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2.新たな相棒「ギンロウ」
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二つ目の干し肉を完食したワイルドウルフは落ち着きを取り戻したようだった。
再びグルグルと唸り始めることもなかったし、いけ好かない金髪のテイマーを追いかけようとする様子もない。
その場で伏せた状態で、俺に体を撫でられるままになっている。
首元を撫でた時、彼は気持ちよさそうに目を細めてくれるまでになったのだ。
穏やかな表情とは裏腹に前脚、後脚共にどこかしら爪が欠けていた。一番酷いのが右前脚で三本の爪が潰れている上に、親指が半分ほどなくなっていた。
彼を落ち着かせようと笑顔を張り付けていたけど、ホッとしたら思いっきり顔をしかめてしまう。
「ロッソ。ポーションを出せる?」
『おウ。任せろ』
俺の肩に飛び乗ったロッソが、そのまま背中を踏み台にし腰のポーチを前脚で突っつき頭をポーチの中へ突っ込む。
ゴロンと落ちてきた小瓶を慌ててキャッチしてふうと胸を撫でおろす。
せっかくのポーションが割れちゃったらどうするんだよ!
いや、ロッソに頼んだ俺が悪かった。
小瓶は緑色の液体で満たされている。低級のポーションだけど、傷を癒すに十分だ。
「そうだな。念のために使っておくとすっか」
きゅぽんと小瓶の蓋を外す。
ワイルドウルフの四肢にポーションを垂らし、続いて金髪のテイマーに蹴っ飛ばされたアバラ辺りへポーションの残りを全て降り注ぐ。
「よおし、よく我慢した。えらいぞ!」
ワイルドウルフの頭をわしゃわしゃと撫でまわし褒めたたえた。
いやあ、何度触れてもよい毛並みだ。ロッソはザラザラしているだけだしな。
でもあれはあれで、ひんやりとして気持ちよい。
「俺と一緒に来ないか?」
自然と言葉が口をついて出た。
元々俺は動物が大好きだ。沢山の動物やモンスターと暮らしていくために街はずれの土地を買おうとしていたくらいだからな。
こいつが金髪のテイマーに捨てられて可哀そうって気持ちから誘ったんじゃない。
俺はこいつのもふもふと、美しい毛並みにもうメロメロになっているから。
それで、是非もふもふさせ……ではなく、相棒の一人として暮らしていきたいと思ったんだ。
『オレと違って、言葉は通じないだロ?』
「そんなことないさ。何となくだけど言っていることは分かってくれる。馬だって牛だってな」
俺の言葉が終わるのを待っていたかのように、むくりと立ち上がったワイルドウルフは俺の手の平に口を寄せてくる。
ペロペロペロ。
なんと、ワイルドウルフは俺の手の甲を舐め始めたのだ!
「そうか。来てくれるか! 俺はノエル。よろしくな」
「わおん」
「ははは。そうかそうか。よおし、街まで競争しようぜ。あ、そうだった。君の名前を決めないとな」
中腰になっている俺にじゃれるように飛び込んできたワイルドウルフを両手で抱え、思案する。
そうだなあ。
よし!
「君の名前は『ギン』だ」
『ギン?』
「おう。そうさ。ギンとは銀色のギン。いいだろ」
『単純だナ。もう少しなんとかしてやったらどうダ』
ロッソに苦言を呈されてしまった。
生まれ変わる前の知識から付けた名前だってのに。
ん、なら、銀は銀でも。
「『ギンロウ』だったらどうだ。ロウは狼の意味だ。雄々しい銀色の狼のイメージから」
『まんまだナ。さっきよりはマシだがナ』
「いいじゃないか。ほら、ギンロウ。今日から君はギンロウだ!」
わしゃわしゃと首元を撫でると、ギンロウはぐるぐると喉を鳴らす。
よおっし。
アマランタの街に戻ってすぐにルビーを売ろう。そして、そして……目をつけていた街はずれの土地を買うのだ。
俺とロッソだけじゃあ少し寂しいかなと思っていたけど、ギンロウもいる。
たまに冒険を挟みつつ、広場を牧場にしていこうじゃないか。楽しみだ!
でも、もう少しだけ俺の夢はお預けだな。
先にギンロウの修行からだ!
