魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ

文字の大きさ
30 / 39

30.コースター

しおりを挟む
「う、うおおお。速い!」

 フルーツを探すってことで、さっそくカンガルーなヨッシーの背に乗せてもらったわけだけど……。
 人間なんて比べ物にならない速度で走ることができるんだな。
 ぴょんぴょん跳ねる動きだから揺れが物凄い。時折太い枝の上にまでジャンプして更に高く飛び上がるものだから、視界の動きもめぐるましい。
 ギンロウはもちろん地面を駆けているわけだけど、この速度でも悠々とついてきている。
 もし、彼が俺たちを見失ったとしても匂いで探り当てることができるので、迷子になる心配もない。
 もっとも、今は俺たちがギンロウの後をついて行っている形ではあるのだが。
 
「ヨッシー。ギンロウを見失うなよー」
『もちろんっす! あの巨大な魔力、見失うはずがないっす!』
「ギンロウの鼻ですぐにフルーツは見つかるはず。今も迷いなく進んでいるから、すでに見つけていると思う」
『フルーツ』

 ひょこっとリュックから顔だけ出して、それだけを呟きすぐにリュックの中に引っ込むロッソであった。
 激しく三半規管と胃を揺さぶられること10分くらいだろうか、見事なリンゴの木を発見する。
 ちゃっかり出て来たロッソが俺の肩を伝って木に登ろうとしたので、後ろからむんずと掴み押しとどめた。

「みんなで食べるんだろ」
『採るだけダ』
「俺がとるから待ってろ」
『……ッチ』

 絶対にそのままかじりつくつもりだっただろ!
 そうはさせないぜ。20個ほどリンゴを採取し、亀を放置してある湖に戻る。
 
 ◇◇◇
 
 亀の肉は硬い。そのまま焼いて食べるには硬すぎた。
 ギンロウは特に気にした様子もなくむしゃむしゃ食べていたけど、人間の顎だとこいつはしんどいな。
 ヨッシーも強靭な顎で肉を噛みいていた。あ、肉食なんだ。なんて感想を抱く。
 聞いてみたら、肉でも野菜でも食べるとのこと。どちらかというと肉の方が好みらしい。
 カンガルーって草食じゃなかったっけ? いや、相当曖昧な記憶だけど、確か絶滅した種には肉食のものもいたとかなんとか。
 地球とは別世界だし、そもそもヨッシーはカンガルーとは言えないほど巨体だし比べるのが野暮ってもんだな。
 亀肉の味はそう悪くないだけに惜しい……。
 仕方ないので、俺だけぐつぐつと鍋で煮込み、塩を入れて食べることにしたのだ。
 これでもまだ硬かったけど、なんとか噛み切れるまでにはなった。
 食べ終わった後は腹ごなしタイムだよな。うん。
 
 よおっし。
 リュックの中からエルナンに作ってもらった木製のフリスビーを取り出す。
 
「ギンロウー。行くぞー」
「わおん」

 体を捻り、思いっきりフリスビーを放り投げる。
 ぱくっ。
 
 フリスビーが舞い上がり切る前にファイアバードが嘴で咥えてキャッチしてしまった。
 
「くあ」

 ファイアバードは俺の頭の上まで飛んできて嘴をパカンと開く。
 ポトリとフリスビーが俺の頭の上に落ちた。

「ファイアバードも参戦か」
『自分も参加するっす!』
「分かった。次行くぞー」

 腕に思いっきり力を込め、伸び上がるようにしてフリスビーを投げる。
 
 ぱくっ。
 
「くあ」

 ぽとんと俺の頭の上にフリスビーが落ちた……。

「ファイアーバードは一回お休みな」
「くああ」

 ファイアバードには俺の足元にいてもらい、フリスビー三回目を投擲する。
 グングンと空高く舞い上がったフリスビーは風に煽られ湖へ向かっていく。
 
 ばしゃんと水の中に飛び込むギンロウ。
 対するヨッシーはというと――。
 
『兄貴に作ってもらった爪があれば、行ける気がするっす!』

 なんてうそぶき、筋骨隆々の太ももに力を込め駆けだす。
 なんとヨッシーは、ぴょんぴょんと水きりのように水の上を跳ねていくではないか!
 パシっとフリスビーを前脚で掴んだところで、ヨッシーが水の中に沈む。
 帰りは泳いで戻ってきた。

