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18.物件購入の巻
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翌日、さっそくギルドマスターに紹介してもらった不動産屋へ足を運ぶ。
あれ? ここって以前に何度か行ったことのある不動産屋だ。確か樽のようなお腹をした店主が切り盛りしていたはず。
確か……店の裏手にちょっとした厩舎があってそこにロバがいたんだよね。
お店に入る前に裏手をチラリと覗きこんでみたら、予想通り小さな厩舎があった。小さくてもよく手入れされていて飼い葉もちゃんと取り換えられている様子が窺える。
お、いたいた。
飼い葉を食むロバの姿を目にとめると、もう居ても立っても居られなくなってしまう。
「ロッキー、元気にしてたか?」
「ひひん」
ロバのたてがみを撫で、微笑みかける。
うん。よく手入れされていて、いい状態だ。店主なのか、彼の家族なのか分からないけど、大事にされているんだなと分かると嬉しくなってくる。
「ちょっと、何をしているのよ」
「あれ? ミリアム」
「マスターに頼まれて、あなたの世話をすることになったのよ」
「世話って……。土地を見に行くだけなんだけど」
「これよこれ」
金髪の短い髪を揺らし、腰に手を当てたミリアムが呆れたようにため息をつく。
続いて彼女はでーんと羊皮紙を俺に向けた。
「目録?」
「そう。あなたが昨日マスターに預けた荷物があったでしょ。あれの買い取り価格一覧表よ」
「お、おう。それは後で。まずは土地だ」
「そう言うだろうとマスターが言ってて。だから、あなたについていくことにしたのよ」
「ん?」
「まあいいわ。トネリコさんがお待ちよ。早く行きましょう」
ぐいっと手を掴まれ、ぐいぐいと引っ張ってくるミリアムにたじろきならがも、彼女に連れられ不動産屋に入る。
◇◇◇
樽のようなお腹をした不動産屋の店主ことトネリコ(とついでにミリアムも)に連れられて、街の東北部へ。
街の東北端は外壁がなく、小高い丘になっている。ぐるっと街の外から回り込む形にはなってしまうけど、ウネウネと曲がりくねった細い道が整備されていて最上部には、ちょっとしたベンチと石碑が置かれているんだ。
そこは街の景色が一望できて人気の散歩コースになっている……らしい。でも野生がそのまま残されているから、イノシシだけじゃなく稀に熊も出るから注意とのこと。
えらくワイルドな散歩コースだな……子供たちだけで向かうと大変なことになってしまいそうだ。
そんなわけで、街の東北端である。
商店街からは遠いし、途中から石畳の道も無くなってしまう。
雑草も生え放題で、ポツンと黄色の壁、青い屋根の一軒家だけが建っていた。
いや、一軒家って立派なものじゃあないな。ログハウスとプレハブを足して二で割ったような……ああ、キャンプ場にある四人用くらいのバンガローに近い。
「いかがでしょうか?」
「街の外れはここだけでしたっけ? ポツポツとあったと思うのですが」
「はい。ございます。以前、見て頂いた場所よりこちらの方がオススメなのですよ」
「おお。そうなんですか!」
「はい。そうなんです。こちらの方が必ずノエルさんのご希望に沿うはずです」
樽のような腹をポンと叩き、口髭をあげた店主が自信満々に告げる。
俺は以前から郊外に牧場を作りたいと希望していたから、彼へ相談したことは一度や二度ではない。
その店主がオススメだと言うのだ。きっと何かあるに違いない。
以前、「これだ」と目をつけていた物件は、ここと似たような感じだったけど家から入口までの道が整備されていた。
雑草の勢いもこちらの方があるなあ。草は刈ればいいだけだけど、それでも元から少ない方が扱いやすい。
一見すると、目をつけていた物件の方がいいように思えるが……。
「ギンロウ、何か嗅ぎ取ったのか?」
ううむと腕を組み、何があるんだろうと訝しんでいたら、ギンロウが鼻を上に向けヒクヒクと何かを嗅ぎ取った様子だった。
彼はうずうずしているのか、お座りの姿勢で前脚をピクピクと震わせている。
「ギンロウ、ここなら思いっきり駆け回ってもいいぞ!」
「わおん」
俺の合図を鏑矢に、ギンロウが飛び出していく。
大型犬より二回り大きな彼であったが、長い雑草に背中付近まで体が隠れていた。
彼が動くたびに、雑草が道になったかのように揺れ動き、ちょっと癒される。
「広さは十分だと思います。牛でも馬でも二十頭くらいでしたら飼育できますよ」
「どこからどこまでが販売している土地になるんですか?」
「この辺は買い手も居ませんし、あの林の奥が五メートルほどの崖になっておりまして、そこまでです」
「左右は?」
「林の奥にある崖は小屋を中心にして右手に折れています。右はそこまで。左は、行けば分かります」
つまり、街から見たら北側が崖になっていて、東に折れている。
西は行ってからのお楽しみってわけか。
一人で管理できる限界以上に広さもあるから、この点は合格だな。うん。
てくてくと歩くこと20分と少し。
林の面積が思った以上にあるんだ。林の中にある植物も使いたい放題ってのがいいね!
