1 / 39
1.俺が必ず一人前にしてみせる!
しおりを挟む
森の中にちょっとした洞窟があってさ。そこにはルビーの原石があったんだよ。
これで夢への資金が溜まっただけでなく、当面の生活に支障がないまでになれるだろう。
俺の夢……それは、動物やモンスターと暮らすことのできる広い牧場だ!
まだ見ぬ自分の城へ思いを馳せニヤニヤが止まらなかった。
『オレに感謝しロ』
人がいい気分で歩いてるってのに、肩まで登ってきた小さな爬虫類が長い舌を伸ばし、俺の頬をぺしんとはたく。
大きさはリスほどで、クルクルまいた尻尾と愛嬌のある顔が特徴でカメレオンに似る。
愛らしいのもそのはず、彼はペットリザードという愛玩爬虫類で多くの人から慕われているほどの種族なのだから。
でも、彼は生まれながらに爪が欠けていて、俺特製の爪をつけている。
こいつは子供の時、ペット屋で見かけて爪が欠けていることから売れ残っていた。
「このままこいつがどうなってしまうのだろう」と頭をよぎったら、もう止まらなかったんだ。必死に父へせがみ、買ってもらったってわけ。
彼とはその時からの付き合いとなる。
そうそう、本来ペットリザードはせいぜい犬猫程度の賢さしか持ち合わせていない。
だけど、こいつは愛情をもって育てたからか、いつしか俺と言葉を交わすことができるようになった。
今ではどこに行くときでも一緒の可愛い相棒となっている。多少口の悪いところが玉に瑕だけどね。
「ロッソ。分かってる、分かってるって。ブドウを三粒……いや五粒で」
『一房ダ』
ペットリザードのロッソは譲らない。
強欲な奴め。だけどまあ、ルビーを発見したのはロッソのお手柄だし。
「ブドウ一房ね。街に帰ったらすぐに商店街へ行こうぜ」
ロッソは俺の説得に満足したようで肩から降り、隣をてくてくと歩き始めた。
小さいけど、ロッソの脚は存外早い。トカゲがすばしっこいのとよく似ている。
いつもの帰り道のつもりだった。
だけど、アマランタの街まであと少しというところで、とんでもない事態に遭遇してしまう。
俺と同じ冒険者に見える四人パーティが、揉めているのか立ち止まって何やら言い争いをしているみたいだった。
「ランクこそ低いが、俺に相応しい美しき毛並みを持つお前に多少は期待した。やはりというか何というか見込み違いだったな」
そう毒づいた金髪で長身の優男が、大型犬より一回り大きいくらいの犬型のモンスターを思いっきり蹴っ飛ばす。
他の三人は彼の行いを止めるでもなく、数メートル飛ばされ転がった犬型モンスターを見ている。
あれは、ワイルドウルフだな。獣魔ランクはDからCと中級テイマーが扱うことが多い。
勇敢で狩りにも活躍できるよいペットだ。いけ好かない男の言葉に同意することは癪だけど、このワイルドウルフの毛並みは確かに美しい。
白銀のふさふさした毛並みは最高級のベルベットのように艶がある。中でも目を引くのが背中と額に入った稲妻にも見える黒の模様だ。
美しい。
そう思った。
悲痛な声をあげ地に転がったワイルドウルフではあったが、その美しさをまるで損なっていない。
ワイルドウルフに魅入られる俺をよそに、金髪の男はツカツカとワイルドウルフへ近寄って行き片足を振り上げる。
なんてことをするんだ!
さっきは突然のことで何もできなかったけど、このまま蹴られるのをむざむざ見守るつもりなんてない!
「やめろ!」
男の元へ駆けながら叫ぶ。
突然駆け寄った俺に虚を突かれたのか、男は振り上げた足をそのまま地面に降ろす。
「何だ? お前は? これは躾だ。この使えないワイルドウルフへのな。やはりランクの低い獣魔は使えない」
「君はテイマーなのか?」
「そうだが? この美しい俺に相応しい狼だと思ったのだがな」
「テイマーが自らのペットを蹴飛ばすなんてことがあってはいけない。ペットってのは飼い主と厚い信頼関係で結ばれているものだろ」
「甘いことを。そのようなものは必要ない。ご主人様に忠実で役に立てばよいのだ。役に立たぬものは」
鞭を取り出した男は腕を振り上げ、躊躇なく振り下ろした。
ピシイイイイ!
