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第二部:飢餓との戦い、いくさ飯進化
第二十二話:特殊部隊への供給
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大戦が迫り、陣営内では様々な部隊が編成され、それぞれの任務に向けた準備が進められていた。
その中には、敵陣深くへの潜入や、要人の拉致、破壊工作といった、極めて秘匿性の高い任務を担う特殊部隊も含まれていた。
彼らは武藤家が誇る精鋭中の精鋭であり、その存在と行動は徹底して隠される。
ある日、千兵衛は兵糧奉行の執務室で、一人の武将と相対していた。
その男は全身黒装束に身を包み、顔つきには一切の感情が読み取れない。
特殊部隊、「闇鴉組(やみがらすぐみ)」の頭領、影丸(かげまる)だ。
影丸は、軍の正式な部隊とは異なり、兵糧の支給も特殊なルートで行われる。
今回の用件は、彼の部隊が必要とする「特別な兵糧」についてだった。
「兵糧奉行殿。我々闇鴉組は、数週間、敵領奥地で任務に就く。
その間、火を起こすことは許されぬ。
音も、匂いも、痕跡も、一切残してはならぬ」
影丸は抑揚のない声で言った。
「通常の兵糧では、任務の妨げとなる。
湯漬けは水が必要すぎ、堅パンは噛む音が出る。
何か……
任務の邪魔にならぬ、持ち運び容易く、僅かな量で腹が膨れ、そして痕跡を残さぬ糧が必要だ」
影丸の求める兵糧は、これまでの千兵衛の知識や経験をもってしても、極めて難易度が高いものだった。
隠密行動を最優先とする彼らにとって、食料はもはや栄養補給というだけでなく、「いかに存在を消すか」という戦略の一部となる。
嵩張らず、軽く、音がせず、匂いがせず、食べカスも残さない。
そして、僅かな量で長時間動けるだけの力が必要だ。
「これは……」
千兵衛は、影丸の要求の厳しさに息を呑んだ。
しかし同時に、武力ではない、食の力で彼らを支えることができるかもしれないという可能性に、千兵衛の探究心がむらむらと湧き上がった。
千兵衛は、影丸から要求された「極限の携帯食」の開発に挑んだ。
材料は、栄養価が高く、乾燥させれば軽くなり、匂いが少ないもの。
そして、固めても砕けにくく、音が出にくいもの。
彼は、炒って粉にした大豆や胡麻、そして乾燥させた海藻や野草の粉末を組み合わせることにした。
これらは栄養が凝縮されている。
しかし、これだけでは粉々としてまとまらない。そこで、つなぎとして、乾燥芋を煮詰めて作った粘り気のある甘み(水飴のようなもの)を使うことを思いついた。
これならば、少量で固めることができ、わずかながら糖分も補給できる。
まず、炒り大豆や胡麻、海藻や野草の粉末を、均一になるまで丁寧に混ぜ合わせる。
そこに、乾燥芋を煮詰めたとろりとした甘みを少量加え、全体が粘り気のあるねりねりとした塊になるまでこねる。
生地は最初はぱさぱさとしているが、こねるうちにまとまっていく。
これを、さらに力強くぎゅっと圧縮する。
余分な空気を抜き、極限まで密度を高めるのだ。手のひらでぺたぺたと叩き、小さく、薄い板状や、丸い玉状に成形していく。
形は、懐や装束の隙間に忍ばせやすいように、小さく、薄く、そして角がないように整える。
出来上がった携帯食は、見た目は地味で、黒っぽい色をしている。
大きさは、指の腹に乗るほどか、せいぜい一口サイズだ。
匂いはほとんどしない。
手に取ると、驚くほどカチカチに硬く、密度が高い。
千兵衛は、出来上がった携帯食を、油紙や笹の葉で丁寧に包み、影丸に差し出した。
「これが、貴殿らが求める糧でございますか?」
影丸は感情のない目で携帯食を見た。
「はっ」
千兵衛は答えた。
「これは、炒り豆や胡麻、野草などを凝縮し、芋の甘みで固めたものです。
一つでも長時間動けるだけの力が得られ、何より……」
千兵衛は、携帯食を一つ取り、ゆっくりと口に運んだ。
そして、音を立てずに、それを噛みしめるか、あるいは水と共につるんと飲み込む様子を見せた。
「このように、噛む音が出ませぬ。
そして、食べカスも少なく、匂いもほとんどいたしません。
