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しおりを挟むこの国には聖女が二人いる。
一人は艶やかなプラチナブロンドに大きなアーモンドの淡い紫色の瞳を持ち、たっぷりと豊満な胸にきゅっとくびれたウェスト、すらりと長い手足は爪先まで完璧な形をしていて肌は陶器のように白くてキメが細かく、桜色の唇から出る声は鈴を転がすように可愛らしい。
どんな相手にも優しく笑顔は天使のようで惨状を目の当たりにして流す涙は真珠とまで言われている、まさに完璧な聖女のリーア。
笑顔だけで人々を癒していると言っても過言ではなく、聖女と言えば真っ先に彼女の名が上がる程の人気者である。
対してもう一人の聖女は何を隠そうこの私。
真っ黒な髪のもっさりおさげに、とてもアーモンドとは言えない、色だけはリーアよりも強く濃い紫の瞳。
胸はささやか、腰もほどほど、手足の長さは人並みで爪も普通。
肌は地黒で日にあたるとすぐに黒くなるので服から出ている場所は浅黒いし声は自分では良くわからないが鈴を転がすどころではない。
常に笑顔なんて無理だし、むしろリーアの真似事をしていると囁かれるので笑顔は引き攣ってしまうし涙は人前でなど流した事はない。
泣いたとしても真珠どころか壊れて壁に流れる水道管の水が良いところだろう。
我ながら良いところがひとつもない。
そんな私は、いつも『はずれ』と呼ばれている。
聖女の役目は世界に蔓延する瘴気を払う事。
それ以外にも教会で心と体の傷を癒したり、魔獣や猛獣の討伐に赴く騎士達について行き、結界を張ったりこれまた傷を癒したりとそのサポートを任されたりする事もある。
今回また街の外れに出没した魔獣を退治する為の隊が組まれ、私が同行する事となったのだが。
「今回ははずれの方かよー!」
その準備をする為の訓練場の中からそんな声が聞こえてきてとっさに身を隠してしまった。
「って事は教会にはリーア様が残るのか」
「急病にかかった事にして残っちゃうか?」
「はずれじゃやる気起きねえよ!せめてリーア様の半分でも色気があればなあ」
「あははっ!確かに!」
「でも無理だろうなあアレは、どう頑張ってもリーア様の足元にも及ばねえよ!」
私が近くにいるのにも気付かず大声で笑い合っているのは今回の討伐に参加する第二騎士団の面々。
この声には聞き覚えがある。
何の恨みがあるのか、いつもいつも私をこき下ろしている奴らだ。
こいつら騎士道精神どこに置いてきやがった。
そもそも聖女に色気とかこいつら頭沸いてるんじゃないだろうか。
それにどう逆立ちしてもリーアは君達みたいな人は選びませんよ。
というか良い度胸だよね、私に嫌われたら怪我した時に完璧に治して貰えなくて放置されたりとか結界わざと張らないで猛獣魔獣の魑魅魍魎の前に放り出す事だって出来るのに。
治される事にも守られる事にも慣れすぎて、それが当たり前のようになってしまっているからあんな風に話せるんだろうなあ。
治さなかったら治さなかったで役立たずの能無し呼ばわりだし。
精神的苦痛を訴えて参加を辞退してしまおうか。
そうすれば皆さん念願のリーアが一緒に行く事になるだろうけど、そうすると今度は残留組から不満の声があがるんだよね。
行ったとしても文句を言われ、残っても文句を言われる。
こっちだって好きで『はずれ』になった訳じゃないってのに失礼な話だ。
この騎士達の顔は覚えているから怪我しても順番後回しにしてしまおう。
治さないという選択肢は取れないのだからそのくらいの報復は許されるよね。
まあ、ほとんどの人が今の騎士達と同じ考えだから順番も何も関係ないんだけど。
でもほとんどの騎士達は思っていても堂々と口に出したりはせず何となく表情で不満を訴えるだけだからこの騎士達に比べたら可愛いものだ。
「お前達訓練はどうした?」
「!団長!」
「は!こ、これからであります!」
「ほう?これからなのに無駄口を叩く暇があるのか?随分と余裕のようだ。特別に訓練を増やしてやろうか?」
「っ、も、申し訳ありません!!!」
「おまけにまた聖女様の悪口か?どうやら余計な事を考えられないよう、言えないようにして欲しいようだな」
