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しおりを挟む魔獣の討伐は特に問題が起こる事もなく無事に終わり、アーノルドとの束の間の逢瀬(仕事だけど勝手にそう呼んでいる)を名残惜しく思いながらいつもの業務をこなしていたある日。
(はあ、ついにこの時期がやってきてしまった)
年に一度開催される聖女を讃えるパーティー。
その時期がやってきてしまったのだ。
正直面倒だし参加したくないが、聖女を讃える為なのに主役の一人が欠席するわけにはいかない。
どうせ周りがリーアしか見ていなくても、これは強制参加なのだ。
舞踏会となると一人で参加する訳にはいかない。
パートナー同伴が必須で、リーアは開示があったその瞬間から引く手数多でそれを捌くのに大変そうだ。
そして私はというと、当然のようにお誘いはゼロである。
まずい、どうしよう。
このままだと一人で参加するハメになってしまう。
冗談じゃない、ただでさえ注目されるというのに一人寂しい姿を晒して更に笑い者になるなんて。
いやもういっそ一人で堂々と出てやれと思わなかった訳ではない。
実際に一度だけ一人で参加した事がある。
その時の会場中から突き刺さる好奇の視線だとかひそひそと交わされる陰口だとか嘲笑だとかが割と、いやかなりきついものがあったのだ。
それ以降は弟に頼んでなんとかエスコートして貰っていたが、今回弟は最近やっと出来た恋人と参加するとの事でエスコートを断られてしまった。
姉より恋人を優先するのは当然だ。
当然だけどお姉ちゃんは非常に困っている。
弟め、せめて代わりの誰かを紹介してくれれば良いのに。
なんて、はずれの私を紹介された所で相手も良い迷惑だろうからそれは叶わないけど。
(どうしようかなあ)
出来る事ならアーノルドと行きたい。
だがしかし、アーノルドとてみんなが恋人や家族と来る中でわざわざはずれの私を好き好んで誘うはずがない。
万が一、億が一誘ってもらえたなら尻尾を振ってついて行くけれどもそれはとてもとても非現実的だ。
(……誰と行くんだろ)
自分が誘われる訳がないと知りながらも気になってしまう。
今まではどうだっただろうか。
確か前の時は警備に回っていて不参加。
その前も……あれ?その前も警備だった?
もしやアーノルドは毎回警備に回されているのだろうか。
『シルク、誘いたい人がいるなら自分から動かないとダメよ?』
リーアにそう言われたのはつい先日、パーティーの案内が届いた直後の事。
私がリーアみたいだったら自信を持って誘ってくれとねだれただろうけれど、私にそんな自信はない。
誘いたい相手はただ一人、アーノルドのみ。
けれどもし誘えたとしても『聖女様』からの申し出とあってはきっと優しいアーノルドは断れない。
権力に物を言わせて付き合わせるなんて虚しすぎる。
『バカねえ、権力でも何でも欲しいものがあるなら使っちゃいなさいよ。なりふり構ってたらあっという間にどこぞの泥棒猫に掻っ攫われちゃうわよ?』
諭すように言われたのもその後。
相変わらず人目がない所ではずけずけ言うリーア。
そんな所も嫌いじゃないけど、なんて思いながら歩いていると。
「今度の舞踏会、リーア様は誰を選ぶかな?」
「さあ、でもやっぱりサーシャ王子じゃないか?」
「いやいやウィレム団長もありえるぞ」
「隣国の王太子も声を掛けてるって話だからなあ」
「くっそー良いなあ!俺もリーア様をエスコートしてー!」
「ははっ、お前には一生かかっても無理だって!」
「なあ、はずれは誰がエスコートすると思う?」
いつものようにリーアの話から私の名前が出てぎくりとする。
この声はいつもの奴だ。
嫌いならいちいち話題に出さなければ良いのに、そんなにも私の悪口を言いたいのだろうか。
「さあ?誰かが誘ったって話は聞かねえけど」
「だよなあ、好き好んでわざわざはずれなんてな!」
へえへえ、お察しの通りエスコートのお誘いは皆無ですよ。
どうせこの後は私の悪口大会が開かれるのだからいちいち聞いていられない。
気付かれないようにさっさと立ち去ってしまおうとしたのだが。
「アーノルド団長は誰と行くんだろうな?」
アーノルドの名前に思わず足を止めてしまった。
でもここで止まらなければ良かった。
止まらなければ……
「毎回警備に回ってたけど今回は参加するんだろ?」
「そういや珍しくいそいそと準備してたよなあ」
「ってことは団長に誘いたい相手がいるってことか!?」
「相手は誰だ?まさかリーア様じゃないよな!?」
「わかんねえけど、なんでもかなり『素晴らしい人』らしいぞ」
「素晴らしい人お?」
「団長がそう言うって事はすっごい美人なんだろうな」
「多分な、だってそう言った時の団長の顔、相手にベタ惚れな感じだったし」
なんて、聞きたくもない情報を耳に入れるハメにならずに済んだのだから。
(ははっ、参ったなあ)
告白する勇気なんてなかったくせに、告げる前に失恋してしまった。
こんなに辛いとは思っていなかった。
だって最初から叶うはずがないと思っていたから、例えアーノルドに相手がいたとしても、胸は痛むけれどアーノルドの幸せの為なら我慢出来ると思っていた。
私なんかよりも遥かにアーノルドを幸せに出来るだろうと、そう言い聞かせて諦めるつもりだった。
けれど、ダメだ。
無理だ。
アーノルドが私以外の誰かと並ぶ姿も、話す姿も、笑い合う姿も、触れる姿なんて見たくない。
愛おしげに見つめる瞳も、優しげな仕草も、壊れ物に触れるかのような指先も、全部全部独り占めしたい。
そう思ってしまった。
独り占め、したかったんだ、私。
(でも、ダメなんだ)
アーノルドには想い人がいる。
どんな人だろう。
可愛い人なのだろうか。
綺麗な人なのだろうか。
ベタ惚れだって。
部下の人が見てわかるくらいなら相当だ。
リーアには劣るだろうけれど、可愛くて綺麗な人なんだろうな。
私みたいに卑屈じゃなくて、毎度部下を嗜めなければならない『はずれ』なんかじゃなくて。
部下の人達にも胸を張って自慢出来るような、素敵な人なんだろうな。
(やっぱり、私には手が届かない人だったんだ)
胸が締め付けられて苦しい。
気持ちを伝える前にしてしまった失恋に、足早に部屋へと戻り一晩中枕を濡らした。
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