はずれの聖女

おこめ

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パーティー当日。
城全体が煌びやかに装飾され、みんながみんな浮き足立っているのか外でもそこかしこから楽しげな声が聞こえてくる。
つい先日までの私だったらこの楽しそうな声に胃がキリキリと痛み出していたに違いない。
けれど今日の私は違う。

(本当に団長とパーティーに出られるなんて)

緊張もするけれどそれ以上に嬉しくて頭がほわほわする。
気を付けないとだらしなく緩んでしまう頬は、着替えを済ませ侍女達が出て行った今は引き締めるつもりなど毛頭なく目も口も蕩けきっている。

「シルク、準備出来た?」
「あ、うん!出来たよ」

にへにへと締まりのない顔をしていると扉の向こうからノックの音と共にリーアの声が聞こえてきて慌てて返事をする。

このパーティーでは式典用の聖女の衣装ではなくちゃんとしたドレスを着て参加出来る。
最初こそ伝統だからと聖女用の衣装を身につけての参加だったのだが、とある国の王子様がリーアにドレスを着せたいと駄々を捏ね周りもそれに賛同しちゃったもんだからこのパーティーでのみ聖女もドレスの着用が許可されたのだ。
リーア、伝統をひっくり返すなんて恐ろしい子。

そんな訳で、例年私達はパーティーが始まる前にお互いのドレスを二人だけで披露し合っている。
同じ部屋で着替えたら良いのではって?
それじゃあ楽しみが半減しちゃうじゃない!
それにコルセット?何それ?と言えちゃうスタイル抜群のリーアと同じ部屋で侍女達に見守られながらお着替えなんていたたまれない。
比較されるのは必須で面と向かって蔑まれこそしないだろうがあからさまに気を使われるのも悲しい。

「じゃあ行くわよ?」
「うん!」

お互いの部屋の扉がリーア側から開かれ、念願のドレスアップしたリーアが目の前に現れた。

「うわあ、リーアすっごく綺麗!」
「ふふ、ありがとう」

深い赤のシンプルなドレスを着た私に対して、リーアは腰元から裾にかけて白銀から深い藍色のドレス。
裾には夜空を模したようなキラキラとした宝石が散りばめられ、首元は覆われているが後ろを向くと背中がぱっくりと開いており、細い紐が揺れる度に何とも言えない艶やかさが醸し出されている。
長い髪もアップに編み込まれ、飾りは最低限だがそれがまた素敵。
装飾品も全て雰囲気に合っていて妖艶でいて可憐、貞淑さもあり大胆さもあり、何が言いたいかというとリーア最高。
絶対、絶対会場中の誰よりも綺麗なのはリーアに違いない。

「シルクもすっごく可愛い!深い赤がシルクの肌の色にぴったり!袖の所のフリルも上品だし裾の刺繍も素敵!髪の毛ハーフアップにしたのね。ふふ、編み込みお揃いね、嬉しい!」
「ありがとう」

毎日自分の最高の顔見てるのにこんな地味で冴えない褒める所を見つけるのが大変な女を手放して褒めてくれるなんて、リーアって本当に凄い。
そしてそれが嫌味とかもなく本気で心からの言葉だから更に凄い。
お揃いが嬉しいっていうのも本気だからかなり嬉しい。
私も嬉しい。

「ねえねえ、実はね、こんなもの用意しちゃったんだ」
「?なにこれ?お花の髪飾り?」

リーアが取り出したのは小さな花の形をした髪飾りが二つ。
花の中央に紫色の宝石が埋め込まれており、その周りにはそれより更に小さな透明な石が埋め込まれていて光に反射して輝きを増している。