「すげえな。水の上を走るなんて」
『まだまだ修行が足りねえっす! 兄貴の爪があれば、もっといけそうっす!』
「お、おう」

 水からあがったヨッシーは別の生物のようになっていた。
 ふさふさした毛を持つ生き物って水に濡れると小さくなるんだよね。ヨッシーの場合は、筋肉がもりもりで不気味だ……。
 彼がぶるぶると体を震わせると、水しぶきがこっちにまで飛んできた。

「ヨッシーも次はお休みな。次はギンロウに」
『うっす!』
「わおん!」

 今度は湖にいかないように、余裕をもって投げる。
 クルクルと回転しながら空高く舞い上がったフリスビーを追いかけるギンロウ。
 見事フリスビーを口でキャッチしたギンロウが、走ってこっちまで戻ってきた。
 
「よおし、えらいぞー」
「わんわん」

 ギンロウの首元をわしゃわしゃして、微笑みかける。
 こんな感じで順番にフリスビーを投げてはとってきて、を繰り返した。
 
 遊びが終わった後は洗濯だ。
 山の中、深い森の中を歩きどおしで数日経過しているから、服が汚れに汚れ泥だらけになっている。
 せっかくの清浄な水を称えた湖なのだから、綺麗にしておかねばな。
 ついてに体も洗ってしまおうか。
 
 ◇◇◇
 
「満天の星空だ。やっぱり地球……いや、日本とは全く星の配置が異なるなあ」

 結局このまま湖のほとりで夜を過ごすことにしたんだ。
 亀の肉が勿体ないこともある。リンゴも余裕があるし、水場も近いしってことで環境の良さからここを選んだ。
 もう少し進んでもよかったんだけど、ここほどくつろげる場所ってのは中々ないからね。
 
 異世界で生まれ落ちてから星空を見たのは数えきれないほどある。
 だけど、これほど済んだ星空を見上げるのは久しぶりだと思う。
 星を見ていると、この世界にも太陽があり、惑星があって、無数の恒星が宇宙にあるのだと知ることができる。
 根本的に異なる地球とこの世界であるんだけど、同じように宇宙があるってのも興味深い。ひょっとしたら、同じ宇宙に地球と俺の住む惑星があるのかもしれない。
 なんて思うと何だかしんみりとしてきてしまった。
 
 ローブを被り、ギンロウのお腹を撫でながら今度は湖に目を向ける。
 月の光に反射した湖面はキラキラと幻想的で美しい。
 こんな夜は妖精が湖面の上をひらりと舞ってダンスをしていたりしても驚かないほどだ。
 いや、妖精なんて見たことなんてないんだけどね。
 メルフェンな気持ちに浸っていたら、ファイアバードがバサバサと翼を震わせたらしく風圧が俺の髪を撫でた。
 こうして、大好きなモフモフたちに囲まれて就寝……なんて癒されるんだろう。
 
 ヨッシーという力強い移動手段を得たので、明日からの行軍速度は数倍に跳ね上がるはず。
 目的地までもすぐだろう。
 
「おやすみ。みんな」
『おやすみです! 兄貴!』
「お、まだ起きていたのか」
『寝る前に屈伸をしてからでないと、寝付けないんす!』
「そ、そうか……」

 あれだけ筋骨隆々なのに寝る前まで鍛えるとは……ヨッシーって修行マニアなのかも?
 たらりと額から冷や汗を流す俺なのであった。
 
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...