いや、その前に彼の脚を何とかしてあげないとな。
爪が欠けたのなら俺の生まれ持ったスキル「装蹄師」で何とかなる。ロッソの小さな爪だって俺が作った付け爪でうまくいったしさ。
彼の爪を作ったら、すぐに修行へ向かおう。
ニコニコとしていたら、いつの間にかギンロウの頭の上に乗っかったロッソと目が合う。
俺の目線の先、手のひら一つ分くらいのところにロッソがいて、その下にギンロウの顔。
パカンと口を開いたロッソが長い舌を伸ばし、俺の鼻をぺしりと叩く。
『オレンジとブドウ一房を忘れるなヨ。それとギンロウには骨付き肉ダ』
「覚えているに決まってるだろ。ギンロウにも腹いっぱい食べさせると約束したしな」
ロッソがな。なんて野暮なことは言わない。
さきに青果市場に寄った方がいいか。
何だか俺も腹が減ってきたよ。
◇◇◇
「――でな。俺さ、錬金術屋の息子として生まれたんだけど、どうにも錬金術の特性がなくてさ」
アマランタの街に到着するまでの間、ギンロウに俺のことをコンコンと語っていたら、ロッソが頭の上に乗っかってきて長い尻尾でベシベシしやがるんだよ。
「こら、ロッソ」
『オマエの話は長イ。オレにも同じことをしただろウ?』
注意したら舌を振り回し、そんなことをのたまいやがった。
「そうかなあ。長い人生、語ることはたくさんあるだろ?」
『長すぎて、何も頭に残ってなイ』
「マ、マジかよ……」
『短くまとめロ。必要なことだけ、かいつまんで。ほら、スタート』
「え、ええっと。そう言われるとそれはそれで難しいな」
う、うーん。
首を捻り顎に手を当てながらも、立ち止まらず歩き続ける。
俺と並ぶようにして歩くギンロウは、ポーションの効果があってか、脚を痛がる様子もなく時折尻尾を振りながらはっはと息を吐いていた。
よいなあ。犬も。いや、ギンロウは犬じゃあないんだけど、見た感じ精悍な銀色の大型狼って感じでさ。
ご機嫌に歩いている姿を見るだけでも癒される。前世で犬の散歩を毎朝の日課にしていたけど、俺の楽しみの一つだったんだ。
酷い状態の爪がよくなれば、思いっきり走ってもらいたいなあ……その時のギンロウの姿を想像すると楽しみで仕方ない。
おっといかんいかん。ロッソの課題をこなさなきゃ。
「よ、よっし。ギンロウ、ロッソ。まとめたぞ」
『おう、言ってみロ』
俺の頭から降りないまま、ロッソが大きな目をぎょろりと動かす。
「俺、ノエル。アマランタの街で錬金術屋の息子として生まれた。だけど、俺には前世の記憶がある。『装蹄師』ってスキルを持っていたのだけど、それだけじゃあ錬金術屋として食っていけなかった。だから、冒険者のワーカーとして生計を立てつつ、自分の城(牧場)を買おうとしていた」
『まだ長イ』
「これでも頑張ったのに!」
『時間切れダ』
バッサリと切り捨てられたところで、街の門が見えてきた。
ま、まあ。今全部を語り尽くす必要はない。これからずっと彼らと暮らしていくのだから。
俺は日本で馬の装蹄師見習いをしていた。蹄鉄は馬にとってとても大事なもので、蹄鉄の打ち方が悪いだけで最悪の場合は馬のソエに影響を及ぼし骨折してしまうことだってある。俺の師匠は蹄鉄の名人で、調子の悪くなった馬を診て何頭もの馬を元気にしてきた。師匠の仕事振りを見てさ、なりふり構わず弟子にしてくれと頼みこんで、師匠のところにお世話になることになったんだ。やっと少し仕事に慣れてきたころ、馬房に火事が発生して、悲痛ないななきをあげる馬たちを救おうと頑張ったんだけど、そのまま俺は――。
気が付くと赤ん坊になっていて、錬金術屋の息子として生まれ変わったことに気が付く。
前世の経験からなのか、俺は生まれながらに「装蹄師」スキルを持っていた。
「装蹄師スキル」錬金術の一種らしいのだけど、限定的過ぎてな……。
それでも、今世の両親はとても俺によくしてくれていて、装蹄師以外に錬金術の才能のなかった俺に「錬金術屋を継げ」とか「せめて店を手伝え」なんてことを言わなかった。
逆に「やりたいことをやれよ」と言ってくれてさ。
