はずれの聖女

おこめ

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翌日、目がぱんぱんに腫れているのを見たリーアが目をひん剥いた。

「やだ、どうしたのその目!?泣いたの?何があったの?」
「いやあ、すごく感動する小説読んじゃって、あはは」
「ええ?もう、しょうがないわねえ、ほらこっち来て。治すから」
「ん、ありがと」

聖女の力をこんな事に使うなって?
良いんですこのくらい何の負担にもならないから。
自分でも治せるけど、リーアに甘えてしまおう。

腫れはすぐに引いた。
今朝まであんなに腫れていたとは思えない。
こんな時ばかりは聖女で良かったなんて思ってしまう。
明らかに泣き腫らした目のままじゃ業務に差し支えるし、何より嫌な奴らに下世話な想像をされたくないから。
ただでさえ鬱陶しいのに恰好の餌食になっては堪らない。

なんて少しでも奴らを思い浮かべたのがいけなかったのだろうか。

「よおはずれ。また頼むぜ」
「……こちらへどうぞ」

今日も今日とて教会で治療をしていると、いつもの奴がやってきた。
いつもいつも私の陰口を叩いている例の彼である。
にやにやと物凄く不快な笑みを浮かべている。

半個室になっているこの治療の為の空間でこいつと二人きりなのは嫌だけど仕方がない。
いやいや、来るなよなんて思ってないよ。
お前の怪我なんて唾でもつけておけなんて思ってないよ。
思ってないったら。
本当に腫れを治しておいてもらって良かった。
明らかに泣いた後の顔なんて見られた日には何を言われるかわかったもんではない。

「ったく早くしろよなあ、相変わらずトロい女。こっちは忙しいんだぜ?」
「……」

はいはいまた始まった。

こいつ、ニールと言っただろうか、こいつは治療中も私をこき下ろすのを止めない。
一応小声ではあるが、周りもどんな事を話しているのか気付いているだろう。
気付いていても騎士様相手に一言物申す勇気のある人はいないし、そもそも『はずれ』の私を庇ってくれる人はこの場にいない。
おまけにこの人はどこかのお偉いさんの息子だと聞いた事がある。
下手に関わってとばっちりを受けたくないという思いもあるのだろう。

とはいえいつもの事なのですみませんと言って聞き流す。
こんなのまともに相手していられない。

私が無心で治療を進めていると。

「そういやお前パーティーどうすんの?」

どう、とは?

「どうせはずれのお前に相手なんているはずねえよな?」
「そうですね、いませんね」

なんだこいつ。
うるさいな。
いないからなんだっていうの?
いないってわかってるんだったらいちいち確認しなくても良くない?
わざわざみんなの前で話題に出して私を笑い者にしようとしているのが見え見えで腹が立つ。

こんな奴でも治癒しなければならないのが本当に理不尽。
国の聖女の規則見直して欲しい。

『聖女の恩恵は万人に与えられるべきだが聖女に対する礼儀に欠ける者はこれにあらず』とか。

せめて人としての最低限のマナーくらい守って接して欲しいと思うのはわがままだろうか。
いやそんなはずはない。
私にだって人権はあるのだ。
むしろ仮にも『聖女』なのだからそれなりの敬意を払ってもらっても良くないか?
嫌おうが目障りだと思おうが馬鹿にしていようがこの人の勝手だけど、それをありありと本人に向けるのは人としてどうかと思ってしまう。

「ふーん、やっぱりいねえんだ?そりゃそうだよなあ、はずれと一緒に行きたがる奴なんていねえよな」

相変わらずのニヤニヤ顔で嬉しそうに言われる。

本当にうるさい。
放っておけ。

うっかり舌打ちしそうになった。
我慢したけど。

彼の話を更に右から左へ聞き流し適当に返事をしてさっさと終わらせる。

毎回はずれに治癒して欲しくないとか言う割に毎回怪我してくるのよねこの人。
しかもほんの少しの怪我ですら治癒に来る。

それに比べてアーノルドの我慢強さったら。
余程の傷でもない限り来てくれないんだから困る。
アーノルドだったら擦り傷でも喜んで治療するのに。

「まあ、しょうがねえからはずれは俺が……」
「はい、終わりましたよ」
「っ、おい!まだ話してる途中だろ!」
「はあ、すみません。ですが次の方が待っていますので」
「この、はずれのくせに……!」
「はいはい、はずれで申し訳ありません」

