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しおりを挟む『え?なあに?団長に襲われて泣いてたんじゃないの?は?ニール?ニールってあの馬鹿騎士?は?暴力!?脅し!?何それあいついつか何かやらかすと思ってたけど本当にやらかしたの!?許せない!今どこにいるの!?八つ裂きにしてやる!!!』
アーノルドに泣かされたのではないと告げ、では何故泣いていたのかという話になりアーノルドがニールの事を説明するとリーアが怒髪天。
すぐにでもニールの元へ行き宣言通りに八つ裂きにしてしまいそうな程憤りを露わにする彼女を何とか落ち着かせた後。
『なあんだ、私の勘違いか!団長すみませんでした!それじゃあ後は愛しの団長に慰めて貰ってね!あ、後で色々聞かせて貰うからね!』
爆弾を更に投下したリーアが颯爽と自室に入るのを呆然と見届ける。
そして……
『……色々と、聞きたい事が多いんだが』
『……はい』
そう言うアーノルドに頷き、私の部屋へと案内して、今。
「……」
「……」
いつも飲んでいるお茶をアーノルドに出し、テーブルを挟んで向かい合わせに座りながら私達は黙り込んでしまっている。
どうしよう。
リーアの爆弾でもう私がアーノルドを好きだとバレてしまった。
どうにかしてごまかした方が良いだろうか。
アーノルドが万が一最初から私にエスコートを申し込むつもりだったとしても、彼が本心で申し込みたくて申し込んだ訳ではないかもしれない。
誰かから白羽の矢を立てられ渋々私を誘ったのかも。
だからリーアも私を泣かせない云々と言い出したのかも。
ああでももう両想いとか言われちゃったし。
アーノルドの耳にもばっちり届いていたし。
両想いだと思ってるのは私の気持ちを知っているリーアだけで、ただの同情心から誘おうとしてくれていたアーノルドにとっては知りたくない事実だったんじゃないだろうか。
ああどうしよう。
何を言えば良い?
何と言えば良い?
ぐるぐると悩んでしまう私に対し、アーノルドがごほんと咳払いをしてから静かに口を開いた。
「その、さっき、リーア様が言った事だが……」
冷静だけどどこか戸惑っているような声に、やっぱり私の気持ちなんて迷惑だったよねと思う。
膝の上に置いた拳を握り締め、何を言われても受け入れようと覚悟を決める。
「その、シルクも、俺を好いていてくれているのか?」
ど直球である。
そうだよね、ごまかしようがないよね。
「……そう、です」
下を向いたまま頷く。
ごまかしようがないのなら素直に肯定するしかない。
「私、ずっと団長の事が好きで……」
……ん?
あれ?
待って、今、アーノルドは何と言った?
『シルクも』って……
「そう、か、そうだったのか」
「……」
ハッとして顔を上げると、アーノルドは視線を逸らし片手で口元を覆い、その頬は不自然に赤く染まっていた。
「参ったな、こんな風に伝えるつもりじゃなかったのに」
え?え?何その反応。
「シルク」
「は、はい」
アーノルドが手をどかしてこちらを見つめる。
まっすぐなその瞳に捕らえられどくりと心臓が跳ねる。
「俺もシルクが好きだ。ずっと、好きだったんだ」
「……っ」
告げられたのはずっと聞きたくて、でも諦めていた言葉だった。
嘘。
嘘だ。
本当に?
本当に、アーノルドが私を?
「でも、あの、じゃあ団長はリーアに申し込んでないんですか?」
「申し込む?何を?」
「……エスコートを」
「は?まさか、今度のパーティーのか?そんな、ありえない!」
「でも、昨日……」
「昨日?」
もう半分以上はもしかしてと思っている事を聞く。
「昨日、一緒にいましたよね?リーアと。団長は花束持ってて、リーアが受け取ってて、団長は凄く愛おしそうな顔でそれを見てて、だから私てっきり」
「俺がリーア様に申し込んだと勘違いしたのか?」
「……はい」
勘違い。
やっぱり勘違いだったんだ。
はっきりとそう言うアーノルドにホッとする。
「リーア様とは偶然会って、シルクに渡すはずだった花束を見られて品定めされていたんだよ」
「品定め?」
「シルクに贈るのに相応しい花束なのかとか、後はさっきも言っていた通りシルクを泣かせたら許さないとかそういうのを言われていたんだ」
事の顛末を説明してくれるアーノルド。
なるほど、自惚れではなくリーアとは本当の姉妹のようにお互いを思っていると自負しているので、確かに彼女ならば色々と言いそうだ。
私の気持ちを予め知っているから尚更。
「愛おしそうな顔に見えたのなら、それは多分、というか確実にシルクの事を考えていたからだと思う」
「!」
続けて言われたセリフにぼふっと顔が一瞬で真っ赤になる。
あの表情を私がさせていたと言うのか。
自覚した途端更に熱さが増す。
「私、てっきりリーアに断られたから、仕方なく私を誘ったのかと……」
「そんなはずないだろう!さっきも言ったけど、俺がリーア様を誘うなんてありえない」
「でもリーアは可愛いし美人だし優しいし少し小悪魔的な所もあるけどそこがまた魅力的で素敵だし、何より聖女様だし……」
ありえないなんてありえない。
