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第二部:飢餓との戦い、いくさ飯進化
第十四話:冬の厳しさと温かい食事
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季節は確実に移り変わっていた。
朝夕は一段と冷え込み、陽が落ちるのも早くなった。
陣営の地面は朝露が凍てつき、ひんやりとした空気が肌をぴりぴりと刺す。
兵士たちは支給された薄い陣羽織に身を包み、互いに寄り添うようにして寒さをしのいでいた。
冬の到来は、飢餓の危機に新たな困難をもたらした。
寒さは兵士たちの体力を奪い、風邪や咳といった病にかかりやすくする。
硬く冷たい干飯や、温めてもすぐに冷える湯漬けだけでは、体の芯から冷える寒さを凌ぐことはできない。
手足はかじかみ、関節はきしきしと音を立てるようだ。
兵士たちは皆、温かい食事を求めていた。
腹を満たすだけでなく、冷えた体を内側から温め、凍える手足を解きほぐすような、そんな食事が切実に必要だった。
しかし、燃料となる薪や炭もまた、貴重になりつつあった。
輸送の困難に加え、暖を取るための火や、武器の手入れ、鍛冶などに優先して使われるため、調理に回せる燃料は限られていた。
各々が大きな火を炊いて煮炊きするなど、許される状況ではない。
千兵衛は、兵糧奉行の役人として、この「寒さ」と「燃料不足」という二重苦を目の当たりにしていた。
兵士たちの顔色は、飢えだけでなく、寒さによっても悪化している。
彼らに必要なのは、効率よく大量に作れ、少ない燃料でも温かく調理でき、そして何よりも、体の芯から温まる食事だ。
千兵衛は考えた。
温かい汁物、それも具沢山の煮込みであれば、液体そのものが体を温め、煮込まれた具材からゆっくりと栄養が染み出し、腹持ちも良い。
そして、大きな鍋で一度に大量に作れるため、燃料の節約にもなる。
特に、寒さに強く日持ちもする根菜類と、備蓄の豆、そして硬くてそのままでは食べにくい干し肉や干し魚の切れ端を組み合わせれば、栄養も味も両立できるだろう。
「味噌仕立てにすれば、体も温まりますし、多少の材料の癖も気になりにくくなります」
千兵衛は、権六や茂平に手伝ってもらい、大きな煮込み用の鍋と、大量の根菜(大根、人参、芋類など)と豆(大豆、小豆など)を運び込ませた。
根菜は土を落とし、使いやすい大きさにごろごろと切っていく。
干し肉や干し魚は水で戻し、細かく刻む。
兵糧担当区画にある、調理専用の大きな火を起こす。
そこに、たっぷりの水を張った大鍋をかけ、根菜と豆、そして干し肉や干し魚を投入する。
強火で一度沸騰させた後、弱火にして蓋をする。
コトコト…と、煮込み特有の音が聞こえ始める。
鍋の中では、様々な具材がぐつぐつと煮え、互いの味を馴染ませていく。
そこに、備蓄の味噌を溶き入れる。
味噌の香りが加わると、煮込みの香りは一気に深みを増した。
湯気と共に立ち上る香りは、寒さにひんやりとした空気の中にふわりと広がる。
味噌と、根菜の土っぽい香り、そして肉や魚介の旨味が混じり合った、こうばしい、温かい匂いだ。
それは、冷たい陣中の空気を打ち破り、兵士たちの凍える鼻腔をくすぐった。彼らは思わず、匂いの元を振り返る。
鍋からはもくもくと白い湯気が立ち上り、まるで煙の烽火のように寒空に吸い込まれていく。
その湯気を見ているだけで、体が少し温まるような錯覚に陥る。
じっくりと時間をかけて煮込むことで、硬かった根菜はほくほくと柔らかくなり、豆はくったりと煮崩れ、干し肉や干し魚もとろとろに近いやわらかさになる。
鍋の中身は、温かい味噌の汁と共に、栄養と旨味がぎゅっと詰まった、しっかりとした煮込みになった。
煮込みが完成した。
千兵衛は、出来上がった温かい味噌煮込みを、夜の見張りから戻ってきたばかりの、特に冷え切っている様子の兵士たちに振る舞いに行った。
湯気立ち上る大鍋を前に、兵士たちは期待と不安が混じった目で千兵衛を見つめる。
「皆様、お疲れ様でございます。
寒うございましたでしょう」
千兵衛は温かい煮込みを椀によそいながら言った。
「体を温め、力をつけるための飯です」