そこで俺は冒険者の中でも素材収集に重きを置く「ワーカー」となり、実家の錬金術屋に素材を納品したりして生計を立てていた。
結構儲かるんだよな。だから、元々動物好きだったこともあって、いつかは郊外に牧場を作ってそこで動物と囲まれて過ごしたいと思っていたんだ。
「ノエル。おい、ノエル」
「あ、ごめんごめん。昔のことをギンロウに語ろうとしていたら、思い出しちゃってな」
門番の青年から肩を叩かれ、ようやく自分が呼ばれていることに気が付く。
考え事をしながら歩いていたら、もう門の前まで来ていたんだな……。
とっても失礼なことをしてしまった。
「ギンロウ? そのワイルドウルフのことか?」
「うん。俺の仲間になったんだ。登録はこれからな」
「分かった。街に入ったら、まず登録に向かってくれよ。何かあってからだと面倒になる」
「了解」
門番へ向け右手をあげ、ギンロウとロッソと共に門の中に入る。
金髪のテイマーに蹴飛ばされたギンロウは、同じ人間である門番の男に対して特に敵意を見せず大人しいままだった。
人と出会う時にはもうちょっと気を使った方がよかったかもしれないと思いはしたが、ギンロウはどうも人間の区別がついているようで、人間そのものには敵意を抱いていない様子だ。
ほっと胸を撫でおろすと共に、賢い彼を撫でたくなりわしゃわしゃと首元を撫でまわす。
「わおん」
「ギンロウ。俺が君を絶対に一人前にしてみせる!」
目を細めるギンロウに笑いかけ、立ち上がった。
郊外に土地を買う事は一旦お預けだ。このままギンロウに悔しい思いをさせたくはないから。
ランクが低いから何だってんだ。ロッソだって立派に成長したんだぞ。
だから、ギンロウも必ず一人前になる!
再びグルグルと唸り始めることもなかったし、いけ好かない金髪のテイマーを追いかけようとする様子もない。
その場で伏せた状態で、俺に体を撫でられるままになっている。
首元を撫でた時、彼は気持ちよさそうに目を細めてくれるまでになったのだ。
穏やかな表情とは裏腹に前脚、後脚共にどこかしら爪が欠けていた。一番酷いのが右前脚で三本の爪が潰れている上に、親指が半分ほどなくなっていた。
彼を落ち着かせようと笑顔を張り付けていたけど、ホッとしたら思いっきり顔をしかめてしまう。
「ロッソ。ポーションを出せる?」
『おウ。任せろ』
俺の肩に飛び乗ったロッソが、そのまま背中を踏み台にし腰のポーチを前脚で突っつき頭をポーチの中へ突っ込む。
ゴロンと落ちてきた小瓶を慌ててキャッチしてふうと胸を撫でおろす。
せっかくのポーションが割れちゃったらどうするんだよ!
いや、ロッソに頼んだ俺が悪かった。
小瓶は緑色の液体で満たされている。低級のポーションだけど、傷を癒すに十分だ。
「そうだな。念のために使っておくとすっか」
きゅぽんと小瓶の蓋を外す。
ワイルドウルフの四肢にポーションを垂らし、続いて金髪のテイマーに蹴っ飛ばされたアバラ辺りへポーションの残りを全て降り注ぐ。
「よおし、よく我慢した。えらいぞ!」
ワイルドウルフの頭をわしゃわしゃと撫でまわし褒めたたえた。
いやあ、何度触れてもよい毛並みだ。ロッソはザラザラしているだけだしな。
でもあれはあれで、ひんやりとして気持ちよい。
「俺と一緒に来ないか?」
自然と言葉が口をついて出た。
元々俺は動物が大好きだ。沢山の動物やモンスターと暮らしていくために街はずれの土地を買おうとしていたくらいだからな。
こいつが金髪のテイマーに捨てられて可哀そうって気持ちから誘ったんじゃない。
俺はこいつのもふもふと、美しい毛並みにもうメロメロになっているから。
それで、是非もふもふさせ……ではなく、相棒の一人として暮らしていきたいと思ったんだ。
『オレと違って、言葉は通じないだロ?』
「そんなことないさ。何となくだけど言っていることは分かってくれる。馬だって牛だってな」
俺の言葉が終わるのを待っていたかのように、むくりと立ち上がったワイルドウルフは俺の手の平に口を寄せてくる。
ペロペロペロ。
なんと、ワイルドウルフは俺の手の甲を舐め始めたのだ!
