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第三部:兵糧戦線、前進!
第二十六話:行軍、そして携帯食の進化
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開戦日が布告され、武藤家の大軍はついに重い腰を上げた。
夜明け前、鳥の鳴き声と共に、数万の兵士が長らく留まった陣営を畳み始める。
慣れた手つきで陣幕が解体され、荷物がまとめられていく。
武器が担がれ、馬が引かれ、車がきしきしと音を立てる。
膨大な人、物、そして動物の塊が、一つの巨大な生き物となって動き出す。
太陽が昇る頃には、陣営はもぬけの殻となり、代わりに一本の巨大な隊列が、目指す戦場へと向かってゆっくりと、しかし確実に進み始めていた。
兵士たちの顔には、これまでの緊張に加え、これから始まる行軍と戦への覚悟が刻まれている。
巻き上げられる埃っぽい土煙が、空高く舞い上がる。
行軍中の兵糧の供給は、陣営に留まっている時とは全く勝手が違う。
立ち止まって火を起こし、時間をかけて煮炊きする余裕はない。
休憩は短く、水場も限られている。
兵士たちは、歩きながら、あるいはわずかな休息中に、手軽に腹を満たし、力を補給できる食料を必要としていた。
通常の干飯は、湯漬けにしなければ固くて食べにくい。水筒の水は貴重であり、立ち止まって湯を沸かす時間もない。
千兵衛がこれまでに開発したいくさ飯も、味噌玉は湯が必要だし、重ね煮込みは調理自体が難しい。
堅パン(第3話)は携帯できるが、長時間の行軍に必要な持続的なエネルギーや、飽きない味という点では改良の余地があった。
特殊部隊の携帯食(第22話)は極端すぎて、全軍向けではない。
千兵衛は、第二師団の兵糧責任者として、この行軍という新たな局面に向けた兵糧の必要性を痛感していた。
一万を超える兵士が、毎日何里も歩き続けなければならない。
彼らの体力が尽きれば、軍の進軍速度は落ち、戦う力も失われる。
「歩きながら、少しずつでも腹を満たせるもの……
そして、持続する力と、すぐに力を出せる甘みも必要だ」
千兵衛は、長距離の行軍に特化した携帯食の開発に乗り出した。
穀物の力に加え、甘みというエネルギー源を結びつけられないか。
乏しい備蓄品の中で、甘みを持つもの。
乾燥芋、あるいは乾燥させた果実の切れ端。
それらを加工して、雑穀と組み合わせるのだ。
彼は、備蓄の中から良質な雑穀を選び、丁寧にゴリゴリと石臼で挽いて粉にした。
そして、乾燥芋を蒸してねりねりと潰したり、手に入るわずかな乾燥果実(もしあれば)を細かく刻んだり、あるいは煮詰めてとろりとしたペースト状にした。
挽いた雑穀粉に、乾燥芋ペーストや乾燥果実、そして栄養価の高い炒り大豆や胡麻の粉末などを混ぜ合わせる。
全体が均一になるまでねりねりとこねていく。
生地はむっちりとして、手にぺたぺたと吸い付く。
これを、薄く平たい棒状や、一口サイズの塊に成形する。
手で簡単に割れるように、あるいはそのままぱくりと食べられるように。
成形したものを、天日でからからと乾燥させるか、あるいは軽く炙って水分を飛ばし、耐久性を高める。
出来上がった「行軍携帯食」は、見た目は地味だが、手で割るとしっかりとした感触がある。
香ばしい穀物と、ほのかな芋や果実のあまい香りが混じり合い、食欲をそそる。
千兵衛は、完成した行軍携帯食を、第二師団の兵士たちに配給させた。
行軍中の短い休憩時間、あるいは歩きながらでも受け取れるように。
兵士たちは、見慣れない携帯食に興味を示しながら、それを受け取り、ぱくりと口に運ぶ。
