生贄にされた私が竜王陛下に溺愛されて、陥れた妹たちにざまぁしたら、幸せすぎて困ってます

深山きらら

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第一章 忌まわしき生贄

そこには本が

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 竜王は城の中庭に降り立った。
 アリアーナは震える足で地面に降りた。膝が笑っている。死ぬかと思った。

「ここが、私の城だ」

 竜王が言った。

「お前は、ここで暮らすことになる」
「暮らす……?」

 意外な言葉に、アリアーナは目を見開いた。

「殺さないのですか?」
「なぜ殺す必要がある」

 竜王は、まるで当然のことのように言った。

「契約の生贄は、私の所有物となる。所有物を大切にするのは、当然だろう」

 所有物。
 その言葉に、アリアーナは複雑な感情を覚えた。物として扱われることへの屈辱。けれど同時に、生き延びられるという安堵。

「中へ入れ。案内する」

 竜王は城の大扉を開いた。その扉は、竜でなければ開けられないほど巨大だった。

 城の内部は、外見以上に壮麗だった。天井ははるかに高く、あり得ないほど大きくて豪華なシャンデリアが輝いている。壁には古代の文字が刻まれ、床はかすかな光を放つ不思議な素材でできている。何もかもが巨大で、何もかもが人間の技術を超えた美しさだった。

「お前の部屋は、東棟だ」

 竜王は廊下を進んだ。その足音が、静寂の中で反響する。
 巨大な扉を開けると――そこには広大な部屋があった。しかし、室内の備品は、驚いたことに、人間サイズのものだ。天蓋付きのベッド、暖炉、机、そして――

「本……!」

 アリアーナは息を呑んだ。
 部屋の壁一面が、書架になっていた。無数の本が並んでいる。古代語で書かれたもの、装飾が施されたもの、さまざまな本が。

「お前は本が好きだと言った」

 竜王の声が、背後から聞こえた。

「ならば、好きなだけ読むがいい。これらはすべて、私が千年の時を経て集めたものだ」

 アリアーナは、竜王を振り返った。
 巨大な竜の姿。恐ろしいはずなのに、今は違って見えた。

「なぜ…そこまでしてくださるのですか」
「言っただろう。自分の所有物は、大切にするものだ」

 アリアーナはもはや、所有物呼ばわりされても気にならなかった。
 目の前に広がる書架が、彼女の興味をすっかりとらえていた。

 この竜王は、少なくともしばらくは、自分を殺すつもりはないらしい。
 そしてこのたくさんの本を、自由に読んでもいいと言ってくれている。

 絶望と恐怖の底から喜びへ。
 アリアーナは自分の幸運が信じられないような気持ちだった。
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