魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ

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4.修行開始

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 食事の後、実家に戻り店舗奥にあった鉄のインゴットを少しだけ拝借してきたんだ。
 ギンロウとロッソを連れて、自室へ入り、さっそく彼の爪を作ることにした。
 いきなりギンロウを連れて帰ってきた俺に両親と妹は少しだけ驚いていたけど、「ノエルだからな」と何故か納得されてしまう。
 父は「これ以上連れてきたら家に入らなくなるぞ」と釘を刺してきたけど。
 内心で父にごめんと謝罪し、やっぱり牧場が必要だと改めて野望に火が付く。
 広いところで、たくさんと動物たちと戯れて……お、おっと。妄想に華を咲かせるまえにギンロウの爪だった。
 
 ギンロウは大人しく床にお座りして、ベッドに腰かける俺を見上げている。
 ロッソはすっかりギンロウが気に入ったようで、彼の頭の上に乗っかっていた。
 ギンロウの立派な毛皮にロッソがうずまっていて、カメラがあれば30連射くらいしてるかもしれないほど悶える光景である。
 
 マズイ、またしても目的を忘れるところだった。
 今度はちゃんと鉄の塊を握りしめ、目をつぶる。
 ギンロウの足に綺麗に揃った爪が伸びていることを思い浮かべ……魔力を体内に巡らせる。

「我が想いに応じ、形を変えよ」

 力ある言葉に応じ、魔力が鉄の塊に注ぎ込まれみるみる形を変えていく。
 鉄の塊はギンロウの足にぴったりの四本の爪に別れ、余った分は正方形に形を変える。
 
「よおっし。今付けてやるからな」

 損傷の一番酷いギンロウの右前脚から鉄の爪を装着してみた。
 お、バッチリだ。さすが「蹄鉄」スキルだぜ。細かいところは自動で調整してくれる。
 続いて、残りの足にも爪を装着した。
 
「どうだ? ギンロウ。軽く歩いて確かめてみてくれ」
「わおん」
 
 立ち上がったギンロウは左右にステップを踏み、前脚に力を込め飛び上がる。
 ドシイイイン!
 なんと、ギンロウは頭を天井にぶつけてしまった!
 
「軽く飛んだだけに見えたんだけど……この分だと爪はバッチリなようだな」

 尻尾をパタパタと振ったギンロウがはっはと舌を出し、俺の指先をペロペロと舐める。
 彼も喜んでくれているようだし、作ってよかった。
 これで、修行もやりやすくなるだろう。
 
 ◇◇◇
 
 俺は今、南東の山岳地帯に広がる森の中にきていた。
 ギンロウに爪を装着した翌日、準備を進め、そのままアマランタの街を出たんだ。もちろん目的はギンロウの修行である。
 まもなく日が暮れ始めるという時間帯だったけど、構いはしない。
 森まではゆっくり歩いて三時間くらいかかるから、到着したらすぐにキャンプをして翌朝から行動すればいいだけさ。
 そうそう、道中で何度も何度も顔が緩んでしまったんだよ。というのは、爪の効果かギンロウの動きが目に見えて変わったからだった。
 軽やかなステップを踏みつつ、高い位置にある枝を指し示したらぴょーんと飛び上がって葉っぱを口に咥えたりなんてこともやれたんだぞ!
 確かに爪が彼の足を補助したことは確かだ。でも、やっぱり彼自身の素質が優れていたからだと思うんだよ。つくづくあのテイマーは見る目がないな。
 毛並みも美しいし、言う事ないじゃないか。
 それともう一つ――。
  
「ありがとうな、エルナン」
「いや、僕もとても興味がある。ロッソの成長はペット屋の僕から見ても『有り得ない』のだから」

 大きなリュックを地面に降ろした長髪の青年――エルナンがふうと大きく息を吐く。
 彼は茶色の長い髪を後ろで結び、メガネの華奢な青年といった感じで、一見すると魔法学園の学徒にも見える。
 ペット屋の倅である彼は、ペット界きっての知性派として最近名前が売れてきていた。
 山籠もりに当たって彼に協力を仰いだところ、忙しい合間を縫って付き添いをしてくれることになったんだ。
 