「そうか。来てくれるか! 俺はノエル。よろしくな」
「わおん」
「ははは。そうかそうか。よおし、街まで競争しようぜ。あ、そうだった。君の名前を決めないとな」
中腰になっている俺にじゃれるように飛び込んできたワイルドウルフを両手で抱え、思案する。
そうだなあ。
よし!
「君の名前は『ギン』だ」
『ギン?』
「おう。そうさ。ギンとは銀色のギン。いいだろ」
『単純だナ。もう少しなんとかしてやったらどうダ』
ロッソに苦言を呈されてしまった。
生まれ変わる前の知識から付けた名前だってのに。
ん、なら、銀は銀でも。
「『ギンロウ』だったらどうだ。ロウは狼の意味だ。雄々しい銀色の狼のイメージから」
『まんまだナ。さっきよりはマシだがナ』
「いいじゃないか。ほら、ギンロウ。今日から君はギンロウだ!」
わしゃわしゃと首元を撫でると、ギンロウはぐるぐると喉を鳴らす。
よおっし。
アマランタの街に戻ってすぐにルビーを売ろう。そして、そして……目をつけていた街はずれの土地を買うのだ。
俺とロッソだけじゃあ少し寂しいかなと思っていたけど、ギンロウもいる。
たまに冒険を挟みつつ、広場を牧場にしていこうじゃないか。楽しみだ!
でも、もう少しだけ俺の夢はお預けだな。
先にギンロウの修行からだ!
いや、その前に彼の脚を何とかしてあげないとな。
爪が欠けたのなら俺の生まれ持ったスキル「装蹄師」で何とかなる。ロッソの小さな爪だって俺が作った付け爪でうまくいったしさ。
彼の爪を作ったら、すぐに修行へ向かおう。
ニコニコとしていたら、いつの間にかギンロウの頭の上に乗っかったロッソと目が合う。
俺の目線の先、手のひら一つ分くらいのところにロッソがいて、その下にギンロウの顔。
パカンと口を開いたロッソが長い舌を伸ばし、俺の鼻をぺしりと叩く。
『オレンジとブドウ一房を忘れるなヨ。それとギンロウには骨付き肉ダ』
「覚えているに決まってるだろ。ギンロウにも腹いっぱい食べさせると約束したしな」
ロッソがな。なんて野暮なことは言わない。
さきに青果市場に寄った方がいいか。
何だか俺も腹が減ってきたよ。
◇◇◇
「――でな。俺さ、錬金術屋の息子として生まれたんだけど、どうにも錬金術の特性がなくてさ」
アマランタの街に到着するまでの間、ギンロウに俺のことをコンコンと語っていたら、ロッソが頭の上に乗っかってきて長い尻尾でベシベシしやがるんだよ。
「こら、ロッソ」
『オマエの話は長イ。オレにも同じことをしただろウ?』
注意したら舌を振り回し、そんなことをのたまいやがった。
「そうかなあ。長い人生、語ることはたくさんあるだろ?」
『長すぎて、何も頭に残ってなイ』
「マ、マジかよ……」
『短くまとめロ。必要なことだけ、かいつまんで。ほら、スタート』
「え、ええっと。そう言われるとそれはそれで難しいな」
う、うーん。
首を捻り顎に手を当てながらも、立ち止まらず歩き続ける。
俺と並ぶようにして歩くギンロウは、ポーションの効果があってか、脚を痛がる様子もなく時折尻尾を振りながらはっはと息を吐いていた。
よいなあ。犬も。いや、ギンロウは犬じゃあないんだけど、見た感じ精悍な銀色の大型狼って感じでさ。
ご機嫌に歩いている姿を見るだけでも癒される。前世で犬の散歩を毎朝の日課にしていたけど、俺の楽しみの一つだったんだ。
酷い状態の爪がよくなれば、思いっきり走ってもらいたいなあ……その時のギンロウの姿を想像すると楽しみで仕方ない。
おっといかんいかん。ロッソの課題をこなさなきゃ。
「よ、よっし。ギンロウ、ロッソ。まとめたぞ」
