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第二部:飢餓との戦い、いくさ飯進化
第二十一話:敵の兵糧事情を探る
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大戦を前に、陣営は情報収集に血道を上げていた。
敵の兵力、布陣、地形、そして動き。
それらは全て、来るべき戦に勝利するために不可欠な要素だ。
斥候が駆け戻り、間者からの報告がもたらされ、捕虜の尋問が行われる。
兵糧奉行の執務室にも、軍全体の状況が報告される。
ある日、千兵衛は兵糧奉行の役人たちが、真剣な顔で一枚の絵図と、ごつごつとした塊を見ているのを目にした。
絵図には敵の陣営らしき配置が描かれ、塊はどうやら敵の兵糧の一部らしい。
それは、薄茶色で、ひどく硬そうな焼き物だった。
「敵の兵糧か……
粗末なものだな」
役人の一人が呟く。
報告によると、敵軍もまた兵糧に苦慮しており、兵士たちの士気が低いらしい。
特に、携帯食として支給されているらしいこの塊は、味が悪く、兵士たちから不満の声が上がっている、と間者の報告にあった。
千兵衛は、その塊に興味を引かれた。
それは、先の第三話で千兵衛が作った戦陣堅パンに似ているが、見た目がさらに無骨で、ひび割れている箇所もある。
千兵衛は役人に頼み、その塊を見せてもらった。手に取ると、カチカチに硬い。
匂いを嗅いでも、穀物が焼けたような、単調な香ばしさしか感じられない。
「これは、おそらく雑穀を水で練って、固めて焼いただけのものでしょう」
千兵衛は推測した。
「保存性は高いでしょうが……
栄養も偏り、何より美味しくなさそうです」
敵もまた、飢餓と戦っている。
そして、彼らが兵士に与えているのは、我々の干飯と同じか、それ以上に粗末なものかもしれない。
千兵衛は、そこに一つの「好機」を見出した。
食は、兵士の腹を満たすだけでなく、心をも満たす。
そして、それは敵に対しても同じだ。
敵の兵糧が粗末で士気を下げているならば、我々の兵糧は、兵士の士気を高めるだけでなく、敵との比較において、味方により強い自信を与えることができるのではないか。
千兵衛は、敵の硬い兵糧を元に、それを遥かに凌駕する「いくさ飯」を作ることを決めた。
同じ「硬く焼いた携帯食」という形を取りながら、味、栄養、そして士気向上という点で、圧倒的な差をつけるのだ。
彼はすぐに材料を選び始めた。
敵のものは単なる雑穀かもしれないが、こちらは備蓄の中で選りすぐりの雑穀と、力をつけるための炒り大豆、そして香りを加えるための炒り胡麻や、以前作った野草の粉末を使おう。
まず、雑穀と炒り大豆を丁寧に石臼でゴリゴリとすり潰す。
完全に粉末にせず、少し粒が残る程度にするのが食感を良くするコツだ。
サラサラとした粉末と、つぶつぶとした粒が混ざり合う。
これに、以前作った野草の粉末と、炒り胡麻、そして塩を加えて混ぜ合わせる。
混ぜ合わせた粉末に、少量の水を加え、ねりねりと、硬めの生地になるまでこねる。
生地はしっかりとして、手にぺたぺたとつく。
これを、敵の兵糧と同じように、板状に成形する。
見た目は似ていても、千兵衛の生地は、様々な材料が混ざり合い、彩りがある。
成形した生地を天日で十分に乾燥させた後、炭火でじっくりと二度焼きする。
一度目の焼きで表面を固め、二度目の焼きで内部まで完全に火を通す。
釜からは、単なる穀物が焼ける匂いではなく、炒り大豆と胡麻、そして野草の香りが混じり合った、複雑でこうばしい香りがふわりと立ち上る。
この香りは、敵の兵糧にはない、魅力的な香りだ。
焼きあがった堅パンは、敵のものと同様にカチカチに硬い。
だが、見た目にはこんがりとした良い焼き色がつき、割れ目から中の様々な材料が見える。
手に取ると、単なる穀物にはない、力強い香ばしさが漂う。
千兵衛は、出来上がった「改良型堅焼き兵糧パン」を、兵糧奉行の役人たち、そして何人かの古参兵に見せた。
