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第二章 運命が動き始める
騎士の誓い
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その問いに、エリアナは涙に濡れた顔を上げた。
彼の青い瞳が、真剣にエリアナを見つめている。
「正直に答えてほしい。君は、私との結婚を望んでいるのか。それとも、無理強いされているのか」
エリアナは、言葉に詰まった。
正直に言えば——この結婚を望んだわけではない。恐れもある。
でも。
「わたくしは……」
エリアナは、自分の心を探った。
そして、気づいた。
「この家を、出たいのです」
その言葉が、自然と口から出た。
「ここには、もうわたくしの居場所がありません。ずっと、ずっと、そう感じてきました。だから……」
だから、どこか遠くへ行きたい。たとえそれが、恐ろしい場所であっても。
最後のそのひとことは、さすがに口にしなかったが。
アレクシスには見抜かれているような気がした。彼は、底知れぬ深さを秘めた瞳で、エリアナの顔をじっとみつめていたからだ。
アレクシスは小さく息をついた。
「そうか。では、約束しよう」
彼は、エリアナの前に片膝をついた。
騎士が姫に誓いを立てるように。
「私は君を、不当に扱わない。北の城で、君は自由に生きられる。誰からも冷遇されることはない。これは、私の誓いだ」
エリアナは、息を呑んだ。
この男は――悪魔公爵と呼ばれるこの男は、今、自分に誓いを立ててくれている。
「信じても……よろしいのですね」
おそるおそる尋ねると。アレクシスの青い瞳が、エリアナを見上げた。
「ああ」
それだけで、エリアナには十分だった。
この男は、少なくとも嘘をつく人ではない。そんな気がした。
「ありがとうございます、ヴァルモント公爵」
「アレクシスと呼んでくれ。もうすぐ、私たちは夫婦になるのだから」
夫婦——その言葉が、妙に現実味を帯びて響き、胸がいっぱいになった。
「では、わたくしのことも、エリアナと……」
「ああ、そうさせてもらう。エリアナ」
彼女の名前を、アレクシスの声で呼ばれて、エリアナの心臓が跳ねた。
不思議な感覚だった。恐怖はまだある。でも、それと同じくらい、何か心地よいものが胸に広がっていく。
長年忘れていたが、何かを楽しみにする、というのは、こういう感情だったかもしれない。
アレクシスは立ち上がった。
「では、結婚式で会おう。その時、私は君を迎えに来る」
そう言い残して、彼は歩き去った。
エリアナは、手の中の首飾りを見つめた。宝石の琥珀色の輝き。
そして、首にそれをかけた。
鏡はない。でも、きっと似合っているはず。
アレクシスが、そう言ってくれたのだから。
その夜、エリアナは久しぶりに穏やかな眠りについた。
悪夢ではなく、幸福な夢を見た気がした。
彼の青い瞳が、真剣にエリアナを見つめている。
「正直に答えてほしい。君は、私との結婚を望んでいるのか。それとも、無理強いされているのか」
エリアナは、言葉に詰まった。
正直に言えば——この結婚を望んだわけではない。恐れもある。
でも。
「わたくしは……」
エリアナは、自分の心を探った。
そして、気づいた。
「この家を、出たいのです」
その言葉が、自然と口から出た。
「ここには、もうわたくしの居場所がありません。ずっと、ずっと、そう感じてきました。だから……」
だから、どこか遠くへ行きたい。たとえそれが、恐ろしい場所であっても。
最後のそのひとことは、さすがに口にしなかったが。
アレクシスには見抜かれているような気がした。彼は、底知れぬ深さを秘めた瞳で、エリアナの顔をじっとみつめていたからだ。
アレクシスは小さく息をついた。
「そうか。では、約束しよう」
彼は、エリアナの前に片膝をついた。
騎士が姫に誓いを立てるように。
「私は君を、不当に扱わない。北の城で、君は自由に生きられる。誰からも冷遇されることはない。これは、私の誓いだ」
エリアナは、息を呑んだ。
この男は――悪魔公爵と呼ばれるこの男は、今、自分に誓いを立ててくれている。
「信じても……よろしいのですね」
おそるおそる尋ねると。アレクシスの青い瞳が、エリアナを見上げた。
「ああ」
それだけで、エリアナには十分だった。
この男は、少なくとも嘘をつく人ではない。そんな気がした。
「ありがとうございます、ヴァルモント公爵」
「アレクシスと呼んでくれ。もうすぐ、私たちは夫婦になるのだから」
夫婦——その言葉が、妙に現実味を帯びて響き、胸がいっぱいになった。
「では、わたくしのことも、エリアナと……」
「ああ、そうさせてもらう。エリアナ」
彼女の名前を、アレクシスの声で呼ばれて、エリアナの心臓が跳ねた。
不思議な感覚だった。恐怖はまだある。でも、それと同じくらい、何か心地よいものが胸に広がっていく。
長年忘れていたが、何かを楽しみにする、というのは、こういう感情だったかもしれない。
アレクシスは立ち上がった。
「では、結婚式で会おう。その時、私は君を迎えに来る」
そう言い残して、彼は歩き去った。
エリアナは、手の中の首飾りを見つめた。宝石の琥珀色の輝き。
そして、首にそれをかけた。
鏡はない。でも、きっと似合っているはず。
アレクシスが、そう言ってくれたのだから。
その夜、エリアナは久しぶりに穏やかな眠りについた。
悪夢ではなく、幸福な夢を見た気がした。
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