魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ

文字の大きさ
11 / 39

11.後をつけるだけの楽なお仕事

しおりを挟む
 さすがに疲れたな……。
 街を出てからアルトたちに追いつくため、ジョギングより少し早いペースで進んだ。
 彼らの後ろ姿を遠目で確認できてからはペースを落とし徒歩となった。
 その後、彼らと着かず離れずで進んできたんだけど、彼らずっと休まないなんだよなあ。
 あれよあれよという間に結局休むことなく、ザ・ワンの外周部まで来てしまった。
 すっかり暗くなったというのに、彼らはペースを落としつつもまだ動いている。
 そろそろ休めばいいのに……。
 恨めしい目で彼らを見るものの、状況が変わるわけでもなし。俺たちも進むしかない。
 
 そうそう、途中でアルトたちがモンスターに遭遇しないかなあと期待していたけど、残念ながらここまで彼らの戦闘を見ることはできなかった。
 俺たちも同じくだったけどね。
 いや、正確には違う。モンスターに出会いはしたけど、友好的で素敵な出会いをしたんだ。
 もうこれだけで、マスターの無理なお願いを聞いてよかったと思えるほどの。

「くあー」
 
 空から鳥の鳴き声が響く。
 お、また降りて来るのかな?
 空から弧を描きつつ一羽の鳥が降りてきて俺の肩にとまる。
 深紅の羽と長い尾を持つこの鳥の名はファイアーバードという。カラスより二回りくらい大きくて、俺の肩にとまると首を横にしないと収まらないくらいのサイズがある。
 一応モンスターの一種なんだけど、名前と裏腹に炎を口から吐きだしたりはしない。
 ファイアバードは一般的に警戒心が強く、人間サイズの生き物を襲うことはないと記憶している。だけど、個体差が大きく、凶暴な個体は人間であっても鋭い爪で空から強襲してきたりと油断していると大怪我をしてしまうことも。
 道中で出会ったこのファイアバードは人を恐れず好奇心旺盛で、俺たちの目の前に降り立ったんだ。
 そこで、持っていた干し肉をあげてみたらあっさりと懐いたってわけ。
 それで味をしめたのか、ついに俺の肩にとまるまでになった。ちなみに降りてきたのはこれで三度目である。
 用意していた干し肉を懐から出して、ぽいっと地面に放るとファイアーバードは俺の肩を蹴り地面に降り立った。
 彼はぴょんぴょんと跳ねるように進み、干し肉をついばみ始める。
 
『オレもフルーツをよこセ』
「アルトたちが止まったらな」

 リュックの上に乗っかったロッソが長い舌を伸ばしペシペシと俺の頬を叩く。

『もう止まっタ』
「お、ほんとだ。じゃあ、俺たちも休むか」

 ようやくだ。
 アルトたちが暗くなってもうろうろしていたのは、最適な野営地を探すためだったのかな?
 
 んー。煮炊きをするとさすがに彼らも気が付くよな。
 彼らと俺たちの距離はおよそ200メートルと言ったところ。瓦礫や半ばで崩れ落ちた建物、半ばほどから上が風化して無くなってしまった石柱なんて遮蔽物もあるけど、火の灯りはさすがに目立つ。
 ギンロウの鼻もあるし、本気で走れば追いつける。だから、もっと彼らから離れてもいいんだけど、一度止まると疲労していることもありもう動きたくなくなってしまった。
 仕方ない。煮炊きをせず食事を済ますことにしようか……。
 
「このままここで夜明けまで過ごそうか」
『分かっタ』

 リュックからぴょーんと飛び降りたロッソは顎をあげ上に向け長い舌をピンと伸ばす。
 これは「はやく餌を寄越せという」彼なりのアピールである。
 苦笑しつつリュックを地面に降ろし、リンゴを一個地面に転がした。

