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第二部:飢餓との戦い、いくさ飯進化
第二十話:資材不足、調理器具の工夫
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第二師団の兵糧全般を任されるという重責を担うことになった千兵衛は、その任務の途方もない規模を実感していた。
兵糧奉行預かりとして、これまでの小さな工夫で成果を上げてきたが、それはあくまで限られた範囲での話だ。
第二師団の一万を超える兵士たちの胃袋を、来るべき大戦の間、切れ目なく満たし続けるというのは、これまでとは全く次元の違う挑戦だった。
まず直面したのは、食材の絶対量不足だけではない問題だった。
それは、「調理能力の不足」だ。
第二師団には複数の炊事場があるが、数千人分の食事を一度に作るためには、巨大な釜や鍋がさらに多く必要だ。
しかし、それらは数が限られており、重く、輸送も困難だ。
また、大量の火を起こし、維持するための薪や炭といった燃料も、常に十分にあるわけではない。
限られた数の鍋や釜で、大人数の食事を作ろうとすると、時間がかかる。
配給が遅れれば、兵士たちは腹を空かせて苛立ちを募らせる。
燃料を多く使えば、備蓄が早く尽きる。
既存のやり方では、この状況を乗り切れないことは明らかだった。
「数が足りぬ……
そして、燃料も節約せねばならぬ……」
千兵衛は、第二師団の炊事場の状況を見て回った。
大きな釜がいくつかあるが、それでも一万全てを賄うには圧倒的に足りない。
調理人たちも、慣れたやり方で何とかしようとしているが、効率が悪く、疲弊している。
千兵衛は、この物理的な制約を、創意工夫で乗り越えなければならないと考えた。
少ない鍋、少ない燃料で、いかにして大量の、しかも兵士たちの力となる美味しい食事を作るか。
彼は、様々な調理法や、使える道具について考えを巡らせた。
そこで千兵衛が思いついたのは、「重ね煮込み」という方法だった。
一つの鍋の中で、食材を層にして重ねて煮込む。
こうすることで、それぞれの食材から出る水分や旨味が下の層へ染み込み、少ない水分でも美味しく調理できる。
また、火の通りにくいものを下に、通りやすいものを上に重ねれば、火加減の調整も容易になり、全体に均一に火が通る。
そして、何よりも、大きな鍋一つあれば、数千人分の具材を一度に煮込むことができる。
「よし、これならば……!」
千兵衛は、この重ね煮込みに使う食材を選び始めた。
底には、硬く火の通りにくい根菜類(大根、人参、牛蒡など)をごろごろと切って敷き詰める。
その上に、備蓄の豆(大豆、小豆など)や、水で戻した干し肉、干し魚などを乗せる。
さらにその上に、比較的に火の通りやすい乾燥野菜や、手に入る野草などを重ねる。
大きな炊事用の釜を火にかける。
重ね煮込みに必要な水分は、通常よりずっと少ない。
鍋底に少量の水か出汁を入れるだけで、後は食材自身から出る水分で煮るのだ。
具材を丁寧に層にして釜に入れ、蓋をする。
コトコトと、煮込みが始まる音が聞こえる。
最初は静かだが、鍋の中の温度が上がるにつれて、ぐつぐつと力強い音に変わっていく。
釜からは、下の層から順に、様々な食材の旨味と香りが混じり合った、複雑でこうばしい湯気がふわりと立ち上る。
根菜の土っぽい香りに、豆の甘み、肉や魚の旨味、そして野草の爽やかさが混ざり合い、食欲をそそる。
重ね煮込みは、途中でかき混ぜる必要がないため、調理人が他の作業に回れるのも利点だ。
千兵衛は、火加減だけを調整し、じっくりと時間をかけて煮込んでいく。
鍋の中では、それぞれの層の食材が、互いに影響を与え合いながら、一つの調和した味へと変化していく。
煮込みが完成した。
釜の蓋を開けると、湯気と共に、色とりどりの煮込みが姿を現す。
一番下の根菜はほくほくと柔らかく、豆はくったりと、干し肉や干し魚はとろとろになっている。
上の層の野菜や野草も、しゃきっと感を残しつつ、味が染み込んでいる。
鍋の中は、具材がぎっしりと詰まっており、見た目にも量感がある。
千兵衛は、出来上がった重ね煮込みを、炊事場の調理人たちと共に味見した。
皆、その見た目の量感と、立ち上る香りに驚いている。
「おお……
これは」