もぐもぐと噛みしめる。
外側はしっかりとした歯ごたえだが、中はもちもちとした粘り気と、つぶつぶとした雑穀の食感がある。
噛むほどに、穀物の香ばしさと、芋や果実の優しい甘みがじんわりと広がる。
単なる干飯とは違う、風味豊かな味わいだ。
そして、噛み砕いて飲み込むと、腹の底からじんわりと力が湧いてくるような気がする。
千兵衛は、行軍携帯食を手に、この料理に込めた思いを語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
兵士たちは、行軍の疲れを感じながらも、黙々と携帯食を噛みしめる。
立ち止まらずとも食べられる手軽さ、そして確かなエネルギー補給。
この携帯食は、彼らの足取りを支え、長時間の行軍を乗り切るための力となった。
行軍は始まったばかりだ。
武藤家の大軍は、目指す戦場へと、どしどしと大地を踏み鳴らしながら進んでいく。
飢餓という敵は、移動という新たな状況で、兵站にさらに大きな負荷をかけてくるだろう。
資材の輸送、調理人や調理器具の管理、そして、刻々と変化する状況への対応。
しかし、千兵衛は、行軍携帯食という新たないくさ飯で、この困難に立ち向かう糸口を見つけた。
この携帯食が、数万の兵士の体力と士気を支え、勝利への道を切り開く力となるのか。
第三部、戦場での本当の戦いが、今、始まる。
【今回のいくさ飯】
『行軍を支える、ドライフルーツ入り雑穀バー』
備蓄の雑穀を挽いた粉末と、乾燥芋や乾燥果実(もしあれば)を煮詰めて作ったペースト、炒り大豆粉や胡麻などを混ぜ合わせ、固めて乾燥または軽く焼いた棒状や塊の携帯食。
エネルギー密度が高く、携帯性に優れ、歩きながらでも手軽に食べられる。
甘みと香ばしさが、長時間の行軍による疲労を軽減し、持続する力を与える。
(現代のグラノーラバー、エネルギーバー。アウトドア食、携帯食)
夜明け前、鳥の鳴き声と共に、数万の兵士が長らく留まった陣営を畳み始める。
慣れた手つきで陣幕が解体され、荷物がまとめられていく。
武器が担がれ、馬が引かれ、車がきしきしと音を立てる。
膨大な人、物、そして動物の塊が、一つの巨大な生き物となって動き出す。
太陽が昇る頃には、陣営はもぬけの殻となり、代わりに一本の巨大な隊列が、目指す戦場へと向かってゆっくりと、しかし確実に進み始めていた。
兵士たちの顔には、これまでの緊張に加え、これから始まる行軍と戦への覚悟が刻まれている。
巻き上げられる埃っぽい土煙が、空高く舞い上がる。
行軍中の兵糧の供給は、陣営に留まっている時とは全く勝手が違う。
立ち止まって火を起こし、時間をかけて煮炊きする余裕はない。
休憩は短く、水場も限られている。
兵士たちは、歩きながら、あるいはわずかな休息中に、手軽に腹を満たし、力を補給できる食料を必要としていた。
通常の干飯は、湯漬けにしなければ固くて食べにくい。水筒の水は貴重であり、立ち止まって湯を沸かす時間もない。
千兵衛がこれまでに開発したいくさ飯も、味噌玉は湯が必要だし、重ね煮込みは調理自体が難しい。
堅パン(第3話)は携帯できるが、長時間の行軍に必要な持続的なエネルギーや、飽きない味という点では改良の余地があった。
特殊部隊の携帯食(第22話)は極端すぎて、全軍向けではない。
千兵衛は、第二師団の兵糧責任者として、この行軍という新たな局面に向けた兵糧の必要性を痛感していた。
一万を超える兵士が、毎日何里も歩き続けなければならない。
彼らの体力が尽きれば、軍の進軍速度は落ち、戦う力も失われる。