任務の妨げにならず、隠密行動に適しております」
千兵衛は、完成した特殊部隊用携帯食を影丸に手渡し、その料理に込めた思いを語った。
戦場には様々な戦い方があり、それに応じた糧が必要だということを。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
影丸は、千兵衛の言葉に何も答えず、差し出された携帯食の一つを手に取った。
カチカチとした感触を確かめ、くんくんと匂いを嗅ぐ。
確かに匂いはほとんどしない。彼は無言で携帯食を口に運んだ。
影丸の顔に、微かな変化が現れた。
それは驚きか、あるいは納得か。
彼はゆっくりと携帯食を噛みしめるか、あるいは飲み込んだのだろう。
その表情からは、依然として何も読み取れない。
「……悪くない」
影丸は、それだけを呟いた。
彼の「悪くない」は、闇鴉組にとっては最高の賛辞だ。
「この数を、明日、までに」
影丸はそれだけを言い残し、音もなく立ち去った。
特殊部隊のための携帯食。
それは、兵糧の多様なニーズの中でも、最も極端なものだった。
音、匂い、痕跡を消すこと。
それは、食料が兵士の生存を助けるだけでなく、彼らの「存在そのもの」を隠すための道具となることを意味する。
飢餓、寒さ、病、栄養不足、そして資材不足。さらに、部隊ごとの特殊な要求。
千兵衛の「いくさ飯」は、これらの多岐にわたる困難に、常に新しい形で応えなければならない。
影丸の部隊に提供した携帯食は、その極致と言えるだろう。
来るべき大戦では、この特殊部隊が敵陣の奥深くで重要な役割を果たすだろう。
彼らの成功は、千兵衛が作ったこの「気配を消す糧」に、少なからず懸かっている。
千兵衛の戦いは、厨房から、見えない戦場の奥深くへと広がっていく。
【今回のいくさ飯】
『音無し、匂い無し! 忍者食風携帯食塊』
炒った大豆粉、胡麻粉、乾燥海藻粉末、野草粉末などを混ぜ合わせ、乾燥芋を煮詰めた粘り気のある甘みなどで固めて成形した、一口サイズのカチカチな塊。
極限まで栄養を凝縮し、嵩張らず、噛む音や匂いがほとんどしないため、隠密行動や偵察任務に最適。
水と共に飲み込むことも可能。
(現代の栄養バー、非常食、登山食。ストイック、機能性特化)
その中には、敵陣深くへの潜入や、要人の拉致、破壊工作といった、極めて秘匿性の高い任務を担う特殊部隊も含まれていた。
彼らは武藤家が誇る精鋭中の精鋭であり、その存在と行動は徹底して隠される。
ある日、千兵衛は兵糧奉行の執務室で、一人の武将と相対していた。
その男は全身黒装束に身を包み、顔つきには一切の感情が読み取れない。
特殊部隊、「闇鴉組(やみがらすぐみ)」の頭領、影丸(かげまる)だ。
影丸は、軍の正式な部隊とは異なり、兵糧の支給も特殊なルートで行われる。
今回の用件は、彼の部隊が必要とする「特別な兵糧」についてだった。
「兵糧奉行殿。我々闇鴉組は、数週間、敵領奥地で任務に就く。
その間、火を起こすことは許されぬ。
音も、匂いも、痕跡も、一切残してはならぬ」
影丸は抑揚のない声で言った。
「通常の兵糧では、任務の妨げとなる。
湯漬けは水が必要すぎ、堅パンは噛む音が出る。
何か……
任務の邪魔にならぬ、持ち運び容易く、僅かな量で腹が膨れ、そして痕跡を残さぬ糧が必要だ」
影丸の求める兵糧は、これまでの千兵衛の知識や経験をもってしても、極めて難易度が高いものだった。
隠密行動を最優先とする彼らにとって、食料はもはや栄養補給というだけでなく、「いかに存在を消すか」という戦略の一部となる。
嵩張らず、軽く、音がせず、匂いがせず、食べカスも残さない。
そして、僅かな量で長時間動けるだけの力が必要だ。
「これは……」
千兵衛は、影丸の要求の厳しさに息を呑んだ。
しかし同時に、武力ではない、食の力で彼らを支えることができるかもしれないという可能性に、千兵衛の探究心がむらむらと湧き上がった。
千兵衛は、影丸から要求された「極限の携帯食」の開発に挑んだ。
材料は、栄養価が高く、乾燥させれば軽くなり、匂いが少ないもの。
そして、固めても砕けにくく、音が出にくいもの。