「一つの鍋で、こんなにたくさんの具が……!」
調理人たちは、出来上がった煮込みを椀によそった。
底の根菜から上の野草まで、様々な具材が入っている。
千兵衛は、完成した重ね煮込みを前に、この料理に込めた思い、そして資材不足を乗り越えるための工夫を語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
調理人たちは、出来上がった煮込みを口にした。
それぞれの具材の異なる食感、そして、層になって煮込まれたことで生まれた深みのある味わい。
それは、いつもの単調な煮込みとは全く違う、豊かさを持っていた。
「美味い!」
「これなら、兵士たちも喜ぶでしょう!」
「それに、本当に一つの釜でこんなにできるとは……!」
調理人たちは、その美味しさだけでなく、調理効率の高さに驚き、そして安堵していた。
これならば、限られた鍋と燃料でも、多くの兵士に温かい食事を提供できるかもしれない。
この重ね煮込みの方法は、すぐに第二師団の各炊事場へと伝達され、導入が進められることになった。
千兵衛は、調理人たちにこの方法を指導し、大量調理の効率化を指揮する。
飢餓、寒さ、病、栄養不足に加え、大規模な調理能力の不足という新たな壁が千兵衛の前に立ちはだかった。
しかし、彼は「重ね煮込み」という工夫で、この物理的な制約を乗り越える糸口を見つけた。
しかし、第二師団の兵糧は、まだ全ての課題を解決したわけではない。
物資の確保は常に綱渡りだし、兵士たちの多様なニーズに応える必要もある。
そして何より、これから始まる大戦では、この飯を、混乱する戦場の中で、いかにして兵士たちに届けられるかが問われる。
この「鍋一つで完結する重ね煮込み」は、数千人規模の飢餓と戦う、千兵衛の新たな武器となった。
第二師団の兵糧を担う、千兵衛の本当の戦いが、今、本格的に始まったのだ。
【今回のいくさ飯】
『鍋一つで完結! 重ね煮込み』
大きな釜や鍋一つで、根菜、豆、干し肉、干し野菜などを層にして重ね、少ない水分でじっくり煮込んだもの。
食材から出る水分と旨味で煮込むため、風味豊かで滋養深い。
複数の鍋が不要で燃料も節約できるため、調理器具が不足する大規模な陣中での大量調理に効率的。
様々な具材の食感と味が楽しめる。
(現代の重ね煮、無水調理アレンジ。男飯:大量調理、効率)
兵糧奉行預かりとして、これまでの小さな工夫で成果を上げてきたが、それはあくまで限られた範囲での話だ。
第二師団の一万を超える兵士たちの胃袋を、来るべき大戦の間、切れ目なく満たし続けるというのは、これまでとは全く次元の違う挑戦だった。
まず直面したのは、食材の絶対量不足だけではない問題だった。
それは、「調理能力の不足」だ。
第二師団には複数の炊事場があるが、数千人分の食事を一度に作るためには、巨大な釜や鍋がさらに多く必要だ。
しかし、それらは数が限られており、重く、輸送も困難だ。
また、大量の火を起こし、維持するための薪や炭といった燃料も、常に十分にあるわけではない。
限られた数の鍋や釜で、大人数の食事を作ろうとすると、時間がかかる。
配給が遅れれば、兵士たちは腹を空かせて苛立ちを募らせる。
燃料を多く使えば、備蓄が早く尽きる。
既存のやり方では、この状況を乗り切れないことは明らかだった。
「数が足りぬ……
そして、燃料も節約せねばならぬ……」
千兵衛は、第二師団の炊事場の状況を見て回った。
大きな釜がいくつかあるが、それでも一万全てを賄うには圧倒的に足りない。
調理人たちも、慣れたやり方で何とかしようとしているが、効率が悪く、疲弊している。
千兵衛は、この物理的な制約を、創意工夫で乗り越えなければならないと考えた。
少ない鍋、少ない燃料で、いかにして大量の、しかも兵士たちの力となる美味しい食事を作るか。
彼は、様々な調理法や、使える道具について考えを巡らせた。
そこで千兵衛が思いついたのは、「重ね煮込み」という方法だった。
一つの鍋の中で、食材を層にして重ねて煮込む。
こうすることで、それぞれの食材から出る水分や旨味が下の層へ染み込み、少ない水分でも美味しく調理できる。
また、火の通りにくいものを下に、通りやすいものを上に重ねれば、火加減の調整も容易になり、全体に均一に火が通る。
そして、何よりも、大きな鍋一つあれば、数千人分の具材を一度に煮込むことができる。