「歩きながら、少しずつでも腹を満たせるもの……
そして、持続する力と、すぐに力を出せる甘みも必要だ」
千兵衛は、長距離の行軍に特化した携帯食の開発に乗り出した。
穀物の力に加え、甘みというエネルギー源を結びつけられないか。
乏しい備蓄品の中で、甘みを持つもの。
乾燥芋、あるいは乾燥させた果実の切れ端。
それらを加工して、雑穀と組み合わせるのだ。
彼は、備蓄の中から良質な雑穀を選び、丁寧にゴリゴリと石臼で挽いて粉にした。
そして、乾燥芋を蒸してねりねりと潰したり、手に入るわずかな乾燥果実(もしあれば)を細かく刻んだり、あるいは煮詰めてとろりとしたペースト状にした。
挽いた雑穀粉に、乾燥芋ペーストや乾燥果実、そして栄養価の高い炒り大豆や胡麻の粉末などを混ぜ合わせる。
全体が均一になるまでねりねりとこねていく。
生地はむっちりとして、手にぺたぺたと吸い付く。
これを、薄く平たい棒状や、一口サイズの塊に成形する。
手で簡単に割れるように、あるいはそのままぱくりと食べられるように。
成形したものを、天日でからからと乾燥させるか、あるいは軽く炙って水分を飛ばし、耐久性を高める。
出来上がった「行軍携帯食」は、見た目は地味だが、手で割るとしっかりとした感触がある。
香ばしい穀物と、ほのかな芋や果実のあまい香りが混じり合い、食欲をそそる。
千兵衛は、完成した行軍携帯食を、第二師団の兵士たちに配給させた。
行軍中の短い休憩時間、あるいは歩きながらでも受け取れるように。
兵士たちは、見慣れない携帯食に興味を示しながら、それを受け取り、ぱくりと口に運ぶ。
もぐもぐと噛みしめる。
外側はしっかりとした歯ごたえだが、中はもちもちとした粘り気と、つぶつぶとした雑穀の食感がある。
噛むほどに、穀物の香ばしさと、芋や果実の優しい甘みがじんわりと広がる。
単なる干飯とは違う、風味豊かな味わいだ。
そして、噛み砕いて飲み込むと、腹の底からじんわりと力が湧いてくるような気がする。
千兵衛は、行軍携帯食を手に、この料理に込めた思いを語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
兵士たちは、行軍の疲れを感じながらも、黙々と携帯食を噛みしめる。
立ち止まらずとも食べられる手軽さ、そして確かなエネルギー補給。
この携帯食は、彼らの足取りを支え、長時間の行軍を乗り切るための力となった。
行軍は始まったばかりだ。
武藤家の大軍は、目指す戦場へと、どしどしと大地を踏み鳴らしながら進んでいく。
飢餓という敵は、移動という新たな状況で、兵站にさらに大きな負荷をかけてくるだろう。
資材の輸送、調理人や調理器具の管理、そして、刻々と変化する状況への対応。
しかし、千兵衛は、行軍携帯食という新たないくさ飯で、この困難に立ち向かう糸口を見つけた。
この携帯食が、数万の兵士の体力と士気を支え、勝利への道を切り開く力となるのか。
第三部、戦場での本当の戦いが、今、始まる。
【今回のいくさ飯】
『行軍を支える、ドライフルーツ入り雑穀バー』
備蓄の雑穀を挽いた粉末と、乾燥芋や乾燥果実(もしあれば)を煮詰めて作ったペースト、炒り大豆粉や胡麻などを混ぜ合わせ、固めて乾燥または軽く焼いた棒状や塊の携帯食。
エネルギー密度が高く、携帯性に優れ、歩きながらでも手軽に食べられる。
甘みと香ばしさが、長時間の行軍による疲労を軽減し、持続する力を与える。
(現代のグラノーラバー、エネルギーバー。アウトドア食、携帯食)
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