『おう、言ってみロ』
俺の頭から降りないまま、ロッソが大きな目をぎょろりと動かす。
「俺、ノエル。アマランタの街で錬金術屋の息子として生まれた。だけど、俺には前世の記憶がある。『装蹄師』ってスキルを持っていたのだけど、それだけじゃあ錬金術屋として食っていけなかった。だから、冒険者のワーカーとして生計を立てつつ、自分の城(牧場)を買おうとしていた」
『まだ長イ』
「これでも頑張ったのに!」
『時間切れダ』
バッサリと切り捨てられたところで、街の門が見えてきた。
ま、まあ。今全部を語り尽くす必要はない。これからずっと彼らと暮らしていくのだから。
俺は日本で馬の装蹄師見習いをしていた。蹄鉄は馬にとってとても大事なもので、蹄鉄の打ち方が悪いだけで最悪の場合は馬のソエに影響を及ぼし骨折してしまうことだってある。俺の師匠は蹄鉄の名人で、調子の悪くなった馬を診て何頭もの馬を元気にしてきた。師匠の仕事振りを見てさ、なりふり構わず弟子にしてくれと頼みこんで、師匠のところにお世話になることになったんだ。やっと少し仕事に慣れてきたころ、馬房に火事が発生して、悲痛ないななきをあげる馬たちを救おうと頑張ったんだけど、そのまま俺は――。
気が付くと赤ん坊になっていて、錬金術屋の息子として生まれ変わったことに気が付く。
前世の経験からなのか、俺は生まれながらに「装蹄師」スキルを持っていた。
「装蹄師スキル」錬金術の一種らしいのだけど、限定的過ぎてな……。
それでも、今世の両親はとても俺によくしてくれていて、装蹄師以外に錬金術の才能のなかった俺に「錬金術屋を継げ」とか「せめて店を手伝え」なんてことを言わなかった。
逆に「やりたいことをやれよ」と言ってくれてさ。
そこで俺は冒険者の中でも素材収集に重きを置く「ワーカー」となり、実家の錬金術屋に素材を納品したりして生計を立てていた。
結構儲かるんだよな。だから、元々動物好きだったこともあって、いつかは郊外に牧場を作ってそこで動物と囲まれて過ごしたいと思っていたんだ。
「ノエル。おい、ノエル」
「あ、ごめんごめん。昔のことをギンロウに語ろうとしていたら、思い出しちゃってな」
門番の青年から肩を叩かれ、ようやく自分が呼ばれていることに気が付く。
考え事をしながら歩いていたら、もう門の前まで来ていたんだな……。
とっても失礼なことをしてしまった。
「ギンロウ? そのワイルドウルフのことか?」
「うん。俺の仲間になったんだ。登録はこれからな」
「分かった。街に入ったら、まず登録に向かってくれよ。何かあってからだと面倒になる」
「了解」
門番へ向け右手をあげ、ギンロウとロッソと共に門の中に入る。
金髪のテイマーに蹴飛ばされたギンロウは、同じ人間である門番の男に対して特に敵意を見せず大人しいままだった。
人と出会う時にはもうちょっと気を使った方がよかったかもしれないと思いはしたが、ギンロウはどうも人間の区別がついているようで、人間そのものには敵意を抱いていない様子だ。
ほっと胸を撫でおろすと共に、賢い彼を撫でたくなりわしゃわしゃと首元を撫でまわす。
「わおん」
「ギンロウ。俺が君を絶対に一人前にしてみせる!」
目を細めるギンロウに笑いかけ、立ち上がった。
郊外に土地を買う事は一旦お預けだ。このままギンロウに悔しい思いをさせたくはないから。
ランクが低いから何だってんだ。ロッソだって立派に成長したんだぞ。
だから、ギンロウも必ず一人前になる!
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