「ぐっ……」
革鎧を着ているとはいえ、中にまで衝撃が伝わってくるな。
とっさにワイルドウルフへ覆いかぶさり男から背を向けたものだから、まともに鞭で背中を打たれてしまった。
だけど、ワイルドウルフは無事だ。
「大丈夫だったか?」
ワイルドウルフの白銀の背中を撫で、笑いかける。
だけど、彼は怯えたようにぶるぶると体を揺らすばかり。
「俺は謝らんぞ。お前が勝手に入ってきたんだ」
「謝ってもらって欲しいなんて思ってないさ」
「ッチ!」
舌打ちする男に対し、仲間の三人のうち魔法使い風の衣装をまとった女が彼に声をかける。
「ねえ、アルト。やっぱり、騎竜にしといたらよかったんじゃない? そいつのせいで私たち、怪我しそうになったんだからね!」
「そうだな。俺にしては珍しく失敗だったと認めざるを得ない。こいつの方が騎竜より見た目が美しかったんだ。仕方ない。騎竜に切り換えるか」
「だったら、私も後ろに乗せてね!」
「仕方ない。テレーゼの頼みだ」
アルトと呼ばれた金髪の優男はふっと気障ったらしく髪をかきあげる。
そして彼はワイルドウルフと俺から背を向け、右手をあげた。
「どこに行くんだ? ワイルドウルフはどうする?」
「必要ない。捨て置く」
「待てよ! それはないだろ! どんなペットだって一度や二度の失敗はある。俺たち人間だってそうだろうに」
「面倒な奴だな。ワイルドウルフが欲しいのだろう? 卑しい奴め。まあ、そんな獣魔を連れているようなお前にはワイルドウルフでも高い買い物か」
「物ってなんだよ! それに、ロッソは可愛い俺の相棒だ!」
「は、ははは。こいつはお笑い草だ。そいつはペットリザードだろ? 獣魔ランクは圏外のF。モンスターの一体どころか、犬にも勝てやしない」
言い返そうとした俺の目に振り返らぬままアルトが掲げた一枚の「群青色の」羊皮紙が映る。
群青色……あれは、「従属の権利書」か。
こいつ、ペット屋でワイルドウルフを買ったんだな。それをあっさり捨てるなんて!
だが、あの権利書が奴の手元にある限り、こいつは……。
ぐ、ぐう。
「すまん。それを譲ってくれないか」
「好きにするがいい。『その後は保障しない』がな」
ビリビリ!
アルトが羊皮紙を破り捨ててしまった。
「グルルルルル!」
「待て。ダメだ!」
途端に唸り声をあげはじめたワイルドウルフへ覆いかぶさる。
権利書は主人であることを公に示すものだ。その中でも「ペット屋」なんかに高い金を払うことで「従属の権利書」に変更することができる。
その名の通りペットを従属させるそれは、主人の命令に絶対服従の縛りを与えるものなんだ。
詳しい作りを知らないけど、どんな言葉であっても主人の命令に従うようになるらしい。
だが、先ほどアルトは従属の権利書を「破り捨てた」。
つまり、このワイルドウルフは従属のくびきから逃れたってわけだ。
余程虐げられていたのだろう。ワイルドウルフはアルトへ飛び掛からんとしている。
「かかって来ても一向に構わんぞ。ワイルドウルフ程度、一撃の元に斬り伏せてみせよう」
「私のファイアボールで仕留めてあげるわよ」
アルトの言葉にテレーゼが乗っかる。
外野の言葉なんて俺にはもう聞こえてなどいなかった。
動かぬようにワイルドウルフへ覆いかぶさった状態のまま、願うように彼へ訴えかける。
「落ち着け。俺が必ず、君を一人前にしてみせる。絶対に。絶対にだ」
「グルルル!」
愛情を知らぬワイルドウルフがここで人を襲ってしまうと、その後は想像に難くない。
何故なら、このワイルドウルフはまだとても若い。幼いうちから人が憎むべきものと思ったとしたら……。
そうなってしまったら、とても悲しいことじゃないか。
だから、抑えてくれ。
俺が絶対に、人間も悪くないもんだって教えてやる。
頼む。
その時、俺の肩からひょっこりと大きな丸い目をしたペットリザードのロッソが顔を出す。
「おい。ロッソ。あの男に『そんな獣魔』って言われたことが気に障っているのか? オレンジも追加してやるから、今は抑えて……」
『オマエ。オレを何だと思ってんダ。オマエ以外のニンゲンのことになど興味はなイ』
ペットリザードのロッソが長い舌を伸ばし、俺の頬をペシペシと叩く。
今はロッソとあーだーこーだしている場合じゃないってのに。
「ちょ」
止めることも間に合わず、ロッソが俺の肩からワイルドウルフの額に飛び乗った。
ちょうど雷の模様があるところだ。