「わおおおん」
ギンロウの吠える声が聞こえる。
随分と勢いよく走っていったなあと思っていたけど、こんなところまできていたんだ。
ん、んん。
音か。
注目していなかったけど、耳をそばだてたらサラサラと水が流れる音が聞こえてくるじゃあないか。
「まさか、小川が流れているんですか!」
「そうです。動物と一緒に暮らしたいというノエルさんにはピッタリだと思いまして」
「すげえええ! こいつは予想外だ! 是非、ここを購入したいです!」
「はい。何度も来てくださりましたし、今後、何か改築のご相談も『トネリコ不動産』へ最初にご相談に来ていただけるという条件でお値引きしますよ」
「ありがとうございます!」
「一つ、一応ですが……。最初にご相談といっても、何も私の店で決める必要はありませんので。あくまで何かあったらまずご相談へ、だけです。正直申し上げますと、ただの口約束です。私はあなたの夢が素敵だなと思い、ずっとあなたが資金をためていることも知っています。ですので、ご祝儀みたいなものだと思っていただければ」
「はい!」
「妻には、先ほど申し上げた体裁で言っておいてくださいね」
タハハと腹をポンと叩く店主が苦笑いする。
それを言ったらダメだろお。でも、俺は不動産を購入するなら「トネリコ不動産」だと決めていた。
店主のトネリコは親身になって俺の話を聞いてくれたし。彼の奥さんもいつもニコニコして、お茶を持ってきてくれたものだ。
「小川を見に行ってもいいですか?」
やっぱり居ても立っても居られないぜ。
「是非、ご覧になってください。お仲間はもう水浴びをしているようですよ」
水浴びかあ。俺もそのまま水浴びをしたいところだけど、まだ手続きやらが残っているからな。
今日中に全部済ませたいので、我慢、我慢。
喜び勇んで小川まで行ってみると、水浴びを終えたギンロウが岸にあがってきてプルプルしているところだった。
崖の方から水が流れてきていて、下流に行くと最終的に海へと繋がっているのかな?
それか、街の方へ到達する前に地下に入って行っているのかもしれない。
川幅は五メートルほどとささやかなものだったけど、水浴びするには必要十分だ。この分だと井戸も枯れずにちゃんと仕えそうだな。
『水の匂いがすル』
「お、ロッソ。起きたのか」
パチリと目を覚ましたロッソを地面に降ろしてやる。
彼は水際には行こうとせず、ぷるぷるが終わったギンロウから垂れる雫をじーっと眺めていた。
後からきた店主が人好きのする笑顔を浮かべながら、問いかけてくる。
「どうですか?」
「期待以上です! おいくらになるんですか?」
「42万……いえ、40万でどうですか?」
お、おお。ルビーを売れば足りる金額だな。
そこでずっと黙ってついてきていたミリアムが口を挟む。
あれ? ここって以前に何度か行ったことのある不動産屋だ。確か樽のようなお腹をした店主が切り盛りしていたはず。
確か……店の裏手にちょっとした厩舎があってそこにロバがいたんだよね。
お店に入る前に裏手をチラリと覗きこんでみたら、予想通り小さな厩舎があった。小さくてもよく手入れされていて飼い葉もちゃんと取り換えられている様子が窺える。
お、いたいた。
飼い葉を食むロバの姿を目にとめると、もう居ても立っても居られなくなってしまう。
「ロッキー、元気にしてたか?」
「ひひん」
ロバのたてがみを撫で、微笑みかける。
うん。よく手入れされていて、いい状態だ。店主なのか、彼の家族なのか分からないけど、大事にされているんだなと分かると嬉しくなってくる。
「ちょっと、何をしているのよ」
「あれ? ミリアム」
「マスターに頼まれて、あなたの世話をすることになったのよ」
「世話って……。土地を見に行くだけなんだけど」
「これよこれ」
金髪の短い髪を揺らし、腰に手を当てたミリアムが呆れたようにため息をつく。
続いて彼女はでーんと羊皮紙を俺に向けた。
「目録?」
「そう。あなたが昨日マスターに預けた荷物があったでしょ。あれの買い取り価格一覧表よ」
「お、おう。それは後で。まずは土地だ」
「そう言うだろうとマスターが言ってて。だから、あなたについていくことにしたのよ」
「ん?」
「まあいいわ。トネリコさんがお待ちよ。早く行きましょう」
ぐいっと手を掴まれ、ぐいぐいと引っ張ってくるミリアムにたじろきならがも、彼女に連れられ不動産屋に入る。
◇◇◇
樽のようなお腹をした不動産屋の店主ことトネリコ(とついでにミリアムも)に連れられて、街の東北部へ。
街の東北端は外壁がなく、小高い丘になっている。ぐるっと街の外から回り込む形にはなってしまうけど、ウネウネと曲がりくねった細い道が整備されていて最上部には、ちょっとしたベンチと石碑が置かれているんだ。
そこは街の景色が一望できて人気の散歩コースになっている……らしい。でも野生がそのまま残されているから、イノシシだけじゃなく稀に熊も出るから注意とのこと。
えらくワイルドな散歩コースだな……子供たちだけで向かうと大変なことになってしまいそうだ。