「可愛い」
「でしょ?」

宝石は一つが薄い紫色。
もう一つが濃い紫色で、それぞれ私達の瞳の色に似ている。

「これも一緒に付けよう?私がこっちで、シルクはこっち」
「!」

濃い色を自分に、そして薄い色の方を私に手渡すリーア。

「お互いの色を付けるの?」
「そう!その方がシルクが近くで見守ってくれてる感じで嬉しいし、私達の仲の良さを見せ付ける良い機会だし」

前々から一部の周囲の私への態度に憤っていたリーア。
散々否定してきた私とのありもしない確執を漸く全否定出来る環境が整いご機嫌そうだ。

というのもニールの処分はかなり大々的に発表され、同時に彼が起こした数々の罪についても暴かれた。
聖女である私への長年に渡る暴言や不名誉な噂は序の口。
その他にも同僚や部下への過度な指導に暴力、騎士という身分を笠に着て飲食店での横暴な態度に備品破壊、暴力、店員へのセクハラ、中には脅されたり薬を盛られて襲われた女の子もいた。
今回のパーティーに合わせて準備していた事から、私にもその薬を使うつもりだったと推測されアーノルドから殺気がダダ漏れだった。
そして被害が多岐に渡り彼の親も流石に庇い切れず彼を切り捨てた。
切り捨てたところでこれまで散々事態を揉み消した経緯もあり、あんな息子を育てた責任を負い名誉ある職から降ろされたと聞く。
本人は当然騎士団から除籍。
懲戒処分なのでこの先二度と騎士団には属せない。
それだけではなく、この街から遠く人里離れた開墾地に送られ強制労働を課されるらしい。
彼に同調し煽り不名誉な噂を流していた面々もそれぞれ罪の重さに応じて処分され責を負っている。

被害にあった方々にはきちんと補償がされるそうだ。
補償されたところで心の傷は癒えないが、泣き寝入りするしかなかった彼女達からは手紙が届き、中には彼を罰する機会を与えた事への私への感謝が記されていた。

何もしていないのに感謝され、いたたまれず祈りの時間が増えてしまったのはアーノルドとリーアだけが知っている。

「あの男の件があったからこれからそんな輩は一掃されるだろうけど、これを機にもっともっと私達の仲が良好だというのを見せつけてシルクをほんの少しでも馬鹿にしてた奴らに目に物見せてやろうと思って!」
「ええ?そんな事しなくても良いのに」
「私がしたいの!」
「ありがとう」
「ね?ね?だからお願い、付けようよ」
「ふふ、もちろん!」

可愛らしいおねだりなどなくても私に否やはない。
お互いの髪に髪飾りを刺す。
耳の後ろ辺りに付けたそれがきらりと光り、リーアが嬉しそうに微笑んだ。

「ふふ、ふふふ!団長悔しがるだろうなあ。でも私からシルクを奪ったんだからこのくらい我慢して貰わないとね!」
「もう、リーアったら」

私達の仲を見せつける、にはアーノルドも含まれているらしい。
会場でもいちゃいちゃしてやる!と張り切るリーアに笑ってしまう。
着いたら色んな人に囲まれて身動き取れなくなるのは毎年の事だから、この『いちゃいちゃ』とやらが出来ないのはきっとリーアが一番良くわかっている。
結局はアーノルドと過ごす時間の方が多いのだからと、この髪飾りはそれに対するほんのささやかな抵抗なのだろう。
随分と可愛らしい抵抗だ。

コンコンコン

「「!」」

そんな話をしていると扉がノックされた。

「シルク」
「リーア様!」

扉の向こうから聞こえてくるのは私達のパートナーの声。

「お迎えが来たわね」
「うん。行こうか」
「今日はお互いぱーっと楽しむわよ!」
「ふふ、うん!」

手を取り揃って扉を開ける。
そこには正装姿のアーノルドと、リーアのパートナーである第一騎士団の大型犬君がいた。

(うわ、うわ……!)

いつもの騎士服ではなく、パーティー用の騎士の正装を身に付けたアーノルドに見惚れてしまう。
白を基調とした生地に金色の飾りや勲章、装飾品がつけられている。
元々逞しいアーノルドの身体にはこれでもかという程似合っていて、それだけでも鼻血が出そうなのに普段は無造作な髪をオールバックにしてビシッと固めているのがまた素晴らしい。