『オイ。あの男はもいなイ。腹減ってないカ? 腹いっぱい食べたくないカ? ノエルが食べさせてくれル』
おいおい俺かよ。
ちゃっかりしているなあ。ロッソのやつ。
でも、ナイスだロッソ。
ワイルドウルフが俺とロッソに気を取られている間にアルトは立ち去っていった。
「ロッソの言う通り、君が憎むあの男はもういない。手を離してもどうか動かないでくれるか」
ワイルドウルフの首元へ手を当てようとしたら、「ううう」と低い声で威嚇してくる。
真っ直ぐにワイルドウルフの黄金の瞳を見つめ、微笑みかけた。
撫でているつもりなのかロッソはロッソでペタペタと小さな前脚を上下させ、ポスポスとワイルドウルフの毛皮へ前脚を埋める。
しばらくそうしていると、ワイルドウルフの体から力が抜けた。
そこへすかさず、ポーチから取り出した干し肉をワイルドウルフの口元へ持っていく。
余程腹を空かしていたのか、ワイルドウルフは先ほどの警戒が何だったのかと思わせるくらいすぐに、干し肉をむしゃむしゃと食べ始めた。
食べ終わる前に次の干し肉をワイルドウルフに与え、一心不乱に食べている彼の体を観察する。
幸い外傷は軽微なものだな。打撲はあるかも、骨が折れてなきゃいいんだけど……。
「わおん」
「おお。あと一つだけならあるぞ。ほら」
持っててよかった携帯食。冒険にはトラブルがつきものだから、最低一日分の食糧は持ち歩いているんだ。
これで夢への資金が溜まっただけでなく、当面の生活に支障がないまでになれるだろう。
俺の夢……それは、動物やモンスターと暮らすことのできる広い牧場だ!
まだ見ぬ自分の城へ思いを馳せニヤニヤが止まらなかった。
『オレに感謝しロ』
人がいい気分で歩いてるってのに、肩まで登ってきた小さな爬虫類が長い舌を伸ばし、俺の頬をぺしんとはたく。
大きさはリスほどで、クルクルまいた尻尾と愛嬌のある顔が特徴でカメレオンに似る。
愛らしいのもそのはず、彼はペットリザードという愛玩爬虫類で多くの人から慕われているほどの種族なのだから。
でも、彼は生まれながらに爪が欠けていて、俺特製の爪をつけている。
こいつは子供の時、ペット屋で見かけて爪が欠けていることから売れ残っていた。
「このままこいつがどうなってしまうのだろう」と頭をよぎったら、もう止まらなかったんだ。必死に父へせがみ、買ってもらったってわけ。
彼とはその時からの付き合いとなる。
そうそう、本来ペットリザードはせいぜい犬猫程度の賢さしか持ち合わせていない。
だけど、こいつは愛情をもって育てたからか、いつしか俺と言葉を交わすことができるようになった。
今ではどこに行くときでも一緒の可愛い相棒となっている。多少口の悪いところが玉に瑕だけどね。
「ロッソ。分かってる、分かってるって。ブドウを三粒……いや五粒で」
『一房ダ』
ペットリザードのロッソは譲らない。
強欲な奴め。だけどまあ、ルビーを発見したのはロッソのお手柄だし。
「ブドウ一房ね。街に帰ったらすぐに商店街へ行こうぜ」
ロッソは俺の説得に満足したようで肩から降り、隣をてくてくと歩き始めた。
小さいけど、ロッソの脚は存外早い。トカゲがすばしっこいのとよく似ている。
いつもの帰り道のつもりだった。
だけど、アマランタの街まであと少しというところで、とんでもない事態に遭遇してしまう。
俺と同じ冒険者に見える四人パーティが、揉めているのか立ち止まって何やら言い争いをしているみたいだった。
「ランクこそ低いが、俺に相応しい美しき毛並みを持つお前に多少は期待した。やはりというか何というか見込み違いだったな」
そう毒づいた金髪で長身の優男が、大型犬より一回り大きいくらいの犬型のモンスターを思いっきり蹴っ飛ばす。
他の三人は彼の行いを止めるでもなく、数メートル飛ばされ転がった犬型モンスターを見ている。
あれは、ワイルドウルフだな。獣魔ランクはDからCと中級テイマーが扱うことが多い。
勇敢で狩りにも活躍できるよいペットだ。いけ好かない男の言葉に同意することは癪だけど、このワイルドウルフの毛並みは確かに美しい。
白銀のふさふさした毛並みは最高級のベルベットのように艶がある。中でも目を引くのが背中と額に入った稲妻にも見える黒の模様だ。
美しい。
そう思った。
悲痛な声をあげ地に転がったワイルドウルフではあったが、その美しさをまるで損なっていない。
ワイルドウルフに魅入られる俺をよそに、金髪の男はツカツカとワイルドウルフへ近寄って行き片足を振り上げる。
なんてことをするんだ!