そして、熱々の煮込みを差し出し、その料理に込めた信念を語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
兵士たちは、ほかほかと湯気の立ち上る椀を受け取った。
凍える手に温かさが伝わる。
味噌と具材のこうばしい香りをくんくんと嗅ぎ、無言で一口食べる。
ほくほくとした芋、くったりと柔らかい大根、味が染み込んだ豆。
噛む必要がないほど柔らかく煮込まれた干し肉。
そして、温かい味噌の汁が、口の中から喉、そして胃の腑へとじんわりと染み渡っていく。
冷え切っていた体が、内側からほかほかと温まっていくのを感じる。
腹の底から力が湧いてくるような、確かな手応えがあった。
「……あぁ、美味え……」
ある兵士が、心の底からの声で呟いた。
他の兵士たちも、黙って煮込みをかき込む。顔から寒さによる緊張が消え、安堵と満ち足りた表情が浮かぶ。
皆、はぁ~と長い息を吐き、体が芯から温まった心地よさに浸っている。
「千兵衛殿……
これは、本当に助かる……」
「凍えた体が、生き返ったようだ」
彼らの言葉に、千兵衛は静かに頷いた。
この温かい味噌煮込みは、単に腹を満たすだけでなく、寒さという兵士たちの敵と戦う力になったのだ。
厳しい冬は始まったばかりだ。
寒さはこれからさらに厳しくなるだろう。
そして、大いくさは、その冬の中で行われる。
飢餓という見えざる敵に加え、寒さという物理的な脅威。
そして、燃料不足という新たな課題。
兵糧奉行預かりとして、千兵衛の戦いは多岐にわたる。
しかし、千兵衛は、根菜や豆といった日持ちする材料と、効率的な煮込みという調理法で、この困難に立ち向かう糸口を見つけた。
この温かい一杯が、来るべき冬の戦い、そして大いくさの中で、どれほど多くの兵士を寒さと飢えから救うことになるのか。
千兵衛の「いくさ飯」は、季節の変化と共に、さらにその形を変え、進化していく。
【今回のいくさ飯】
『体を芯から温める、根菜と干し肉の味噌鍋』
寒さに強く日持ちする根菜(大根、人参、芋類など)と豆、そして水で戻した干し肉や干し魚を、味噌仕立てで大鍋でじっくり煮込んだもの。
具材から出る出汁と味噌の風味が合わさり、深い味わい。
体を内側から温め、寒さによる疲労を軽減し、持続する力を与える。
大量調理に向く。
(現代の豚汁や具沢山味噌汁。男飯:温まる、スタミナ)
朝夕は一段と冷え込み、陽が落ちるのも早くなった。
陣営の地面は朝露が凍てつき、ひんやりとした空気が肌をぴりぴりと刺す。
兵士たちは支給された薄い陣羽織に身を包み、互いに寄り添うようにして寒さをしのいでいた。
冬の到来は、飢餓の危機に新たな困難をもたらした。
寒さは兵士たちの体力を奪い、風邪や咳といった病にかかりやすくする。
硬く冷たい干飯や、温めてもすぐに冷える湯漬けだけでは、体の芯から冷える寒さを凌ぐことはできない。
手足はかじかみ、関節はきしきしと音を立てるようだ。
兵士たちは皆、温かい食事を求めていた。
腹を満たすだけでなく、冷えた体を内側から温め、凍える手足を解きほぐすような、そんな食事が切実に必要だった。
しかし、燃料となる薪や炭もまた、貴重になりつつあった。
輸送の困難に加え、暖を取るための火や、武器の手入れ、鍛冶などに優先して使われるため、調理に回せる燃料は限られていた。
各々が大きな火を炊いて煮炊きするなど、許される状況ではない。
千兵衛は、兵糧奉行の役人として、この「寒さ」と「燃料不足」という二重苦を目の当たりにしていた。
兵士たちの顔色は、飢えだけでなく、寒さによっても悪化している。
彼らに必要なのは、効率よく大量に作れ、少ない燃料でも温かく調理でき、そして何よりも、体の芯から温まる食事だ。
千兵衛は考えた。
温かい汁物、それも具沢山の煮込みであれば、液体そのものが体を温め、煮込まれた具材からゆっくりと栄養が染み出し、腹持ちも良い。
そして、大きな鍋で一度に大量に作れるため、燃料の節約にもなる。
特に、寒さに強く日持ちもする根菜類と、備蓄の豆、そして硬くてそのままでは食べにくい干し肉や干し魚の切れ端を組み合わせれば、栄養も味も両立できるだろう。
「味噌仕立てにすれば、体も温まりますし、多少の材料の癖も気になりにくくなります」
千兵衛は、権六や茂平に手伝ってもらい、大きな煮込み用の鍋と、大量の根菜(大根、人参、芋類など)と豆(大豆、小豆など)を運び込ませた。