「ギンロウ」
「わおん」

 お次はギンロウにリュックの三分の一ほどの大きさがある骨付き肉を与える。
 ガツガツと肉を食べ始めた彼の頭をナデナデし思わず頬が緩んでしまう。
 ぐううう。
 しかし、癒しより俺の体ははやく食事をとることを求めてしまったようだ。
 それじゃあ俺の分をと、干し肉とパンを取り出したらじーっとファイアーバードが俺を見つめてくるではないか。

「もう食べちゃったのか?」
「くあー」

 仕方ねえなあ。
 つぶらな瞳でせがまれたら断れないぞ。
 ファイアーバードに向け持っていた干し肉を投げると、彼は嬉しそうに深紅の翼を震わせ鋭い嘴で肉をついばむのだった。
 パンと水だけになってしまったけど、みんなが美味しそうに食べている姿を見ると疲れも吹き飛ぶってものだ。
 
「ギンロウ、ザ・ワンはとても広いんだぞ。瓦礫ばかりだけど、ところどころに地下へ繋がる階段や抜け穴があるんだ」
『ギンロウは喋らないゾ』
 
 リンゴに張り付きながらもロッソの突っ込みが入る。

「でも、きっと彼には通じていると思っているって言ったじゃないか、ほんとにもう」

 な、とばかりにギンロウの背を撫でたら彼は「わおん」と声を出して応じた。
 ほら、分かっているじゃないか。

「ザ・ワンはな。アマランタの街ができるずっとずーっと前からあって、もうどれだけ前からあるのか分からないんだ」
『昔は誰かが住んでいたのだよナ』
「そうそう。時折見つかるアーティファクトと呼ばれる古代の遺物から、今より優れた魔法文明を持っていたことは確実だな。うん」
『珍しいフルーツはないのカ?』
「あったとしても……さすがに枯れているだろ。種くらいならあるかもしれないけど……」
『探すのカ』
「ま、また今度な」

 何百年、いや何千年前の植物の種が見つかったとして、ちゃんと芽が出るか怪しいもんだ。
 ロッソの夢を壊したくないから、ここは黙っておくのが吉だろう。
 ザ・ワンは大半が土に埋まっていて、地上に出ているのは遺跡の一部である。それでも、遺跡の外周と言われる地上部の面積だけでもアマランタの街と比べ四倍くらいの広さがあるんだぞ。一体過去にどれくらいの人がここに住んでいたのだろうなあ。
 少なくとも百万人は軽く超えるだろう。今の俺たちはかつての姿を想像し偲ぶことしかできない。これもまた古代遺跡の魅力だよな。うん。
 
『ノエル』
「ん?」
『あいつらは何しに行くんダ?』
「『フェイス』と呼ばれるモンスターの討伐だよ」
『モンスター討伐なのカ。つまらないナ』
「そうだよな。フルーツ採集の方がよほど楽しいだろうに」

 「ロッソ限定だけど」とは言わずにおく優しい俺である。
 冗談のつもりで言ったんだけど、ロッソは上機嫌になって『そうだナ』とご満悦の様子。
 こいつは次の冒険にフルーツ採集を組み込まないとご立腹しそうだな……。
 ちょうどパープルボルチーニ採取の依頼も受けたことだし、ついでにフルーツ採集もすればよいか。
 しかし、ロッソの奴、これから向かい合うことになるかもしれないモンスターについてはまるで興味がないんだな。
 どれだけ強いモンスターなんだとか聞くのが常ってもんじゃないのか?
 仕方ない。ロッソの頭の中は食べ物のことでできているから……。
 フェイスはその名の通り人面の顔だけの動く石像のようなゴーレムの一種で、なかなかの強敵だ。
 単独だとAランクの依頼になるらしいのだけど、今回は複数いたとの目撃証言があった。
 なので、複数帯のフェイス討伐依頼となりランクはSに位置付けられたとのこと。
 
「ま、今の俺たちなら心配することもないだろう。倒す必要もないし」

 一発かますだけでいいんだろ。
 それなら、遠くからロッソに変化を頼んで光の矢でどーんしたら終わりだ。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...