さっきは突然のことで何もできなかったけど、このまま蹴られるのをむざむざ見守るつもりなんてない!
「やめろ!」
男の元へ駆けながら叫ぶ。
突然駆け寄った俺に虚を突かれたのか、男は振り上げた足をそのまま地面に降ろす。
「何だ? お前は? これは躾だ。この使えないワイルドウルフへのな。やはりランクの低い獣魔は使えない」
「君はテイマーなのか?」
「そうだが? この美しい俺に相応しい狼だと思ったのだがな」
「テイマーが自らのペットを蹴飛ばすなんてことがあってはいけない。ペットってのは飼い主と厚い信頼関係で結ばれているものだろ」
「甘いことを。そのようなものは必要ない。ご主人様に忠実で役に立てばよいのだ。役に立たぬものは」
鞭を取り出した男は腕を振り上げ、躊躇なく振り下ろした。
ピシイイイイ!
「ぐっ……」
革鎧を着ているとはいえ、中にまで衝撃が伝わってくるな。
とっさにワイルドウルフへ覆いかぶさり男から背を向けたものだから、まともに鞭で背中を打たれてしまった。
だけど、ワイルドウルフは無事だ。
「大丈夫だったか?」
ワイルドウルフの白銀の背中を撫で、笑いかける。
だけど、彼は怯えたようにぶるぶると体を揺らすばかり。
「俺は謝らんぞ。お前が勝手に入ってきたんだ」
「謝ってもらって欲しいなんて思ってないさ」
「ッチ!」
舌打ちする男に対し、仲間の三人のうち魔法使い風の衣装をまとった女が彼に声をかける。
「ねえ、アルト。やっぱり、騎竜にしといたらよかったんじゃない? そいつのせいで私たち、怪我しそうになったんだからね!」
「そうだな。俺にしては珍しく失敗だったと認めざるを得ない。こいつの方が騎竜より見た目が美しかったんだ。仕方ない。騎竜に切り換えるか」
「だったら、私も後ろに乗せてね!」
「仕方ない。テレーゼの頼みだ」
アルトと呼ばれた金髪の優男はふっと気障ったらしく髪をかきあげる。
そして彼はワイルドウルフと俺から背を向け、右手をあげた。
「どこに行くんだ? ワイルドウルフはどうする?」
「必要ない。捨て置く」
「待てよ! それはないだろ! どんなペットだって一度や二度の失敗はある。俺たち人間だってそうだろうに」
「面倒な奴だな。ワイルドウルフが欲しいのだろう? 卑しい奴め。まあ、そんな獣魔を連れているようなお前にはワイルドウルフでも高い買い物か」
「物ってなんだよ! それに、ロッソは可愛い俺の相棒だ!」
「は、ははは。こいつはお笑い草だ。そいつはペットリザードだろ? 獣魔ランクは圏外のF。モンスターの一体どころか、犬にも勝てやしない」
言い返そうとした俺の目に振り返らぬままアルトが掲げた一枚の「群青色の」羊皮紙が映る。
群青色……あれは、「従属の権利書」か。
こいつ、ペット屋でワイルドウルフを買ったんだな。それをあっさり捨てるなんて!
