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第二部:飢餓との戦い、いくさ飯進化
第十三話:妬心と妨害、隠し麦の意地
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兵糧奉行預かりとなった千兵衛は、日ごとにその存在感を増していた。
彼の提案する型破りないくさ飯は、量の不足を補う粥(第11話)、
傷病兵の回復を助ける煮物(第12話)、
湿気から食料を守る燻製(第8話)など、着実に成果を上げていた。
兵士たちの間での評判はもちろん、兵糧奉行・黒田幻斎からの信頼も篤く、千兵衛に任される仕事の規模は大きくなっていた。
しかし、その成功は、必ずしも皆から歓迎されるものではなかった。
軍の中には、古くからのやり方を重んじ、新しい変化を嫌う者がいる。
武功こそが全てであり、兵站など末端の仕事だと見下す者もいる。
そして、千兵衛のように、戦場での手柄なくして、異例の抜擢を受ける者を妬む者もいる。
兵糧奉行の役人の中にも、千兵衛のやり方が自分たちの権限を侵すように感じたり、彼の若さや経歴の浅さを軽んじたりする者たちがいた。
筆頭の役人(第7話に登場)は千兵衛の能力を認めたが、全員がそうではなかった。
ある日のこと。
千兵衛が計画していた、特定の部隊への配給に使うための、大量の豆と雑穀の準備が進められていた。
その部隊は重要な任務に就くため、栄養価の高い豆類と腹持ちの良い雑穀が不可欠だった。
しかし、いざ調理にかかろうとした時、手配されていたはずの豆が、なぜか全く別の場所へ運ばれてしまっていたことが判明した。
「どういうことだ!
豆はこちらに回すよう、確かに伝えたはずだが!?」
助作が声を荒げる。
確認に走った茂平が、血相を変えて戻ってきた。
「手配したのが、別の部隊に……
それも、急に命令が変わったそうで……!」
不審な点があまりに多い。
単なる手違いではない。
千兵衛は、これが意図的な妨害である可能性が高いことに気づいた。
彼の仕事に支障をきたさせ、失敗させようという者たちの仕業だろう。
必要な豆が手に入らない。
予定していた食料が作れない。
このままでは、あの部隊に約束した食事を提供できないどころか、他の兵士たちの配給にも影響が出るかもしれない。
権六も、助作も、茂平も、怒りと悔しさで唇を噛み締めている。
「卑怯な真似を……!
こんなことで、千兵衛さんを…!」
助作が拳を震わせる。
しかし、千兵衛は顔色を変えなかった。
怒りや落胆よりも先に、彼の頭の中では、この状況をどう乗り切るか、という思考が高速で回転していた。
豆が駄目なら、他のもので代用できないか?
別の栄養源は?
そして、妨害する者が「まさか」と思うような、見過ごされている食材はないか?