「かっこいい……」

アーノルドを見つめたままうっとりと呟く。

「シルク、綺麗だ」

対するアーノルドも、こちらを見つめ目元を緩めて静かに囁いた。
お世辞プラス惚れた欲目もあるのだろうが、アーノルドにそう言われると頑張って貰った甲斐がある。
嬉しい。
広い胸の中に飛び込んでしまいたいが、せっかく綺麗だと言ってくれたお化粧も髪も乱れてしまうから出来ないのがもどかしい。
そのまま見つめ合い、うっかり二人の世界に入ってしまいそうな私達だったが。

「リーア様、すっごくすっごく綺麗です!普段も綺麗だけど今日は特に綺麗で、女神様も裸足で逃げちゃいますね!」
「ふふ、ありがとう。アレク君も素敵よ」

リーアのドレスに大興奮の大型犬君改めてアレクの声に現実に引き戻される。
そうだった、二人きりじゃなかった。
ハッとしてリーアの方を見るとアレクはリーアに釘付けだったが、リーアはこちらをちらりと見て笑っている。
絶対何考えていたのか気付かれている。
パーティーが終わったらからかわれるに違いない。

「さて、では参りましょうか」
「ですね!リーア様、お手をどうぞ」
「ありがとう、アレク君」

エスコートする為に手を差し出すアレクに応えるリーア。

「シルクもどうぞ」
「は、はい」

同じく差し出された手を取ろうとしたのだが。

「……リーア?」

リーアが手を離してくれない。
え、どうしたの?

「……リーア様」
「あら何かしら」

気付いた、というよりもあからさまに見せつけるように繋いだ手を主張するリーアに、アーノルドが含みを持たせた視線を向ける。
自惚れでなければ、いつまでその手を握っているのだと言いたいのだろう。

「そろそろシルクをいただきたいのですが」
「まだ早いのでは?会場の入り口の前辺りがちょうど頃合いだと思いますけど」

例の一件で結果的に私を泣かせたのをまだ根に持っているらしい。
もう済んだ事だから気にしなくても良いのに。
アーノルドもそれをわかっているから強気に出られないようだ。
でも会場の入り口前って、移動中もアーノルドに私を任せない気満々なリーアに苦笑いが浮かぶ。

「リーア、それだとアレク君もリーアをエスコートし難いでしょう?」
「あら大丈夫よ。両手に花で最高だわ」

この場合はリーアが真ん中で私とアレクが花なのだろう。
一番花扱いされなければならない人が逆に花持ってどうする気だ。

「……リーア」
「……わかったわよ、意地悪はこのくらいにしておく」

名前を呼び、じっと見つめると少しむっとしながら頷くリーア。
本気で会場の入り口まで手を繋いで行くつもりなどなかったのだろう。

「良いですか、今度こそ絶対に泣かせないで下さいね」
「もちろんです」
「肝に命じて下さいね。次泣かせたらちょん切ってやりますから」
「……何を、とは聞かないでおきましょう」

うん、私も聞かない方が良いような気がする。
なんとなくアレクが青い顔しながら内股になってそこを隠しているような気がするけど、うんきっと気のせいだ。
気のせいに違いない。

「じゃあ、くれぐれもお願いしますね」
「はい」

リーアが繋いだ私の手をアーノルドのそこに誘導する。
名残惜しそうに離れたリーアの手に代わり、すぐに少し固くてかさついているけれど安心出来る温もりに包まれた。

「やっと触れられた」
「っ!」

ぎゅっと痛くない程度に力を込められ耳元で私にだけ聞こえるように囁かれ、一気に頬が熱くなる。

うう、その声反則……!
しかもアーノルドの心地良い低音を私だけが独り占めだなんて、なんという贅沢……!

「……ちょっと近すぎるんじゃない?」
「恋人ならあれくらい普通じゃないですか?」

すぐ傍で不満そうなリーアの呟きにアレクがにこやかに答えているのが聞こえる。
リーアを崇拝しまくっているただの大型犬だと思っていたが、普通に自分の意見も言えるんだ。
いやそれが当たり前といえば当たり前なんだけど、リーアの前では自分の信念すら捻じ曲げてしまう人が多いから新鮮。
そういう所をリーアも気に入っているんだろうなあ。

「では行こうか」
「はい」

二人のやりとりに笑みを浮かべつつ、アーノルドに促され私達はパーティー会場へと向かった。







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