魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ

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10.古代遺跡に向かうのだ

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 ギルドマスターとアルトらの会話には全く興味が無かった俺は、すぐにカウンターから離れ、冒険者ギルドに併設されているお食事処に向かう。
 ここは冒険者ギルドの中にあるだけに、ペット同伴でも食事をすることができる。
 
「エルナンは来ているかなあ?」
 
 キョロキョロと席を見渡すと涼やかな顔をした待ち人と目が合った。
 品のある知的な雰囲気は学者のようにも見える。
 彼こそやり手のペット屋ことエルナンだ。
 
「やあ。ノエル」
「忙しい中、協力してくれてありがとうな」
 
 彼の対面に腰かけつつ、ギンロウとロッソの修行につきあってくれたことに対し改めて礼を述べる。
 ところが彼は柔和な笑みを浮かべながら、小さく首を横に振った。
 
「とてもいいものを見せてもらったからね。あの後も修行をしたんだろう?」
「うん。ギンロウとロッソの才能は素晴らしいよ!」
「それは……いや、僕から言うことじゃあないか。そうだね。ギンロウとロッソの二人は大きな可能性を秘めていた」
「うんうん。あ、これ、ありがとう」

 片眼鏡をコトリとテーブルの上に置く。

「まずは(食事を)注文しようか。ほら、ロッソが目を覚ました」
「全く、ロッソのやつはちゃっかりしてるなあ」
『ブドウがいイ』
 
 エルナンと目を合わせ苦笑し合う。
 ギンロウとロッソの分も含め、食事を注文する俺とエルナンであった。
 
 ◇◇◇
 
 可愛いウェイトレスの女の子にお食事の注文をしたのだが、何故か筋骨隆々なスキンヘッドのおっさんが料理を持ってきた。

「よお、ノエル。さっきは手間かけたな」
「何もマスター自らが料理を持ってこなくても。俺だってマスターを出汁にしちゃったわけだから、お互い様だって」

 スキンヘッドのおっさんこと冒険者ギルドマスターは、ガハハと豪快に笑いながら料理をテーブルの上に置く。
 冒険者は自分の体一つで生活している人たちだから、個性の強い人も多い。
 そんな冒険者たちにちゃんとルールを守らせ、取り仕切っているのだからギルドマスターは相当な実力者だと言えよう。
 何のかんので冒険者たちから一定の信頼を得ているしな。
 俺も例外じゃあない。何か問題があった時は彼に頼ると大概無難に収めてくれるのだから。
 きっとアルトたちともちゃんと交渉を済ませてきたのだろう。
 
「そいつは俺のおごりってことにしといてくれ。あいつら、いろいろ難ありなんだが、ああ見えてそれなりに強いんだぜ」
「いけ好かない奴らだけど、まあ、そうなんだろうなと想像はつくよ」

 アルトたちって、傲慢で自信家で自己顕示欲がやたらと強い……と問題な奴らなんだけど、ある意味ストイックなところもあると思う。
 彼らの装備はぱっと見ただけだからハッキリとは分からないけど、相当良いものを使っている。
 それもアルトだけじゃなく、パーティメンバー全員だ。
 自分たちが揃えることができる最高の装備を整えて、モンスター討伐に向かう。
 あれだけの装備を揃えるには相当な資金が必要になってくる。彼らは、稼いだお金を惜しげもなくつぎ込んでいるに違いない。
 命を削って稼いだお金を右から左に自分の強さを磨き上げるための装備につぎ込めるなんて中々できることじゃあない。
 俺は絶対に真似をしたくないけどね。
 まあ、そんなわけでアルトらの冒険者ランクが高いのも実力の賜物なのだろう。
 
「一応あいつら、Aランクパーティなんだが正直、Sランクを任せるには……ってとこなんだ」
「へえ。アルトはSランクだって言ってたよな、確か」
「アルト以外は全員Aランクだな。つってもパーティとなると話は別だ。お前さんはソロだから実感がないと思うがな」
「そんなもんか」

 パーティもいろいろあるんだなあ。
 俺は採集中心のワーカーだし、冒険者稼業は実家の手伝いと資金集めのためだからパーティを組んだことはない。
 他の人と目的も合わないだろうし、俺が合わせるつもりもないからなあ。
 だから、ソロが気楽でよいのだ。
 一つ断っておくが、決して友達がいないからじゃあないぞ。
 