だが、あの権利書が奴の手元にある限り、こいつは……。
ぐ、ぐう。
「すまん。それを譲ってくれないか」
「好きにするがいい。『その後は保障しない』がな」
ビリビリ!
アルトが羊皮紙を破り捨ててしまった。
「グルルルルル!」
「待て。ダメだ!」
途端に唸り声をあげはじめたワイルドウルフへ覆いかぶさる。
権利書は主人であることを公に示すものだ。その中でも「ペット屋」なんかに高い金を払うことで「従属の権利書」に変更することができる。
その名の通りペットを従属させるそれは、主人の命令に絶対服従の縛りを与えるものなんだ。
詳しい作りを知らないけど、どんな言葉であっても主人の命令に従うようになるらしい。
だが、先ほどアルトは従属の権利書を「破り捨てた」。
つまり、このワイルドウルフは従属のくびきから逃れたってわけだ。
余程虐げられていたのだろう。ワイルドウルフはアルトへ飛び掛からんとしている。
「かかって来ても一向に構わんぞ。ワイルドウルフ程度、一撃の元に斬り伏せてみせよう」
「私のファイアボールで仕留めてあげるわよ」
アルトの言葉にテレーゼが乗っかる。
外野の言葉なんて俺にはもう聞こえてなどいなかった。
動かぬようにワイルドウルフへ覆いかぶさった状態のまま、願うように彼へ訴えかける。
「落ち着け。俺が必ず、君を一人前にしてみせる。絶対に。絶対にだ」
「グルルル!」
愛情を知らぬワイルドウルフがここで人を襲ってしまうと、その後は想像に難くない。
何故なら、このワイルドウルフはまだとても若い。幼いうちから人が憎むべきものと思ったとしたら……。
そうなってしまったら、とても悲しいことじゃないか。
だから、抑えてくれ。
俺が絶対に、人間も悪くないもんだって教えてやる。
頼む。
その時、俺の肩からひょっこりと大きな丸い目をしたペットリザードのロッソが顔を出す。
「おい。ロッソ。あの男に『そんな獣魔』って言われたことが気に障っているのか? オレンジも追加してやるから、今は抑えて……」
『オマエ。オレを何だと思ってんダ。オマエ以外のニンゲンのことになど興味はなイ』
ペットリザードのロッソが長い舌を伸ばし、俺の頬をペシペシと叩く。
今はロッソとあーだーこーだしている場合じゃないってのに。
「ちょ」
止めることも間に合わず、ロッソが俺の肩からワイルドウルフの額に飛び乗った。
ちょうど雷の模様があるところだ。
『オイ。あの男はもいなイ。腹減ってないカ? 腹いっぱい食べたくないカ? ノエルが食べさせてくれル』
おいおい俺かよ。
ちゃっかりしているなあ。ロッソのやつ。
でも、ナイスだロッソ。
ワイルドウルフが俺とロッソに気を取られている間にアルトは立ち去っていった。
「ロッソの言う通り、君が憎むあの男はもういない。手を離してもどうか動かないでくれるか」
ワイルドウルフの首元へ手を当てようとしたら、「ううう」と低い声で威嚇してくる。
真っ直ぐにワイルドウルフの黄金の瞳を見つめ、微笑みかけた。
撫でているつもりなのかロッソはロッソでペタペタと小さな前脚を上下させ、ポスポスとワイルドウルフの毛皮へ前脚を埋める。
しばらくそうしていると、ワイルドウルフの体から力が抜けた。
そこへすかさず、ポーチから取り出した干し肉をワイルドウルフの口元へ持っていく。
余程腹を空かしていたのか、ワイルドウルフは先ほどの警戒が何だったのかと思わせるくらいすぐに、干し肉をむしゃむしゃと食べ始めた。
食べ終わる前に次の干し肉をワイルドウルフに与え、一心不乱に食べている彼の体を観察する。
幸い外傷は軽微なものだな。打撲はあるかも、骨が折れてなきゃいいんだけど……。
「わおん」
「おお。あと一つだけならあるぞ。ほら」
持っててよかった携帯食。冒険にはトラブルがつきものだから、最低一日分の食糧は持ち歩いているんだ。
175
あなたにおすすめの小説
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる