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第三部:兵糧戦線、前進!
第三十話:道中の病、梅干しの効用
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武藤家の大軍は、戦場を目指し、雪がちらつくような寒空の下を行軍を続けていた。
疲労は蓄積し、兵士たちの顔には生気が乏しい。
寒さ(第28話)、そして乏しい食事(第26話)が、彼らの体力を奪っていく。
それに加え、新たな脅威が兵士たちを蝕み始めていた。
病だ。
数万の兵士が密集して移動する。
衛生状態は悪く、水場も限られている。
一人が風邪をひけば、あっという間に周囲に広がる。
発熱や咳、そして腹の具合を悪くする者が増え始めた。
荷車に乗せられて運ばれる病人や怪我人(第16話)の数が、日を追うごとに増えていく。
「げほっ、げほっ……
体がだるい……」
「腹が、どうにもごろごろして……」
行軍中に病に倒れることは、死に直結しかねない。
適切な手当ても、安静にすることも難しい。
病人が増えれば、軍全体の戦力も落ちる。
兵士たちの間に、病への不安がじわりと広がっていく。
千兵衛は、第二師団の兵糧責任者として、この状況を深刻に受け止めていた。
飢餓と同じくらい、あるいはそれ以上に、病は軍を弱体化させる。
特に、消化器系の病が流行すれば、兵士たちは食事をとることすら困難になり、体力はみるみる落ちていくだろう。
「病になる前に、何かできることはないか……」
千兵衛は、備蓄品や、昔から伝わる知恵について考えを巡らせた。
病を防ぐ力、体に良いとされているもの。
そこで彼の頭に浮かんだのは、「梅干し」だった。
梅干しは、塩漬けにした梅の実を干したものだ。
塩分と酸が強く、それ自体が優れた保存食となる。
そして、食欲を増進させ、消化を助け、さらにばい菌を殺す力があるとも言われている。
戦場のような不衛生な環境では、これほどありがたいものはない。
もちろん、梅干しは貴重品だ。
大量の備蓄があるわけではないが、以前、兵糧奉行の備蓄庫で見かけたのを覚えていた。
千兵衛は、梅干しを、行軍中の兵士たちが手軽に持ち運び、食べられるように「飯団子」に組み込むことにした。
これならば、飯と共に梅干しの効用を取り入れることができ、単調な携帯食に変化もつけられる。
彼は、配給用の米や雑穀をいつも通り炊く。
そこに、兵糧奉行から特別に回してもらった、わずかな梅干しを加える。
梅干しは、そのまま丸ごと入れるか、あるいは細かく刻んで飯に混ぜ込む。
塩味を調え、全体が均一になるように混ぜ合わせる。
梅干しの赤やピンクが、飯に彩りを加える。
混ぜ合わせた飯を、手に塩水をつけて、ぎゅっと力を込めて握る。
行軍中に持ち運んでも崩れないように、しっかりと。
握るたびに、梅干し特有の、すっぱいような、しょっぱいような、独特の香りがぷんぷんと漂う。
それは、飢餓と寒さ、そして病の匂いが漂う陣中には珍しい、刺激的な香りだ。
出来上がった「梅干し入り飯団子」は、見た目は通常の飯団子と大差ないが、微かに梅干しの色がついていたり、中に梅干しが隠れていたりする。
そして、何よりも、そのすっぱい、しょっぱい香りが、他の飯団子とは一線を画している。
千兵衛は、完成した梅干し入り飯団子を、その日の行軍中の休憩時間に、兵士たちに配給させた。
皆、飯団子を受け取り、その匂いを嗅いで、少し顔をしかめる。
梅干しだと気づいたのだろう。
千兵衛は、飯団子を差し出しながら、この料理に込めた思いを語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
兵士たちは、顔をしかめながらも、恐る恐る梅干し入り飯団子を口にする。
もぐもぐ…と噛みしめる。
口の中に広がるのは、すっぱい!
そしてしょっぱい!
強烈な酸味と塩味だ。
顔がきゅっと歪む。
しかし、その酸味の後から、飯の甘みと、梅干し特有の深い風味が追いかけてくる。
それは、眠っていた食欲をかき立て、体に活力を与えるかのようだ。
「す、すっぺえ!」
「しかし……なんだか、体がしゃきっとしたぞ」
「病に効くってやつか!」
兵士たちの間に、驚きと、そして納得の声が上がった。
彼らは、梅干しが体に良いという伝聞を知っている。
この強烈な酸味と塩味が、自分の体を病から守ってくれるのだという信念が、彼らの心を勇気づけた。
それは、物理的な効果だけでなく、心の健康にも繋がる。
この梅干し入り飯団子は、行軍中の病という見えない敵に対する、千兵衛の食による防御策となった。
携帯でき、衛生的に優れ、そして兵士たちの心に「病に打ち勝つ力」を与えたのだ。
しかし、梅干しの備蓄は限られている。
全軍に定期的に配給できる量はない。
誰に、どれだけ、どの頻度で配給するのか。
それは、兵糧奉行預かりとして、軍全体の食糧と健康を管理する千兵衛に突きつけられる、難しい判断となる。
また、兵士たちの健康管理や病への対応は、兵糧奉行だけでなく、軍医や衛生担当といった他の部署も関わる領域だ。
梅干しの配給を巡って、彼らとの連携や、あるいは意見の対立が生じる可能性もある。
飢餓、寒さ、疲労、資材不足、そして疫病。行軍は続く。
千兵衛は、限られた兵糧と知恵で、これらの多面的な敵と戦い続ける。
そして、この梅干し入り飯団子は、彼の戦いが、食料そのものだけでなく、軍全体の健康と、そして組織間の連携にも及んでいくことを示唆する一品となった。
飢餓との戦いは、ますます複雑な様相を呈していく。
【今回のいくさ飯】
『病を防ぎ、活力を与える。梅干し入り飯団子』
炊いた米や雑穀に、刻んだり丸ごと入れたりした梅干しと塩を混ぜて握った飯団子。
梅干しの強い塩分と酸が保存性を高め、食欲を増進させ、疲労回復や病の予防に効果があると言われている。
行軍中の携帯食として、病が流行する陣中で重要な役割を果たす。
梅干しのすっぱい、しょっぱい味が兵士の心身をしゃきっとさせる。
(現代の梅干しおにぎり。疲労回復、食中毒予防、抗菌効果)
疲労は蓄積し、兵士たちの顔には生気が乏しい。
寒さ(第28話)、そして乏しい食事(第26話)が、彼らの体力を奪っていく。
それに加え、新たな脅威が兵士たちを蝕み始めていた。
病だ。
数万の兵士が密集して移動する。
衛生状態は悪く、水場も限られている。
一人が風邪をひけば、あっという間に周囲に広がる。
発熱や咳、そして腹の具合を悪くする者が増え始めた。
荷車に乗せられて運ばれる病人や怪我人(第16話)の数が、日を追うごとに増えていく。
「げほっ、げほっ……
体がだるい……」
「腹が、どうにもごろごろして……」
行軍中に病に倒れることは、死に直結しかねない。
適切な手当ても、安静にすることも難しい。
病人が増えれば、軍全体の戦力も落ちる。
兵士たちの間に、病への不安がじわりと広がっていく。
千兵衛は、第二師団の兵糧責任者として、この状況を深刻に受け止めていた。
飢餓と同じくらい、あるいはそれ以上に、病は軍を弱体化させる。
特に、消化器系の病が流行すれば、兵士たちは食事をとることすら困難になり、体力はみるみる落ちていくだろう。
「病になる前に、何かできることはないか……」
千兵衛は、備蓄品や、昔から伝わる知恵について考えを巡らせた。
病を防ぐ力、体に良いとされているもの。
そこで彼の頭に浮かんだのは、「梅干し」だった。
梅干しは、塩漬けにした梅の実を干したものだ。
塩分と酸が強く、それ自体が優れた保存食となる。
そして、食欲を増進させ、消化を助け、さらにばい菌を殺す力があるとも言われている。
戦場のような不衛生な環境では、これほどありがたいものはない。
もちろん、梅干しは貴重品だ。
大量の備蓄があるわけではないが、以前、兵糧奉行の備蓄庫で見かけたのを覚えていた。
