳴だって我慢できます!」
「いや、いい……。俺は食事を楽しみてぇんだ。お前に付き合ってたら、嫌になっちまいそうだ……」
「うーん。それじゃあ、次からは普通に殴るだけで良いです。サメちゃんの攻撃には水属性が付与されますからね! ……出来れば、僕のお肉にどのような食事効果があるのか検証したかったのですが……」
「お前……頭おかしいぜ……?」
「そんな……いきなり酷いことを言わないで下さい……!」
ルーテは、目を潤ませながら言った。
――これから、オトヒメやシースルー達は毎日、ルーテが様々な耐性を獲得する為の訓練に付き合わされる事となる。
果たして、自らの手で子どもを毎日痛めつけることを強制された彼らは、正気を保っていられるのだろうか?
そして、ずっと魔物牧場に放置されているトワイライト達は一体どうなってしまったのだろうか?
(食事効果……孤児院のみんなをもっと強くして、シスターに健康になって貰う為にも、『生命の雫』を始めとした、能力値が大幅に上がる良質な食材を沢山手に入れないといけません。……その為には、皆さんの力が必要なのです……!)
ステータスさえ上がれば数値の暴力でシスターも健康になると考えているルーテの、新しい冒険が始まろうとしていた。
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