【完結】『いくさ飯の若武者 ~乾坤一擲、兵糧奮闘記~』

月影 朔

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第二部:飢餓との戦い、いくさ飯進化

第二十三話:兵糧を巡る駆け引き

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 飢餓の危機が深まるにつれて、陣営内の空気はただ重苦しいだけでなく、どこかざらざらとした摩擦に満ちるようになっていた。

 限られた兵糧を巡り、部隊間の緊張が高まっていたのだ。

 ある部隊は不公平な配給を受けていると訴え、別の部隊は自らの功績に見合った優遇を求めるといった声が上がる。

 兵士たちの間でも、お互いの配給量をじろじろと見比べ、不満を口にする者が増えていた。

「あの部隊は、なぜ我々より多く貰っているのだ!」

「我々こそ、最前線に近いというのに、これだけか!」

 そういった不満や疑心は、兵士たちの心をささくれ立たせ、結束を弱める。
互いに労り合うどころか、食料を巡って些細な口論が絶えない。

 これは、外部の敵と同じくらい、あるいはそれ以上に危険な、軍内部の分裂の種だった。

 一部の武将たちも、自分の部隊の兵糧を確保するために、兵糧奉行に強く働きかけるようになった。

 これにより、兵糧奉行の執務室でも連日きしきしとした議論が交わされ、千兵衛もその緊迫した空気に晒されることになった。

 誰に、どれだけ、何を配給するか。

 それは、兵士たちの命と士気、そして軍全体の規律に関わる、極めて難しい判断だった。

 千兵衛は、この兵糧を巡る争いを見て、胸を痛めていた。
飢えに苦しむだけでも辛いのに、仲間同士が互いを疑い、不満を抱く。

 これは、戦う以前に、兵士たちの心を破壊する行為だ。

 彼は、食糧の絶対量を増やすことはできなくとも、配給のあり方で、この不満を和らげ、兵士たちの心に公平感と安心感をもたらすことはできないかと考えた。

 公平さ。

 それは、皆が同じ境遇にあると感じられること。
同じように苦労し、同じように分け与えられることだ。

 たとえ量が少なくても、「自分だけが損をしているのではない」と思えるだけで、兵士たちの心は落ち着く。

 そして、見た目の彩りや工夫は、量の少なさを補い、特別感を与える。

 千兵衛は、限られた米と、手に入る様々な種類の乾物や保存食(万能ふりかけの材料にも使った乾燥野草、炒り豆、燻製魚粉など)を使って、「公平な彩り握り飯」を作ることにした。

 これは、見た目の均一さと彩りで、配給の公平さを際立たせるための工夫だ。

 まず、配給基準で定められた、兵士一人当たりのわずかな米を準備する。

 そこに、細かく刻んだ乾燥野草(緑)、炒り豆の粉末(茶)、燻製魚粉(灰色)、そしてもしあれば、赤や黄色に加工した根菜の粉末などを混ぜ合わせる。

 様々な色が混じり合うように、丁寧に、そして均一になるように混ぜ合わせる。

 混ぜ合わせた飯は、単なる白い飯ではなく、彩り豊かで、見た目にも食欲をそそる。
それを、一つ一つ、手で握っていく。

 握り飯のサイズと形は、厳格に同じにする。
皆に同じ量の、同じように彩り豊かな握り飯が行き渡るように。

 千兵衛の手つきは、剣を握る時よりも真剣で、ぎゅっと心を込めて握る。

 一つ一つの握り飯が、彼の「公平であれ」という願いを体現しているかのようだ。

 出来上がった握り飯は、つやつやと輝き、様々な色が混じり合っている。
大きさも形も均一だ。

 数は限られているが、それらが並んでいる様子は、どこか彩り豊かで、飢餓の陣中には似つかわしくない。

 千兵衛は、出来上がった「公平な彩り握り飯」を、昼餉の配給所で、自ら配ることにした。

 兵士たちは列を作り、いつものようにざわざわと不満や疑念を囁き合っている。

 自分の椀と、他の兵士の椀をじろじろと見比べる者もいる。

 千兵衛は、一人ひとりに、同じ大きさ、同じ見た目の握り飯を手渡していく。

 兵士たちは、その握り飯を見て、一瞬、はっとした顔をした。

 いつもの単調な握り飯ではない。
様々な色が混じり合っている。

 そして、隣の兵士の握り飯を見ても、同じように彩り豊かで、サイズも同じだ。

 千兵衛は、握り飯を配りながら、その料理に込めた思いを静かに、しかし確かな声で語った。

 皆が同じように戦い、同じように苦労している。
だからこそ、分け合う糧もまた、公平であるべきだと。

「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」

 兵士たちは、配られた握り飯を手に、黙って食べ始めた。

 もぐもぐと噛みしめるたびに、米の甘みと、混ぜ込まれた様々な具材の風味が口の中に広がる。

 つぶつぶとした食感、ぱらぱらとした混ぜ物の感触。
そして何よりも、見た目にも彩り豊かで、他の者と同じ、という安心感。

 食べるうちに、彼らの顔から疑念や不満の色が消えていく。

 皆、同じものを食べている。
皆、同じ状況なのだ。

 兵士たちの間に漂っていた張り詰めた緊張が、少しだけ和らぎ、ほっとしたような空気が流れた。

 互いににこりと笑みを交わす者もいた。

 この「公平な彩り握り飯」は、兵糧の絶対量を増やしたわけではない。
だが、配給の公平さを視覚的に、そして味覚的に示すことで、兵士たちの心に安心感をもたらし、内部の軋轢を和らげた。

 それは、食が軍の規律と結束を維持する力を持つことを証明した。

 兵糧奉行の役人たちも、この握り飯の効果を見て、その重要性を再認識した。

 千兵衛は、配給の公平性を維持するための手順や、他の料理でも見た目の均一さを保つ工夫について、指導を任されるようになる。

 軍内部の対立は、飢餓という敵と同じくらい恐ろしい。

 千兵衛は、食料という、ともすれば争いの元になるものを、逆に結束を強めるための道具に変えた。

 しかし、来るべき大戦では、この公平な配給を、混乱し、敵に襲われる可能性のある戦場の最前線で、いかにして維持するかが問われる。

 物資はさらに乏しくなり、状況は刻々と変化するだろう。

 この「公平な彩り握り飯」は、兵站が持つ社会的な側面と、それに対する千兵衛の答えを示した。

 飢餓と、そして内部の不和という二重の敵と戦う、千兵衛の「いくさ飯」は、さらにその戦略性を高めていく。

【今回のいくさ飯】
『皆が納得する公平な彩り握り飯』

 配給されたわずかな米に、乾燥野草、炒り豆、燻製魚粉、色鮮やかな乾燥野菜の粉末など、手に入る様々な乾物を細かくして混ぜ込み、均一なサイズと形に握ったもの。
見た目にも彩り豊かで、味のアクセントにもなる。
量の少なさを補い、配給の公平さを視覚的に、そして味覚的に示すことで、兵士間の不満や対立を和らげる効果を持つ。
(現代の混ぜご飯おにぎり、キャラ弁の工夫に通じる視点。社会工学的な食)
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