彼は、炒って粉にした大豆や胡麻、そして乾燥させた海藻や野草の粉末を組み合わせることにした。
これらは栄養が凝縮されている。
しかし、これだけでは粉々としてまとまらない。そこで、つなぎとして、乾燥芋を煮詰めて作った粘り気のある甘み(水飴のようなもの)を使うことを思いついた。
これならば、少量で固めることができ、わずかながら糖分も補給できる。
まず、炒り大豆や胡麻、海藻や野草の粉末を、均一になるまで丁寧に混ぜ合わせる。
そこに、乾燥芋を煮詰めたとろりとした甘みを少量加え、全体が粘り気のあるねりねりとした塊になるまでこねる。
生地は最初はぱさぱさとしているが、こねるうちにまとまっていく。
これを、さらに力強くぎゅっと圧縮する。
余分な空気を抜き、極限まで密度を高めるのだ。手のひらでぺたぺたと叩き、小さく、薄い板状や、丸い玉状に成形していく。
形は、懐や装束の隙間に忍ばせやすいように、小さく、薄く、そして角がないように整える。
出来上がった携帯食は、見た目は地味で、黒っぽい色をしている。
大きさは、指の腹に乗るほどか、せいぜい一口サイズだ。
匂いはほとんどしない。
手に取ると、驚くほどカチカチに硬く、密度が高い。
千兵衛は、出来上がった携帯食を、油紙や笹の葉で丁寧に包み、影丸に差し出した。
「これが、貴殿らが求める糧でございますか?」
影丸は感情のない目で携帯食を見た。
「はっ」
千兵衛は答えた。
「これは、炒り豆や胡麻、野草などを凝縮し、芋の甘みで固めたものです。
一つでも長時間動けるだけの力が得られ、何より……」
千兵衛は、携帯食を一つ取り、ゆっくりと口に運んだ。
そして、音を立てずに、それを噛みしめるか、あるいは水と共につるんと飲み込む様子を見せた。
「このように、噛む音が出ませぬ。
そして、食べカスも少なく、匂いもほとんどいたしません。
任務の妨げにならず、隠密行動に適しております」
千兵衛は、完成した特殊部隊用携帯食を影丸に手渡し、その料理に込めた思いを語った。
戦場には様々な戦い方があり、それに応じた糧が必要だということを。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
影丸は、千兵衛の言葉に何も答えず、差し出された携帯食の一つを手に取った。
カチカチとした感触を確かめ、くんくんと匂いを嗅ぐ。
確かに匂いはほとんどしない。彼は無言で携帯食を口に運んだ。
影丸の顔に、微かな変化が現れた。
それは驚きか、あるいは納得か。
彼はゆっくりと携帯食を噛みしめるか、あるいは飲み込んだのだろう。
その表情からは、依然として何も読み取れない。
「……悪くない」
影丸は、それだけを呟いた。
彼の「悪くない」は、闇鴉組にとっては最高の賛辞だ。
「この数を、明日、までに」
影丸はそれだけを言い残し、音もなく立ち去った。
特殊部隊のための携帯食。
それは、兵糧の多様なニーズの中でも、最も極端なものだった。
音、匂い、痕跡を消すこと。
それは、食料が兵士の生存を助けるだけでなく、彼らの「存在そのもの」を隠すための道具となることを意味する。
飢餓、寒さ、病、栄養不足、そして資材不足。さらに、部隊ごとの特殊な要求。
千兵衛の「いくさ飯」は、これらの多岐にわたる困難に、常に新しい形で応えなければならない。
影丸の部隊に提供した携帯食は、その極致と言えるだろう。
来るべき大戦では、この特殊部隊が敵陣の奥深くで重要な役割を果たすだろう。
彼らの成功は、千兵衛が作ったこの「気配を消す糧」に、少なからず懸かっている。
千兵衛の戦いは、厨房から、見えない戦場の奥深くへと広がっていく。
【今回のいくさ飯】
『音無し、匂い無し! 忍者食風携帯食塊』
炒った大豆粉、胡麻粉、乾燥海藻粉末、野草粉末などを混ぜ合わせ、乾燥芋を煮詰めた粘り気のある甘みなどで固めて成形した、一口サイズのカチカチな塊。
極限まで栄養を凝縮し、嵩張らず、噛む音や匂いがほとんどしないため、隠密行動や偵察任務に最適。
水と共に飲み込むことも可能。
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