彼らは、その形を見て、敵の兵糧に似ていることに気づき、興味深そうに手に取った。
「おお、敵の飯に似ているな」
「しかし、何か香りが良いぞ?」
千兵衛は、この堅パンが、敵の兵糧を参考に、それを凌駕すべく工夫したものであることを説明した。
そして、この料理に込めた思いを語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
役人や兵士たちは、半信半疑といった表情で、その堅パンを一口かじってみる。
ボリボリと硬い歯ごたえ。
しかし、噛みしめるたびにじわりと広がる、炒り大豆と胡麻の豊かな香ばしさ、そして野草のほのかな風味。
単なる穀物の塊とは全く違う、滋味深い味わいだ。
「美味い!」
「なんだ、この味は!」
「敵の飯とは比べ物にならんな!」
彼らの顔に驚きと、そして確かな満足感が浮かんだ。
自分たちの兵糧が、敵のそれよりもはるかに優れている。
その事実だけで、兵士たちの士気はわずかに向上した。
この改良型堅焼き兵糧パンは、偵察任務や長距離行軍の携帯食として、そして敵の捕虜や寝返った兵士に与えることで、自軍の兵糧の質の高さを無言のうちに示す「戦略的な飯」として活用されることになった。
飢餓との戦いは、単に自軍の腹を満たすだけでなく、敵の食糧事情を知り、それを逆手に取る戦略的な局面を迎えた。
千兵衛の「いくさ飯」は、厨房の中だけでなく、戦場の心理戦にも影響を与え始めたのだ。
来るべき大戦で、この改良型堅焼き兵糧パンが、兵士たちの体力と士気を支え、そして敵との戦いの中でどのような役割を果たすのか。
食の力は、ますますその可能性を広げていく。
【今回のいくさ飯】
『敵を知り、己を知る飯。改良型堅焼き兵糧パン』
敵の兵糧事情を参考に、彼らの基本兵糧である「硬く焼いた携帯食」を、味、栄養、保存性の全ての面で凌駕すべく、千兵衛が創意工夫を凝らした一品。
良質な雑穀、炒り大豆、炒り胡麻、野草粉末などを混ぜ込み、二度焼きして作られる。カチカチに硬いが、噛むほどに豊かな風味が広がる。
偵察行動の携帯食として、また自軍の兵糧の優位性を示すための戦略的な意味合いも持つ。
(現代の栄養補助食品バー、乾パン、ミールレディ。戦略食)
敵の兵力、布陣、地形、そして動き。
それらは全て、来るべき戦に勝利するために不可欠な要素だ。
斥候が駆け戻り、間者からの報告がもたらされ、捕虜の尋問が行われる。
兵糧奉行の執務室にも、軍全体の状況が報告される。
ある日、千兵衛は兵糧奉行の役人たちが、真剣な顔で一枚の絵図と、ごつごつとした塊を見ているのを目にした。
絵図には敵の陣営らしき配置が描かれ、塊はどうやら敵の兵糧の一部らしい。
それは、薄茶色で、ひどく硬そうな焼き物だった。
「敵の兵糧か……
粗末なものだな」
役人の一人が呟く。
報告によると、敵軍もまた兵糧に苦慮しており、兵士たちの士気が低いらしい。
特に、携帯食として支給されているらしいこの塊は、味が悪く、兵士たちから不満の声が上がっている、と間者の報告にあった。
千兵衛は、その塊に興味を引かれた。
それは、先の第三話で千兵衛が作った戦陣堅パンに似ているが、見た目がさらに無骨で、ひび割れている箇所もある。
千兵衛は役人に頼み、その塊を見せてもらった。手に取ると、カチカチに硬い。
匂いを嗅いでも、穀物が焼けたような、単調な香ばしさしか感じられない。
「これは、おそらく雑穀を水で練って、固めて焼いただけのものでしょう」
千兵衛は推測した。
「保存性は高いでしょうが……
栄養も偏り、何より美味しくなさそうです」
敵もまた、飢餓と戦っている。
そして、彼らが兵士に与えているのは、我々の干飯と同じか、それ以上に粗末なものかもしれない。
千兵衛は、そこに一つの「好機」を見出した。
食は、兵士の腹を満たすだけでなく、心をも満たす。
そして、それは敵に対しても同じだ。
敵の兵糧が粗末で士気を下げているならば、我々の兵糧は、兵士の士気を高めるだけでなく、敵との比較において、味方により強い自信を与えることができるのではないか。