「よし、これならば……!」
千兵衛は、この重ね煮込みに使う食材を選び始めた。
底には、硬く火の通りにくい根菜類(大根、人参、牛蒡など)をごろごろと切って敷き詰める。
その上に、備蓄の豆(大豆、小豆など)や、水で戻した干し肉、干し魚などを乗せる。
さらにその上に、比較的に火の通りやすい乾燥野菜や、手に入る野草などを重ねる。
大きな炊事用の釜を火にかける。
重ね煮込みに必要な水分は、通常よりずっと少ない。
鍋底に少量の水か出汁を入れるだけで、後は食材自身から出る水分で煮るのだ。
具材を丁寧に層にして釜に入れ、蓋をする。
コトコトと、煮込みが始まる音が聞こえる。
最初は静かだが、鍋の中の温度が上がるにつれて、ぐつぐつと力強い音に変わっていく。
釜からは、下の層から順に、様々な食材の旨味と香りが混じり合った、複雑でこうばしい湯気がふわりと立ち上る。
根菜の土っぽい香りに、豆の甘み、肉や魚の旨味、そして野草の爽やかさが混ざり合い、食欲をそそる。
重ね煮込みは、途中でかき混ぜる必要がないため、調理人が他の作業に回れるのも利点だ。
千兵衛は、火加減だけを調整し、じっくりと時間をかけて煮込んでいく。
鍋の中では、それぞれの層の食材が、互いに影響を与え合いながら、一つの調和した味へと変化していく。
煮込みが完成した。
釜の蓋を開けると、湯気と共に、色とりどりの煮込みが姿を現す。
一番下の根菜はほくほくと柔らかく、豆はくったりと、干し肉や干し魚はとろとろになっている。
上の層の野菜や野草も、しゃきっと感を残しつつ、味が染み込んでいる。
鍋の中は、具材がぎっしりと詰まっており、見た目にも量感がある。
千兵衛は、出来上がった重ね煮込みを、炊事場の調理人たちと共に味見した。
皆、その見た目の量感と、立ち上る香りに驚いている。
「おお……
これは」
「一つの鍋で、こんなにたくさんの具が……!」
調理人たちは、出来上がった煮込みを椀によそった。
底の根菜から上の野草まで、様々な具材が入っている。
千兵衛は、完成した重ね煮込みを前に、この料理に込めた思い、そして資材不足を乗り越えるための工夫を語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
調理人たちは、出来上がった煮込みを口にした。
それぞれの具材の異なる食感、そして、層になって煮込まれたことで生まれた深みのある味わい。
それは、いつもの単調な煮込みとは全く違う、豊かさを持っていた。
「美味い!」
「これなら、兵士たちも喜ぶでしょう!」
「それに、本当に一つの釜でこんなにできるとは……!」
調理人たちは、その美味しさだけでなく、調理効率の高さに驚き、そして安堵していた。
これならば、限られた鍋と燃料でも、多くの兵士に温かい食事を提供できるかもしれない。
この重ね煮込みの方法は、すぐに第二師団の各炊事場へと伝達され、導入が進められることになった。
千兵衛は、調理人たちにこの方法を指導し、大量調理の効率化を指揮する。
飢餓、寒さ、病、栄養不足に加え、大規模な調理能力の不足という新たな壁が千兵衛の前に立ちはだかった。
しかし、彼は「重ね煮込み」という工夫で、この物理的な制約を乗り越える糸口を見つけた。
しかし、第二師団の兵糧は、まだ全ての課題を解決したわけではない。
物資の確保は常に綱渡りだし、兵士たちの多様なニーズに応える必要もある。
そして何より、これから始まる大戦では、この飯を、混乱する戦場の中で、いかにして兵士たちに届けられるかが問われる。
この「鍋一つで完結する重ね煮込み」は、数千人規模の飢餓と戦う、千兵衛の新たな武器となった。
第二師団の兵糧を担う、千兵衛の本当の戦いが、今、本格的に始まったのだ。
【今回のいくさ飯】
『鍋一つで完結! 重ね煮込み』
大きな釜や鍋一つで、根菜、豆、干し肉、干し野菜などを層にして重ね、少ない水分でじっくり煮込んだもの。
食材から出る水分と旨味で煮込むため、風味豊かで滋養深い。
複数の鍋が不要で燃料も節約できるため、調理器具が不足する大規模な陣中での大量調理に効率的。
様々な具材の食感と味が楽しめる。
(現代の重ね煮、無水調理アレンジ。男飯:大量調理、効率)
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