同じ聖女ならば誰だってリーアの方を選ぶはずだ。
つい先程好きだと言われたばかりなのに疑うような事を言ってしまう自分は本当に可愛くない。
「シルクだって聖女様だろう?いや、聖女様だから好きという訳じゃないぞ?」
すぐにありえないなんてありえないという私の考えを否定してくれるアーノルド。
「確かにリーア様は綺麗だけど、俺にとってはシルクの方が可愛い」
「こんなに真っ黒な髪でも?」
「艶やかで綺麗な色だな」
「目も、リーアみたいに大きくないですし」
「大きければ良いというものでもないだろう。シルクの瞳はきらきらしていて澄んでいて、いつも吸い込まれそうで綺麗だ」
「痩せっぽっちで、触っても楽しくないかも」
「壊してしまう心配はあるが、好きな女に触れて楽しくなかったり嬉しくないはずないだろう?」
「仕事しか取り柄ないですし」
「誰にでも出来る仕事じゃないんだからむしろ良いんじゃないか?」
「みんなにはずれって言われてるのにですか?」
「あんなのは一部の頭が悪い連中が言っているだけだ。だがもう心配いらない。諸悪の根源は処分するから」
「諸悪の根源?」
「……シルクが『はずれ』とふざけた呼び名をされる原因になったのはニールのせいだ。可愛さ余ってなんとやらだな。シルクの対応があまりにも変わらないからどうにか自分を意識させてやろうとそう呼んでやったと言っていた。周りの証言もある」
可愛さ余ってなんとやら。
前にもリーアから似たような事を言われた気がする。
それにしても『意識させてやろう』だなんて。
「???でもそれじゃあまるであの人が私を好きみたいに聞こえますけど」
「……みたいじゃなくそうだったんだろ」
「…………え!?!?!?!」
いやいやいやいやそれこそありえない。
どう考えてもあの人の態度は好きな人に対するものじゃない。
嫌いで気に入らない相手にする態度そのものだ。
「好きだからこそ特別な反応を返して欲しかったんだろう。傷付けたとしてもその間は自分だけを見てくれるからな。現に、あいつが治療に通うのはシルクのいる時だけだ」
「え、え、えー……」
なんて迷惑な。
ここにきて明かされる事実に顔が歪む。
好きな人を『はずれ』呼ばわり?
使えねえとか鈍臭いとかトロいとか地味とか女捨ててるとかあんなのとか色々言われていたけれどそれがまさかの好きの裏返し?
意味がわからない。
今時小さな子でもそんな事しないというのに良い大人が何を考えているんだ。
そして彼の気持ちに気付いていながらそれを煽っていたのが私を『はずれ』と呼んでいた周りの面々だ。
中には彼に逆らえなくて従っていた人もいるだろうけど面白がって悪ノリするにも程がある。
そこから心無い人達の間でその呼び名が浸透してしまい、本人の耳にまで届くようになってしまったという事らしい。
アーノルドや他の人達は常々それをどうにかしたいと奔走してくれていたそうだ。
「そうだったんですか」
なんだ、それじゃあみんながみんな、私を本当に『はずれ』だと思っていた訳じゃないんだ。
不名誉な呼び名が浸透してしまったのは残念だが、幾分か心は軽くなる。
「ってどうしてこんな時にあいつの話なんかしないといけないんだ」
「あ、すいません」
「いや、シルクは悪くない。話を広げた俺が悪い。とにかく、シルクは『はずれ』なんかじゃない」
「っ、は、はい」
いつの間に隣に来たのか、握り締めていた手をアーノルドに包まれる。
手が、手が……!
暖かなそれに治まりかけていた熱が復活。
同時にどきどきも復活して鼓動が速くなる。
「俺がシルクを好きだと信じてくれたか?」
「……っ」
覗き込まれるようにして目を合わせられ、こくこくと頷く。
ひとつひとつ私の自信のない部分を受け入れて貰えて信じられないはずがない。
「そうか、良かった」
直後にいつもの強面を取っ払いふわりと微笑むアーノルドに何度目かわからないが心臓を撃ち抜かれる。
「それで、その、エスコートの件なんだが……」
「!あ、あの、すいません!」
「……やはりエスコートが俺ではダメか?
」
「え!?ち、違います!そうじゃなくて!」
断ってしまった事に対しての謝罪を勘違いされてしまった。
笑顔から一転しゅんと眉を下げる表情が可愛いと思ってしまったけれどすぐに誤解をとかなければ。
「エスコートの話、凄く嬉しかったんです。でも、私勘違いしてて、同情で誘われたなんて受け入れられなくて、だからさっきはあんな風に断っちゃったんですけど」
自分の手に重なるアーノルドの手。
その上からもう片方の手を重ねる。
「さっき、本当はすぐに頷きたかった。でも出来なくて……あの、私、私、団長と一緒に行きたいです」
なんとかアーノルドの目を見つめ返してそう告げた。
それを聞いた途端ぱあっと表情を輝かせ、空いている方の腕を伸ばして私を抱き寄せるアーノルド。
「ありがとう、シルク」
「こ、こちらこそ」
ぎゅうっと抱き締められ、その胸の暖かさに目が眩むほどの幸せを感じた。
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