「そ、そんな事は……!」
「本当に申し訳ありません!」
「すぐに訓練に向かいます!」
はーあ、と溜め息を吐きだした所でやってきた第二騎士団の団長アーノルドの姿に直前まで軽口を叩いていた騎士達が一斉に気を付けの姿勢を取り敬礼。
アーノルドの苦言にサッと顔色を青くし、返事をするや否や即座に訓練場へと走り去っていった。
「シルク」
「……気付いてたんですか?」
死角に隠れていた私の元へとやってくるアーノルド。
私がいる事に気付いて、あえて厳しめに言ってくれたようだ。
「当然だろう。いつも部下達がすまないな」
「いえ、いつもの事ですから」
部下である騎士達の発言を代わりに謝罪してくれるアーノルド。
精悍な顔付きの眉が少し下がり、こちらを気遣う表情は優しい。
子供達の憧れであり世の女性達を虜にしてやまない天下の騎士団長様のこんな表情、世間の皆さんにはきっと想像出来ないだろうなあ。
(相変わらずいい男なんだから)
アーノルドはみんなのように私を『はずれ』とは呼ばない。
そればかりか、さっきのように私への陰口を話している騎士達を嗜めてくれている。
おまけにこの後の訓練で、彼らにいつもより厳しめの扱きをするという事も知っている。
なんて良い人なんだろうか。
部下の責は自分の責だと、毎回のようにこうして謝られるのが申し訳なくもあり、義理堅いその行動が嬉しくもある。
団長とこうして親しく話せるようになったのは昨年の事。
いつものように魔獣討伐について行った先で、油断した部下を庇い大怪我をした彼を助けたのがきっかけだ。
命に別状はないが団長としての地位を失いかねない大怪我だったからか、治した直後はとてもとてもとても、こんなにも感謝された事ないというくらいに感謝された。
嬉しかったなあ、あんな風に全力で心底感謝されるなんて聖女になってから初めてだったから。
最初は様を付け敬語で話しかけられていたのだが、やめてくれと懇願して気軽に声をかけてもらえるようになったのだ。
ちなみに例の騎士達は当然のように呼び捨て、またはおいとかちょっとと呼ばれ敬語も使われない。
リーアに対しては様を付け、敬語を使う人もいるが使わなくとも尊敬の念と下心満載の優しい口調で話す人が多い。
我ながら舐められすぎである。
聖女の権限でクビにしてしまえるものならしてしまいたいが、悪口を言われたから態度が悪いからというだけではクビに出来ない。
いっそ何か問題を起こしてくれるか暴力でもふるってくれれば話は早いのだがそうもいかない。
「聖女様に向かっていつもそのような言動である事自体が問題なんだ。本当にすまない」
「いえいえ本当に良いんですって。本当に気にしてませんから」
いやまあ本当は気にしてはいるけれど、はずれの私にも変わらぬ態度で接してくれるアーノルドという存在がいれば外野の声など何を言っていようと気にならなくなるのだ。
(あーほんと、好き)
そう、私はアーノルドが好きだ。
そりゃ好きにもなるでしょうよ、こんなに敵だらけで侮蔑嘲笑の雨霰の中で優しく接してくれる唯一の男の人なんだから好きにならない方がおかしい。
(まあ、身の程知らずな願いを抱く訳にはいかないけど)
アーノルドの事は好きだが、どうこうなりたいと考えている訳ではない。
私では釣り合わないとわかりきっているし、アーノルドが優しいのは私にだけじゃない。
みんなに優しくて頼りにされている心強い騎士様なのだ。
私だけが特別じゃないとわかっている。
わかっているけれど、いつの間にか好きになってしまっていた。
「シルクも準備があるだろう?部屋まで送ろう」
「え!?いえ、一人で戻れますのでお気になさらず」
「そう言わずに送らせてくれ。道中の作戦も耳に入れてもらいたいからな」
「あ、はい」
なるほどなるほど、送るのはついででそっちの話がメインですか。
わざわざこんなはずれを送るのに断れないような理由をつけてくれるなんて本当に優しい。
わかってます、わかってますよ、勘違いなんかしてない。
送ってくれるのはあくまでもついで。
それくらい私にだってちゃんとわかってますとも。
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