彼は、以前備蓄品の点検をしていた際に、他の役人たちが軽んじ、奥に追いやっていた一つの区画を思い出した。
そこには、見た目が悪かったり、量が少なすぎたりする、いわば「規格外」の雑穀がまとめられていた。
その中に、わずかだが、彼の故郷の飢饉を思い出させる「麦」があった。
そして、燻製大豆を作る際に炒った、香ばしい大豆も残っている。
これらは、他の者から見れば取るに足らないものかもしれない。
だが、千兵衛にとっては、希望の光だった。
「権六さん、助作、茂平さん。
聞いてくれ。
手は打たれている。
だが、このまま引き下がるわけにはいかぬ」
千兵衛は言った。
「使えなくなった豆の代わりに、あれを使おう」
千兵衛と仲間たちは、急ぎその「規格外」の区画へ向かった。
埃を被った袋の中から、様々な雑穀、特に麦を取り出す。
そして、以前炒っておいた大豆も集めた。
「こんなもん、飯にもなりゃしねえって、誰も見向きもしやしなかった奴らだぜ?」
権六が不思議そうに言う。
「ええ。
ですが、乏しい中でも、これらを組み合わせれば、きっと力になる。
それに、妨害した者たちも、まさかこれを使われるとは思っていないでしょう」
千兵衛は燃えるような目で言った。
「隠された希望を、飯に変えるのです」
千兵衛は、集めた麦と、炒った大豆を丁寧に洗う。
麦は硬いため、米や大豆とは別に、少し長めに水に浸す。
そして、炊く際に工夫を凝らす。
大きな釜に、まず麦を少量敷き詰める。
その上に、水に浸した米と、炒った大豆を乗せる。
こうして層を作ることで、麦は下からの熱でじっくりと火が通り、米と大豆は上の層でふっくらと炊きあがる。
これが千兵衛の編み出した「二段炊き」だ。
水を加え、塩で味を調える。
火にかけると、コトコトと音がし始め、やがてぷくぷくと沸騰する音に変わる。
釜からは、米と麦、そして炒った大豆のこうばしい香りがふわりと立ち上る。
それは、決して豪華な香りではないが、生命力に満ちた、力強い香りだった。
妨害された悔しさを胸に、権六と助作は薪をくべる手に力を込める。
茂平は、釜の様子を注意深く見守る。
皆、千兵衛の「飯に込める意地」を感じ取っていた。
やがて、炊き込み飯が完成した。
釜の蓋を開けると、湯気と共に、炊きあがった飯が姿を現す。
下の麦はもっちりと、上の米はふっくらと炊きあがり、炒り大豆はしっかりとした食感を保っている。
見た目は素朴だが、様々な穀物の色と、炒り大豆の茶色が混じり合い、彩りがある。
千兵衛は、出来上がった飯を仲間の椀によそった。
そして、妨害という困難を乗り越え、生み出されたこの料理を前に、確かな声で言った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
権六たちは、その飯を口にした。
麦のつぶつぶとした食感と、米のふっくらさ、大豆のぽりぽりとした歯ごたえ。
噛みしめるほどに広がる、穀物の滋味と、炒り大豆の香ばしさ。
そして、底の方から湧き上がるような、力強い味わい。
「うまい……!」
権六が呻くように言う。
「こんな……
こんな規格外の麦と豆で、こんなに美味い飯が……!」
助作も茂平も、黙って飯をかき込む。
口にするたびに、妨害された悔しさが、この飯の美味さによってすっきりと洗い流されていくようだった。
これはただの食事ではない。
自分たちの意地が、千兵衛の知恵によって形になったものだ。
千兵衛の妨害を企てた者たちは、後に、あの部隊に予定通り食料が配られたこと、そして兵士たちがいつも以上に満足そうに食事をしていたという報告を聞き、不審に思ったという。
彼らは知る由もなかった。
自分たちが無駄だと思った規格外の食材が、千兵衛の手によって、妨害を打ち破る「いくさ飯」へと生まれ変わったことを。
飢餓という脅威に加え、陣営内部の妬みや妨害という、人間的な困難が千兵衛の前に立ちはだかる。
しかし、彼は、武力ではなく「食」の力で、これらの逆境を乗り越えていく。