千兵衛は、敵の硬い兵糧を元に、それを遥かに凌駕する「いくさ飯」を作ることを決めた。
同じ「硬く焼いた携帯食」という形を取りながら、味、栄養、そして士気向上という点で、圧倒的な差をつけるのだ。
彼はすぐに材料を選び始めた。
敵のものは単なる雑穀かもしれないが、こちらは備蓄の中で選りすぐりの雑穀と、力をつけるための炒り大豆、そして香りを加えるための炒り胡麻や、以前作った野草の粉末を使おう。
まず、雑穀と炒り大豆を丁寧に石臼でゴリゴリとすり潰す。
完全に粉末にせず、少し粒が残る程度にするのが食感を良くするコツだ。
サラサラとした粉末と、つぶつぶとした粒が混ざり合う。
これに、以前作った野草の粉末と、炒り胡麻、そして塩を加えて混ぜ合わせる。
混ぜ合わせた粉末に、少量の水を加え、ねりねりと、硬めの生地になるまでこねる。
生地はしっかりとして、手にぺたぺたとつく。
これを、敵の兵糧と同じように、板状に成形する。
見た目は似ていても、千兵衛の生地は、様々な材料が混ざり合い、彩りがある。
成形した生地を天日で十分に乾燥させた後、炭火でじっくりと二度焼きする。
一度目の焼きで表面を固め、二度目の焼きで内部まで完全に火を通す。
釜からは、単なる穀物が焼ける匂いではなく、炒り大豆と胡麻、そして野草の香りが混じり合った、複雑でこうばしい香りがふわりと立ち上る。
この香りは、敵の兵糧にはない、魅力的な香りだ。
焼きあがった堅パンは、敵のものと同様にカチカチに硬い。
だが、見た目にはこんがりとした良い焼き色がつき、割れ目から中の様々な材料が見える。
手に取ると、単なる穀物にはない、力強い香ばしさが漂う。
千兵衛は、出来上がった「改良型堅焼き兵糧パン」を、兵糧奉行の役人たち、そして何人かの古参兵に見せた。
彼らは、その形を見て、敵の兵糧に似ていることに気づき、興味深そうに手に取った。
「おお、敵の飯に似ているな」
「しかし、何か香りが良いぞ?」
千兵衛は、この堅パンが、敵の兵糧を参考に、それを凌駕すべく工夫したものであることを説明した。
そして、この料理に込めた思いを語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
役人や兵士たちは、半信半疑といった表情で、その堅パンを一口かじってみる。
ボリボリと硬い歯ごたえ。
しかし、噛みしめるたびにじわりと広がる、炒り大豆と胡麻の豊かな香ばしさ、そして野草のほのかな風味。
単なる穀物の塊とは全く違う、滋味深い味わいだ。
「美味い!」
「なんだ、この味は!」
「敵の飯とは比べ物にならんな!」
彼らの顔に驚きと、そして確かな満足感が浮かんだ。
自分たちの兵糧が、敵のそれよりもはるかに優れている。
その事実だけで、兵士たちの士気はわずかに向上した。
この改良型堅焼き兵糧パンは、偵察任務や長距離行軍の携帯食として、そして敵の捕虜や寝返った兵士に与えることで、自軍の兵糧の質の高さを無言のうちに示す「戦略的な飯」として活用されることになった。
飢餓との戦いは、単に自軍の腹を満たすだけでなく、敵の食糧事情を知り、それを逆手に取る戦略的な局面を迎えた。
千兵衛の「いくさ飯」は、厨房の中だけでなく、戦場の心理戦にも影響を与え始めたのだ。
来るべき大戦で、この改良型堅焼き兵糧パンが、兵士たちの体力と士気を支え、そして敵との戦いの中でどのような役割を果たすのか。
食の力は、ますますその可能性を広げていく。
【今回のいくさ飯】
『敵を知り、己を知る飯。改良型堅焼き兵糧パン』
敵の兵糧事情を参考に、彼らの基本兵糧である「硬く焼いた携帯食」を、味、栄養、保存性の全ての面で凌駕すべく、千兵衛が創意工夫を凝らした一品。
良質な雑穀、炒り大豆、炒り胡麻、野草粉末などを混ぜ込み、二度焼きして作られる。カチカチに硬いが、噛むほどに豊かな風味が広がる。
偵察行動の携帯食として、また自軍の兵糧の優位性を示すための戦略的な意味合いも持つ。
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