だからはずれに面倒見てもらいたくないなら怪我しないように精進しなさいよ。
漏れそうになる溜め息を堪えると、それに気付いたらしいニールが更にヒートアップしそうになる。

「お前……!」
「お前?」
「っ、団長……!?」
「!」

そこへタイミング良くアーノルドがやってきた。

「今、聖女様に対して『お前』と言ったのか?」
「!!!ま、まさかそんな、ははっ、ははは!」
「見たところ治療は終わったようだが?」
「は、はい!失礼します!」

ニールはしどろもどろになり、あちこちぶつけながらこの場から立ち去っていった。

普段の態度もだけど、人によって態度変えるこの感じも引いてしまう。
強い者には巻かれる人の典型だ。
カッコ悪いにも程がある。

(また助けられちゃったな)

騎士の中にはああやって変に絡んでくる輩が何人かいる。
リーアは崇拝されているから、その分害しやすい私の方に来るのだろう。
圧倒的に私の方が絡みやすいだろうし。

小さい愚痴を吐き出すのは可愛いが、嫌味蔑み見下し嫌悪のオンパレードで八つ当たりしてくる輩もいるので勘弁して欲しい。
まあその度にアーノルドが助けてくれるのは嬉しいんだけど。

「ありがとうございます」
「いや、当然の事をしたまでだ。ところで、奴はつい最近も治療を受けていなかったか?」
「ああ、はい。週に一度はどこか怪我をしていますね。今週は既に二度目です」
「……あいつ」

そんなに来ているのかと言わんばかりである。
確かに怪我の多い職業だけど、週に一度、多くて三度四度治療に来るのはいくらなんでも多過ぎるよね。
腕が未熟なのかな。
だったらさっさと騎士団辞めちゃえば良いのに。

それはそうと、想い人がいると知った後なのでぎくしゃくしてしまう。
変な態度取ってないかな。
ちゃんといつも通りに出来ているかなと心配になる。

(ん?待って、ここに来たって事は怪我を……!?)

我慢強いアーノルドが来るなんて余程の怪我なのでは……!?
はたと気付き姿を確認するが特に怪我をしている様子はない。

「団長、お怪我は?」
「怪我?していないが?」
「???では何故こちらへ?」
「見回りだ。どこぞで不埒な輩が訓練をサボっていないか、とかな」
「なるほど」

良かった、怪我した訳じゃなくて。
不埒な輩ってニールみたいな奴らの事だよね、きっと。
怪我と称して訓練をサボるのは良くある事なんだろうなあ。
本当にサボるくらいなら騎士団以下略。

「来て正解だったな。最近のあいつの態度は特に目に余る」

私もそう思います、と心の中で全力で同意する。
声に出したらどこで誰が聞いているかわからないしね。
それでまた妙な絡まれ方したら嫌だし。

「ところで、その、シルク」
「はい?」
「あー……パーティーの事なんだが、その……」

この短時間で二度もパーティーの話題をふられるとは思わなかった。
アーノルドは奴とは違い、パートナーのいない私を笑ったりはしない。
パーティの警備の件だろうか。
でも今回はアーノルドも参加する側だと言っていた。
でも団長だから警備の詳細は頭に入れているだろう。
それの確認かもしれない。
それにしては随分と歯切れが悪いけど……

「パーティーがどうかしました?」
「いや、だからその……」
「?」

うん、やはり歯切れが悪い。
言いにくそうだし、どこか照れているようにも見える。
首筋に手を当て軽く頭を傾けて言い淀むアーノルド。
大人しく次のセリフを待っていると。

「すみません、次の患者様が……って、アーノルド団長!?」

次の患者様が待っていると言いに来た神父見習いの男の子がアーノルドに驚いている。
まさかいるとは思わなかったのだろう。

「ああ、すまない。治療の妨げになってしまったな」
「いえ、大丈夫です」
「シルク、また後で」
「へ?あ、は、はい」

え?後?後って何?
さっきの話の続きをしにきてくれるの?
わざわざ?
これはますます話の内容が気になってしまう。

パーティーの内容でわざわざ私に声を掛ける理由。
まさか、まさかと期待に胸が膨らんでしまうのは仕方のない事だと思う。
もしかしたらパートナーに誘ってくれたりするのだろうか。
いやでもアーノルドには想い人がいるのだからその可能性はないか。
いやいやでもでも万が一、億が一にも可能性がないとは言い切れないのでは?
っていやいやありえないか。
単純に考えて、やはり警備の件だろう。
そう結論は出たものの、心臓はどきどきと期待に高鳴ってしまうのであった。
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