千兵衛は、梅干しを、行軍中の兵士たちが手軽に持ち運び、食べられるように「飯団子」に組み込むことにした。
これならば、飯と共に梅干しの効用を取り入れることができ、単調な携帯食に変化もつけられる。
彼は、配給用の米や雑穀をいつも通り炊く。
そこに、兵糧奉行から特別に回してもらった、わずかな梅干しを加える。
梅干しは、そのまま丸ごと入れるか、あるいは細かく刻んで飯に混ぜ込む。
塩味を調え、全体が均一になるように混ぜ合わせる。
梅干しの赤やピンクが、飯に彩りを加える。
混ぜ合わせた飯を、手に塩水をつけて、ぎゅっと力を込めて握る。
行軍中に持ち運んでも崩れないように、しっかりと。
握るたびに、梅干し特有の、すっぱいような、しょっぱいような、独特の香りがぷんぷんと漂う。
それは、飢餓と寒さ、そして病の匂いが漂う陣中には珍しい、刺激的な香りだ。
出来上がった「梅干し入り飯団子」は、見た目は通常の飯団子と大差ないが、微かに梅干しの色がついていたり、中に梅干しが隠れていたりする。
そして、何よりも、そのすっぱい、しょっぱい香りが、他の飯団子とは一線を画している。
千兵衛は、完成した梅干し入り飯団子を、その日の行軍中の休憩時間に、兵士たちに配給させた。
皆、飯団子を受け取り、その匂いを嗅いで、少し顔をしかめる。
梅干しだと気づいたのだろう。
千兵衛は、飯団子を差し出しながら、この料理に込めた思いを語った。
「乏しき中にこそ、美味は宿る。
これぞ、いくさ飯。」
兵士たちは、顔をしかめながらも、恐る恐る梅干し入り飯団子を口にする。
もぐもぐ…と噛みしめる。
口の中に広がるのは、すっぱい!
そしてしょっぱい!
強烈な酸味と塩味だ。
顔がきゅっと歪む。
しかし、その酸味の後から、飯の甘みと、梅干し特有の深い風味が追いかけてくる。
それは、眠っていた食欲をかき立て、体に活力を与えるかのようだ。
「す、すっぺえ!」
「しかし……なんだか、体がしゃきっとしたぞ」
「病に効くってやつか!」
兵士たちの間に、驚きと、そして納得の声が上がった。
彼らは、梅干しが体に良いという伝聞を知っている。
この強烈な酸味と塩味が、自分の体を病から守ってくれるのだという信念が、彼らの心を勇気づけた。
それは、物理的な効果だけでなく、心の健康にも繋がる。
この梅干し入り飯団子は、行軍中の病という見えない敵に対する、千兵衛の食による防御策となった。
携帯でき、衛生的に優れ、そして兵士たちの心に「病に打ち勝つ力」を与えたのだ。
しかし、梅干しの備蓄は限られている。
全軍に定期的に配給できる量はない。
誰に、どれだけ、どの頻度で配給するのか。
それは、兵糧奉行預かりとして、軍全体の食糧と健康を管理する千兵衛に突きつけられる、難しい判断となる。
また、兵士たちの健康管理や病への対応は、兵糧奉行だけでなく、軍医や衛生担当といった他の部署も関わる領域だ。
梅干しの配給を巡って、彼らとの連携や、あるいは意見の対立が生じる可能性もある。
飢餓、寒さ、疲労、資材不足、そして疫病。行軍は続く。
千兵衛は、限られた兵糧と知恵で、これらの多面的な敵と戦い続ける。
そして、この梅干し入り飯団子は、彼の戦いが、食料そのものだけでなく、軍全体の健康と、そして組織間の連携にも及んでいくことを示唆する一品となった。
飢餓との戦いは、ますます複雑な様相を呈していく。
【今回のいくさ飯】
『病を防ぎ、活力を与える。梅干し入り飯団子』
炊いた米や雑穀に、刻んだり丸ごと入れたりした梅干しと塩を混ぜて握った飯団子。
梅干しの強い塩分と酸が保存性を高め、食欲を増進させ、疲労回復や病の予防に効果があると言われている。
行軍中の携帯食として、病が流行する陣中で重要な役割を果たす。
梅干しのすっぱい、しょっぱい味が兵士の心身をしゃきっとさせる。
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