『そうなのカ?』

 俺の肩までするすると登ってきたロッソが長い舌を出し首を上にあげる。
 
「そうだとも。どのように鍛えたのか、学習させたのか、不明。ノエルに聞いても一緒に生活していただけ、ときたものだ。ロッソ、君はもはやペットリザードの枠を大きく逸脱しているのさ」
「おいおい、エルナン。まるでロッソが変な奴みたいな言い方じゃないか」
「逆だよ。ノエル。素晴らしい! 君がギンロウを育てると言って、山にこもるとなればどれだけ僕が興味を惹かれたか分かるかい?」

 鼻息荒く前のめりになるエルナンからは、普段の知的さの欠片もない。
 自らの好奇心と欲望に身を任せた彼に苦笑する。
 
「仕事もあるのに来てもらって悪いな」
「非常に残念なことだけど、僅か三日間しかここに留まることができない。その間、ギンロウとロッソのケアは任せてくれ。朝晩、ステータスと健康状態の診断を行おう」
「俺もこうして山籠もりして積極的にモンスターを狩ることは初めてだからな。気が付かないところで体に異常があったなんてことがあると事だ。助かる」
「まずはギンロウとロッソ、ついでに君のステータスを鑑定しておこうか」 

 メガネをくいっとあげ、小さく肩を竦めるエルナン。
 俺はギンロウを鍛え上げるため、山岳地帯に広がる森へとやってきた。
 これまでロッソと一緒に何度も冒険に出かけたことがあるし、モンスターを倒したことだってある。
 だけど、ブートキャンプなんてものは始めてだ。
 ガンガンモンスターを倒し鍛え上げた場合、どのような成長をするのか俺にとって未知数である。
 だからこそ、ペットの事に詳しいエルナンを誘ったんだよ。
 といっても、獣魔ペットを成長させる方法として、モンスターを倒し経験を積ませることは最も一般的なやり方だ。
 ロッソが喋ることができるようになったのも、道すがらモンスターを倒したからなんじゃないかとはエルナンの言である。
 
 中腰になりはっはとお座りするギンロウの背中を撫でたエルナンは、彼の頭に手をかざす。
 次に懐からメモ帖を取り出したエルナンは、サラサラと何やら書き込んだ。
 続いてロッソ、そして最後は俺の順にエルナンが手をかざし、メモ帖に書き込みを行う。
 
「できたよ」
「お。これがステータスか」

 どれどれ。
 おおお。冒険者カードより詳しく出るんだな。
 詳しく表示されるのは、エルナンの鑑定技術が高いだからかもしれないけど。

『名前:ギンロウ
 種族:ワイルドウルフ
 獣魔ランク:D+
 体力:45
 魔力:0
 スキル:無
 体調:良好
 状態:ノエルに懐いている』
  
『名前:ロッソ
 種族:ペットリザード
 獣魔ランク:C-
 体力:15
 魔力:0
 スキル:変化、言語、嗅覚(鉱物)
 体調:空腹
 状態:フルーツが食べたい』
 
『名前:ノエル
 職業:ワーカー
 ランク:B-1
 ペット:ロッソ
     ギンロウ』
 
「あれ、俺だけ冒険者カードと同じ表示じゃないか……」
「そこは僕の鑑定技術の低さだね。君の状態はついでだから構わないだろ?」

 エルナンはメモ帖を懐にしまい込みながら、苦笑する。

「おう。俺の状態は次回から鑑定しなくて問題ない」
「一度、ステータス鑑定の専門家に見てもらってもいいかもしれないよ。君には隠されたスキルがあるように思えてならないんだ」
「ん、時間がある時に行ってみるよ。でも、鑑定って高いんだよな?」
「まあ、そうだね。簡易的な鑑定になると途端に安くなるんだけど、ほら、スクロールや魔道具があるだろう」
「確かに。魔道具は欲しいと思っている。ペットの体調管理に使いたい」

 よおっし!
 食糧は本日分のみ。明日からは全て狩りで補わなければならない。
 もちろんこれはワザとそうしている。食べるための狩りこそ、生きるための基本だから。
 ギンロウにはモンスターを倒すだけでなく、日々の糧を得ることも覚えてもらいたい。
 
 人が明日からのことに気合を入れているというのに、ロッソときたら俺のリュックに潜り込んでゴソゴソし始めたじゃないか。
 そういや、ステータス鑑定で「腹が減っている」とか出ていたっけ。
 
「ロッソ、オレンジを出してやるから、外に出てきてくれ」
『そうカ』

 リュックから顔だけを出したロッソを引っこ抜き、彼にオレンジを与える。
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