そんなわけで、街の東北端である。
商店街からは遠いし、途中から石畳の道も無くなってしまう。
雑草も生え放題で、ポツンと黄色の壁、青い屋根の一軒家だけが建っていた。
いや、一軒家って立派なものじゃあないな。ログハウスとプレハブを足して二で割ったような……ああ、キャンプ場にある四人用くらいのバンガローに近い。
「いかがでしょうか?」
「街の外れはここだけでしたっけ? ポツポツとあったと思うのですが」
「はい。ございます。以前、見て頂いた場所よりこちらの方がオススメなのですよ」
「おお。そうなんですか!」
「はい。そうなんです。こちらの方が必ずノエルさんのご希望に沿うはずです」
樽のような腹をポンと叩き、口髭をあげた店主が自信満々に告げる。
俺は以前から郊外に牧場を作りたいと希望していたから、彼へ相談したことは一度や二度ではない。
その店主がオススメだと言うのだ。きっと何かあるに違いない。
以前、「これだ」と目をつけていた物件は、ここと似たような感じだったけど家から入口までの道が整備されていた。
雑草の勢いもこちらの方があるなあ。草は刈ればいいだけだけど、それでも元から少ない方が扱いやすい。
一見すると、目をつけていた物件の方がいいように思えるが……。
「ギンロウ、何か嗅ぎ取ったのか?」
ううむと腕を組み、何があるんだろうと訝しんでいたら、ギンロウが鼻を上に向けヒクヒクと何かを嗅ぎ取った様子だった。
彼はうずうずしているのか、お座りの姿勢で前脚をピクピクと震わせている。
「ギンロウ、ここなら思いっきり駆け回ってもいいぞ!」
「わおん」
俺の合図を鏑矢に、ギンロウが飛び出していく。
大型犬より二回り大きな彼であったが、長い雑草に背中付近まで体が隠れていた。
彼が動くたびに、雑草が道になったかのように揺れ動き、ちょっと癒される。
「広さは十分だと思います。牛でも馬でも二十頭くらいでしたら飼育できますよ」
「どこからどこまでが販売している土地になるんですか?」
「この辺は買い手も居ませんし、あの林の奥が五メートルほどの崖になっておりまして、そこまでです」
「左右は?」
「林の奥にある崖は小屋を中心にして右手に折れています。右はそこまで。左は、行けば分かります」
つまり、街から見たら北側が崖になっていて、東に折れている。
西は行ってからのお楽しみってわけか。
一人で管理できる限界以上に広さもあるから、この点は合格だな。うん。
てくてくと歩くこと20分と少し。
林の面積が思った以上にあるんだ。林の中にある植物も使いたい放題ってのがいいね!
「わおおおん」
ギンロウの吠える声が聞こえる。
随分と勢いよく走っていったなあと思っていたけど、こんなところまできていたんだ。
ん、んん。
音か。
注目していなかったけど、耳をそばだてたらサラサラと水が流れる音が聞こえてくるじゃあないか。
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「そうです。動物と一緒に暮らしたいというノエルさんにはピッタリだと思いまして」
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「ありがとうございます!」
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「はい!」
「妻には、先ほど申し上げた体裁で言っておいてくださいね」
タハハと腹をポンと叩く店主が苦笑いする。
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店主のトネリコは親身になって俺の話を聞いてくれたし。彼の奥さんもいつもニコニコして、お茶を持ってきてくれたものだ。
「小川を見に行ってもいいですか?」
やっぱり居ても立っても居られないぜ。
「是非、ご覧になってください。お仲間はもう水浴びをしているようですよ」
水浴びかあ。俺もそのまま水浴びをしたいところだけど、まだ手続きやらが残っているからな。
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崖の方から水が流れてきていて、下流に行くと最終的に海へと繋がっているのかな?
それか、街の方へ到達する前に地下に入って行っているのかもしれない。
川幅は五メートルほどとささやかなものだったけど、水浴びするには必要十分だ。この分だと井戸も枯れずにちゃんと仕えそうだな。
『水の匂いがすル』
「お、ロッソ。起きたのか」
パチリと目を覚ましたロッソを地面に降ろしてやる。
彼は水際には行こうとせず、ぷるぷるが終わったギンロウから垂れる雫をじーっと眺めていた。
後からきた店主が人好きのする笑顔を浮かべながら、問いかけてくる。
「どうですか?」
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