この「隠し麦」を使った炊き込み飯は、彼の知恵と、どんな困難にも屈しない意地、そして仲間との絆の結晶だ。
兵糧の危機は深まり、内部の軋轢も増していく中で、千兵衛の「いくさ飯」の戦いは、さらに複雑な様相を呈していく。
【今回のいくさ飯】
『逆境に咲け! 香ばし炒り豆と隠し麦の二段炊き飯』
他の役人たちが軽んじていた規格外の麦と、香ばしく炒った大豆、そして通常の配給米を組み合わせて炊き込んだもの。
麦と米を層にして炊く「二段炊き」で、異なる穀物の食感と風味を活かす。
妨害された状況で、手に入るわずかな、見過ごされた食材から生み出された、力強く滋味深い一品。
(現代の麦飯、雑穀米、豆ご飯のアレンジ。男飯:ワイルド、意地の一品)
彼の提案する型破りないくさ飯は、量の不足を補う粥(第11話)、
傷病兵の回復を助ける煮物(第12話)、
湿気から食料を守る燻製(第8話)など、着実に成果を上げていた。
兵士たちの間での評判はもちろん、兵糧奉行・黒田幻斎からの信頼も篤く、千兵衛に任される仕事の規模は大きくなっていた。
しかし、その成功は、必ずしも皆から歓迎されるものではなかった。
軍の中には、古くからのやり方を重んじ、新しい変化を嫌う者がいる。
武功こそが全てであり、兵站など末端の仕事だと見下す者もいる。
そして、千兵衛のように、戦場での手柄なくして、異例の抜擢を受ける者を妬む者もいる。
兵糧奉行の役人の中にも、千兵衛のやり方が自分たちの権限を侵すように感じたり、彼の若さや経歴の浅さを軽んじたりする者たちがいた。
筆頭の役人(第7話に登場)は千兵衛の能力を認めたが、全員がそうではなかった。
ある日のこと。
千兵衛が計画していた、特定の部隊への配給に使うための、大量の豆と雑穀の準備が進められていた。
その部隊は重要な任務に就くため、栄養価の高い豆類と腹持ちの良い雑穀が不可欠だった。
しかし、いざ調理にかかろうとした時、手配されていたはずの豆が、なぜか全く別の場所へ運ばれてしまっていたことが判明した。
「どういうことだ!
豆はこちらに回すよう、確かに伝えたはずだが!?」
助作が声を荒げる。
確認に走った茂平が、血相を変えて戻ってきた。
「手配したのが、別の部隊に……
それも、急に命令が変わったそうで……!」
不審な点があまりに多い。
単なる手違いではない。
千兵衛は、これが意図的な妨害である可能性が高いことに気づいた。
彼の仕事に支障をきたさせ、失敗させようという者たちの仕業だろう。
必要な豆が手に入らない。
予定していた食料が作れない。
このままでは、あの部隊に約束した食事を提供できないどころか、他の兵士たちの配給にも影響が出るかもしれない。
権六も、助作も、茂平も、怒りと悔しさで唇を噛み締めている。
「卑怯な真似を……!
こんなことで、千兵衛さんを…!」
助作が拳を震わせる。
しかし、千兵衛は顔色を変えなかった。
怒りや落胆よりも先に、彼の頭の中では、この状況をどう乗り切るか、という思考が高速で回転していた。
豆が駄目なら、他のもので代用できないか?
別の栄養源は?
そして、妨害する者が「まさか」と思うような、見過ごされている食材はないか?
彼は、以前備蓄品の点検をしていた際に、他の役人たちが軽んじ、奥に追いやっていた一つの区画を思い出した。
そこには、見た目が悪かったり、量が少なすぎたりする、いわば「規格外」の雑穀がまとめられていた。
その中に、わずかだが、彼の故郷の飢饉を思い出させる「麦」があった。
そして、燻製大豆を作る際に炒った、香ばしい大豆も残っている。
これらは、他の者から見れば取るに足らないものかもしれない。
だが、千兵衛にとっては、希望の光だった。
「権六さん、助作、茂平さん。
聞いてくれ。
手は打たれている。
だが、このまま引き下がるわけにはいかぬ」
千兵衛は言った。
「使えなくなった豆の代わりに、あれを使おう」
千兵衛と仲間たちは、急ぎその「規格外」の区画へ向かった。
埃を被った袋の中から、様々な雑穀、特に麦を取り出す。