「パープルボルチーニの依頼を受けたところ悪いんだが、俺からの特別依頼を受けてくれねえか? もちろん無理にとは言わねえ。冒険者は命あっての物種だからな」
「ん?」
「アルトたちの追跡をしてくれねえかと思ってな」
「あいつらが嘘をついて依頼を達成したとかやりそうなのか?」
「それはない。あれらは性格に難ありだが、ああ見えて強さにストイックな奴らだ。ストライカーとしてある種の誇りは持っているぜ」
「なら、別に俺が監視しなくても」
「やばそうだったら、目くらましの一発だけでもかましてきてくれねえかなと思ってよ。それならあいつらだって逃げ切れるだろ」
「それくらいなら、いいけど……俺が逃走できなくなってしまうこともないか?」

 全く……ソロのBランク冒険者にSランク依頼を後ろから見てこいなんて無茶だと思わないのかね?
 呆れたように肩をすくめてみせたが、そんな態度で騙されるハゲではない。
 俺の様子などまるで気にした様子もなく、あっけらかんと言葉を紡ぐ。

「お前さんなら平気だろ。お前さんとロッソのコンビは『生き残る』ことにかけちゃあ、中々なもんだと思うぜ」
「他の冒険者はいないのかよ……俺はBランクだぞ」

 俺のランクを知らないわけじゃあないし、覚えていないわけもないだろうこと重々承知しているが、文句の一つでも言わせてもらいたい。
 対するマスターはぐるりと首を回し顎に手をやり苦笑する。

「生憎この場にいる冒険者で、俺が信頼できるのはお前さんだけだ。夜になったら他の候補も来るだろうが、それじゃあ遅い」
「危なそうだったら、何もせずに逃げてしまうかもしれないけど、いいのか?」
「もちろんだ。命あっての冒険者だろ。無理な願いをしているのは重々承知だ」
「分かった」

 今度はワザとではなく自然と肩を竦め、眉間に皺を寄せつつ頷く。
 一方でマスターは人好きのする笑顔を浮かべ、ポンと俺の肩を叩いた。
 去り際に彼は一枚の依頼書を机に置き、「頼んだぞ」と言い残し奥に引っ込んで行く。
 
「エルナン、そんなわけで食事をしたらすぐに出る」
「どこに行くんだい?」
ザ・ワン古代遺跡だとよ」
「くれぐれも気を付けて」
「分かってる。マスターも言っていただろ。命大事に、だ」

 はははと苦笑し、依頼書を眺めつつ食事をとる俺なのであった。
 
 ◇◇◇
 
 食事をとった俺たちは、素材やらの荷物を冒険者ギルドに預けてすぐに街を出る。
 元日本人な俺だから断りきれずにマスターの頼みを聞いたってわけじゃあない。
 冒険者というのは、自分の健康が資本の肉体労働者だ。それも、危険と隣り合わせの。
 だから、ここまでなら大丈夫と判断する能力が自分の強さを高めることより肝要である。

 今回、マスターの頼みを受けたのも善意からだけではない。もちろん、今後彼らから感謝されることよってよい案件を回してもらえるという下心が無いと言えば嘘になる。
 だけど、そこは受領を決めた理由じゃあない。向こうだって、俺が断ったからといって次回から俺を冷遇することなんてない。先述した通り、冒険者ってのは自分の体を第一に考えなきゃいけないからな。彼らだって、新人冒険者にそう説明している。
 マスターも俺にそう言っていただろ?

『遺跡だったカ』
「お、ちゃんとエルナンと俺の話を聞いていたんだな。ギンロウに遺跡を見せるのもよいかなと思ってさ」
『天井がある戦いの練習カ』
「モンスターと出会ったらな。探し回ってまで戦う気はないよ」

 依頼を受けた理由はギンロウとザ・ワンに行きたかったこと。ザ・ワンは俺の知る限り最大規模の古代遺跡だ。
 ザ・ワンはアマランタの街を出てしばらく東へ進んだあと、街道を外れ北東に進んだ地点にある。
 俺は遺跡が嫌いじゃあない。アマランタの街ができるはるか昔に打ち捨てられた大都市。過去の人々の生活が垣間見える廃墟はピラミッドなんかを観光するに似ている。
 歴史探訪って楽しいものなんだよね。
 ザ・ワンは広大な面積を誇り、地下部分が迷宮のようになっている。未だに全てが踏破されたわけじゃあなく、今でも尚古代の遺物――アーティファクトと呼ばれるものが持ち帰られているほどだ。

「のんびりと行こうぜ。行き先はだいたい分かっているしさ」
『地図でもあるのカ』
「うん。マスターが詳しく書いてくれているからな。アルトらが何を討伐しに行くのかも分かってる」
『そうカ。なら、フルーツが食べたイ』
「のんびりすると言ったが、今すぐ休むってわけじゃあないからな」

 リュックの上まで上がってきたロッソに向け、しっしとばかりに手を振る。
 ロッソも少しはギンロウを見習ったらどうなんだ?
 彼は尻尾をフリフリしながら、ご機嫌に前を進んでいるぞ。
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