根菜は土を落とし、使いやすい大きさにごろごろと切っていく。
干し肉や干し魚は水で戻し、細かく刻む。
兵糧担当区画にある、調理専用の大きな火を起こす。
そこに、たっぷりの水を張った大鍋をかけ、根菜と豆、そして干し肉や干し魚を投入する。
強火で一度沸騰させた後、弱火にして蓋をする。
コトコト…と、煮込み特有の音が聞こえ始める。
鍋の中では、様々な具材がぐつぐつと煮え、互いの味を馴染ませていく。
そこに、備蓄の味噌を溶き入れる。
味噌の香りが加わると、煮込みの香りは一気に深みを増した。
湯気と共に立ち上る香りは、寒さにひんやりとした空気の中にふわりと広がる。
味噌と、根菜の土っぽい香り、そして肉や魚介の旨味が混じり合った、こうばしい、温かい匂いだ。
それは、冷たい陣中の空気を打ち破り、兵士たちの凍える鼻腔をくすぐった。彼らは思わず、匂いの元を振り返る。
鍋からはもくもくと白い湯気が立ち上り、まるで煙の烽火のように寒空に吸い込まれていく。
その湯気を見ているだけで、体が少し温まるような錯覚に陥る。
じっくりと時間をかけて煮込むことで、硬かった根菜はほくほくと柔らかくなり、豆はくったりと煮崩れ、干し肉や干し魚もとろとろに近いやわらかさになる。
鍋の中身は、温かい味噌の汁と共に、栄養と旨味がぎゅっと詰まった、しっかりとした煮込みになった。
煮込みが完成した。
千兵衛は、出来上がった温かい味噌煮込みを、夜の見張りから戻ってきたばかりの、特に冷え切っている様子の兵士たちに振る舞いに行った。
湯気立ち上る大鍋を前に、兵士たちは期待と不安が混じった目で千兵衛を見つめる。
「皆様、お疲れ様でございます。
寒うございましたでしょう」
千兵衛は温かい煮込みを椀によそいながら言った。
「体を温め、力をつけるための飯です」
そして、熱々の煮込みを差し出し、その料理に込めた信念を語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
兵士たちは、ほかほかと湯気の立ち上る椀を受け取った。
凍える手に温かさが伝わる。
味噌と具材のこうばしい香りをくんくんと嗅ぎ、無言で一口食べる。
ほくほくとした芋、くったりと柔らかい大根、味が染み込んだ豆。
噛む必要がないほど柔らかく煮込まれた干し肉。
そして、温かい味噌の汁が、口の中から喉、そして胃の腑へとじんわりと染み渡っていく。
冷え切っていた体が、内側からほかほかと温まっていくのを感じる。
腹の底から力が湧いてくるような、確かな手応えがあった。
「……あぁ、美味え……」
ある兵士が、心の底からの声で呟いた。
他の兵士たちも、黙って煮込みをかき込む。顔から寒さによる緊張が消え、安堵と満ち足りた表情が浮かぶ。
皆、はぁ~と長い息を吐き、体が芯から温まった心地よさに浸っている。
「千兵衛殿……
これは、本当に助かる……」
「凍えた体が、生き返ったようだ」
彼らの言葉に、千兵衛は静かに頷いた。
この温かい味噌煮込みは、単に腹を満たすだけでなく、寒さという兵士たちの敵と戦う力になったのだ。
厳しい冬は始まったばかりだ。
寒さはこれからさらに厳しくなるだろう。
そして、大いくさは、その冬の中で行われる。
飢餓という見えざる敵に加え、寒さという物理的な脅威。
そして、燃料不足という新たな課題。
兵糧奉行預かりとして、千兵衛の戦いは多岐にわたる。
しかし、千兵衛は、根菜や豆といった日持ちする材料と、効率的な煮込みという調理法で、この困難に立ち向かう糸口を見つけた。
この温かい一杯が、来るべき冬の戦い、そして大いくさの中で、どれほど多くの兵士を寒さと飢えから救うことになるのか。
千兵衛の「いくさ飯」は、季節の変化と共に、さらにその形を変え、進化していく。
【今回のいくさ飯】
『体を芯から温める、根菜と干し肉の味噌鍋』
寒さに強く日持ちする根菜(大根、人参、芋類など)と豆、そして水で戻した干し肉や干し魚を、味噌仕立てで大鍋でじっくり煮込んだもの。
具材から出る出汁と味噌の風味が合わさり、深い味わい。
体を内側から温め、寒さによる疲労を軽減し、持続する力を与える。
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