そして、以前炒っておいた大豆も集めた。
「こんなもん、飯にもなりゃしねえって、誰も見向きもしやしなかった奴らだぜ?」
権六が不思議そうに言う。
「ええ。
ですが、乏しい中でも、これらを組み合わせれば、きっと力になる。
それに、妨害した者たちも、まさかこれを使われるとは思っていないでしょう」
千兵衛は燃えるような目で言った。
「隠された希望を、飯に変えるのです」
千兵衛は、集めた麦と、炒った大豆を丁寧に洗う。
麦は硬いため、米や大豆とは別に、少し長めに水に浸す。
そして、炊く際に工夫を凝らす。
大きな釜に、まず麦を少量敷き詰める。
その上に、水に浸した米と、炒った大豆を乗せる。
こうして層を作ることで、麦は下からの熱でじっくりと火が通り、米と大豆は上の層でふっくらと炊きあがる。
これが千兵衛の編み出した「二段炊き」だ。
水を加え、塩で味を調える。
火にかけると、コトコトと音がし始め、やがてぷくぷくと沸騰する音に変わる。
釜からは、米と麦、そして炒った大豆のこうばしい香りがふわりと立ち上る。
それは、決して豪華な香りではないが、生命力に満ちた、力強い香りだった。
妨害された悔しさを胸に、権六と助作は薪をくべる手に力を込める。
茂平は、釜の様子を注意深く見守る。
皆、千兵衛の「飯に込める意地」を感じ取っていた。
やがて、炊き込み飯が完成した。
釜の蓋を開けると、湯気と共に、炊きあがった飯が姿を現す。
下の麦はもっちりと、上の米はふっくらと炊きあがり、炒り大豆はしっかりとした食感を保っている。
見た目は素朴だが、様々な穀物の色と、炒り大豆の茶色が混じり合い、彩りがある。
千兵衛は、出来上がった飯を仲間の椀によそった。
そして、妨害という困難を乗り越え、生み出されたこの料理を前に、確かな声で言った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
権六たちは、その飯を口にした。
麦のつぶつぶとした食感と、米のふっくらさ、大豆のぽりぽりとした歯ごたえ。
噛みしめるほどに広がる、穀物の滋味と、炒り大豆の香ばしさ。
そして、底の方から湧き上がるような、力強い味わい。
「うまい……!」
権六が呻くように言う。
「こんな……
こんな規格外の麦と豆で、こんなに美味い飯が……!」
助作も茂平も、黙って飯をかき込む。
口にするたびに、妨害された悔しさが、この飯の美味さによってすっきりと洗い流されていくようだった。
これはただの食事ではない。
自分たちの意地が、千兵衛の知恵によって形になったものだ。
千兵衛の妨害を企てた者たちは、後に、あの部隊に予定通り食料が配られたこと、そして兵士たちがいつも以上に満足そうに食事をしていたという報告を聞き、不審に思ったという。
彼らは知る由もなかった。
自分たちが無駄だと思った規格外の食材が、千兵衛の手によって、妨害を打ち破る「いくさ飯」へと生まれ変わったことを。
飢餓という脅威に加え、陣営内部の妬みや妨害という、人間的な困難が千兵衛の前に立ちはだかる。
しかし、彼は、武力ではなく「食」の力で、これらの逆境を乗り越えていく。
この「隠し麦」を使った炊き込み飯は、彼の知恵と、どんな困難にも屈しない意地、そして仲間との絆の結晶だ。
兵糧の危機は深まり、内部の軋轢も増していく中で、千兵衛の「いくさ飯」の戦いは、さらに複雑な様相を呈していく。
【今回のいくさ飯】
『逆境に咲け! 香ばし炒り豆と隠し麦の二段炊き飯』
他の役人たちが軽んじていた規格外の麦と、香ばしく炒った大豆、そして通常の配給米を組み合わせて炊き込んだもの。
麦と米を層にして炊く「二段炊き」で、異なる穀物の食感と風味を活かす。
妨害された状況で、手に入るわずかな、見過ごされた食材から生み出された、力強く滋味深い一品。
(現代の麦飯、雑穀米、豆ご飯のアレンジ。男飯:ワイルド、意地の一品)
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